ガイーヌ (ハチャトゥリアン)

アラム・ハチャトゥリアン (Aram Khachaturian,1903-1978)作曲のバレエ『ガイーヌ』(ガヤネー)について、解説おすすめの名盤レビューをしていきます。最後に楽譜・スコアも挙げてあります。

バレエ『ガイーヌ』(ガヤネー)は、1942年に作曲、初演されました。

ハチャトゥリアンの作品で断トツで有名です。「剣の舞」「レズギンカ」その他、キャッチーで親しみやすいメロディの曲が続きます。ハチャトゥリアンの代表作といえばバレエ「スパルタクス」でしょうけれど、有名度は「ガイーヌ」の方がずっと上ですね。

「剣の舞」スヴェトラーノフ=ロシア国立管弦楽団

解説

ハチャトゥリアンバレエ『ガイーヌ』について解説します。

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初演は1942年12月9日にロシアのペルミで、キーロフ・バレエ(現:マリインスキー劇場バレエ)により行われました。その後、改訂が行われ曲目の追加なども行われます。ボリショイ劇場版ではかなり曲数が増えており、ストーリーも変わっています。

グルジアの舞曲

主にハチャトゥリアンの出身地グルジア(ジョージアと改名)の舞曲が沢山取り入れられています。ちなみに当時のソビエト指導者はスターリンで、この人もグルジア出身です。そのため、ソビエト当局からは非常に好評でした。

伝説の「レズギンカ」フェドセーエフ=モスクワ放送交響楽団

ところで、グルジア(ジョージア)の場所ですが、以下になります。意外に南のほうで、ウクライナ(小ロシア)より南。昔、トルコ系騎馬民族が多くいました。現在は、さまざまな民族が入り混じっていて、混血も多く美女が多い地方として有名ですね。さながら民族の交差点です。

コルホーズの日常

筋書きは大したものはありません。上演の度に変わるくらいです。もちろん、ヒロインの「ガイーヌ」は変わらないですが、コルホーズ(旧ソ連の集団農場)の豊かな生活を描いている、言ってみれば典型的なプロパガンダの作品なので、普段の豊かな生活が描かれていれば良いのです。それをベースにちょっとした事件が起きたりして、それがシナリオになっています。

おすすめの名盤レビュー

ハチャトゥリアン作曲のバレエ『ガイーヌ』について、まずは全曲盤がいくつか出ていますので、レビューしていきます。

カヒッゼ=モスクワ放送交響楽団 (全曲:ボリショイ劇場版)

ダイナミックでハイレヴェルな全曲盤の決定盤!

カヒッゼの全曲盤は昔から定番として君臨しています。ヤンスク・ガヒッゼはハチャトゥリアンと同じグルジア出身の指揮者です。全曲には色々なバージョンがありますが、ボリショイ劇場版が一番ドラマティックで筋書きがしっかりしています。音楽も素晴らしく、例えば「嵐」の音楽もさすがハチャトゥリアンで、他の曲では聴けないようなダイナミックでドラマティックな音楽を展開しています。そしてその勢いで最後まで続きます。

モスクワ放送交響楽団も実力を最大限発揮して、ダイナミックでスケールの大きな演奏を繰り広げています。レズギンカなど録音もあるかも知れませんが、ダイナミックでハイテクニックで非常に楽しめます。そういえば、フェドセーエフと来日した時にも凄い演奏を繰り広げていましたね。こんな凄い演奏が2時間ずっと続くのです。ガイーヌでは絶対外せない名盤です。

再発売を期待したいですが、現在廃盤で新品は入手困難です。中古で状態の良いものがあれば、法外な値段でなければ、入手をお薦めします。

チェクナボリアン=ナショナル・フィル (全曲盤:原典版)

チェクナボリアンの民族的な熱演
  • 名盤
  • 民族的
  • ダイナミック

超おすすめ:

指揮ロリス・チェクナボリアン
演奏ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団

1976年10月25日,27日,ロンドン,ウェスト・ハム・セントラル・ミッション (ステレオ/アナログ/セッション)

チェクナボリアンとナショナル・フィルの演奏による原典版の全曲版です。チェグナボリアン盤ずっと前から名盤として人気があります。原典版の全曲版は、ボリショイ版より少し短めですが、ストーリーをカットしたのではなく、全然別のストーリーなんです。というより、ガイーヌの場合、上演するたびに曲目の構成が違うような気もするので、全曲の場合、どのバージョンを選ぶかも演奏家にとって大事ですね。

演奏は民族的でダイナミックなところが良いです。チェグナボリアンはアルメニア人なのでお国物です。オケのパワーはさすがにカヒッゼ盤には敵いませんが、相手が悪いですね。ナショナル・フィルは技術的なクオリティが高く、十分ダイナミックな演奏をしています。録音もカヒッゼ盤より良好です。

ゴルコヴェンコ=サンクトペテルブルグ放送響 (全曲:ボリショイ劇場版)

少し音が硬いがダイナミックな名演
  • 名盤
  • 民族的
  • ダイナミック

おすすめ度:

指揮スタニスラフ・ゴルコヴェンコ
演奏サンクトペテルブルク放送交響楽団

1997年9月,サンクトペテルブルク放送局大スタジオ (ステレオ/デジタル/セッション)

指揮者のスタニスラフ・ゴルコヴェンコアゼルバイジャンバクー出身で、ハチャトゥリアンの出身国グルジアにも近い国です。オケはあまり聴いたことがありませんが悪い演奏ではありません。でもモスクワ放送交響楽団と比べてしまうと、さすがに分が悪いですね。全体的に頑張り過ぎというのか、音が固い気がします。

ガヒッゼ=モスクワ放送交響楽団より多少入手しやすいので、同じボリショイ版ということもありますし、演奏も決してレベルが低いわけでは無いので、こちらが入手できればコルヴェンコでも十分楽しめると思います。新しい分、音質はコルヴェンコ盤のほうが良いです。

コルヴェンコ盤より、これでも十分迫力ありますね。

組曲「ガイーヌ」の名盤レビュー

ハチャトゥリアン作曲『ガイーヌ』の組曲版をレビューしていきます。

ハチャトゥリアン=ウィーン・フィル

ハチャトゥリアン自作自演、ウィーン・フィルから民族的な音楽を引き出す
  • 名盤
  • 定番
  • 民族的
  • ダイナミック

超おすすめ:

指揮アラム・ハチャトゥリアン
演奏ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

1962年3月8-11日,ウィーン,ゾフィエンザール (ステレオ/アナログ/セッション)

ハチャトゥリアンの自作自演です。ハチャトゥリアンは指揮が上手く、特に自作の演奏を多く残しています。非常に民族色豊かでテンポは速すぎもせず、遅すぎでもなく、バランスの取れた演奏です。ウィーン・フィルから本当に民族的でエキゾチックな響きを引き出していて驚きです。とてもダイナミックですし、味わい深い曲はじっくり芳醇な演奏で楽しめます。他のオケとの自作自演もありますが、ウィーン・フィルが一番良いですね。ガイーヌの組曲を聴くなら、まずは自作自演をおすすめします。

アニハーノフ=サンクト・ペテルスブルク国立響 (第1組曲~第3組曲)

バレエ指揮者アニハーノフによる貴重な組曲録音
  • 名盤
  • 民族的
  • スケール感

おすすめ度:

指揮アンドレ・アニハーノフ
演奏サンクト・ペテルスブルク国立交響楽団

ガイーヌには第1組曲、第2組曲、第3組曲の3つの組曲があります。アニハーノフ=サンクト・ペテルブルグ交響楽団は組曲を全て録音しました。スコアの欄を見ていただけると、ちゃんと3つの組曲のスコアがあります。ただ、この組曲を全部演奏するなら、全曲の原典版と同じくらいの曲の数があるので、全曲盤のほうがいいような気もします。ナクソスなので、あえて組曲をきちんと録音したのだと思います。

演奏はバレエ指揮者のアニハーノフと名門サンクト・ペテルブルグ交響楽団ですから演奏レヴェルは高く、ダイナミックで民族的な名演を繰り広げています。スケールが大きく、ダイナミックな演奏です。録音は古くなく、残響が長いですが綺麗に録音されて聴き易いです。

テミルカーノフ=ロイヤル・フィル

強烈なリズム感!ロシアの土の香りのする名演
  • 名盤
  • 情熱的
  • センス良い
  • 色彩的
  • スリリング

おすすめ度:

指揮ユーリ・テミルカーノフ
演奏ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

1983年 (ステレオ/デジタル/セッション)

テミルカーノフは現在、一流のサンクトペテルブルグ・フィルハーモニーの指揮者です。出身はコーカサス地方でハチャトゥリアンとも近い地域です。ですので、民族的な音楽も得意としています。ただ、他の指揮者と違い、独特のセンスの良さがあって、色彩感とかテンポ感が独特で民族的でありながら、スタイリッシュでもあるんです。ロイヤル・フィルは色彩的ながら、ロシアのオケと違って迫力が少ないオーケストラですが、テミルカーノフの個性は良く発揮されていて、自作自演や他の演奏とは全く違う面白さを表現しています。

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おすすめDVD

バレエのDVDが出ています。ただ、ラトビア・バレエの上演は今一つのように思います。そのオマケとしてハチャトゥリアン指揮ボリショイバレエの映像が入っていて、こちらがハイレヴェルです。

ハチャトゥリアン=ボリショイ劇場管弦楽団

  • 歴史的名盤
  • ダイナミック

指揮アラム・ハチャトゥリアン
演奏ボリショイ劇場管弦楽団

1964年 (モノクロ/ライヴ)

このディスクは、ラトビア・バレエの上演が収録されています。こちらがメインなのですが、オマケとして、白黒ですが一幕分くらいハチャトゥリアンの自作自演の映像が入っていて、見どころはこちらです。おそらく全曲上演ではなく、デヴィルティスマンだと思いますが★6つです。

白黒なので分かりにくいですが、大きな劇場のゴージャスな舞台で、ハチャトゥリアンの指揮のもと、ボリショイ劇場のオーケストラがダイナミックな演奏を繰り広げます。ダンスのレベルと言い、キレと言い文句のつけようがない名舞台です。これで初めて「レズギンカ」の振付を観ました。激しい音楽ですが、情熱を秘めたダンスは素晴らしいですね。「剣の舞」も本物のオリジナル振付です。二刀流の戦士たちの間に、女性が舞います。ダンスのレベルは高いです。

非常に大きな劇場(=ボリショイ劇場)なので、踊り手は舞台の上手から登場しますが、真ん中に来るまで繰り返すのですね。マリインスキー劇場のような小さい劇場だったら、1回しか繰り返さなくても十分そうです。そうやって臨機応変に演奏していくのがガイーヌなんですね。

ボリショイ・バレエ団

  • 名盤
  • 定番

上演ボリショイ・バレエ団

1963年7月,BBCテレビジョン・センター (ステレオ/アナログ)

こちらのディスクにも『ガイーヌ』の抜粋が収録されています。1963年なのでモノクロと思いますが、BBCで収録されているので、西側の録画であり、きちんと編集してあると思います。

ガイーヌ・バレエ全曲

さて、ガイーヌ全曲をちゃんとした振付で観てみたい、という人向けにYouTubeで動画を発見しました!ここには埋め込めない、とのことでYouTubeへのリンクを貼っておきます。

(369) Gayanee: ballet arménien d’Aram Katchatourian – YouTube

観てみるとマリインスキー劇場の新しい上演です。嵐の場面が中ほどに入っている(1:26)ので原典版でしょうか。説明が無いとわからないですね。演奏の方は普段ゲルギエフが振っているマリインスキー劇場管弦楽団のはずですが、縦の線があまり揃っていません…しかし、後半に行くにつれ良くなっていき、嵐のシーンでかなりの迫力です。ダンスのレヴェルはとても高く上のDVDのラトビア・バレエ団とは比べられないレヴェルの高さです。振付もオリジナルに近そうです。「タンバリンを持った少女たちの踊り」はハチャトゥリアンの自作自演映像と同じです。また、レズギンカも基本的には同じように見えます(多少変わっているが)。ダンスの方はエネルギーがもう一つで、ハチャトゥリアンの自作自演映像のダンスが如何にレヴェルが高いかわかります。ラストの剣の舞では、二刀流でオリジナルの振付をベースにしていますが、ニュアンスが違いますね。

これだけのクオリティがあれば、一応「ガイーヌを観た」と言えそうです。解説付きでBlueRayで発売して欲しいですね。

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楽譜・スコア

ハチャトゥリアン作曲のバレエ『ガイーヌ』の楽譜・スコアを挙げていきます。

ミニチュアスコアとIMSLPどっちが得?

ミニチュア・スコア

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