ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(Peter Ilyich Tchaikovsky, 1840~1893)が作曲した交響曲第4番 ヘ短調 作品36の解説、おすすめの名盤レビューを行っていきます。
チャイコフスキー交響曲第4番は、チャイコフスキーの「運命シリーズ」の最初の曲であり、最初のトランペットのファンファーレからシリアスに始まり、第4楽章の高速テンポのド迫力で曲を締めくくる、まさに「運命」のようなドラマティックな作品です。聴くほうではとても人気があるのですが、いざアマチュア・オーケストラなどで演奏しようとすると、結構、骨が折れる大作です。
お薦めコンサート
🎵カンブルラン指揮、ハンブルク交響楽団
■2023/7/21(金) 東京芸術劇場
チェロ独奏:宮田大
・ベートーヴェン:序曲「エグモント」op.84より
・サン=サーンス:チェロ協奏曲 第1番 イ短調 op.33
・チャイコフスキー:交響曲 第4番 ヘ短調 op.36
🎵井上道義、大阪フィル
■2023/7/17(月・祝) ザ・シンフォニーホール (大阪府)
チャイコフスキー:歌劇 「エフゲニー・オネーギン」より“ポロネーズ”
ショスタコーヴィチ:ピアノ協奏曲 第2番 ヘ長調 op.102
チャイコフスキー:交響曲 第4番 ヘ短調 op.36
[指揮]井上道義 [独奏・独唱]小曽根真(p) [演奏]大阪フィルハーモニー交響楽団
解説
チャイコフスキー作曲の交響曲第4番を解説します。
以下のYouTubeはロジェストヴェンスキーがレニングラード・フィルを振った名演です。トランペット2人であの音がでるんですね。最後の盛り上がりが凄いです。
作曲の経緯
1877年に作曲を開始し、1878年に完成しました。初演は1878年2月22日にサンクトペテルブルクにて、ニコライ・ルビンシテインの指揮により行われました。
曲の構成
通常の4楽章形式の交響曲です。第1楽章が18分程度とかなり長くなっています。
■第1楽章
ソナタ形式ですが、かなり拡張されたものです。冒頭は金管のファンファーレ風の主題から始まります。その後、9/8拍子となり、18分程度の長大な楽章です。演奏が意外に難しく、アマチュア・オーケストラなどではリズムが乱れやすいです。2度目のファンファーレが現れると、展開部に入ります。
■第2楽章
3部形式の緩徐楽章です。10分程度ですが、さまざまな演奏スタイルがあります。色々な解釈の余地のある重要な楽章です。
■第3楽章
スケルツォです。2拍子系なのでスケルツォらしくありませんが。弦のピチカートで演奏されます。中間部は木管が入ります。
■第4楽章
有名なスピード感あふれるフィナーレです。形式はロンド形式です。一応長調となり勝利と考えられますが、それにしては激しすぎる、という曲です。ベートーヴェンのように長大なフィナーレとは少し違うと考えられます。
おすすめの名盤レビュー
チャイコフスキー作曲の交響曲第4番のおすすめの名盤をレビューしていきます。
ムラヴィンスキー=レニングラード・フィル
ムラヴィンスキー=レニングラード・フィルの演奏にはいくつか録音がありますが、やはり1960年の録音が基本なので、これを飛ばしてはいけないですね。録音場所はロンドンで、グラモフォンの録音です。
第1楽章の最初のトランペットやホルンのファンファーレから尋常でない迫力です。ヴィブラートのかかった独特の音色と凄い緊迫感で録音を介してもそのオーラが伝わってきます。その後は長い第1楽章に入りますが、この演奏だとテンポも速く、アゴーギクも最小限なので短く感じます。それでいてチャイコフスキーの曲の本質を見事についています。ダイナミクスの差が大きすぎて、燃え上がる所は録音がギリギリですね。しかし録音が悪くても、この壮絶な雰囲気は良く伝わってきます。
第2楽章も過度に感傷的にならずに演奏していますが、逆にその方がチャイコフスキーの本質を捉えているようです。感傷的になりすぎると、大げさになってしまいます。そして盛り上がってくるとテンポアップします。この楽章でここまで強い感情表現が出来るのは凄いことです。
第3楽章は嵐の前の静けさ、ですね。そして、第4楽章は物凄い演奏で、テンポも超高速ですが、弦は一音ずつきちんと合わせて弾いているのです。そしてトゥッティになると壮絶な音響です。その後もテンポダウンせずにインテンポで進んでいきます。レニングラード・フィルの特徴でもありますが、カラヤンのようにレガートをあまりつけていません。それでも憂鬱な感じを表現しています。Promsでロジェストヴェンスキーが振ったものは、少しテンポを落として憂鬱な表現をしていますが、ムラヴィンスキーは余計なことはしないんです。
これを聴くともう遅いテンポの演奏は聴けなくなるかも知れませんが、世の中にこのCDが存在する以上は聴かずにこれをチャイコフスキーは語れないですね。
カラヤン=ベルリン・フィル (1976年)
カラヤンとベルリン・フィルの録音です。カラヤンもチャイコフスキーを得意としているので、沢山の録音があります。その中で今回は完成度が最も高く全集もある1976年録音を選んでみました。カラヤンの特徴であるレガートがもっとも良く使われる音楽でもあります。たまに過剰なレガートが鼻につくのですが、あまりに迫力があるので、気にならなくなってしまいます。
テンポは全体的に割と普通です。冒頭からベルリンフィルのダイナミックなファンファーレで、そのサウンドの完成度の高さと迫力に衝撃を受けます。第1楽章は力強い演奏です。レガートもトレモロでは掛けられませんし。この演奏はカラヤン絶頂の1970年代ですが、あまり強いレガートは感じず、その代わりに圧倒的にダイナミックでストレートな演奏です。第2楽章はレガートが掛けやすいと思いますが、それほどでも無いですね。その代わりにダイナミックでスケールが大きいです。
第3楽章は速めのテンポで進みます。第4楽章は速いテンポで、圧倒的なパワーと響きのクオリティです。フィルハーモニーのスピード感ある響きで、聴いていて気分爽快です。スタジオ録音なので上のDVDの迫力に加え、アンサンブルのクオリティが非常に高いです。情緒的な部分はレガート全開ですが、上手く行っている時の演奏で、嫌みはありません。後半のクレッシェンドの個所など、ベルリン・フィルのオーラ全開の迫力がしっかり録音されています。
テンポの速さではムラヴィンスキーを超えるCDは無いと思いますが、カラヤンはクオリティが高いです。表面的に磨き上げたような演奏もあった気がしますが、このCDは本質をストレートに捉えていると思います。ベルリン・フィルのパワーの凄さに圧倒されます。
アバド=ウィーン・フィル
アバドとウィーン・フィルの録音です。アバドは4番をウィーン・フィルと録音しています。5番、6番は他のオケと録音していますが、このウィーン・フィルとの演奏も凄いものがあり、予想を超える名盤です。
第1楽章の冒頭はウィーンフィルとは思えない位、金管が気を吐いています。主部に入っても正確なリズムでアバドとウィーンフィルの一体感は素晴らしいです。結構、演奏しにくい楽章なのですが、自由自在に緩急をつけて演奏しています。ウィーンフィルの柔らかい弦のサウンドは味わいがあります。後半は表情付けも細かくなり、ウィーンフィルのソロが素晴らしいです。
このCDは第2楽章が聴き物で、最初のオーボエのソロから渋いです。弦も味わい深く、レガートはほとんどかかっておらず、ムラヴィンスキーやカラヤンとは全く違う演奏です。テンポの速さもありますが、なるほどこういう演奏も出来るんだな、と新しい発見がありますね。とても自然な味わいがあって全く飽きることなく聴けます。
第4楽章は意外に速いテンポで始まります。ウィーンフィルは余裕で、とまでは行きませんが、アバドの指揮についていきます。アバドは細かいアゴーギクをつけつつ盛り上げていき、ラストは凄い迫力です。
ショルティ=シカゴ交響楽団
ショルティ=シカゴ交響楽団は、ショルティらしい硬派であまりロマンティシズムを強調し過ぎない演奏で、昔から高い評価を受けてきました。ある意味、ロマンティックなカラヤンの演奏と対極に位置しています。しかし、クールで感情の無い演奏、ではなく、むしろ逆だと思います。ただ、余計に美化せずにある音楽をしっかり演奏することで、それを実現していると思います。
冒頭からシカゴ響のブラスが完璧な演奏を繰り広げています。テンポは普通か少し速い位でしょうか。第2主題になるとテンポを遅くするなど、意外にアゴーギクがつけられています。ショルティ71歳の円熟した演奏なのです。また録音の音質が素晴らしく良いです。シカゴ響のアンサンブルは透明感があり、クオリティがとても高いです。弦などロシア的な響きを出してくる演奏も多いですが、そういうことには興味がないようで、チャイコフスキーの本質にストレートに迫っていきます。第2楽章は少し遅めのテンポで、とても味わい深いです。弦のサウンドもあまり分厚くならず、その代わり繊細な表現がつけられています。遅めのテンポですがリズムを失って横に流れることはありません。
第4楽章はかなり速いです。シカゴ響は余裕でむしろ水を得た魚のように溌剌な演奏しています。それにしても本当にクオリティ高いですね。テンポはあまり変化せずインテンポです。ラストの盛り上がりはかなり速いテンポとなりリズム感がとても良く、アンサンブルのクオリティの高さでは私の知る限りでは一番です。
ゲルギエフ=ウィーン・フィル
ゲルギエフはウィーンフィルと三大交響曲をライヴ録音しました。他にマリインスキー劇場管との録音もありますが廃盤なので、ウィーンフィルのみレビューします。トータルとしては、ゲルギエフの十八番なので上手い表現も沢山ありますが、ロシア的なスタンダードの演奏です。
第1楽章はウィーンフィルを鳴らして始めますが、録音のせいか金管はそこまで強く入っていないですね。しかし、十八番だけあって結構ロシア的なクールな雰囲気と、ウィーンフィルの民族的な響きが上手くブレンドされ、飽きの来ない響きが出ています。解釈はスタンダードで奇をてらった所はありませんが、ロシア系の音楽家でこれは貴重ですね。スヴェトラーノフ、フェドセーエフも良い演奏だと思うのですが、どうしてもすぐに廃盤になってしまいますし。第2楽章はとても味わいのある演奏です。アバドに近いですがアバドほど繊細ではなく、ロシア的な味があります。ウィーンフィルからこんなロシア的な響きが出てくるのはさすがです。
第4楽章はかなりの速さです。ウィーンフィルですがロシア的なダイナミックさがあって楽しめます。リズミカルでレガートにはなりませんが、上手い具合に情緒も出しています。ラストは凄くダイナミックです。アンサンブルのクオリティはライヴとしては高いです。
ただセッション録音程のクオリティは無いですね。聴いていて味わい深く楽しめる演奏で、テンポもスタンダードな名盤です。
バーンスタイン=ニューヨーク・フィル (1958年録音)
バーンスタインとニューヨーク・フィルの1958年の録音です。バーンスタインはチャイ4を何度も録音しています。1975年の録音が一番安定していてバランスも取れていますが、この1958年の録音は若いバーンスタインの熱気に溢れた演奏で、バーンスタインのチャイ4の中で最も迫力があります。
ロジェストヴェンスキー=BBC交響楽団
ロジェストヴェンスキーとBBC交響楽団のライヴが残されています。第4楽章などかなりテンポが速くBBC交響楽団も熱演です。迫力もあるのですが、それで終わらないのがロジェストヴェンスキーです。この交響曲第4番はバレエ『白鳥の湖』と関連するのではないか、という話もありますが、そういう色彩的な面を目立たせていて、独特の演奏となっています。
カップリングの「禿山の一夜」は、合唱付きという珍しいものです。合唱といってもオペラの一節のようです。
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演奏のDVD,Blu-Ray
迫力がある曲だけに、オケの能力が最大限に発揮された凄い映像が多いです。
カラヤン=:ベルリン・フィル
DVDで映像を観ることもできます。上に貼ったYouTubeはこのDVDからの抜粋ですね。カラヤンの指揮は見た目重視ですが、ベルリン・フィルの圧倒的な演奏を目の当たりにできます。そして、鳥肌が立つような瞬間も何度もありますし、ベルリン・フィルからオーラが出ているように感じる時もあります。このDVDで第4楽章の頭が合っていないのは有名ですが、それ以外はクオリティの高いアンサンブルで本当に凄みを感じます。
ロジェストヴェンスキー=レニングラード・フィル
一番上のYouTubeの映像で、交響曲第4番全曲がボーナストラックに入っています。指揮はロジェストヴェンスキーですが、レニングラードフィルに任せている所も多いですね。特に第4楽章は爆演で、物凄いフライングブラボーが入っています。演奏の素晴らしさを考えても楽しめるDVDだと思います。
もちろん、ムラヴィンスキーのDVDなので、そちらの内容も濃いです。ムラヴィンスキーの音楽家あるいは一人の人間としての考え方が分かるDVDです。
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楽譜
チャイコフスキー交響曲第4番の楽譜・スコアを挙げていきます。
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