ジャン・シベリウス (Jean Sibelius, 1865~1957)の交響曲第1番 ホ短調 作品43について、解説と、おすすめの名盤をレビューしていきます。
シベリウス交響曲第1番は、その後のシベリウスの交響曲と比べると大分雰囲気が異なり、派手で力強く華やかです。特に最後のフィナーレは、他の交響曲にもありますが、第1番は華麗な音楽になっています。他の楽章もオーケストレーションなど色彩的です。アマチュア・オーケストラに人気のある曲で、良く演奏されます。
解説
シベリウス作曲の交響曲第1番について解説します。
交響詩の作曲家
シベリウスは交響曲第1番を作曲する前に、既に多くの交響詩を作曲いました。『フィンランディア』『トゥオネラの白鳥』などの名曲は既に作曲されていました。さらに独唱と合唱を伴う『クレルヴォ交響曲』を1891年~1892年に作曲しています。
交響曲作曲への転機
しかし、シベリウスは1898年3月にベルリオーズ『幻想交響曲』を聴き、感銘を受けます。その影響は大きくシベリウスは1898年4月には交響曲第1番の作曲に着手しました。そしてフィンランド国内を移動しながら作曲し、1900年に完成させました。
初演は1899年4月26日にヘルシンキにてシベリウス自身の指揮により行われました。出版は1902年にブライトコプフ・ウント・ヘルテルから行われています。
曲の構成
シベリウスの交響曲第1番は、シベリウス初めての交響曲とは言え、既に交響詩やクレルヴォ交響曲を作曲していました。また、ベルリオーズの影響もチャイコフスキー、ボロディン、ブルックナーと多くのロマン派の作曲家の交響曲を参考にしています。
中でもロシアの作曲家が多いのは、フィンランド人として本格的な交響曲を作曲した最初の作曲家だったからだと思います。ベルリオーズの幻想交響曲の影響が強かった割に、編成は2管編成で、パーカッションの種類が多めではありますが、特別大きな編成ではありません。この辺りはチャイコフスキーやボロディンなど、ロシアの民族的な交響曲を参考にしたからだと考えられます。その結果、華麗で色彩的な交響曲となりました。
一方、フィンランドの自然を思わせるモチーフも随所に見られ、交響曲第2番以降の路線も含まれています。ただ、交響曲第1番の時点では、明確な方向性にはなっていません。
おすすめの名盤レビュー
シベリウス作曲の交響曲第1番のおすすめの名盤をレビューしていきます。
ロウヴァリ=エーテボリ交響楽団
サントゥ=マティアス・ロウヴァリとエーテボリ交響楽団の演奏です。新しい録音で音質も良く、低音域から力強さを良く収録しています。
第1楽章のクラリネットが繊細で非常に味わい深いです。オケが入るとスケールが大きく、録音にも奥行きがあります。若手の指揮者だけあり、鋭く白熱してどんどんアッチェランドして盛り上がっていきます。次の木管の主題は色彩的にコンパクトにまとめています。緩急自在で感情のうねりがあり、スリリングです。後半も力強く情熱的に盛り上がっていきます。第2楽章は速めなテンポでブリリアントな演奏です。力強い所は情熱的で、静かになりフルートや木管ソロが入るととてもブリリアントな音色です。
第3楽章は小気味良く、速いテンポで演奏されています。細かいアンサンブルのクオリティも高いです。中間部に入ると打って変わって、ホルンとフルート・ソロや木管群は線の細いしなやかな演奏を繰り広げます。
第4楽章は白熱していて凄い盛り上がりです。速いテンポで力強くスリリングに盛り上がっていき、圧倒的な迫力です。弦の朗々とした主題もしなやかに幅広く歌われています。北欧の雰囲気も良く出ています。ラストはトゥッティでダイナミックに曲を締めます。
エーテボリ管弦楽団の演奏のクオリティも上がったように思います。第1番は色彩感やメリハリのある交響曲なので、こういう演奏スタイルは相応しいです。
ベルグルンドはヘルシンキ・フィルが良い演奏です。ヨーロッパ室内管でもいいですが、少しクールなので、もっとシリアスな5番以降の交響曲のほうが合います。
第1楽章はダイナミックで、思い切り引き延ばされたホルンの咆哮が印象的です。色々な楽器が活躍する色彩感がありますが、ベルグルンドは一つ一つを大事に演奏しています。ヘルシンキ・フィルの管楽器の色彩感も素晴らしく、色々な楽器が交互に聴こえてきて楽しめます。低弦の動きなどには、将来のシベリウスを感じますね。フィンランドに行ったことは無いのですが、春や夏はきっと自然が豊富なんでしょうね。展開部は少しユニークな音楽ですが、シリアスさでは無く、自然の不思議さのようなものが感じられます。第2楽章は細かい動きが目立ちます。森の小動物のようです。盛り上がりは自然に対する喜びが感じられます。弦の少し憂鬱な主題も、第1番だとまだ明るく盛り上がります。
第3楽章はスケルツォは速めのテンポで溌剌とした演奏です。途中で出てくる木管の色彩感はいいですね。ホルンが入り、夜想曲のような風情になります。第4楽章の前半はかなり速いテンポでスリリングです。ラストは雄大なオーロラのようなイメージを上手く引き出しています。
カラヤン=ベルリン・フィル (1981年)
カラヤンとベルリン・フィルによる録音です。第1楽章はクラのソロが憂鬱さを帯びて始まります。その後、弦が入ると一気にスケールが増してダイナミックな演奏になります。思い切ったアクセントやダイナミックさですが迷いはなく、カラヤンはシベリウスの演奏に関してはとても自信を持っているようです。ベルグルンドと違い、細かい所よりはレガートを使って横に流れるような音楽を作っています。ベルグルンドと大分違う曲に聴こえる位、両者個性的です。しかし、シベ1はどちらの演奏スタイルも受け入れています。カラヤンもベルグルンドも本質的な所を上手く掴んでいるのだと思います。
第2楽章は夢を見るように静かに始まります。響きに色彩感も感じられます。スケールが大きく遅めのテンポです。木管とハープが入る辺りは、自然の描写を感じさせます。後半、短調になると弦がスケールの大きなメロディを弾き、盛り上がっていきます。テンポの変化は最小限で、遅めのテンポなので広々とした響きになっています。第3楽章は中庸のテンポです。スケールの大きさは相変わらずです。トリオではかなりテンポを落としてじっくり歌わせています。第4楽章はチャイコフスキーの『悲愴』を思わせる始まり方です。アレグロに入るとかなりの速さで凄い迫力です。弦が雄大なメロディを演奏する所は、思い切りスケールが大きな演奏です。
カラヤンは交響曲第1番に特に相性が良いようですね。オーケストレーションが華やかなのでベルリンフィルの機能性も最大限生かせます。
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楽譜
シベリウス交響曲第1番の楽譜・スコアを挙げていきます。