ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー (Pyotr Il’yich Tchaikovsky, 1840~1893)の幻想序曲『ロミオとジュリエット』(Romeo and Juliet, Romeo et Juliette)を解説した後、おすすめの名盤をレビューしていきます。
シェイクスピアの戯曲『ロメオとジュリエット』は人気のある作品で、このチャイコフスキーの序曲の他、プロコフィエフによるバレエ『ロメオとジュリエット』もあります。チャイコフスキーの『ロメオとジュリエット』は非常に情熱的でロマンティックな曲で大変人気があり、沢山のおすすめの名盤があります。カラヤン、バーンスタイン、ゲルギエフなど巨匠が積極的に取り上げていますので、レビューしていきます。
解説
チャイコフスキー作曲『ロメオとジュリエット』について、解説していきます。
チャイコフスキー最初の名作
チャイコフスキーが1869年に作曲した幻想序曲『ロメオとジュリエット』(ロミオとジュリエット)は、チャイコフスキー最初の名作と言われています。その後、数回改訂が行われて、現在演奏されるのは1881年版です。演奏時間は22分程度です。
チャイコフスキーらしいストレートで情熱的で激情型の音楽です。なかなかの傑作だと思います。他にもシェイクスピアの「ロメオとジュリエット」を使用した作品は多数あります。プロコフィエフのバレエ「ロメオとジュリエット」も名作ですが、ここまでのパッションはありません。
チャイコフスキーのファンからも高い人気を誇る管弦楽曲です。大序曲『1812年』などは、名前は有名ですが、あまり名曲扱いされていません。でも、『ロミオとジュリエット』は好きな人が多いです。
交響曲でいえば、交響曲第1番『冬の日の幻想』(1866年)と交響曲第2番『小ロシア』(1872年)の間に、作曲が開始されていますので、チャイコフスキーの初期の管弦楽曲といえます。結構、密度の濃い名作なので、「チャイコフスキーの最初の名作」とも呼ばれています。
大序曲1812年(1880年)、スラヴ行進曲(1876年)、幻想序曲『テンペスト』(1873年)と、有名な管弦楽曲の中でも最初の作品です。大序曲などに比べると、『ロメオとジュリエット』は凄い曲だと思いますけれど、意外ですね。
あらすじ
シェイクスピアの戯曲「ロメオとジュリエット」を元に作曲されています。物語の舞台はイタリアのヴェローナです。
あらすじについては知らない人はいない位、有名ですよね。チャイコフスキーでは他に「ハムレット」も出てきますし、クラシック音楽ではシェイクスピアを元にした作品はとても多いです。でも、ストーリーは案外忘れてしまったりするものです。そんな時、こちらの本がお薦めですよ。
モンタギュー家の一人息子ロメオとキャピュレット家の一人娘ジュリエットは、修道僧ロレンスの元で秘かに結婚します。
モンタギュー家とキャピュレット家は仲が悪く対立していました。第1主題は激しい戦闘シーンを描いています。
第2主題では、ロメオとジュリエットの愛のテーマが演奏されます。この2つの主題はチャイコフスキーらしいですね。
神父ロレンスからもらった薬を飲んで死んだようにベッドに倒れこんでいるジュリエットを見つけ、ロメオはジュリエットが死んだのだと勘違いし、ロメオは自ら命を絶ちます。
薬が切れてジュリエットが目を覚ますと死んだロミオを見つけます。そして、ジュリエットもロメオを追って毒薬をあおります。
ロミオとジュリエットは、両家の中が悪いため、直接会うことは許されず、夜、バルコニー越しに会っていました。これがそのバルコニーだそうです。
楽曲構成
演奏時間は約22分です。
ピッコロ、フルート×2、オーボエ×2、コーラングレ、クラリネット×2、ファゴット×2
ホルン×4、トランペット×2、トロンボーン×3、テューバ
ティンパニ、大太鼓、シンバル、ハープ
弦五部
おすすめの名盤とレビュー
チャイコフスキー作曲『ロメオとジュリエット』の、おすすめの名盤をレビューして、感想を書いていきます。
ゲルギエフ=マリインスキー劇場管弦楽団
ゲルギエフと手兵マリインスキー劇場管弦楽団の録音です。ロンドン交響楽団より少しロシア的な色合いがありますね。録音は新しめで十分な高音質です。
非常に強いパッション、弦楽の厚みと流麗さ、全体的な響きのどれを取っても、チャイコフスキーらしいです。録音も新しく音質も良いです。テンポは速めで小気味良く、盛り上がりの白熱したスリリングさは凄いものがあり、1990年代のゲルギエフだからこそ出来た名盤と言えます。
新しい定番としての地位を確保することに成功した名盤です。
カラヤン=ベルリン・フィル
カラヤンの1966年のイエスキリスト教会での録音です。管弦楽曲集を聴くと、出来・不出来がありますが、「ロミオとジュリエット」は、非常に素晴らしい演奏です。若いころのカラヤンの情熱、ベルリンフィルのパワー、このころから健在の弦セクションのレガートがすべて良い方向に行っています。また、弦楽器は独特のコクのある音色を出していて、それも効果的です。
カラヤンは幻想序曲「ロメオとジュリエット」を1982年代に再録音していますが、年齢のせいか全然違う繊細な演奏になっています。いずれも完成度は高いものの、1982年代録音のほうはカラヤンらしくありません。1966年録音のほうが断然お薦めです。
バレンボイム=シカゴ交響楽団
スヴェトラーノフ=ロシア国立交響楽団
円熟したスヴェトラーノフの演奏で、冒頭から非常に味があって素晴らしいです。テンポが遅くなったわけでは無く(スヴェトラーノフの若いころに比べたら遅くなったのでしょうけど)、適度な情熱があり、テンポの速い部分も楽しめます。オーケストラも特に弦楽器が上手いですね。
第2主題はロシアのオケの一般的な演奏の仕方ですが、さほどレガートはかけず、響きで雰囲気を出しています。この辺りは好みの問題ですかね。カラヤンはケレン味があるので、ロシアのオケがそのまま真似することはないでしょう。
バーンスタイン=ニューヨーク・フィル (1989年)
バーンスタインのほうはスケールが大きく、わざとらしさや大げさなレガートなどが無いので、自然に聴くことができます。1989年録音とバーンスタインも円熟していることもあり、単なる情熱やロマンティシズムだけで音楽を作ることはもうないのでしょう。バーンスタインの情熱的な演奏は健在です。ニューヨーク・フィルハーモニックから、熱気のある響きを引き出し、スケールの大きさと激しい情熱を描き切っています。
アシュケナージ=サンクトペテルブルク・フィル
アシュケナージが母国ロシアのサンクトペテルブルグ・フィルハーモニーを指揮した演奏です。アシュケナージのロマンティックな表現とサンクトペテルブルグ・フィルの類まれな技術で、他のディスクとは一味違う演奏になっています。
弦セクションは線が細くシャープな響きです。カラヤンやバーンスタインのような大きなレガートはあまりかかっておらず、少しひんやりした幻想的という雰囲気の響きです。低弦の響きが特にひんやりしていて、響きの良い会場であることもありますが、強奏では急にテンポアップし、小気味良く演奏しています。細かい所でも全くアンサンブルが崩れずに、演奏しているのはやはり凄いです。ただアシュケナージは強奏の部分でも、爆演にはしないで、丁寧にまとめています。
最後のティンパニなどの盛り上がりは、かなりテンポが速くサンクトペテルブルグ・フィルらしいです。
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楽譜
チャイコフスキー作曲『ロメオとジュリエット』の楽譜・スコアを紹介します。