ジャン・シベリウス (Jean Sibelius,1865-1957)作曲の『トゥオネラの白鳥』Op.22 (Tuonelan joutsen, The Swan of Tuonela Op.22)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。ワンストップでスコアと楽譜まで紹介します。
解説
シベリウスの『トゥオネラの白鳥』について解説します。
『トゥオネラの白鳥』は、連作交響詩『レンミンカイネン組曲』(四つの伝説)Op.22の第2曲で、とても有名な作品です。イングリッシュ・ホルンの旋律が白鳥を表しており、ドヴォルザークの新世界交響曲の第2楽章と同様、イングリッシュ・ホルンが活躍する名曲としても知られています。演奏時間は9分程度と短い曲です。単独で演奏されることも多い名曲です。
『トゥオネラの白鳥』は当初は民族叙事詩『カレワラ』を題材としたオペラの序曲として1893年に作曲されました。1897年、1900年に改訂されています。ワーグナーに影響を受けたようです。ワーグナーのリングは北欧神話がベースですが、フィンランド神話はこれとは異なる系統です。しかし、このオペラ自体は未完に終わりました。シベリウス自身が「自分はオペラの作曲には向いていない」と考えたのが理由です。『トゥオネラの白鳥』は交響詩として独立し、同様に民族叙事詩『カレワラ』に基づいて作曲された作品を組み合わせたレイミンカイネン組曲に組み込まれることになります。
民族叙事詩『カレワラ』の第16章に基づいて作曲されています。あらすじは以下です。
カレワラの主要な主人公であるヴァイナモイネンが、船を作るための呪文を求めて黄泉の国(死者の国)であるトゥオネラへ行き、結局は逃げ帰ってくる。
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交響詩は黄泉の国(死者の国)のトゥオネラ川を泳ぐ白鳥の情景を描いています。非常に透明感があり、高貴で美しい音楽となっています。トゥオネラ川は日本でいえば三途の川に似ています。渡し舟があることも一緒ですね。三途の川は仏教なので白鳥は出てきませんけれど。三途の川の渡し舟は有料で六文です。トゥオネラ川やヨーロッパ方面の神話では、無料ですが色々条件があるようですね。
トゥオネラ(Tuonela)は死者の国である。そこは全ての死者が赴く地下の収容場所もしくは都市であり、死者は善悪を問わずそこへ行く。トゥオネラは全てのものが永遠に眠る、暗く生命のない場所であるが、優れたシャーマンだけが祖先の教えを請うために、トランス状態でトゥオネラに行く事ができた。トゥオネラに行くためには、魂はトゥオネラの暗い川を渡らなければならなかったが、正統な理由があれば、魂を運ぶ船が来るという。シャーマンの魂は本当に死んでいるかのように信じ込ませてトゥオネラの見張りを何度も騙さなければならなかった。
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日本神話のイザナギやギリシャ神話のオルフェウスは、妻を取り戻すために黄泉の国へ旅立ちますが、カレワラでは「船を造る呪文」なのですね。北欧らしい神話だと思います。失敗する所も同じです。
「テレプシコーラ – 舞姫」(山岸涼子著)というバレエ漫画があってその最後に『トゥオネラの白鳥』のバレエのシーンが出てくるようです。漫画の方が先かも知れませんが、実際にバレエ化もされフィンランド国立バレエ団が上演しています。確かにバレエにも相応しい音楽ですね。
オーボエ×1, イングリッシュ・ホルン×1, バス・クラリネット×1, ファゴット×1
ホルン×4, トロンボーン×3
ティンパニ、大太鼓、ハープ
弦五部
おすすめの名盤レビュー
それでは、シベリウス作曲『トゥオネラの白鳥』の名盤をレビューしていきましょう。
カラヤン=ベルリン・フィル (1965年)
カラヤンとベルリン・フィルの1960年代の演奏です。絶頂期と言われる時期よりも少し前ですが、この時期のベルリン・フィルは重厚さがあり、シベリウスではそれまで他のオケからは聴くことが出来なかった透明感と力強さのある演奏を聴くことが出来ます。録音も年代を考えれば十分高音質で、透明感を再現出来ている所が素晴らしいです。
冒頭からベルリン・フィルの弦の美しい音色と内在する力強さに圧倒されます。チェロのソロ、木管のソロも非常にレヴェルが高く、雰囲気も良く出ています。コールアングレのソロも巧妙で非常に素晴らしいです。盛り上がってくると弦セクションの圧力が凄いです。後半の弦のメロディもコクのある響きを紡ぎだしています。
『トゥオネラの白鳥』の理想的な名演の一つで、これを聴かなければこの曲は語れない、という位の名盤です。
カラヤン=ベルリン・フィル (1981年)
カラヤンとベルリン・フィルの1980年代の録音です。円熟したカラヤンの抒情性があって味わい深い名演です。録音もグラモフォンのデジタル録音で透明感を感じる音質です。
チェロの入りから落ち着いた語り口で、弦が入ると透明感があります。旧盤ほどの凛(りん)とした雰囲気は無いのですが、カラヤンは円熟して枯淡の境地で、一つ一つの音符を噛みしめるように演奏しています。イングリッシュ・ホルンのソロも味わい深く、格調が高い表現です。弦がクレッシェンドしてくると透明感があってクオリティの高い音色です。ホルンなどは自然美が感じられます。
シベリウスを得意とするカラヤンの辿り着いた境地、という感じで、とても味わい深い名盤です。
ベルグルンド=ロンドン・フィル (2006年)
ベルグルンドとロンドン・フィルの新しい録音です。これまで何度もシベリウスを録音してきたフィンランドの指揮者ベルグルンドの最後の『トゥオネラの白鳥』です。2006年録音で、非常に音質が良いです。細部まで良く聴きとることが出来ます。
ロンドン・フィルは透明感のあるサウンドで、北欧らしい響きです。巨匠ベルグルンドの円熟した音楽作りです。適度に暖かみがあり、この曲が実は人情味に溢れた物語も表現していることがよく分かります。チェロも暖かみがありますし、主役のコールアングレの表現もどこかわびさびを感じます。弦セクションの響きも柔らかさがあります。
若いカラヤンとベルリン・フィルの演奏も素晴らしいですが、この演奏はシベリウスを探求し続けた巨匠ベルグルンドの辿り着いた境地というに相応しい暖かみと深みがあります。
渡邊暁雄=日本フィルハーモニー交響楽団
渡邊暁雄はフィンランド人の母親を持ち、シベリウスを得意としていて全集も録音しています。歴史的録音と言えますが、曲に対するアプローチは本場フィンランドの演奏とも少し異なる暖かみがあります。アマゾンミュージックに日本フィルとの録音があり、アマゾンではDVDも入手できます。DVDの映像は少し古さを感じさせますが、往年の日本フィルの響きを聴くことが出来ます。
聴いてみると、とてもレヴェルの高い演奏で驚かされます。演奏は静謐でとても暖かみがあります。日本のシベリウスのパイオニアである渡邊暁雄の良さが十二分に出た演奏で、ベルグルンドにも引けを取らない位の内容が詰まっています。しかし、響きはあくまで暖かく、ふくよかさもある位で、むしろとても聴きやすいです。中盤の弦セクションの響きも素晴らしいです。コールアングレのソロも安定していて堂に入っています。
日本フィルの柔らかみのある響きがしっかり録音されていて、当時の日本のオケとは思えない位です。日本フィルとしても、何度も繰り返し演奏してきた得意曲です。特に弦の響きの良さが特筆です。フィンランドのオケだと言われたら、騙されそうな位です。渡邊暁雄のシベリウスを聴いてみたい人は、必聴の名演です。
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楽譜・スコア
シベリウス作曲の『トゥオネラの白鳥』の楽譜・スコアを挙げていきます。
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