ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー (Peter Ilyich Tchaikovsky,1840-1893)作曲のバレエ『眠りの森の美女』Op.66 (Sleeping Beauty Op.66)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。ワンストップでスコアと楽譜まで紹介します。
解説
チャイコフスキーの『眠りの森の美女』について解説します。
有名なシャルル・ペローによる童話『眠りの森の美女』を元にしたバレエです。この作品はバレエ以外にも映画やディズニーの映画になったりと、人気のある物語です。
チャイコフスキーは、バレエ『白鳥の湖』に続く第2作として作曲し、1889年に完成しました。初演の振付はマリウス・プティパです。プティパの要請により、音楽にも少し手が加えられました。
1890年1月15日にマリインスキー劇場により初演されました。上演は繰り返し行われ、人気も高まっていきました。
その後、5曲から成る管弦楽組曲が編曲されます。チャイコフスキー自身の選曲によるものです。
第1曲:序奏-リラの精
第2曲:ばらのアダージョ
第3曲:パ・ド・キャラクテール:長靴をはいた猫と白い猫(パ・ダクシオン)
第4曲:パノラマ
第5曲:ワルツ
おすすめの名盤レビュー
それでは、チャイコフスキー作曲『眠りの森の美女』の名盤をレビューしていきましょう。
ムーティ=フィラデルフィア管弦楽団
ムーティとフィラデルフィア管弦楽団の演奏です。録音は安定していて、しっかりした音質です。ムーティは筋肉質なリズム感でバレエ音楽に向いた指揮者です。フィラデルフィア管弦楽団は機能性が高く、色彩感が特徴のオーケストラなので、バレエ音楽が得意です。特に『眠れる森の美女』は、スケールが大きな音楽であるため、ムーティ=フィラデルフィア管に向いた曲目です。実際聴いてみるとダイナミックでリズム感もしっかりあり、この曲の代表盤といってもいい名盤です。
「序奏」は引き締まったリズムとフィラデルフィア管の華麗な迫力で、スリリングで胸のすく気分爽快な名演です。筆者の聴いた中で、もっともスリリングな序奏です。「リラの精」は雄大に盛り上がっていきます。盛り上げ方もしっかりと計算されたものだと思います。「ばらのアダージョ」はハープのソロもしっかりしていますし、弦のスケールの大きなワルツも悠々としていて、ロシアの広大な大地を思わせます。ロマンティックで感情的な表現も秀逸で、上手いテンポコントロールで緩むことはありません。
「パ・ダクシオン」は、丁度良いテンポで、伴奏で上手く雰囲気づくりをしています。フィラデルフィア管の色彩感が生きています。「パノラマ」はスケールが大きな演奏ですが、テンポが遅めでもしっかりリズムがある所が好感が持てます。おとぎ話のような雰囲気も良く出ています。最後の「ワルツ」は速めのテンポでリズミカルです。力強く生き生きとした表現でスリリングです。
バレエらしいリズムのしっかりした演奏で、定番として通用するクオリティとダイナミックさを持ったディスクです。
カラヤン=ベルリン・フィル
カラヤンとベルリン・フィルの名盤です。カラヤンのバレエ音楽は賛否ありますが、『眠りの森の美女』に関してはもともとスケールが大きくシンフォニックな音楽なので、このコンビの良さが良く出ています。音質は年代を考えるとかなり良く、色彩的でダイナミックな演奏を良く捉えています。
冒頭はスケールが大きくスリリングです。スケールが大きくダイナミックな演奏でベルリン・フィルの実力を出し切った迫力があります。またとても華麗で艶やかであり、カラヤンらしいレガートが効いた音楽です。この曲には良く合いますね。ばらのアダージョも遅めのテンポでスケールの大きな演奏です。弦の鮮やかさといい、レガートの効いた表現と言い、まさに『眠りの森の美女』のイメージそのままの名演です。スケールが大きいだけでなく、深みも感じられます。
パノラマも素晴らしいです。遅いテンポで包み込むような表現です。ベルリン・フィルの弦セクションの響きも色彩感と厚みがあって、眠りの森の雰囲気が良く出ています。ワルツは速いテンポでとても迫力があります。ベルリン・フィルの弦も金管も好調で、とても華麗なワルツになっています。ベルリン・フィルのアンサンブルのクオリティの高さも聴いていて惚れ惚れする位です。
バレエ音楽でここまでシンフォニックな表現で良いのか、という所もありますが、このカラヤン盤が『眠りの森の美女』を代表する名盤の一つであることには疑いありません。
レヴァイン=ウィーン・フィル
レヴァインとウィーン・フィルの演奏です。3大バレエのCDとして定番ですね。レヴァインのリズミカルでダイナミックな指揮とウィーン・フィルの色彩感と華麗さのある響きが魅力です。また、木管のソロなど味わいがあります。録音もしっかりした音質です。
冒頭はレヴァインの速いテンポでリズミカルな演奏でとてもスリリングです。ウィーン・フィルもその機能性を良く発揮してダイナミックでスケールの大きな演奏を繰り広げています。このレヴァインのリズム感はバレエ音楽に相応しいですね。アダージョは中庸なテンポで遅いテンポのワルツですが、適切なテンポ取りです。ウィーン・フィルの弦は艶やかです。スケールはカラヤンほどではないですが、レガートを強調し過ぎず、自然な表現です。
パ・ド・キャラクテールは良い演奏です。テンポ取りも木管のソロも素晴らしいです。パノラマは遅めのテンポで派手さはないですが、スケール感があります。ワルツは速いテンポでシャープさがあり、生き生きとダイナミックに盛り上がります。
全体的にルバートが少な目で自然なテンポ取りなので、バレエ音楽としての良さが伝わってくる演奏です。
全曲盤CD
バレエ『眠りの森の美女』は、スケールが大きくシンフォニックな音楽なので、全曲盤で聴いても面白いです。全曲盤のディスクを挙げていきます。
プレヴィン=ロンドン交響楽団
プレヴィンとロンドン交響楽団の録音です。
ゲルギエフ=マリインスキー劇場
ゲルギエフと手兵マリインスキー劇場管弦楽団の演奏です。新しい録音で、音質の良さ、ロシア的な表現、バレエ音楽らしい演奏で、現在の定番の全曲盤です。マリインスキー劇場は『眠りの森の美女』が初演された劇場であり、その後上演を続けた伝統があります。特別な録音です。
冒頭は速いテンポで迫力があります。つづくワルツは落ち着いたテンポで雄大に盛り上がります。やはり劇場オケだけあって、バレエ音楽は臨場感があります。ゲルギエフは一部の曲はかなり速めですが、マリインスキー劇場バレエはそのテンポで踊るので、やはりレヴェルが高いバレエ団なんでしょうね。全曲盤とはいえ結構有名な曲が並んでおり、ゲルギエフは聴きやすいテンポ設定をしていると思います。またマリインスキー劇場管弦楽団は、ロシアの土の香りを感じる、コクのある響きです。
ロジェストヴェンスキー=BBC交響楽団
ロジェストヴェンスキーは元ボリショイ劇場でバレエ音楽を得意としていた指揮者です。チャイコフスキーの三大バレエはいずれも素晴らしく、この『眠りの森の美女』はイギリスのBBC交響楽団とライヴで、絶対的な名盤です。
冒頭から軽快でダイナミックかつスリリングな演奏でとても楽しめます。ボリショイ劇場で鍛えたセンスで、バレエ音楽らしいリズム感と、表現の上手さがミックスしています。特に絶妙なテンポ設定は他の指揮者の追随を許さないものがあります。全曲盤ですが飽きずに聴ける所も凄いですね。
ロジェストヴェンスキーのチャイコフスキーは、入手しにくいものが多いですが、名演ですので、この曲が好きなら一度は聴いておきたいディスクです。
バレエのDVD,BlueRay
バレエのDVDを紹介します。『眠りの森の美女』は、音楽も良いですが、バレエの演目としてとても人気があります。やはりロイヤルバレエが見やすいですね。
ロイヤル・バレエ (2017年)
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楽譜
チャイコフスキーの『眠れる森の美女』の全曲、組曲の楽譜・スコアを挙げていきます。