イタリア奇想曲 (チャイコフスキー)

ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー (Peter Ilyich Tchaikovsky,1840-1893)作曲のイタリア奇想曲 作品45 (capriccio italien Op.45)について、解説おすすめの名盤レビューをしていきます。

解説

チャイコフスキーイタリア奇想曲について解説します。

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イタリア旅行で作曲を始める

チャイコフスキーは弟子のミリューコヴァと結婚しましたが、わずか3か月で離婚してしまいました。その心の傷をいやすため、1879年に弟のモデストと共にイタリア旅行に出かけました。

イタリアの地で、チャイコフスキーは明るいイタリアの風土・文化に魅了され、その感激が冷めないうちに、イタリア旅行の最中に管弦楽曲を作曲することにします。イタリアでチャイコフスキー自身の耳で聞いた民謡の旋律をスケッチし、作曲を開始しますが、完成したのはロシアに帰国して半年程度の1880年夏でした。そして、1880年12月には初演が行われ、好評を博しました

金管楽器が大活躍

イタリア奇想曲の面白さは、トランペットなど金管楽器が活躍するところにあります。ですので、吹奏楽でも有名ですね。ファンファーレから始まり、最後も盛り上がってダイナミックに終わります。しかし、弦楽器も少し憂鬱さを感じさせるイタリア民謡風の主題で演奏したり、リズミカルな個所でもなかなか細かい音符で楽しませてくれます。オーケストレーションはダイナミックで明るく、確かにイタリアを感じさせる管弦楽曲になっています。

フェドセーエフ=モスクワ放送交響楽団
独特なテンポ取りですね。6分30秒あたりからが良いです。

曲の構成

イタリア奇想曲演奏時間は15分程度で、5つの部分から成り立っています。と言っても組曲のように明確に違う曲から成り立っているわけでは無く、大きな形式の中で5つに分けられる、という程度と思います。大きな枠組みとしては3部形式で、第1部が長く、第3部が中間部的の位置づけで、第4部以降は第1部、第2部の再現という所でしょうか。15分程度の曲としてはとても多くの素材が使われていますね。

第1部:アンダンテ・ウン・ポーコ・ルバート

6/8拍子、イ長調で、トランペットとコルネットによるファンファーレから始まります。チャイコフスキーがローマで聴いた騎兵隊のトランペットを元にしたものです。次に、弦セクションが憂鬱なメロディを奏でます。この部分はロシア的で、葬送音楽の雰囲気を持っています。

さらにイタリア民謡「美しい娘さん」の優美な旋律が現れます。多分以下のYouTubeだと思いますが、凄い時代ですね。木管の流れるような旋律から始まり、軽快なトランペット、弦の装飾を伴う優美な旋律など、段々と変奏されていきます。弦の細かいパッセージが力強く演奏され、スリリングなクライマックスを築きます。民謡を引用したわけですが、それがここまでダイナミックに盛り上がるのは何かあるんでしょうかね。

イタリア民謡「美しい娘さん」(Bella ragazza dalle trecce bionde)

第2部:アレグロ・モデラート

突然に爽快でリズミカルな4拍子になります。トランペットのソロが印象的です。変奏されながら多くの楽器に受け継がれていきます。そして、第1部の弦の憂鬱なメロディが戻ってきます。

第3部:プレスト

イタリアの舞曲であるタランテラが用いた激しい舞曲が始まります。その後、様々な楽器に受け渡されます。メンデルスゾーンの交響曲第4番『イタリア』の第4楽章もタランテラですが、典型的なイタリア的な雰囲気を持った激しい舞曲です。

第4部:アレグロ・モデラート

第1部イタリア民謡「美しい娘さん」の旋律がダイナミックに再現されます。

第5部:プレスト~ピウ・プレストプレスティッシモ

再びタランテラが現れます。曲を振り返る様に次々にモチーフが演奏され、曲の終わりに向かっていきます。ラストは熱狂的に盛り上がり、曲を締めます。

編成

フルート×3(ピッコロ持ち替え)、オーボエ×2、コーラングレ、クラリネット×2、ファゴット×2
ホルン×4、コルネット×2、トランペット×2、トロンボーン×3、テューバ
ティンパニ、バスドラム、シンバル、トライアングル、タンブリン、グロッケンシュピール、ハープ
弦五部

おすすめの名盤レビュー

チャイコフスキー作曲の『イタリア奇想曲』のおすすめの名盤をレビューしていきます。

バレンボイム=シカゴ交響楽団

スケール大きくシカゴ響を鳴らし切った名盤
  • 名盤
  • 定番
  • スリリング
  • スケール
  • ダイナミック
  • 高音質

超おすすめ:

指揮ダニエル・バレンボイム
演奏シカゴ交響楽団

1981年3月,シカゴ

バレンボイム=シカゴ交響楽団は、かなりのダイナミックさです。カラヤンあたりに期待していたスケールの大きいダイナミックな演奏です。カラヤンが不調なので、代わりと言ってはお釣りが来ますが、バレンボイムとシカゴ交響楽団の演奏は凄いです。

バレンボイムは少し遅めのテンポでしょうか。ドイツ的な音楽づくりだと思います。冒頭のファンファーレのトランペットはハーセスだと思いますが、パワフルで安定した演奏です。しかし、リズミカルなところも上手く処理していて、緊張感を保っています。弦楽器の細かいパッセージは少し管楽器に隠れてしまっています。まあ弦楽器も分厚いサウンドでバレンボイムの指揮に十二分に応えています。

スケールの大きな個所では、他の演奏の追随を許さないものがありますね。最後はシカゴ響を爆発的にならして、気分よく終わります。バレンボイムシカゴ交響楽団ショルティと違って、思い切り鳴らし切っているので、ちょっと鳴らしすぎ?と思いつつも気分よく聴ける爆演になっています。

フェドセーエフ=モスクワ放送交響楽団

フェドセーエフで無ければ出来ない超スリリングな名盤!
  • 名盤
  • スリリング
  • ダイナミック
  • ロシア風

超おすすめ:

指揮ウラジミール・フェドセーエフ
演奏モスクワ放送交響楽団

1987年 (ステレオ/デジタル/スタジオ)

フェドセーエフとモスクワ放送交響楽団の録音です。イタリア奇想曲の演奏の中でも、最もスリリングな演奏です。フェドセーエフならではのリズム感とテンポ取りが素晴らしいです。

金管楽器も良く鳴っていて、トランペットはかなり上手いです。冒頭は少し速めで、この段階でリズミカルで白熱しています。弦の嘆きのようなメロディは、ビロードのようなモスクワ放送響の弦の響きでじっくり味わい深く聴かせてくれます。盛り上がってくるとテンポを速めスリリングな演奏になります。一旦静かになり、リズミカルな部分に入ると木管から徐々に盛り上がってきます。トランペットが入り、弦がメロディを弾き始めるころには大分リズミカルになってきます。ダイナミックになり、弦の細かいパッセージは最後までしっかり譜面通りに弾き切ります。この辺りは凄くスリリングです。その後、トランペットの有名なソロもキレの良い名演です。ラストのダイナミックさとキレのいいテンポ取りはスリリングすぎて圧倒されてしまいます。

弦楽器も細かいアンサンブルをしっかり仕上げていて、とてもスリリングな演奏に仕上がっています。こんな爽快な演奏は他にどこを探してもないでしょうね

小澤征爾=ベルリン・フィル

ベルリンフィルを鳴らし切った爽快な名盤
  • 名盤
  • スケール感
  • ダイナミック
  • 高音質

超おすすめ:

指揮小澤征爾
演奏ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

1988年5月,ベルリン(ステレオ/デジタル/セッション)

小澤征爾=ベルリンフィルチャイコフスキー交響曲のほうは、ちょっとベルリンフィルをガンガン鳴らし過ぎたようです。カラヤン直後のベルリンフィルはそれだけ凄かったのですね。ちょっと、まとめ方に困っているような感じも受けます。小澤征爾も「カルミナ・ブラーナ」などでは名演奏を残しています。

さて「イタリア奇想曲」はどうか、というと、これは鳴らしすぎなところが良い方向に出たようです。バレンボイムと双璧ですね。オケはやはりベルリンフィルのほうが華やかな感じで、スケールの大きな「イタリア奇想曲」を聴きたい人にはお薦めです。最後のテンポも良いし、とてもスリリングです。

バーンスタイン=イスラエル・フィル

  • 名盤
  • 定番
  • ダイナミック

おすすめ度:

指揮レナード・バーンスタイン
演奏イスラエル・フィルハーモニー

バーンスタインの指揮は非常に軽快でリズミカルであり、イタリアの旋律によく合っています。イスラエルフィルは少し土臭い民族的なサウンドでバーンスタインのリズミカルな音楽についていっています。結果として、明るいイタリア風でかつ民族的な味もある魅力的な演奏になっています。歯切れのよいテンポ取りなど、フェドセーエフに似ていると思うのですが、フェドセーエフはユニークでバーンスタインだと定番という扱いなのですね、笑。

またイスラエル・フィルは弦楽器の優秀さで有名ですが、細かいパッセージも難なくこなしています。管楽器も十二分に実力を発揮しているし、録音も良いので、この曲の定番として十分通用すると思います。

バーンスタイン=ニューヨーク・フィル (1958年)

  • 名盤
  • スケール
  • ダイナミック

おすすめ度:

指揮レナード・バーンスタイン
演奏ニューヨーク・フィルハーモニック

1958年

バーンスタインはニューヨーク・フィルと沢山の録音を残しています。『イタリア奇想曲』1回目の録音もニューヨーク・フィルと1958年に録音しています。とはいえ、イスラエルフィルとの2回目の録音がさらに素晴らしいので、このCDはバーンスタイン・ファン向けですね。

ニューヨーク・フィルは良い意味で重厚ですが、指揮者を選ぶオケです。バーンスタインは当時アメリカ人として、ニューヨーク・フィルからこれだけ軽快なサウンドを引き出していたのですから、驚きです。やはり古めの録音、という感じもあるし、表現も粘りが強すぎる所がありますが、ニューヨークフィルからこれだけの軽快さとダイナミックさを軽々と引き出し、バーンスタイン流の演奏にしてしまう所が凄いです。

カラヤン=ベルリン・フィル

情熱的で熱い演奏だが、リズムが弱め
  • 名盤
  • 定番

おすすめ度:

指揮ヘルベルト・フォン・カラヤン
演奏ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

(ステレオ/デジタル/セッション)

期待して聴いたのですが、どうもカラヤンはイタリア奇想曲は得意ではないようです。まず、テンポが遅すぎて、イタリア奇想曲の楽しさ・明るさがありません。ベルリン・フィルなので金管楽器にも期待しましたが、場所によっては良く鳴り響いていますが、全体的にリズミカルな部分が遅めでかなり物足りないです。

ちなみに、このカラヤンの管弦楽曲集は「ロミオとジュリエット」が名演奏だと思います。大序曲1812年も悪くないです。(最初の合唱がいまいちというレビューが多いですが。)教会の讃美歌を入れるのはとても良いアイデアで雰囲気が良く出ていますし、最後の大砲の轟音も良いです。イタリア奇想曲が合わなかっただけだと思います。

ゲルギエフ=マリインスキー劇場管

適度にロシア的なリズムとダイナミックさで小気味良く聴かせてくれる名盤
  • 名盤
  • 定番
  • ロシア風
  • ダイナミック

超おすすめ:

指揮ワレリー・ゲルギエフ
演奏マリインスキー劇場管弦楽団

1993年 (ステレオ/デジタル/セッション)

ゲルギエフとマリインスキー劇場管弦楽団の録音です。冒頭のトランペットもしっかりしたファンファーレです。弦のゆっくりした憂鬱なメロディではゲルギエフはとても絶妙な表現で聴かせてくれます。マリインスキー劇場管の弦セクションは民族的な響きを持っていて味があります。テンポは速めで、弦のアンサンブルは正確で、細かい音階もキチっと合わせています。ロシアの演奏家らしく、フェドセーエフ盤まではいきませんが、メリハリのあるリズムで楽しく聴けます。

バランス良くロシアのオケでイタリアの熱気のあるリズムを感じさせる名盤です。

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楽譜・スコア

チャイコフスキー作曲のイタリア奇想曲の楽譜・スコアを挙げていきます。

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