最近は多くの楽譜、スコア、パート譜がIMSLPでフリー(無料)で入手できるようになりました。著作権が切れているクラシック音楽は、というか、2020年代ですから有名な曲はほとんど著作権が切れています。そうなると、買うよりはIMSLPで入手したほうが安くて良いのでは?と思ってしまいます。実際、アマチュアオーケストラなどではパート譜としてIMSLPを使うことも多いです。
結論からすると、日本の出版社による市販のミニチュアスコアのほうがコスパは高いです。ミニチュアスコアは印刷・製本されて、日本語解説もついた書籍のスコアです。印刷代だけでも、ましてや製本まで考えると、断然市販のミニチュアスコアがお得です。また有名な曲を編曲した場合、編曲者の著作権が切れていなければ、IMSLPでは入手できません。ここでは具体的に考えてみます。
印刷代は結構高い
IMSLPで例えばスコアを入手したとします。これが交響曲で100ページあったとします。そうなるとIMSLPで入手できるのはPDFなので、まずはこれを印刷することになります。
印刷費用はインクジェットプリンタの場合、片面で5円~10円かかります。ただ白黒専用の印刷ができるインクジェットプリンタの場合、もっと安く、片面2.5円程度です。ただしインクジェットプリンタはインク代でプリンタ本体の価格を回収する収益モデルなので、こういうインク代を節約する機能がついているプリンタは意外に高いです。一万円以下のプリンタで、とりあえず片面5円としておきましょう。
また印刷する機会が少ない場合、インクを使い切る前に時間が経って、ノズルが詰まってインクが使えなくなったりします。コンビニ印刷だとプリンタは不要です。単にPDFをUSBメモリやSDカードに入れてコンビニにもっていき、コンビニのコピー機に差し込んで印刷ボタンを押すだけです。これだと一枚10円です。使用頻度が少ないなら、場所も取らず、B4版の印刷も可能なコンビニ印刷はとても便利です。
だたしサイズの関係で、IMSLPの楽譜の一部はコンビニ印刷できません。コンビニに行って印刷しようとして「印刷不可」となっていることに気づくので、意外に面倒です。
ミニチュアスコア vs IMSLP
参考で使うIMSLPのスコアの製本は面倒なので、ちょっと嵩張りますが、ゼムクリップで挟んでしまえば十分かも知れません。紙テープを使ったスコアの製本はとても面倒です。なので印刷代のみで考えてみましょう。
ベートーヴェンの交響曲第5番『運命』だと、150ページ位あります。単純に掛け算すると、印刷代は5×150=750円です。最近ではプリンタが無くてもコンビニで印刷できますが、USBメモリなどでPDFを印刷すると一枚10円なので、1500円です。一方、ミニチュアスコアは800円~1000円位です。
世の中、『運命』より長い曲はいくらでもあります。ベートーヴェン交響曲第9番『合唱付き』なら300ページあります。IMSLPでダウンロードして印刷すると5×300=1500円です。コンビニ印刷なら3000円ですね。一方、ミニチュアスコアは1430円です。
なので、ミニチュアスコアに関していえば、印刷代を考えると大きな差はないですし、市販のミニチュアスコアは印刷されている上、きれいに製本までされています。
ミニチュアスコアには日本語解説がある
ミニチュアスコアには、日本語解説がついていて、曲の紹介や専門家による楽曲の分析がしてあることもあります。アマゾンミュージックなどが普及し始めた今、日本語版CDを手にする機会も減るため、曲の日本語解説は貴重です。
聴いただけでは、第1主題、第2主題も正確には分からないし、展開部や再現部の場所、コーダの場所すら分からないかも知れません。そもそも、その楽章がソナタ形式かどうかも分かりにくいことがあります。ロマン派後期になってくると例外だらけで、聴いただけではほぼ分からないと思います。
Wikipediaでも調べられますが、意外に専門的すぎてこだわりがあり、説明が難しいことが多いです。詳しく書かれている場合と、逆に内容が少なすぎる場合があります。スコアの日本語解説は、正規の出版物なのできちんと編集・校訂されていて、内容も正確で読みやすいです。
結論
交響曲でそれなりのページ数があるなら、IMSLPでダウンロードしたものを印刷したときの手間も含めて考えると、ミニチュアスコアを買うほうがお薦めです。日本語版ミニチュアスコアなら、今後、ストリーミングサービスが増えていくに従い入手しにくくなる「日本語による曲目解説」もついています。
当サイトでは出来るだけ信頼出来てコスパの高い日本語版ミニチュアスコアを掲載しています。当サイトの「さらに探す」ボタンを押すと、編曲版の譜面も出てきて面白いですよ。
ただ校訂のバージョンが決まっている場合は、そうもいかないかも知れません。古典派以降なら、劇的に内容が違うことはそれほどありません(ブルックナーの一部の曲を除く)。ミニチュアスコアを一つ持っていれば、十分な場合が多いです。
バロックはIMSLPがお薦め
例外として、バロック音楽が挙げられます。バロック音楽の場合、出版されている譜面は、逆に後世、ロマン派の時代に書き込まれたアーティキュレーション(スラー、スタッカート、テヌートなど)が入ったままだったりして、逆に不正確です。バロック時代はスタッカートは別の意味を持っていたといわれます。IMSLPで当時の出版譜を見ると、全然違うことが分かります。それで演奏するのが一番良いのですが、読みにくいので楽譜ソフトに打ち込んでくれたものがあれば、IMSLPを使う場合が多いです。(バロック・バイオリンをやっている人は当時の出版譜で演奏するのが普通)曲を詳しく研究したいなら、IMSLPにある自筆譜を見てみることをお薦めします。
アーティキュレーションに関しては、モーツァルトやハイドンの時代まで微妙です。分かっていればいい話なので、アーティキュレーション記号を無視すればよいのですが、今のご時世は「楽譜通りに演奏しなければならない」という風に考えている人が多いので、上手い人ほど譜面に書いてある通りに演奏してきます。
当時、作曲家が軽い気持ちで書いた最後の全音符を、拍を数えてテヌート気味に伸ばしきったりする場合もある位です。作曲家の立場に立って少し考えてみると、大体、最後は全音符で書くものであって、深い意味は無いことが多いです。逆に最後の音は解決音なので、小さめに演奏するのが流儀なんです。
これを大きく変えたのはベートーヴェンです。ベートーヴェンの楽譜は、楽譜通りに演奏することを期待して書かれた、初めての楽譜です。細かいアーティキュレーションまできっちり書き込んであり、カデンツァまで作曲して「これが私の音楽だ」と言わんばかりです。ベートーヴェンでも完全に楽譜通りに演奏すると不自然になるので、それ以前の曲は、もう少し音楽的に深く読みこんで、当時の流儀も参考にして、演奏者がアーティキュレーションを考える必要があります。なので、余計なことが書いていない、白い譜面のほうがむしろ良いです。