
『ボレロ』はモーリス・ラヴェルが1928年に作曲したバレエ音楽です。ラヴェルの晩年の円熟期に作曲された作品です。『ボレロ』の解説をした後で、おすすめの名盤を比較していきたいと思います。
一種類のリズムが繰り返され、徐々にクレッシェンドしていきます。そのリズムに乗せて色々な楽器がソロを吹いていきます。そして弦セクションのアンサンブルとなり、最後はトゥッティとなって終わります。音楽史では色々な作品がありましたが、『ボレロ』のような作品は初めてだと思います。
いろいろな楽器のソロが楽しめますし、オーケストラの実力を試される作品です。常に一定のテンポを保つ必要がありますし、ソロは各楽器が面白く聴かせてくれないと、聴衆は飽きてしまいます。
『ボレロ』の解説
ラヴェルの『ボレロ』について解説します。
よく考えるとラヴェルはその知名度に比べて、多くの作品は残していません。一番大きい曲は「ダフニスとクロエ」でしょうか。あとは「クープランの墓」など小さめの組曲が多いです。新古典主義の影響も受けていると思います。
『ボレロ』は革新的?
『ボレロ』はラヴェルの円熟期の作品ですが、前衛的な作品が1900年~1920年ごろまでに多く書かれていることを考えると、少し遅い時期の作品かな、と思います。最初はアルベニスの作品のオーケストレーションを依頼されたのですが、権利の関係で簡単に行かないことが分かりました。
生粋のフランス人の演奏は一筋縄じゃいきませんね。
その時、ラヴェルに大胆で面白いアイデアが思い浮かんだのです。最初は「ファンダンゴ」と呼んでいましたが、最終的には『ボレロ』になりました。どちらもスペイン舞踊です。最初から最後までリズムも調性も変わらず、ただクレッシェンドしていくのみなんです。ピアノで試奏すればかなりシンプルだと思います。
『ボレロ』は、近代~現代音楽に当たりますが、実際は近代・現代のテクニックは使っていないし、古典派よりもシンプルな音楽なんです。
水戸黄門のような一定のリズム
メローなサックスのソロから
『ボレロ』はスネヤによる同じリズムの上に、多くの楽器のソロや弦楽などが同じメロディを演奏し、最後は大音量で終わるという作品です。演奏時間は15分程度ですね。
ラヴェルはバスク地方というフランスでもスペインに隣接した地域に生まれました。母親もバスク系です。そのためスペイン風の舞曲になじみがありました。
なお、段々テンポを速くしていく演奏というものあるのですが、これはアメリカ初演でトスカニーニがやったことです。ところがラヴェルはその話を聞いて怒りました。ラヴェル自身によれば、ボレロは遅めのテンポ設定で、常に一定のテンポで演奏しなければならない、とのことです。難易度高いですね。
『ボレロ』のアイデアは、ショスタコーヴィチの交響曲第5番『革命』、交響曲第7番『レニングラード』の第1楽章の展開部に使われるなど、意外に近現代音楽に大きな影響を与えています。ショスタコーヴィチはスネヤを軍隊の象徴として使っていますし。
水戸黄門の音楽はボレロから着想したと思います。
でも4拍子なのでスペインのボレロとは異なります。ですが、アメリカでは4拍子のボレロがあるんだそうです。ですから水戸黄門はやはりボレロなんですね。
曲の構成
AメロとBメロの2つのメロディで構成されています。前半は次々とソロが現れます。次第に編成を増していき、アンサンブルが増えてきます。途中のテナー・サックスやソプラノ・サックスのソロは印象的です。トロンボーン・ソロは、非常に難しいもので、プロでも音を外す例が後を絶ちませんね。そして弦セクションのAメロが現れ、以降は金管も入りダイナミックになり、パーカッションが入ってカオス気味に曲を締めます。
(1) フルート
(2) クラリネット
(3) ファゴット
(4) 小クラリネット(エス・クラリネット、Esクラリネット)
(5) オーボエダモーレ
(6) フルート+トランペット
(7) テナー・サックス
(8) ソプラノ・サックス
(9) ピッコロ、ホルン、チェレスタ
(10) オーボエ、オーボエ・ダモーレ、コールアングレ、第1,2クラリネット
(11) トロンボーン
(12) フルート、ピッコロ、オーボエ、コーラングレ、クラリネット、テナーサクソフォーン
(13) 弦セクション、他
以下省略
オーケストラに典型的な楽器ではなく、小クラリネットやオーボエ・ダモーレなど、少し特殊な楽器を使っています。小クラリネットは現在でも良く良く使われるエス・クラリネット(Esクラリネット)のことで、普通のクラリネットの3/4のサイズで高音域が得意です。オーボエ・ダモーレはバロック期に使われた音域の低いオーボエで、まろやかな音色です。○○・ダモーレという楽器はバロック時代に良く使われていて、ヴィオラ・ダモーレも有名ですね。また当時は、サックス属もかなり新鮮味があったと思います。
さらに言えば、ラヴェルはフランスの作曲家であったため、木管楽器はフランス系の楽器を念頭に置いています。例えばファゴットは当時のフランスでは「バスーン」と呼ばれ、ファゴットよりも線の細い音色です。ストラヴィンスキーの『春の祭典』の冒頭もバスーンを念頭に置いていて、バスーンで吹いたほうが妖艶な雰囲気が出ますね。他の木管楽器もフランスの楽器は少し違います。今ではフランスのオケでも世界標準の楽器を使っていますが、少し古めのクリュイタンス=パリ音楽院のディスクなどでは、まだ昔のフランスの木管楽器が残っていたと思います。
フランスに限らず、ウィーン・フィルは現在でもウィンナ・ホルンを使っているなど、半世紀前までは国による差は大きかったのですね。
「ボレロ」のお薦めCD,名盤の比較
ラヴェル作曲『ボレロ』のおすすめの名盤をレビューしていきます。『ボレロ』はシンプルな曲ですが、本当に色々な演奏があり、ここではその一部しか紹介できていません。曲がシンプルで難しいので演奏家の実力が出てしまいますし、色々なCDを聴き比べると新しい発見が多い曲です。
『ボレロ』のレビューは名盤を上に持ってこようとしていますが、必ずしもそうなっていません。基本、個性的な演奏が面白く、簡単には比べられないのです。特にマゼール盤やプレートル盤は、個性的な名演で聴く価値のあるものですが、他と比べて良しあしを判定するのはとても難しいです。
ブレーズ=ベルリン・フィル
ブーレーズの指揮に、優れたソリストの集団であるベルリンフィルの演奏です。この『ボレロ』は間違いなく名盤です。
ブレーズはフランスの巨匠で作曲家としても成功おり、フランス音楽に対する理解は深いものがあります。ですが、割とインテンポで演奏することが多く、若いころの演奏はシャープでしたが、最近の演奏は丁寧な場合が多いです。しかし、この『ボレロ』に関しては全く別です。演奏がベルリン・フィルなのです。名手の揃ったベルリン・フィルの管楽器に、ブーレーズが指揮ですから表現もドイツ風になることなく、バランスの取れた名演となっています。ベルリン・フィルは国際的にソリスト級の奏者を集めていますから、ボレロのような曲なら、魅力的でハイレヴェルなソロを聴くことができます。フランス人のソリストほど自由ではありませんが、ソロのクオリティがとても高いです。特にトロンボーンはこんなに上手いソロは始めて聴きました。
ソロ、曲のまとめ方、録音のクオリティが全てハイレヴェルな超名盤です。クリュイタンス盤と双璧の名盤です。
小澤征爾=ボストン交響楽団
小澤征爾とボストン交響楽団の演奏です。このコンビの演奏の中でも、かなり上位に来る名演奏です。とても鮮度の高い演奏で、録音もしっかりしています。
テンポは少し速めです。ボストン交響楽団のソロはかなりレヴェル高いです。フランスのラテン系の明るさが感じられ、リズムは力強く躍動感があります。サックスのソロは、パリ音楽院管とはまた違った個性があります。録音も良く、サックスの艶やかな音色を上手く捉えています。音量が大きくなってくるとスネヤの打ち込みも鋭くなってきます。弦の主題は、強く明るい日差しを感じるような爽やかさと熱気があります。音量もどんどんクレッシェンドしていき、ダイナミックになってきます。ラストはシャープに盛り上がり、白熱した凄い熱気です。
カップリングのラヴェルの管弦楽曲も鮮度が高く躍動感があり、トータルとしても名盤です。
カラヤン=ベルリン・フィル (1985年)
カラヤンとベルリンフィルの録音です。少なくとも3種類ありますが1985年録音のものです。カラヤンはオーストリア人なので、フランス音楽を無理にフランス風に演奏することはしません。シンフォニックな演奏です。カラヤン=ベルリンフィルは骨格のしっかりした演奏をしているのに、ラヴェルの作品らしい味わい深く聴くことが出来ます。
カラヤンは中庸のテンポを選んでいます。最初のフルートのソロから惚れ惚れさせられます。ソロが色彩的で今のベルリン・フィルとは違った意味で充実しています。安定したテンポの中でベルリン・フィルの豪華なソロ陣がクオリティの高い名技を繰り広げています。特にファゴットの繊細さが印象的です。ソプラノ・サックスのソロも大胆にセンス良く表現しています。一番難しいトロンボーンのソロはしなやかで非常に上手いです。弦の主題は色彩感があり、爽やかに盛り上がっていきます。ラストはダイナミックにスケール大きく盛り上がりますが、音が濁ることはありません。透明感のある響きで爽やかに曲を締めます。
クリュイタンス=パリ音楽院管弦楽団
古き良き「フランスのエスプリ」を体現したクリュイタンス=パリ音楽院管弦楽団の演奏です。パリ音楽院管は、史上最もフランス的なオーケストラですね。ソロの表現力と上手さは際立っています。
高名なソリストがいるのか分かりませんが、それぞれのソリストが思い切り歌いきっていて、各楽器の特徴が良く出た音色です。特にサックスはそこまでやるのか、と聴いていて楽しくなってきます。上にYouTubeを貼りました。トロンボーンのソロも味があります。
このCDは現在はほとんど無くなってしまったフランスのエスプリを持っていて、永遠の名盤といえると思います。
デュトワ=モントリオール交響楽団
デュトワ=モントリオール響の録音です。ソリストが非常に上手いですが主張しすぎることはなく、バランスよくまとめています。安定していてクオリティが高いです。音質は非常に良くて透明感があり、適度な残響が色彩感を増しています。
木管、金管のソロはいずれもしなやかでとても上手く、センスも良いです。ファゴットのソロにはしなやかさに加えて妖艶さすらあります。小クラリネットの宝石のような輝きも聴き物です。オーボエ・ダモーレのソロも芳醇さがあり、まろやかです。サックスのセンスの良さと色彩感も素晴らしいです。アンサンブルになっても各楽器のバランスがとても良く色彩的です。トロンボーンの上手さも非常にハイ・レヴェルです。弦楽器の音色などは、透明感と色彩感がありフランス的なものを感じます。
透き通った響きといい、ソロの技術的な上手さと言い、録音の良さと言い、クオリティが高く安心して聴ける定番の名盤だと思います。
マゼール=フィルハーモニア管弦楽団
若き日のマゼールとフィルハーモニア管弦楽団の演奏です。1971年録音でテンポが速く13分05秒で演奏しきっています。恐らく史上最速です。実際、聴いてみると速いテンポでも全く不自然さは無く、逆にとても生き生きとしています。録音の音質もかなり良いです。
最初のフルートから生き生きとした演奏で、この速いテンポの効果ですね。フィルハーモニア管の管楽器のソロもクオリティが高く上手いです。アンサンブルのクオリティもかなり高いです。トロンボーンも艶やかな演奏です。盛り上がってくるとリズム感がさらに増してきます。弦の主題が出てくる頃には大分熱気が出てきます。そのままテンポを緩めることなく突き進んでいき、ラストは熱狂の渦です。金管も荒々しい演奏で盛り上がります。最後、少しだけテンポが緩むところがありますが、また元のテンポに戻り、そのまま熱狂的に曲を閉じます。
確かに面白い演奏です。でも、新しい発見が沢山ある名演でもあると思います。
モントゥー=ロンドン交響楽団
モントゥーは作曲者のラヴェルと同い年です。ロンドン交響楽団はイギリスのオーケストラですが、ここではフランスのオケよりも演奏レヴェルが高く、色彩的な演奏を繰り広げています。1964年録音で音質も良いです。
『ボレロ』は非常に美しく自然な演奏です。少し遅めのテンポで、各ソロのレヴェルは高いです。ソロにも、指揮にも特別な個性はありませんが、安定したリズムと透明感のある色彩感はモントゥーらしいです。玄人受けする演奏で、聴けば聴くほど味が出てきますし、「なるほど」と感心する所も多いです。
ボレロ以外の曲、「マ・メール・ロワ」「ラ・ヴァルス」「スペイン狂詩曲」など、とても良い演奏で、フランス的な芳醇な味わいがあります。モントゥーらしい本質をついた名演で、さらにフランスらしい自然な色彩感が加わっています。フランスのエスプリを感じさせるラヴェル集として、クリュイタンス盤に匹敵する名盤です。
アバド=ロンドン交響楽団
アバド=ロンドン交響楽団の『ボレロ』です。最後に叫び声が入っていることで有名なディスクですね。それはそれとして、世評の高い演奏なのでレビューしてみたいと思います。
テンポは速めです。アバド=ロンドン交響楽団らしく、クオリティが高く艶やかな響きです。ソロは特別に個性を出している、という訳ではありませんが、当然のようにハイレヴェルです。特にトランペットやホルンは素晴らしい技巧を聴かせてくれます。サックスも軽くアクセントを入れつつリズミカルに歌っています。
1985年の録音にしては、個々の楽器はしっかり録音されているし、分離も良いです。また色彩感のある木管のソロも綺麗に撮れていて、録音レヴェルは高く、録音スタッフの意気込みを感じる位です。
速めのテンポもあり、クレッシェンドもシャープで盛り上げ方が上手いです。弦の主題を過ぎると、どんどんダイナミックになってきます。中低音も良く入っていて、響きにボリュームがあります。
最後のトロンボーンのグリッサンドの個所に叫び声が入っていますが、世間で言われるほど目立つものではないですね。これはシャイー盤の説明で書いた通り、ミラノスカラ座の名指揮者サバタが考案したもので、それから受け継がれているようです。
全体的にクオリティの高い演奏で、テンポが速めで完成度の高い『ボレロ』を聴きたい方にはお薦めです。筆者は好みとしてはシャイー盤のフレッシュさがいいですが、アバド盤は手兵との演奏で、内容がとても充実しています。
ショルティ=シカゴ交響楽団
ショルティ=シカゴ交響楽団のボレロは、中庸の少し余裕あるテンポで丁寧に演奏されています。オケはシカゴ交響楽団ですからソロは名手揃いです。ソロは各楽器艶やかに、かつ朗々と歌っていて、気分よく聴けます。サックスはアメリカらしい表現で、なるほど面白いですね。トロンボーンなども全く余裕で綺麗にレガートで吹きこなしています。
フランス風とはいいませんが、バックも響きの厚さがあり、しっかりとアンサンブルが構築されています。弦の響きもなかなかフレッシュです。最後はダイナミックになり、厚みのある響きの上で盛り上がっていきます。しかし、過剰にダイナミックにならずに終わります。特別、面白い表現をしている訳ではありませんが、円熟期のショルティ=シカゴ交響楽団のしっかりした演奏を聴くことができ、聴いた後にも充実感があります。
『ボレロ』でも完成度・充実度の高い名盤だと思います。
カラヤン=ベルリン・フィル (1977年EMI盤)
カラヤンとベルリン・フィルの1970年代後半の最盛期の録音です。普段のグラモフォンではなくEMIの録音で自然な音質です。
遅めのテンポでソロの上手さをじっくりと味合わせてくれます。冒頭からフルートのソロが艶やかです。全体的にソロは表情豊かで、息遣いまで聴こえてきます。ファゴットのソロは、とてもメリハリがあり表情豊かですね。サックスのソロはヴィブラートが良くかかっていて細かい所まで練られています。トロンボーンはとても上手く表情の付け方が良いです。
弦の主題はふわっと入り、色彩感があり、ラヴェルのオーケストレーションを上手く再現しています。トゥッティでの金管はシャープにダイナミックに鳴らしています。カラヤンは最後まで遅めのテンポを維持してスケール大きく盛り上がっています。
高音質の最新盤を選ぶか、最盛期の名手揃いのソロを選ぶか、という選択ですね。いずれも名盤と言えますけれど。
プレートル=スカラ座フィル (2016年)
プレートルのラテン系なユーモアに満ちたユニークなボレロです。Bメロの後半で遅くなるというのは、フィレンツェ五月祭管弦楽団とのディスクと一緒ですが、こちらはスカラ座フィルなので、イタリアのオケとしては最高レベルの技術力です。また2016年録音で音質も良いです。
それとこのディスクはプレートル最後のコンサートとなりました。プレートルは、指揮者デビューしてプーランクなどのフランスのエスプリを沢山含んだ曲を初演しました。フランスの良さを残しているパリ歌劇場管弦楽団と来日して個性的な演奏を披露するなど、本物のフランスのエスプリを持つ指揮者として、世界的に活躍しました。最後はNew Year’s concertまで出演していましたね。
そんなプレートルが最後のコンサートまで、個性とフランスらしさを持ち続けたのは、リスナーとしても幸運なことだったと思います。
スカラ座フィルは、フランスやドイツのオケと比べると、やはりダイナミックさは落ちるのですが、『ボレロ』では最後までしっかりした演奏です。ラストのカンカンはかなり遅いテンポですが、これもユニークな演奏で、最後までフランスらしい演奏を繰り広げています。
マゼール=フランス国立管弦楽団
マゼールとフランス国立管弦楽団の録音です。フランス国立管弦楽団は『惑星』で凄い演奏をしていましたが、基本的にラテン系のオーケストラです。ただパリ音楽院管弦楽団ほど個性的ではないですね。音質は安定していて良いです。
テンポは速めでキビキビ進みますが、むしろ心地よいテンポです。このフランス国立管弦楽団のディスクはスピード争いしているようには聴こえません。ソロはラテン系な明るさがあります。木管は良く聴くとそれぞれに結構フランス的な味があります。フルートが爽やかに子気味良く響きます。サックスはインテンポで少しシャープさがあります。ホルンなどのアンサンブルはとても色彩的です。トロンボーンも意外に軽々と吹きこなしています。盛り上がってくるとリズムの刻みがシャープで心地よいです。
弦セクションが入っても速いテンポは変わらず、どんどんダイナミックになっていきます。金管が入って、最後は白熱した演奏となり大迫力です。すっきりした演奏で、後味も良いです。速いテンポのボレロが好きな方にはお薦めの名盤です。
シャイー=コンセルトヘボウ管弦楽団
シャイーとアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の録音です。シャイーのフレッシュさ溢れる指揮ぶりとコンセルトヘボウ管の透明で色彩感のある響きが特徴です。録音は透明感があって良いです。
シャイーは少し速めのテンポで演奏していきます。まず驚くのはソロがとても生き生きしていることですね。コンセルトヘボウの管楽器は透明感と色彩感がある音色を堪能できます。フルートのソロは透明感があり、繊細ながらフレッシュさがあります。小クラリネットのシャープさのある表現も爽やかです。テナー・サックスは子気味良く思い切った表現、ソプラノ・サックスも少し鋭さのある表現で楽しませてくれます。こんなブリリアントな『ボレロ』を聴いたのは久々な気がします。
コンセルトヘボウ管の弦セクションが主題を演奏する所のフレッシュさは、他のディスクでは聴けないレヴェルです。この色彩感と爽快さはいいですね。さらにダイナミックになっていきます。ラストはパーカッションが活躍し、金管もフレッシュさを壊さない程度にダイナミックです。新鮮で生き生きしていて、曲が終わっても、しばらく良い気分が続きます。
最後はトロンボーンのグリッサンドと一緒に叫び声が入っているのですが、アバド盤と同じです。これはイタリアのミラノ・スカラ座の名指揮者サバタのアイデアで、その後、アバドに引き継がれ、シャイー盤にも引き継がれている伝統のようです。シャイー盤では、そこまで目立たないですし、それほど不自然さは感じませんね。
ゲルギエフ=ロンドン交響楽団
ゲルギエフとロンドン交響楽団の録音です。ライヴですが非常に音質が良く、立体感も感じられるリアルな録音です。ゲルギエフは持ち前のリズム感で、テンポよくキレの良い的確なテンポ設定で前半は精緻に、後半はダイナミックに聴かせてくれます。ラストの盛り上がりはライヴならではの熱気です。ロンドン交響楽団のソロ陣もレヴェルが高く、ライヴでここまでの演奏が出来るのですね。
最初のフルートから艶やかで生き生きとした演奏です。リズム感が良く伴奏にシャープさがあるので、ソロもブリリアントに響きますね。クラやファゴットのソロも艶やかな音色が楽しめ、高音質が活きています。ホルンの上手さには舌を巻きます。サックスはリズミカルかつ表情豊かで楽しめます。ソプラノ・サックスの美音は特筆ものですね。トロンボーンも表情豊かに表現しています。
弦は色彩感と爽快さがあり、楽器が増えるごとにシャープさも増していきます。トランペットが入るころにはスリリングで凄い熱気です。推進力のあるテンポは絶妙です。ラストは凄いダイナミックさで曲を閉じます。
ボレロはゲルギエフの良い所がストレートに出ていて得意曲だと思います。速めのテンポの一つの典型的な演奏で、高音質でブリリアントな響きの名盤です。
マゼール=ウィーン・フィル
マゼールは今度はウィーンフィルとラヴェルを録音しています。録音の音質が非常に良くなりました。また、結構ユニークな演奏なんです。録音の透明度が高く、これまでは聴こえにくかった細部が良く聴こえるようになったことで、魅力が増しました。
ウィーン・フィルもソロの個性があるオーケストラです。フランスのオーケストラとは大分違いますが、ホルンなど使っている楽器が違う場合もあります。ウィーンフィルの金管も大分レヴェルアップしてきてフランス物を上手く演奏するようになりました。でも、それが逆にウィーン・フィルの個性を際立たせています。木管のソロも細かい表現が良く聴こえますので、ウィーンフィルらしい表現を聴くことができます。一方、サックスは随分大人しい表現でした。
後半、アンサンブルになってくると、ウィーンフィルらしい柔らかい響きを上手く使っています。フワッとした感じのボレロですね。最後のほうはテンポを揺らしたりして、個性的に演奏しています。テンポ設定は早めですが、最後はユルく終わります。
マゼールのテンポ設定が早めなので、好みの問題が大きいような気がします。筆者はマゼール=ウィーンフィルのディスクは面白くて好みなので、評価を高めにつけています。
プレートルのボレロは、上のYouTubeで見た通りですが、リズムは一定のテンポで進みますが、メロディの後半をリズムより遅らせるという大胆で面白いことをやっています。
フィレンツェ五月祭管弦楽団の実力は、少し微妙なところがありますし、そもそもイタリアのオーケストラなのでフランスとは大分キャラクターが違います。
プレートルはオペラ指揮者でもありますが、ミラノ・スカラ座の指揮も良く行っています。フィレンツェ五月祭にもよく登場しました。ですので、一応、音楽祭向けのオケとはいえ、何度も指揮してきたのです。
フィレンツェ五月祭管弦楽団は、このボレロのテンポの揺らし方に慣れる所まで行かずに本番を迎えた気がしますが、ちょっと戸惑いながら演奏しているところが却って面白いです。
フランス人らしい、そしてプレートルらしい洒落な名演です。
トスカニーニ=NBC交響楽団 (1939年)
トスカニーニはボレロのアメリカ初演を行った指揮者です。ところが、トスカニーニが段々とテンポを速くしていく演奏をしたため、ラヴェルに酷評されました。
この1939年のボレロも一筋縄では行きません。段々速くしている訳ではないようですが、ちょうどプレートルがBメロでテンポダウンさせていますが、それとは違いますがテンポを動かしています。もしかしてイタリアの伝統なんですかね?ブレートルはフィレンツェ五月祭管、スカラ座フィルとの演奏で、Bメロのテンポを遅くしています。なおライヴを放送したのか、ソロで音を外している楽器が多いです。
CDを紹介しようと思いましたが、どこにも売っていませんでした。アマゾンミュージックにあったのでMP3かUnlimitedに入会してお聴きください。
ラヴェル=ラムルー管弦楽団 (1930年)
ラヴェルの自作自演です。ラヴェルは一定のテンポで遅めに演奏する、と言っていますが、確かに遅めのテンポではあります。ただ、細かい音符をわざと速めに演奏しているようです。これはスペインの流儀かもしれませんし、よく分かりませんが、これも結構ユニークですね。トロンボーンはグリッサンドになっていて、やっぱりこれはわざとですね。ラヴェルの自作自演は意外と音質も良く聴くに堪える演奏です。
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「ボレロ」バレエ版
『ボレロ』はもともとバレエ音楽として作曲されました。初演はイダ・ルビンシュタインのバレエ団で行われました。振付はあのニジンスカ、ニジンスキーの妹です。現在上演されたり発売されているバレエ版はほとんどベジャール版やその流れをくむ振付ですね。
『ボレロ』の音楽自体にストイックなものを感じますが、同じリズムの上で一人で15分間踊るのですから相当ストイックな作品です。ベジャールなど後世のコンテンポラリー・ダンスでも成功している作品で、今でもよく上演されます。
Bolero and other works (ベジャール版)
二十世紀バレエ団の芸術 [DVD]
3.0/5.0レビュー数:2個
愛と哀しみのボレロ[レンタル落ち][DVD]
4.2/5.0レビュー数:219個
ジョルジュ・ドン 日本最後のボレロ
3.5/5.0レビュー数:2個
「ボレロ」のスコア・楽譜
ラヴェル作曲のボレロの楽譜・スコアを挙げていきます。
ミニチュアスコア
オイレンブルクスコア ラヴェル ボレロ (オイレンブルク・スコア)
4.8/5.0レビュー数:9個
大型スコア
ピアノ譜
ピアノピース-532 ボレロ/ラヴェル (後藤丹編) (全音ピアノピ-ス 532)
4.0/5.0レビュー数:1個