ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven,1770~1827)の交響曲第7番 イ長調 作品92、通称「ベト7」には名盤が星の数ほどあります。解説の後でおすすめの名盤をレビューをしていきます。
「舞踏の聖化」や「リズムの権化(ごんげ)」という愛称もつけられている位、執拗(しつよう)に同じリズムが続く音楽です。アマチュアのオーケストラの基礎を作る曲としてもよく使われ『ベト7』と呼ばれています。また第2楽章は有名なメロディで親しまれています。オーケストラで良く演奏される人気曲です。
解説
ベートーヴェンの交響曲第7番 イ長調 Op.92について解説します。
舞踏の聖化
第1楽章は、「舞踏の聖化」「リズムの権化(ごんげ)」という愛称もつけられている位、執拗(しつよう)に同じリズムが続く音楽(オスティナート)で、アマチュアのオーケストラの基礎を作る曲としてもよく使われます。前奏のあと、タンッタタ、タンッタタというリズムが始まり、強弱を繰り返しながら第1楽章全体を貫いています。
少し難しい言い方をすれば「オスティナート」(執拗な繰り返し)を色々な形で使った曲である、ということです。第1楽章はリズムのオスティナート、第2楽章は主題のオスティナート、という風に繰り返しを良く使っています。
有名なメロディ
第2楽章は、有名なメロディの変奏曲です。ベートーヴェンにしては、流麗(りゅうれい)なメロディでとても親しみやすいと思います。
第4楽章もアレグロのリズミカルな音楽です。形式をよく見ると古典的なイメージがある交響曲第8番よりも古典派交響曲の流儀に沿っています。ですが、聴いてみると古典派というよりは、ロマン派の交響曲に近く聴こえますね。
アマチュアオーケストラの入門曲
有名なメロディもあって客うけも良いので、多くのアマチュアオーケストラが取り上げています。特別に難しいという訳でもなく、土台のリズムがしっかりしており、アマオケのアンサンブルを鍛えるのに適した曲でもあります。
ベートーヴェンとしては後半の円熟しはじめた時期に当たりますし、交響曲第8番と違って最後は盛り上がりますし、演奏会のプログラムとしてはとても良い曲といえますね。
漫画「のだめカンタービレ」の影響が大きいですね。放映されていた当時はアマオケでベト7をやると満席になったりしました。もう10年以上、昔の作品になってしまいましたが、のだめの影響はまだまだ大きいです。
曲の構成
ベートーヴェン交響曲第7番は古典派風の4楽章形式の交響曲です。一見、古典主義的な交響曲第8番よりも第7番のほうが古典主義的な要素が強いですね。第2楽章など内容はロマンティックな音楽で、古典派交響曲とまでは言えませんけれど。第7番は全体的にプロポーションが良く、聴きやすい交響曲となっています。
第1楽章:ポコ・ソステヌート~ヴィヴァーチェ
序奏付きのソナタ形式です。序奏は小節数もスケールも規模の大きなものです。やがて16分音符のリズミカルな音型が現れます。
第2楽章:アレグレット
3部形式です。有名なメロディのこの楽章も、実は単一のリズムに貫かれています。有名なメロディはまずヴィオラに現れますが、執拗に繰り返すので「オスティナート主題」と呼ばれます。中間部は大きく雰囲気が変わるわけではなく、転調し、「オスティナート主題」自体は一休みしますが、ますがリズムはそのままです。後半は「オスティナート主題」を基にしたフーガも現れます。
第3楽章:スケルツォ
スケルツォですが、3部形式ではなくABABA形式です。明るく前向きな力強いスケルツォです。トリオは一転して穏やかな音楽になります。
第4楽章:アレグロ・コン・ブリオ
ロンド・ソナタ形式です。属7和音の強烈な連打で始まります。ダイナミックで狂乱のフィナーレです。
おすすめの名盤レビュー
それでは、ベートーヴェン作曲交響曲第7番の名盤をレビューしていきましょう。
あまりにCDが多くて、しかもいい演奏ばかりです。正直言って、第7番は人気曲で技術的に格別難しい訳でも無いので、ベートヴェンというとまず第7番をリリースしてくる場合も多いです。
まずC.クライバー盤がCDを2種類リリースしていて、いずれもとてもレヴェルの高い演奏です。ベト7を聴くなら必携のディスクです。小澤盤もリズムオスティナートがしっかりしていてベト7らしい名盤です。新しいクルレンティス盤は力強さだけでなく、色々なリズムの妙を聴くことが出来る名盤です。スタンダードな演奏を聴きたい場合はサラステ盤やショルティ盤が良いです。
カルロス・クライバー=ウィーン・フィル
C.クライバーとウィーン・フィルの名盤です。『運命』も含めて非常な名演奏で、交響曲第7番もスリリングで、軽快にリズムを刻んでいきます。初めて聴く人にもとてもお薦めの名盤です。バイエルン国立管弦楽団との演奏は、筋肉質で重厚さがありますが、ウィーン・フィルとの演奏はエネルギーを外に解放していくような熱気のある名演です。どちらが良いかは好みの問題でしょうね。クオリティの高さはセッション録音であるウィーンフィル盤が上と思います。
第1楽章の冒頭からウィーンフィルは白熱していて熱気が凄いです。ウィーン・フィルからここまでの白熱した響きを引き出せるのはC.クライバーだけです。アッチェランドして主部に入るとさらに白熱した演奏になり、力強く解放的なリズムをスリリングに刻んでいきます。リズム感も凄いですが、テンポの緩急のつけ方が上手く、ウィーンフィルを煽って熱気のある密度の高い響きを引き出しています。
第2楽章は少し遅めのテンポで、リズム感を保ちながら、ウィーン・フィルの弦セクションが自然な艶やかさでメロディを歌っていきます。流麗な中に淡い悲哀のある表現が味わい深いです。
第3楽章は速いテンポでスリリングです。こんなにスリリングな第3楽章は他の演奏では聴けませんし、スリリングなだけではなく舞曲としてしっかりした演奏です。中間部ではオーストリア的な味のある響きが聴けます。オーストリア人のC.クライバーはウィーン・フィルと同じリズム感を持っていると感じます。第4楽章もスリリングで、セッション録音とは思えない盛り上がりです。リズムがシャープで、響きの密度も濃く、ここまでやってくれると聴いていて爽快です。ラストはさらに畳み込みをかけてアッチェランドして熱狂的に曲を締めくくります。
グラモフォンのセッション録音で正規盤です。セッション録音でこれだけ白熱した演奏をできるのはさすがC.クライバーです。
カルロス・クライバー=バイエルン国立管弦楽団
カルロス・クライバーの白熱のライヴです。バイエルン国立管弦楽団はC.クライバーの実質的な手兵と言えるオケで、オペラの収録も含めて共演を続け、一番C.クライバーを知っているオケと言えます。またライヴ録音であるため、盛り上がり方が半端じゃないですね。音質は十分良く臨場感があります。
第1楽章のテンポは速めで充実したソナタ形式を聴かせてくれます。序奏は重厚ながらも解放的な響きです。主部に入るとドイツのオケらしいダイナミックさがあり、重厚で土台のしっかりしたアンサンブルとC.クライバーの速いテンポでとても凝縮された迫力を持っています。オスティナート・リズムをしっかり聴くことが出来ます。
第2楽章は流麗で感情表現も強く、オーストリア風の絶妙な味わいに溢れています。ウィーンフィルに比べると低音域がしっかりしており、スケールの大きさとダイナミックさを感じます。
第3楽章は速いテンポの力強いスケルツォになっています。トゥッティでのダイナミックさも重厚感があります。中間部は少しテンポを下げますが、低音域の充実ぶりは聴いていて気持ち良いです。第4楽章は非常に速いテンポでオケを煽って盛り上げます。低弦の効いた重厚さで、C.クライバーの速いテンポで演奏していて凄く密度が高い響きです。気心の知れた仲なので、煽られても崩れたりすることはありません。曲が進むにつれてどんどん盛り上がり、非常に白熱した密度の高いダイナミックさに到達します。このレヴェルのスリリングさは他の演奏では聴けません。ラストも凄いですね。
C.クライバーの場合、どのオーケストラでもほぼ同じスタイルの演奏ですが、筆者はバイエルン放送交響楽団の演奏が筋肉質で一番良い、と思います。ライヴの方が盛り上がりますしね。ウィーンフィルもアムステルダムコンセルトヘボウ管弦楽団もそれぞれに素晴らしい名盤です。
小澤征爾=サイトウキネンオーケストラ (1993年)
小澤征爾=サイトウキネンのコンビは、リズムの権化と呼ばれるこの曲を忠実に再現しています。集中力があり、エネルギッシュなこの演奏はクライバーの軽妙なリズムとはまた違って、執拗なリズムの繰り返しとそれが生み出す独特の感覚が特徴です。強烈なリズムを超えた先に何があるのかを聴かせてくれます。多分、上に貼ったYouTubeと同じか近い時期の演奏です。
第1楽章は序奏からテンポが速めで、ダイナミックですがスタイリッシュさも併せ持っています。そして主部に入ると強烈なリズムを刻みます。サイトウキネンの特に弦セクションはリズムを乱れずダイナミックに刻んでいます。小澤征爾はボストン交響楽団など、多くのオケとベト7を演奏していますが、ここまでリズムを強調しているものはありません。ボストン響がなぜそこまでストイックにリズムを刻むのか、理解できなかったのだと思います。サイトウキネン・オーケストラは師匠が同じだから小澤氏の考えが良く伝わりますし、一体感があります。
第2楽章は流れるようなスケールの大きな演奏です。第1楽章とは違い、縦のリズムより横の流れを重視して、第1楽章との対比を作っています。基本的にスタイリッシュですが味わいも感じられ、じっくり聴けるる名演です。最後はダイナミックに盛り上がります。
第3楽章は速いテンポでダイナミックです。第4楽章は速いテンポでリズムを強調しています。スリリングでダイナミックな演奏です。
この時期の小澤=サイトウキネン・オーケストラは一つの頂点にあり、ダイナミックでも透明感とスタイリッシュさをキープしています。非常にクオリティが高いです。そして、自分たちの音楽の理想に向かって、突き進んでいきそれを実現できています。この後、2002年の第九のような名演を生み出していきます。
カラヤン=ベルリン・フィル (1963年)
カラヤン=ベルリンフィルのベト7は1960年代の演奏が良いです。1970年代の演奏はレガートが目立つのですが、1960年代のベト7は重厚で強烈なリズムのダイナミックな名演です。このドイツ風な響きと言い、重厚なリズムと言い、ベト7のスタンダードといっても過言ではありません。
第1楽章は前奏からかなりダイナミックですが、主部に入ると強烈なリズムで「リズムの権化」と言われるベト7の醍醐味を十二分に味わえます。ベルリンフィルのダイナミックさもあって、スケールの大きな演奏です。第2楽章もダイナミックな所は変わらず、1970年代の録音とはだいぶ異なるスケールを感じる演奏です。メロディラインのレガートはありますが、それほど目立たず適度だと思います。やはりベト7はベートーヴェンとしては珍しくメロディラインが滑らかなので、メロディを歌うのは大事だと思います。第4楽章は速いテンポで、スリリングにリズムを詰めていきます。とてもマッシヴ(筋肉質)な迫力があります。途中の重低音など、この演奏でしか聴けそうにない響きです。最後に向かって盛り上がっていく所も非常に良いです。
スタンダードと書きましたが、別に個性が無いのではなく、この頃のカラヤン=ベルリンフィルは迷いがなく、正道をストレートに攻めていきます。
小澤征爾=サイトウキネンオーケストラ (2016年)
復活した小澤征爾=サイトウキネンのコンビは、全集に入っている1993年盤とはまた違う円熟した演奏を聴かせてくれました。
2016年のこのCDは、第1楽章の序奏からテンポが速めです。ダイナミックさだけでなく円熟が感じられる名演です。いままでスタイリッシュな演奏が多かったですが、この演奏は武骨さを感じさせます。リズムのエネルギーは前回の演奏のほうがダイナミックだと思いますが、今回も同じ路線上にあり、じっくりリズムを刻んでいます。リズムによる意味を感じること、響きに味わいがあることと、表現のヴォキャブラリーが増したことで充実感のある演奏になっています。第2楽章は表現の幅が広がり、武骨さがあり、自然で味わい豊かな演奏です。
小澤征爾のベートーヴェンというと名演もあったものの、どこか構えたような演奏が多かったのですが、このベト7は自然な演奏で、小澤征爾の生来の良さが良く出ていると思います。DVDも発売されていて、元気なマエストロの姿を見ることが出来ます。
ショルティ=シカゴ交響楽団
ショルティ=シカゴ交響楽団のベートーヴェンはいずれもクオリティが高いですが、第7番は特に凄い演奏だと思います。ショルティの指揮の元、シカゴ響は普段よりも機敏な演奏をしています。ショルティ自身の円熟もあってか、テンポはそこまで速くはせず、しっかりじっくり仕上げています。
第1楽章は遅めに始まり、主部に入ると速めのテンポになります。スケールの大きな力強い演奏です。充実した正確なアンサンブルとシカゴ響の強力で透明感のある響きに聴き入ってしまいます。第2楽章もシカゴ響の美しい弦で始まり、スケールのある音楽です。第3楽章、第4楽章はテンポも速くリズミカルです。ラストはダイナミックです。
ショルティ=シカゴ交響楽団の目指していた音楽が実現した名盤だと思います。全体的に響きがクールですが、充実度と完成度の高さが感じられて、惚れ惚れする位です。正攻法の名盤です。
ガーディナー=オルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティク
ジョン・エリオット・ガーディナーの古楽器オケでの演奏です。古楽器オケの中でも力強く、技術的にハイレヴェルなオルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティクの演奏です。ベートーヴェンの古楽器演奏の元祖であり、今でも定番として通用する名盤です。
第1楽章は前奏の入りで縦の線を揃えず、中音域当たりの楽器を先に出していますね。ちょっと聴き取れませんでしたが。マッシブなリズム感があります。主部はかなり速いテンポです。バロックティンパニの鋭い音が良いアクセントになっています。ホルンも号砲していますね。オケのテクニックは素晴らしく、速いテンポでもしっかり弾ききっていて、スリリングです。途中、色々な楽器の音が聴こえてきて、一音も無駄にしていない雰囲気で、非常に厚みがあり迫力があります。
第2楽章は打って変わって、遅いテンポの演奏です。音量を抑え過ぎず、弦も管もなめらかに歌わせています。メッサデヴォーチェを使って、表現しています。クールでもないですし、味わい深い演奏です。第3楽章は爆速です。メトロノームテンポでしょうか。リズムが強調されていてスリリングです。トリオもダイナミックです。リズムパートも時に前面に出てきて盛り上げてきます。第4楽章も爆速です。古楽器オケと言っても弦も管も非常にレヴェルが高いので、モダンオケよりもスリリングでダイナミックな演奏をしてきます。
全体的にこの全集の中では一番普通の演奏かな、と思います。第7番自体にそこまで革新的な要素が無いからかも知れません。少しテンポが速いこと以外は響きの充実した名演です。
バーンスタイン=ウィーン・フィル
バーンスタインとウィーンフィルのライヴ録音です。1980年度レコード・アカデミー大賞を受賞した2度目の全集です。バーンスタインとウィーンフィルという豪華な組み合わせの音楽を堪能できるCDです。
冒頭は遅めのテンポでゆったりと自然に演奏しています。ふくよかな響きはまさにウィーンフィルです。主部に入ると速めのテンポで快活に盛り上がります。バーンスタインらしい小気味良さがあり、軽快なリズム感が心地よいです。第2楽章は感情も入っていて、ウィーンフィルのふくよかな響きも聴ける味わい深い名演です。色々な表情が聴けて良いです。第3楽章、第4楽章はかなり速いテンポです。しかし、バーンスタインは自然体で小気味良く指揮していて、速めなテンポでも自然体です。デュナーミクをつけてダイナミックさを失いませんが、リラックスして盛り上がりを楽しめます。
バーンスタインは自然体で余裕のあるテンポで円熟を感じます。またウィーンフィルから良い音楽を引き出す方法を知っているようです。ベームのような頑固さがない自然体なので、ウィーンフィルも楽しんで演奏している雰囲気です。ウィーンフィルの響きや味わいを心行くまで堪能できるCDです。
クルレンツィス=ムジカエテルナ
クルレンツィス=ムジカエテルナのベト7です。優れたリズムへのセンスを持つクルレンツィスの指揮で、とても楽しめる演奏に仕上がっています。また2018年録音で音質も非常に良いです。アクセントを強調するいつものスタイルですが、ムジカエテルナがレヴェルアップしたように思います。いつもよりも多彩でしなやかな表現をしているし、オケとしての一体感も素晴らしいです。
序奏はティンパニの強打でダイナミックに始まり、既に速めのテンポです。主部に入るとダイナミックですがリズミカルで軽快な演奏です。小澤盤のようにストイックにリズムを強調する名演もありますが、クルレンツィスはラテン系な所があり、明るさがあって軽快な演奏になっています。リズムにも色々な演奏があるもので、クルレンツィスはリズムのボキャブラリーが豊富です。同じタータタ、タータタのリズムも指揮者によって違う、というのは有名ですけど、クルレンツィスは一人で色々なリズムを使い分けています。また裏拍を強調する箇所などは、新しい発見があったりして楽しいですね。
第2楽章はテンポ感を失わない程度に流麗に歌わせています。この楽章でも伴奏に3連符が出てきたりしますが、リズミカルに演奏しています。管楽器など朗々と歌っていますので、色々な要素が楽しめる演奏です。第3楽章は速いテンポでダイナミックです。トリオも速めで独特なリズム感で、レガート気味になったりします。第4楽章は、普通はダイナミックに一気果敢に演奏してしまいますが、クルレンツィスの手にかかると、色々なリズムを聴くことが出来ます。デュナーミクは独特ですが、表現のボキャブラリーの多さには感心します。
この演奏は本当の意味で「舞踏の聖化」ですね。ただダイナミックにリズムを刻むだけでは無く、これだけ色々な種類のリズムを聴かせてくれるのですから。他のCDでは絶対に聴けない、とても楽しめる名演です。
M.T.トーマス=サンフランシスコ交響楽団 (2011年)
- 名盤
- 知的
- 端正
- ダイナミック
- 高音質
おすすめ度:
指揮マイケル・ティルソン・トーマス
演奏サンフランシスコ交響楽団
2011年9月14日-17日,サンフランシスコ,デイヴィス・シンフォニー・ホール(ステレオ/デジタル/ライヴ)
M.T.トーマスとサンフランシスコ交響楽団の充実した演奏です。M.T.トーマスはサンフランシスコで伝統の演奏とは一線を画した演奏をしています。といっても、ピリオド奏法のような方向ではなく、モダンでスコアに忠実ですが自然に楽しんで聴ける演奏スタイルです。
第1楽章は、スタンダードなテンポ取りで、ダイナミックに演奏しています。リズムは強調し過ぎることは無く、しっかり刻んでいます。知的でクールなのですが、同時にベト7は自然体でリラックスして聴けます。というより不自然な作為は排除されています。第2楽章は、クオリティが高い透明感のある演奏です。感情的になりすぎることもありません。しかし、自然に音楽に浸れる演奏です。第3楽章、第4楽章は鋭いアクセントから始まりますが、テンポは少し余裕があり、あまり厳しさは感じられません。やはり自然美を感じる演奏ですね。もちろん音量はダイナミックな所はかなり出していますが、スケールの大きさが感じられ、煽ったりすることなく、自然に盛り上がっていきます。
クオリティの高い演奏ですが、それを聴き手に感じさせず、自然に曲に引き込まれるような感じです。M.T.トーマス=サンフランシスコ交響楽団はどんどんレヴェルアップしていきますね。
カラヤン=ベルリン・フィル (1970年代)
カラヤン、ベルリンフィルの油の乗った時期の1970年代の録音です。
第1楽章の最初から颯爽としていてダイナミックです。一方、木管がメロディを奏でる時は、軽妙なリズムで、やはりカラヤンはオーストリアの指揮者だな、と感じます。基本的に硬派な演奏だと思いますが、たまに木管などが若干わざとらしい表現をしていたりして、好みが分かれる所かも知れません。第2楽章は、最初の弱音のところから、ベルリンフィルの弦が非常にきれいに弾いています。この時期のベルリンフィルのレガートは素晴らしいです。木管の歌謡的な歌いまわしも楽しめます。この楽章に限らず、しなやかさがあります。第4楽章はとてもスピーディでスリリングです。後半はテンポを巻いてきて、スリリングです。最後は凄い迫力で圧倒されます。
全体的に磨き抜かれた艶のある響きと、オケのレヴェルの高さは素晴らしいです。良い意味でも悪い意味でもカラヤンらしい完成度の高い演奏ですね。しなやかさを重視した演奏です。
サラステ=ケルンWDR交響楽団 (2018年)
サラステはフィンランド人ですが、最近知名度が下がっているかも知れません。しかし、奇を衒わずしっかりした演奏をする指揮者で、この交響曲第7番は正攻法の素晴らしい演奏です。2018年録音で新しく、音質は非常に良いです。
第1楽章は序奏は少しテンポが速めで始まります。ケルン放送交響楽団の響きもドイツらしくいいですね。主部は小気味良いテンポでダイナミックですが、他の演奏と比べると過度な迫力はなく、しっかり手堅く演奏しています。その上、とても自然体な演奏です。第2楽章は、中庸のテンポでまさに正攻法です。緩徐楽章だからといって情緒に流れることは無く、レガートを強調することもなく、リズム感を維持し、とても真摯な演奏です。第3楽章は軽快なリズムで楽しめます。ケルン放送交響楽団なのでドイツ的な土台のしっかりしたアンサンブルです。第4楽章は速めですが、極端な表現はなく、正攻法な演奏です。
ケレン味がなく、ここまで正攻法のベト7は、意外に少ないと思います。それでも何度聴いても飽きのこない名演です。このベト7は全集に入っているのですが、他の番号も真摯で良い演奏が多いです。これだけ新しく、質の高い全集は少ないと思います。
ラトル=ウィーン・フィル
リズムに特徴のある交響曲ということで、ベートーヴェンのリズム革命を起こしたラトル=ウィーン・フィル取り上げない訳にはいかないでしょう。
第1楽章からシャープさのあるスフォルツァンドです。前奏は普通にゆっくりしたテンポですね。主部に入るとリズミカルになります。ただ小澤盤ほどリズムを強調してはいないです。むしろ、控えめで品格を感じます。ウィーン・フィルとしては、リズムを強調した演奏かも知れませんが、C.クライバーの方が熱いリズムを刻んでいます。細かい所でデュナーミク(強弱)はなかなか繊細に処理されていて楽しめます。
第2楽章も奇を衒ったところは無く、普通に楽しめます。ウィーン・フィルの音色が活かされていて、なかなか良い演奏です。第4楽章は意外にそこまで速めではなく、細かい所が丁寧に演奏されています。もちろん、ダイナミックさもあって、聴いていて満足感の高い演奏です。
全体的には、第7番はあまり新味はないかなと思いました。第2番や第5番のような新鮮なリズムの処理というのはあまり感じられません。しかし、普通の演奏として十分ハイレヴェルで楽しめる名演です。
ロヴロ・フォン・マタチッチ=NHK交響楽団 (1984年)
マタチッチはベト7を得意としており、NHK交響楽団も当時の日本のオケとは思えない位、素晴らしい演奏です。マタチッチ=N響の伝説の名盤の一つです。マタチッチが指揮した時のN響の気合いと、凝集された音楽は今のN響では聴けなくなってしまったものです。筋肉質なサウンドはヨーロッパの他のオケでも出せないものだと思います。
第1楽章の序奏から速めのテンポで力強く推進していきます。主部に入ると弦セクションはもちろんホルンが号砲してとてもダイナミックです。展開部も重厚な響きで力強く、共感に満ちています。再現部以降は弦セクションの厚みもあって、元々ダイナミックですがさらに熱くなっていきます。極限まで熱く盛り上がって終わります。第2楽章は速めのテンポで朴訥(ぼくとつ)とした雰囲気ではじまります。あくまで滑らかなレガートというのは少なめです。弦の音色がいいですね。初めて共演した時、マタチッチはN響の響き魅了されたそうなのですが、確かにN響サウンドというのはずっと昔からあるんです。どちらかというとオーストリアの田舎風の音楽で味わいがあります。あくまでアレグレットで、ほぼ一定のテンポで演奏しきっていて、曲の構成を把握しやすい演奏です。第4楽章は速めのテンポでマッシヴ(筋肉質)です。強烈なリズムを刻んでダイナミックに盛り上がります。後半、さらに盛り上がってきて、重厚な弦楽器群、豪放なトランペットらの金管楽器が思い切り、鳴らし切っています。
最後は盛大なブラヴォーコールです。録音も改善されているのかライヴとしては良いと思います。DVDもあります。
ロヴロ・フォン・マタチッチ=NHK交響楽団
マーク=パドバ・ベネト管弦楽団
ペーター・マークは、昔、よく東京都交響楽団に客演していましたが、ヨーロッパではレヴェルの高い全集を録音していたのですね。この演奏は大穴でした。ペーター・マークはあまり力むことなく自然体で、それでいて真面目で力強い演奏になっています。パドバ・ベネト管弦楽団は、イタリアのオーケストラなのですが非常に好演していて、マークの指揮についていっています。
真面目な演奏なのですが、ただ楽譜通りに指揮しただけ、という訳でもありません。随所に軽妙な表現が入っていて、スコアの読みが深いです。テンポは速めですが、カルロス・クライバーほどではなく、自然なテンポ取りだと思います。第2楽章も真面目に拍を刻んでいきますが、ケレン味が全く感じられない演奏で、とても味わいがあります。スコアの読み込みが深く意外と完璧主義なので、細かいニュアンスが色々ついていて楽しめます。第3楽章、第4楽章もダイナミックでイタリアのオケとは思えない重厚さも感じられます。リズムもしっかり刻んできます。
この全集はじっくりと聴いてみる必要があると思いました。
クレツキ=チェコ・フィル
- 名盤
おすすめ度:
指揮:パウル・クレツキ、チェコ・フィルハーモニー
Beethoven: Symphonies
4.9/5.0レビュー数:19個
Beethoven: Symphonies:(MP3|アマゾンUnlimited)
4.9/5.0レビュー数:19個
クレツキは、作曲家としての視点も通して、厳しい演奏をしています。スコアを知り尽くしている感じです。でも極端に何かをするわけではなく、慎重に考え抜かれた演奏という感じです。そのクレツキのベートーヴェン全集の中でも特に優れた名演が交響曲第7番です。
前奏からアレグロに入ると、テンポは普通ですが、リズムをシャープにガッシリ刻んでいて迫力があります。長調の曲で暗い所は少ないのですが、それでも短調の所ではかなり感情を入れてきます。とても味わい深い演奏です。
第2楽章はとても神妙に始まります。チェコ・フィルの味わい深い弦楽セクションの響きが味わえます。過度にロマンティックにならず、クールさのある演奏ですが、同時に深みも感じます。第3楽章は重厚感があり、チェコ・フィルの響きも素晴らしいです。第4楽章も比較的落ち着いたテンポで進みます。重厚感や迫力はありますが、どこかクールです。
全体的に他の演奏と異なるので、気づかされる点も多いですが、迫力や情熱はかなりありますけど、楽しくて明るい演奏ではないですね。ベートーヴェンを知り尽くして本質に迫ろうとした名盤だと思います。
全集で買ってもコストパフォーマンスの高いCDです。
アントニーニ=バーゼル室内管弦楽団
アントニーニはバロックアンサンブルで活躍していた指揮者でしたが、近年モダン・オーケストラの指揮台にも立つようになりました。そして、バーゼル室内管弦楽団とこのベートーヴェン全集を録音しました。
第1楽章の序奏から結構アグレッシブに始まります。木管の響きが良いです。スフォルツァンドがシャープに入っています。主部に入るとかなり速いテンポです。スピード感としっかりリズムを刻む所と両方あり、明るく楽しめる演奏です。木管がきれいに入っていますが、編成が小さいからでしょうね。
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演奏の映像(DVD,Blue-Ray)
ベト7の映像は多くリリースされていますが、C.クライバーとアムステルダム・コンセルトヘボウ管の映像が素晴らしいです。
カルロス・クライバー=アムステルダム・コンセルトヘボウ管
カルロス・クライバーは、アムステルダムコンセルトヘボウ管弦楽団と映像を残しています。カルロス・クライバーの神業のようなスリリングなオーケストラ・コントロール能力がよく分かります。踊っているように見えたり、裏拍を振っていたりと変幻自在です。その指揮はちゃんと音に反映されていて、C.クライバーにしか出せない軽妙な響きを引き出しています。映像で見てこんなに面白い指揮者は居ないですね。
第4楽章はギリギリのテンポですが、ファゴットがギリギリ演奏しきっています。コンセルトヘボウの雰囲気も良く、とてもスリリングで楽しめます。
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スコア
それでは、ベートーヴェン作曲交響曲第7番の楽譜・スコアを挙げていきます。
ミニチュアスコア
No.139 ベートーヴェン/交響曲第7番 (Kleine Partitur)
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