
ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(Peter Ilyich Tchaikovsky, 1840~1893)が作曲したピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 Op.23です。冒頭の弦楽器の主題が非常に有名な曲です。ピアノ協奏曲として非常に人気のある曲です。
お薦めコンサート
解説
チャイコフスキーのピアノ協奏曲 第1番を解説します。
作曲の経緯
ピアノ協奏曲第1番は1874年に作曲を開始します。当時チャイコフスキーは34歳でこれから歴史に残る大作を作曲していく段階でした。それまで幻想序曲『ロメオをジュリエット』や初期の交響曲などがありましたが、ピアノ協奏曲第1番は規模が大きく野心的でチャイコフスキーを代表する最初の傑作と言えます。一方、作曲技法はこれからさらに発展してより充実していく段階だったと言えます。
しかし、草稿の段階で当時のモスクワ音楽院の院長ニコライ・ルービンシテイン (1835~1881)に聴かせた所、非常に難易度が高い上に安っぽい音楽、と酷評されました。チャイコフスキーは深く傷つきました。書簡で
「取るに足るのは数ページ」
といわれたことを書き残しています。結局、その時はそのまま作曲を続け、改訂などは行わずに出版しました。
しかし、現在、演奏されているものは改訂されたものです。1879年および1888年12月の2度、改訂されています。そして1888年のものが最終稿となっています。そのときに有名な序奏のピアノはアルペッジョから和音に書き換えられ、大分印象が変わりました。ニコライ・ルービンシテインは、後になって自らの酷評を撤回し、以降このピアノ協奏曲 第1番の普及に努めました。
初演の大成功
ニコライ・ルービンシテインに酷評されたため、チャイコフスキーはハンス・フォン・ビューローに楽譜を送ります。そして1875年にハンス・フォン・ビューローのピアノとベンジャミン・ジョンソン・ラングの指揮によりアメリカのボストンにて初演が行われました。初演は大成功で、その後ヨーロッパ各地でも演奏され好評を博しました。そしてピアノ協奏曲第1番はハンス・フォン・ビューローに献呈されています。
ハンス・フォン・ビューロー(Hans von Bulow, 1830-1894)はドイツのピアニストで指揮者でもありました。ワーグナーに心酔し、ブラームスの擁護者であり、リヒャルト・シュトラウスを発掘するなど、当時の音楽界に強い影響力を持っていました。
まずピアニストとしてフランツ・リストに見いだされます。リストのハンガリー幻想曲などの作品を初演しています。そして、このチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番も初演しました。
指揮者としては、世界初の職業指揮者と言われており、ブラームスの交響曲の初演で有名なマイニンゲン宮廷楽団の指揮者を務め、その後ベルリン・フィルの常任指揮者に就任しました。指揮者としてワーグナーの楽劇『トリスタンとイゾルデ』と『ニュルンベルクのマイスタージンガー』を初演しています。その指揮ぶりは拍を取るのみならず、音楽表現を重視し、現在の「指揮者」の役割を確立しました。
ところが妻のコジマはフランツ・リストの娘なのですが、ワーグナーとコジマが不倫関係になり、その後、コジマはビューローと離婚してワーグナーと結婚しました。(平たく言うとワーグナーに妻を寝取られた、ってことですね。)ワーグナーに心酔していたビューローは不倫を黙認していた、など、色々な逸話が残っています。
ビューローはマーラーの音楽を理解できなかった、ということですが、マーラーの交響曲第2番『復活』には、ビューローの葬儀で演奏された宗教音楽が大きな影響を与えています。
残念ながらビューロー自身の指揮映像や録音は残っていない、ということですが、名指揮者ブルーノ・ワルターはビューローを見て指揮者を目指すことを決めるなど、色々な分野に多大な影響を残した人物です。
人気が高まったのは意外と最近
チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番が人気が高い理由は、堂々としたロシアの大地を感じさせるキャッチーな冒頭のメロディ、ピアノの技巧的な部分を聴けば分かる気がするのですが、実際に頻繁に演奏されるようになったのは、第2次世界大戦後のアメリカでのことです。
当時のソヴィエトで第1回チャイコフスキー国際コンクールが行われ、そこでアメリカ人のヴァン・クライバーンが優勝したのです。クライバーンが凱旋帰国した際に大人気となり、ビルボードのチャートで7週連続第1位となりました。ポップスを含めたチャートでクラシックのレコードが一位となったのは空前絶後です。
初演もアメリカのボストンで大成功を収めましたが、意外にアメリカにゆかりが深い作品ですね。
構成
チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番は一般的な3楽章構成です。全曲で35分ですが、第1楽章が長大で20分程度となっています。第2楽章は7分30秒、第3楽章は7分なので、いかに第1楽章が長大か分かります。革新的でチャレンジングな音楽の常ですが、曲を聴いていると努力や工夫のあとが分かる箇所もありますね。
しかし冒頭のホルンと弦の雄大なメロディや技巧的なピアノ独奏など、新しいピアノ協奏曲のスタンダードを作ったと言えます。特にラフマニノフのピアノ協奏曲は大きな影響を受けています。
第1楽章: アレグロ・ノン・トロッポ・エ・モルト・マエストーソ~アレグロ・コン・スピーリト
序奏付きソナタ形式です。序奏は独立しており、主部に入ると繰り返されたり、回想されることはありません。
主部はソナタ形式です。ピアニストで指揮者でもある第1主題はリズミカルなウクライナ民謡のリズムを使用しています。ソナタ形式ですが第3主題まであります。再現部では第1主題が変形され、回帰するので展開部の続きのような印象を受けます。
再現部の第2主題の後に長大なカデンツァとなります。ここまで主部と展開部にもカデンツァがあるため、第3カデンツァとも呼ばれます。
第2楽章: アンダンティーノ・センプリチェ~プレスティッシモ~クアジ・アンダンテ
3部形式です。主部は穏やかなカンタービレ、中間部はスケルツォ風の音楽です。このメロディはフランスのシャンソン「さあ,楽しく踊って笑わなくては」を元にしています。
第3楽章: アレグロ・コン・フォーコ
ロンド形式です。この楽章の主題もウクライナ民謡に基づいています。激しい主要主題が繰り返されます。
最後は一度テンポが遅くなり、雄大な音楽となります。冒頭を思い出させますが、この部分は第2主題を元にしています。そして一気にテンポを速めて熱狂的に曲を閉じます。
独奏ピアノ
フルート×2、オーボエ×2、クラリネット×2、ファゴット×2
ホルン×4、トランペット×2、トロンボーン×3
ティンパニ
弦五部
おすすめの名盤レビュー
チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番の名盤をレビューしていきます。
アルゲリッチ,アバド=ベルリンフィル (1994年)
- 名盤
- 定番
- ダイナミック
- スリリング
- 高音質
超おすすめ:
ピアノマルタ・アルゲリッチ
指揮クラウディオ・アバド
演奏ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1994年12月,ベルリン,フィルハーモニー (ステレオ/デジタル/ライヴ)
アルゲリッチとアバドという、二人の天才の競演です。そして伴奏はベルリンフィルという、これ以上ゴージャスな組み合わせは無いと思われるほどの組み合わせです。しかもコンサートのライヴ録音です。
第1楽章の冒頭はアバド=ベルリン・フィルの重厚な演奏で始まります。この伴奏のゴージャスさは他のディスクではなかなか聴けないですね。アルゲリッチは独特の色彩感あふれるピアノ演奏を繰り広げています。リズミカルでアルゲリッチの自由な表現を好サポートしています。細かい所を聴くとその繊細さよく分かります。アルゲリッチは好サポートを得て、本当に変幻自在な音色で弾いていきます。双方が丁々発止にやりあっている雰囲気でしょうか?とてもスリリングなアンサンブルです。
第2楽章は、ベルリンフィルの木管の主題提示の響きが良いです。そしてピアノが超絶技巧で入ってきます。凄いテンポですが、アルゲリッチもきれいなタッチで弾ききり、伴奏もぴったりつけてきます。本当にスリリングですね。第3楽章は最初から物凄い盛り上がりです。アルゲリッチが速いテンポで弾いたかと思えば、オケはスピーディで激しく入ってきます。その次の瞬間にはベルリンフィルの弦セクションが美しい主題を奏でます。終盤は、チャイコフスキー交響曲第4番のラストを聴いているんじゃないか、と思えるくらいピアノもオケも凄いテンションです。アバドは遠慮なくアッチェランドで追い込んでいきます。
こんなにゴージャスで楽しい演奏は滅多にないと思います。カップリングは、2台のピアノによる組曲『くるみ割り人形』です。(オーケストラではないので、ご注意を)これも生き生きしていてとても楽しい演奏です。
アルゲリッチ,コンドラシン=バイエルン放送響 (1980年)
若いアルゲリッチにロシアの名指揮者コンドラシンと実力派のバイエルン放送交響楽団という組み合わせです。1980年のアナログ録音で、音質もしっかりしています。コンドラシンのロシアの大地を感じさせる、ひんやりした響きが心地よく響きます。その上でアルゲリッチはまさに才能のままに自由に弾いています。
第1楽章の冒頭はコンドラシンらしいロシア的で硬質な響きです。そこに入ってきたアルゲリッチは感性のまま自由自在な演奏を繰り広げています。アルゲリッチは全く迷いが感じられないストレートな演奏で、コンドラシンの紡ぎだすロシア的な響きに合わせて、クールで透明感のある音色です。速めのテンポで細かいパッセージも流麗に弾きこなしています。
アルゲリッチはチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番を、3種類以上も録音していますが、この演奏は一番ストレートで、ロシア的な響きを持っています。
ギレリス,マゼール=フィルハーモニア管弦楽団
鋼鉄のピアニストと言われるギレリスのピアノ独奏にマゼールとフィルハーモニア管弦楽団の伴奏です。1972年録音で音質はまあまあです。マゼールはアシュケナージ盤でも伴奏を務めていますし、チャイコフスキーの交響曲全集もリリースしていて、チャイコフスキーは得意です。
第1楽章の冒頭は切れの良いホルンと弦で始まります。ピアノのギレリスは非常にダイナミックで硬質の響きでガンガン弾きまくっています。まさに鋼鉄のピアニストという感じです。マゼールは速めのテンポで燃え上がるような演奏です。主部に入って第1主題はロシア舞曲らしいリズミカルで切れ味の良い演奏で、聴いていて爽快です。優美な箇所は感情を込めていますが品格があります。凄いメリハリがあり、詩的な情緒ある表現から一気にダイナミックに駆け上ります。凄い集中度です。伴奏のマゼールとフィルハーモニア管も負けていません。カデンツァもとてもスリリングでシャープに盛り上がります。
第2楽章は詩的なフルートで始まり、ピアノも凛として詩情豊かです。中間部は速いテンポでスリリングに盛り上がります。第3楽章は速いテンポでピアノとオケの丁々発止の名演です。ギレリスもマゼールもリズミカルでキレが良く、どんどん白熱していき、凄い盛り上がりです。
集中度が高くメリハリがあって、長大な第1楽章も全くダレる所が無く、スリリングに楽しめる名盤です。好みが合えばかなり気に入ってもらえると思います。
アシュケナージとマゼール=ロンドン響の組み合わせです。アシュケナージとマゼールの競演です。録音は1960年代ですが、安定した音質です。
第1楽章の冒頭のオケはダイナミックで燃え上がるような演奏で数あるチャイコンでも白熱したシャープな伴奏です。対するアシュケナージはダイナミックな所はスケールが大きな演奏、ロマンティックな所はしなやかなタッチを使い分けてメリハリのある表現の演奏になっています。詩情豊かは個所は、ファンタジーを感じさせるアシュケナージと品格があるマゼールの表現が良く噛み合っています。カデンツァに入るとアシュケナージの世界ですね。ファンタジー溢れる表現から普段よりもメリハリがありスリリングな表現が目立ちます。超絶技巧と表現のヴォキャブラリーの豊富さには舌を巻きます。
第2楽章もそれほど遅いテンポではなく適度にリズム感のある音楽です。チェロのソロなど印象的です。中間部のピアノは速いテンポで、凄いテクニックと表現の多彩さで、オケとの絡みもとてもスリリングです。
第3楽章は凄く速めでマゼールはロシア的なリズムを強調し、野性的ですらあります。ピアノは速いテンポの中、鮮やかな超絶技巧で生き生きと弾いていきます。後半になるとさらにアッチェランドしてきて、これぞヴィルトゥオーゾという凄い迫力です。マゼールは激しい演奏ですが、アシュケナージとのアンサンブルは完璧でクオリティが高いです。ラストはシャープに盛り上がり、熱狂的にアッチェランドして曲を締めます。
ヴィルトゥオーゾのアシュケナージ、奇才マゼールと、ダイナミックなロンドン響、3者の個性が良く出て化学反応したかのような、スリリングで圧倒的な名演奏です。アシュケナージも全力を出し切った爽快感があります。速いテンポでもアンサンブルのクオリティが高いのは凄いですね。
リヒテル,カラヤン=ウィーン響
リヒテルはカップリングのラフマニノフのピアノ協奏曲は絶対的な名盤であり最高の演奏とされています。チャイコフスキーも歴史的名盤とされています。ウィーン交響楽団も非常にレヴェルの高い演奏を繰り広げています。録音は1960年代で少し古いですが、安定した音質です。
第1楽章の冒頭のカラヤン=ウィーン響による主題は、ダイナミックで厚みがあり壮大です。チャイコのピアノ協奏曲第1番のイメージをそのまま聴かせてくれます。リヒテルもダイナミックで硬質な音色のピアノで、ダイナミックな音響を作り上げています。リヒテルは次の舞曲風の主題は、標準的なテンポで弾いていますが、熱気を帯びてくるとアッチェランドしていきます。ゆったりとした静かな部分に来ると、カラヤンの伴奏は少し遅いテンポだと思います。カラヤンは、後日「リヒテルは速すぎる」と言っていたようですけれど。
バレエ音楽風な部分は、優美なピアノを聴かせてくれて、表現のヴォキャブラリーの多さを感じさせます。短調になり情熱を帯びてくると、カラヤンもピアノ協奏曲の伴奏で、そこまでやるか、という位、情熱的な演奏をしています。カデンツァもダイナミックで情熱的に盛り上がります。テクニックは本当に素晴らしく、急に超絶技巧が出てきて驚きます。
第2楽章は、若干早めのテンポですが、おだやかに始まります。ウィーン響の響きは少し曇りがあります。中間部のピアノの難所が始まるとリヒテルは凄いテクニックです。スタンダードとして高いクオリティの演奏です。第3楽章はリヒテルとカラヤンで、速いテンポの激しい舞曲のような音楽を作っていきます。ピアノもオケもしっかりとした土台があります。ロンドの中で様々な表情を見せますけれど。ラストはオケの分厚い弦楽セクションに導かれて、とてもダイナミックです。
リヒテルはやはりダイナミックさが中心で、弱音の所もタッチはしっかりしていて、音もしっかりしています。カラヤン=ウィーン響も聴衆がこの曲に期待するようなダイナミックでロマンティックな演奏です。録音の古さは力強いスタンダードな演奏を聴きたいのであれば、全く問題ないレヴェルです。
ラフマニノフの2番も素晴らしい演奏なので、最初の一枚としてはうってつけの名盤です。
ワイセンベルク,カラヤン=パリ管弦楽団
ワイセンベルクのピアノ独奏にカラヤンとパリ管弦楽団の伴奏です。ワイセンベルクのピアノは透明感があってゆったりしています。パリ管は色彩感があると共にカラヤンが指揮すると凄く引き締まった演奏をします。録音はしっかりしていて、ピアノの音色もパリ管の色彩感も良く収録されています。
第1楽章の冒頭はカラヤン=パリ管のダイナミックで雄大な弦から始まります。ピアノは遅いテンポでスケール感があります。主部に入って第1主題は速いテンポですが、情緒豊かな部分はとても遅いテンポでじっくり味あわせてくれます。ワイセンベルクのピアノもしみじみとアゴーギクを付けてじっくり聴かせてくれます。展開部は遅いテンポからカラヤンらしくダイナミックにスケール大きく盛り上がります。カデンツァはワイセンベルクのロマンティックでスケールの大きな演奏が聴けます。遅いテンポに深みすら感じられます。
第2楽章も遅いテンポでフルートが味わい深く歌います。ピアノもとても繊細な表現で、木管のソロと上手く絡んで色彩感があります。中間部のピアノは一転して速いテンポとなり、透明感がある響きが心地よいです。第3楽章はリズミカルです。パリ管らしく白熱した演奏です。ピアノはリズミカルですが、透明感があり表情豊かです。ラストのピアノはダイナミックです。そして雄大なトゥッティの後、盛り上がって曲を締めます。
雄大で色彩感と華麗さのある演奏です。伴奏もカラヤンらしい名演です。じっくり聴き込みたい方にはお薦めの名盤です。カップリングのラフ2はさらに名演ですね。
ベルマン,カラヤン=ベルリン・フィル
ベルマンのピアノ独奏とカラヤンとベルリンフィルの伴奏です。1975年録音とあって、このコンビの最盛期の華麗なサウンドを聴くことが出来ます。アナログ録音ですが、とても安定した音質です。
第1楽章の冒頭はカラヤンとベルリン・フィルのダイナミックで華麗な演奏で始まります。ベルマンはパワフルで華麗なピアノを聴かせてくれます。オケも重厚ですが、ベルマンも負けてはいません。スケールの大きな演奏です。静かな部分は遅めのテンポで透明感のある音色でじっくり聴かせてくれます。カデンツァもスケールが大きく懐が深い演奏です。
第2楽章は静かに透明感のあるオケの響きで始まります。ピアノはじっくりと味わい深い演奏です。各楽器のソロもクオリティが高いです。中間部はテンポを速めてリズミカルな演奏になり、ピアノも軽やかに超絶技巧を聴かせてくれます。第3楽章は速めのテンポでスリリングです。ベルマンは速いテンポで華麗な演奏を繰り広げます。超絶技巧も安定した透明な響きで余裕を感じます。伴奏はかなりシャープさがありますが、最盛期のベルリン・フィルは流麗な響きを失いません。オケのトゥッティはスケールが大きく、ラストはダイナミックで熱狂的に曲を締めくくります。
ベルマンの華麗さとスケールの大きさ、カラヤンとベルリン・フィルの最盛期の華麗さがあり、クオリティの高さが印象的な名盤です。
プレトニョフ,フェドセーエフ=フィルハーモニア管
プレトニョフのピアノ独奏、指揮をフェドセーエフが務めるというロシア人の組み合わせです。オケはイギリスのフィルハーモニア管弦楽団です。プレトニョフはロシア的なだけでなく、とても自然でクオリティの高い名演です。フェドセーエフのテンポ取りが的確でスリリングです。管楽器のブレスまで聴こえる録音で、かなり良い音質です。
第1楽章の冒頭から予想を超える素晴らしい演奏です。ロシアの土の香りがするフェドセーエフのスケールの大きな指揮に、フィルハーモニア管弦楽団は見事に応えています。プレトニョフは速いテンポで超絶技巧を小気味良く聴かせてくれます。伴奏のロシア的なスリリングなリズムに上手く乗って、華麗でロシア的な色彩のある演奏を繰り広げています。カデンツァはプレトニョフの色彩的でファンタジーのある演奏で始まり、段々と盛り上がっていきます。録音の良さもあってピアノの響きが非常に綺麗です。
第2楽章はピアノ、オケ共に非常に色彩的です。オケの木管のソロ、チェロのソロは息遣いまで良く伝わってくる音質の良さです。中間部のピアノは急激にテンポアップして、色彩感が凄いです。伴奏もロシア的なリズミカルな演奏です。
第3楽章は非常に速いテンポです。ピアノもオケも色彩的でロシア的なリズムで白熱しています。オケの弦セクションのレガートのメロディはロシア的な哀愁があります。後半、さらにスリリングになってきます。ピアノはアッチェランドして凄い超絶技巧です。ラストはダイナミックですが、ロシア的で重厚ではありません。軽快なリズムと速いテンポで颯爽を演奏を終えます。
プレトニョフはロシア人ですが色彩感に溢れています。フェドセーエフはフィルハーモニア管からロシアの響きを引き出していますが、冒頭のロシアの大地のような弦を除いて、バレエ音楽のような色彩感とスリリングなリズム感を伴っています。この曲の王道とも言えるアプローチの名演ですが、ほぼ廃盤寸前で勿体ない名盤です。
クライバーン,コンドラシン=交響楽団
クライバーンが第1回チャイコフスキーコンクールで優勝し、凱旋帰国した際に録音された歴史的名盤です。指揮者はコンクールで指揮をしたコンドラシン、オケは「交響楽団」とありますが、RCAビクター交響楽団と記載されている場合もあります。アメリカでミリオンセラーを記録し、ビルボードチャートで一位を記録しました。チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番の人気を不動のものにした名盤です。
ラナ,パッパーノ=ローマ聖チェチーリア国立音楽院管
ピアノ独奏をラナ、伴奏はパッパーノとサンタ・チェーチリア管とイタリアのコンビです。ダイナミックで情熱的な演奏です。静かな個所は軽妙でファンタジーがあり表現のメリハリが大きいですね。2015年と新しい録音で透明感が高い高音質です。
第1楽章の冒頭はスケールが大きくふくよかな音色で始まります。オケのレヴェルの高さが感じられます。ピアノは力強いタッチで厚みのある響きで、こちらもスケールが大きいです。オケのトゥッティにも負けず、ダイナミックなアンサンブルです。中間あたりでは、静かな個所は軽妙なタッチの表現でファンタジーが感じられます。オケはかなりダイナミックでロシア的な迫力があります。ピアノは表現の幅が大きく、軽妙な響きから急にダイナミックになったり、かと思えばファンタジー溢れる音色になったり、と様々な表現を聴くことが出来ます。
第2楽章は静かで軽妙なタッチで穏やかに始まります。中間部になると一転してテンポアップし、華麗で色彩的なピアノを聴かせてくれます。ここでも表現の豊かさは素晴らしく、ファンタジーに溢れた表現から情熱的で力強い表現まで、様々な表現を楽しんで聴くことが出来ます。
第3楽章は速いテンポで、オケのシャープでリズミカルな演奏で始まります。ピアノも速いテンポで圧倒的な超絶技巧を聴かせてくれます。流麗な表現からリズミカルな表現までボキャブラリーが豊富です。オケも白熱していきます。終盤のピアノは本当にスケールが大きいです。最後は熱狂的に曲を締めくくります。
アルゲリッチ,デュトワ=ロイヤル・フィル (1970年)
若きアルゲリッチとデュトワによる演奏です。デュトワもモントリオール交響楽団で活躍する前です。1970年の録音ですが、色彩感や透明感がある音質です。
第1楽章の冒頭はデュトワ=ロイヤル・フィルによる遅めのテンポのスケールの大きな演奏です。ピアノのアルゲリッチもスケールの大きな演奏を繰り広げています。透明感と色彩感は、アルゲリッチとデュトワの感性が合う所ですね。後年のコンドラシンとの録音に比べてテンポが遅めですが、オケに合わせる順応性の高さが感じられます。どんな伴奏でもそれぞれの良さを活かしつつ、アルゲリッチの音楽を展開しています。
第2楽章は色彩感のあるオケの伴奏で始まります。アルゲリッチは透明感のある音色で穏やかでファンタジー溢れる演奏です。中間のピアノは速いテンポで華麗であり、ダイナミックさもあります。第3楽章は速いテンポでスリリングかつリズミカルです。それでも色彩感は失わず、ファンタジーに溢れています。同時に速いテンポでピアノの超絶技巧を楽しむことが出来ます。スリリングに盛り上がり、ダイナミックに曲を締めくくります。
アルゲリッチの録音の中でもファンタジーに溢れ、色彩感が良く出た名盤です。
ピアノは辻井伸行、指揮に佐渡裕、オケはBBCフィルハーモニックと、実力派が辻井伸行のピアノを支えている名演です。2010年ライヴで、高音質ですし、熱気を十分録音したものです。
冒頭はピアノ、オケ共に熱気があって充実しています。辻井伸行の量感のあるピアノの音色もこの曲に良く合っています。リズム感のある個所は、辻井のピアノはリズミカルで、かつしっかり鳴っています。後半の、息の長いクレッシェンドも熱気があり、さすが佐渡裕です。カデンツァはダイナミックかつ情熱的に堅実に弾いていきます。流れるようなパッセージでは驚くべき、技巧を聴かせてくれます。
第2楽章はその後、落ち着いた味わい深い歌を聴かせてくれます。ダイナミックな個所は華麗なテクニックを披露して、飽きる瞬間はありません。奥の深い音楽を十二分に楽しめます。第3楽章はテンポが少し速めで、熱気があります。ピアノの辻井氏はその中でもスケール大きく落ち着いて、ダイナミックに弾いていきます。
アリス=紗良,ヘンゲルブロック=ミュンヘン・フィル
アリス=紗良・オットは、ミュンヘン・フィルというドイツの名門オケをバックにチャイコフスキーのコンチェルトを録音しました。ダイナミックでかつ響きの美しい演奏です。
第1楽章の冒頭はドイツのオケらしい重厚でくすんだサウンドで始まります。アリス=紗良・オットはダイナミックで確実なタッチで演奏していきます。透明感のある色彩的な響きが印象的で、ダイナミックな響きと軽妙な響きの2つの音色を上手く使い分けています。オケは重厚ですが、ダイナミックなシャープさもあります。オケは柔らかい表現の時でも、くすんだドイツ的な響きを持っていて、ピアノの透明感のある響きと上手く溶け合っています。カデンツァでは、ダイナミックな響きから始まり、それを土台として途中にファンタジーあふれた軽妙で色彩感のある表現を上手く入れて、立体感のある響きを構築しています。
第2楽章は色彩的でファンタジーが感じられる表現です。オケも音色はドイツ的ですが、安定感がある上で木管などが歌っています。ピアノも安定した土台の上で軽妙な演奏を繰り広げていきます。技巧的な所でも響きの透明感もやはり素晴らしいですね。
第3楽章のピアノは標準的なテンポで響きの透明感を保ったまま弾いていきます。オケのほうは荒いフォルテになったり、色々な音色を使い分けています。ピアノのほうは荒くなることはなく、テンポは速く様々な弾き方や超絶技巧が出てきて楽しめますが、透明感や色彩感は失わない所が凄いですね。終盤テンポはさらに速くなっていき、ペダルも入れてダイナミックになりますが、最後まで正確なタッチで透明な音色で弾ききっています。
最初から最後まで透明感があり、こんなにファンタジーに溢れたチャイコフスキーはなかなか聴けないと思います。
ファジル・サイ,テミルカーノフ=サンクト・ペテルスブルク・フィル
アンドラーシュ・シフ,ショルティ=シカゴ交響楽団
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楽譜
チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番の楽譜・スコアを紹介します。
ミニチュア・スコア
ピアノ楽譜
チャイコフスキー ピアノ協奏曲 変ロ短調 解説付 (ピアノライブラリー)
レビュー数:3個