ジャン・シベリウス (Jean Sibelius, 1865~1957)の交響曲第7番 作品105について、解説と、おすすめの名盤をレビューしていきます。
シベリウス交響曲第7番はシベリウス最後の交響曲で、単一楽章構成の短めの交響曲です。有名なメロディはありませんが、とても深みのある名曲です。
解説
シベリウス作曲の交響曲第7番について解説します。
作曲と初演
作曲開始は交響曲第6番とほぼ同じ1910年代といわれています。1924年に完成しました。初演は1924年3月25日にストックホルムでシベリウス自身の指揮で行われました。
単一楽章の交響曲
交響曲第7番は、単一楽章の交響曲です。初演時には「交響的幻想曲」と呼ばれていました。実際は3楽章形式で切れ目なく演奏される、といったほうが正しいようです。しかしシベリウスの交響曲は例えば第5番のように切れ目なく演奏されるだけでなく、楽章間が音楽的に繋がっていて一体感がある所が特徴です。交響曲第5番の改訂の経緯を見ているとシベリウスの交響曲が一体化の方向に向かってきた経緯が分かります。出版時に交響曲第7番と番号が付与されました。演奏時間は20~25分程度で、短い作品でもあります。
シベリウス最後の交響曲
地味な交響曲ではありますが、シベリウスの最後の交響曲だけに円熟と深みが感じられます。とても美しく聴くと心が清浄される曲です。また、交響曲第6番も似た傾向がありますが、晩年、うつ病傾向にあったようで、せいぜい25分程度の交響曲の作曲に長い時間がかかった原因かも知れません。なお、詳しい曲の分析は、「音楽の友」社のミニチュア・スコアに詳しく書かれています。
おすすめの名盤レビュー
シベリウス作曲の交響曲第7番のおすすめの名盤をレビューしていきます。
ベルグルンド=ヘルシンキ・フィル
ベルグルンド=ヘルシンキ・フィルは交響曲第2番から人間の内面に深く分け入るような演奏をしていますが、シベリウス最後の交響曲である第7番もシリアスで味わい深い演奏を繰り広げています。具体的には、上に貼ったYouTubeの演奏です。音質は大分違いますけど。
ヘルシンキ・フィルの低音も効かせていて、フィンランドの自然を感じさせつつも、ゆっくり少し憂鬱に内面に入り込んでいきます。しかし、あくまで柔らかく、ベルグルンド=ヨーロッパ室内管ほどのシリアスさはありません。後半、段々深みを増していきますが、フィンランドの自然を常に感じさせつつ、その中で内面に入り込み心情表現をしています。
絶妙なバランス感覚だと思いますが、シベリウスをまだ聴きこんでいない人にはもやもやした演奏に聴こえるかも知れません。でも、じっくり聴けば名演で、シリアスすぎる演奏よりもいいと思いますよ。
ベルグルンド=ヨーロッパ室内管弦楽団
ベルグルンド=ヨーロッパ室内管の演奏は、非常に透明度が高く、フィンランドの自然を柔らかく描くことはせず、結構ストレートに本質に迫っていきます。それには少しグロテスクになるのも厭わない、という感じです。そのため、この交響曲が理解しにくい、という人にはうってつけで、分かり易いと思います。
ただ、交響曲第7番はやはりフィンランドの自然を描いてる要素が凄く大事で、それが無いとシリアスで少しキツい曲に聴こえますね。この演奏を聴いて、曲の本質を理解したら、ヘルシンキ・フィル盤やヴァンスカ盤も聴いてみることをお薦めします。
ヴァンスカ=ラハティ管弦楽団
冒頭はオーロラのような演奏というのでしょうか。白夜のフィンランドの大地を思わせる弦セクションが素晴らしいです。フィンランドのオケだからこそ出来る演奏ですね。この演奏も自然を描写している中に、個人的な心情表現があります。でも、少し憂鬱ですが、シリアスさはありません。ちょうどラハティ響の弦のくすんだ音色のように、くすんだ音楽が展開されていきます。中間付近では熱してきて感情的な盛り上がります。それと交互に現れる弦のトレモロは、やはりオーロラを想起させます。
ヴァンスカ=ラハティ交響楽団の演奏は民族的な演奏が多く、そこが魅力でもありますが、交響曲第7番はクオリティの高い演奏を繰り広げていて、他の番号と次元が違う名演だと思います。
ネーメ・ヤルヴィは、感情的な要素を優先して音楽を作っています。もちろん、オケのアンサンブルも十分素晴らしいですけど、冒頭の速めのテンポ設定などは、感情的な高揚があってこそです。また民族的な響きもオケから引き出していて味わい深いです。全体的にテンポが速いので、全体の構成が良く見えます。
もやもやして分かりにくくなりがちなシベ7ですが、ネーメ・ヤルヴィの手にかかると、上手く感情と自然のバランスを保ったまま、メリハリのついた音楽になります。聴いていると意外に早く終わる感覚ですが、それでも十分充実感があります。個性的ではありますが、なかなかの名盤です。
カラヤン=ベルリン・フィルは、重厚なベルリンフィルの響きが印象的です。フィンランドのオケでベルリン・フィルと比べられるパワーのあるオケはないでしょうね。そして、シベ7の演奏は透明感も結構あります。聴きごたえのある名演ですが、カラヤンだから当然かもしれませんが、ドイツ的でダイナミックな演奏です。聴いていて物足りない部分はなく、凄い充実感です。
良い演奏ですが、シベリウスの最後の交響曲ということを考えれば、まだ円熟の余地はあります。ベルグルンドやヴァンスカに比べると、力強く情熱的でグロテスクさもあり、繊細さはそこまでありません。若いカラヤンのストレートでインスピレーション溢れる名盤だと思います。
ムラヴィンスキー=レニングラード・フィル(来日時)
ラトル=ベルリン・フィル
ラトル=ベルリン・フィルは、演奏スタイルがベルグルンド=ヨーロッパ室内管弦楽団に似ています。ただ、アンサンブルや録音のクオリティは非常に高いものの、交響曲第7番になると、もう少し深掘りが必要なように思います。細かい精妙さが必要な音楽ですが、この録音からはハッキリした音楽が聴こえてきます。ベルグルンドやヴァンスカのような感情面、精神面が浅いです。そのため、クールに聴こえて味わいに欠けます。ただラトルにより明晰に整理された演奏であるため、新しい発見はありますし、分かりやすい演奏でもあります。
これは全集なので多分第5番あたりはかなり名演だと思いますが、第7番は物足りなさが残りますかね。
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楽譜
シベリウス交響曲第7番の楽譜・スコアを挙げていきます。