モーツァルト 交響曲第31番『パリ』

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト (Wolfgang Amadeus Mozart,1756-1791)作曲の交響曲第31番 『パリ』ニ長調 K.297 (Symphony No.31 D-Dur K.297)について、解説おすすめの名盤レビューをしていきます。最後に楽譜・スコアも挙げてあります。

解説

モーツァルト交響曲第31番 『パリ』ニ長調 K.297について解説します。

小さな大作

コープマン=アムステルダム・バロック

1778年、当時パリにはコンセール・スピリチュエルという大規模なオーケストラがあり、第31番『パリ』は、そのオーケストラのために作曲されました。しかし、モーツァルトはそんなに大きな交響曲はまだ作曲したことがありませんでした。

それ以前の作品を見てみると、交響曲第29番は親しみやすいものの少年が作曲したような作品です。その後、マンハイムで多くの作品に触れたにしても、この交響曲第31番の充実ぶりは、大きな飛躍と言えますコンセール・スピリチュエルクラリネット奏者もおり、この交響曲にはクラリネットが入っていて、編成は大きなものになっています。

内容の飛躍的な充実

3楽章構成で時間的にも20分程度と短い小さな交響曲です。しかし、展開部は小さいものの、第1楽章から様々な工夫が聴かれます。第1主題は有名ですね。ダイナミックに盛り上がります。変化に富んでいて、モーツァルトらしい機転の利いた名曲です。第2楽章は一見シンプルですが、ノリントンの演奏で聴いてみると、なるほど生き生きとした楽章で面白いです。第3楽章は色々な要素が詰まった短い楽章です。わずか4分程度の中で対位法あり、展開部あり、とどんどん新しい展開をしていき、極めて密度が高いです。

ギャラント様式

モーツァルトとしてはフランス風のギャラント様式に挑戦している所もあります。ギャラント様式は別にフランスだけで流行っていたわけでは無いですが、モーツァルトのそれまではオーストリア風の交響曲が多かったのですが、第1楽章第3楽章は典型的なギャラント様式です。今後の作品でもギャラント様式が増えていきます。ギャラント様式バロックと古典派をつなぐ架け橋のような存在で、この様式に精通することは大事です。

ギャラント様式と古典派交響曲

ギャラント様式バロック後期に登場し、段々と発展してきて、交響曲を生み出し、古典派の主流となっていく様式です。

バロック音楽は優雅な印象があるかも知れませんが、バロックの意味は「ゆがんだ真珠」であって、必ずしも優雅とはいえません。確かに譜面はシンプルですが、通奏低音が入るとかなり複雑になりますし、意外に感情表現も豊かです。ちなみに初期の主流はオペラです。

バロック音楽アレクサンドロ・スカルラッティがオペラからシンフォニアを抜き出して発展させ、ヴィヴァルディらが受け継ぎ、シンプル化の方向性が出てきます。

そしてギャラント様式登場し、スッキリした上品さが受けて、発展していきます。一番人気があったのはミシンのリズムと言われたフィリップ・テレマンです。その後、C.P.E.バッハら、大バッハの息子たちが引き継ぎます。彼らはシンフォニアを作曲し、ソナタ形式の確立にも貢献しています。

そして、低音楽器によるリズムの刻みが、通奏低音に取って代わるとバロック時代が終わります

その後、弦5部のオーケストラの編成が確立し、パリにコンセール・スピリチュエルという60人規模のオーケストラが出来たり、マンハイム宮廷に常設のオーケストラが出来ます。特にマンハイム楽派は古典派交響曲の様式の確立に大きな貢献をしました。楽長や団員であったシュターミッツカンナビヒらが、シンフォニア交響曲を書き、ソナタ形式が確立します。

そこにハイドン、そしてモーツァルトが現れ、その時代に古典派交響曲の様式が固まります。モーツァルトはロンドンでヨハン・クリスティアン・バッハ(J.C.バッハ)に会い非常に大きな影響を受けています。J.C.バッハの曲はロココ調で上品なものでした。まさにモーツァルト初期の作品を上品にした感じです。

モーツァルトマンハイム楽派の影響も受け、時代を超えて第38番『プラハ』以降、特に三大交響曲では個人的感情を交響曲に入れ込んでいます。ハイドンはギャラント様式の影響が強い「疾風怒濤期」を経て、パリセットロンドンセットで古典派交響曲の様式を完全に確立します。ロンドンセットはもうギャラント様式を超えています

古典派交響曲ベートーヴェンに引き継がれますが、ベートーヴェンはモーツァルトのように個人的感情を交響曲に入れ込み、その形式もさらに拡張して、ロマン派への流れを築きます。交響曲第3番『英雄』はもう古典派交響曲とは呼べないと思います。古典派交響曲の頂点はベートーヴェンの交響曲第4番だと思います。

おすすめの名盤レビュー

それでは、モーツァルト作曲交響曲第31番 『パリ』ニ長調 K.297名盤をレビューしていきましょう。

ムーティ=ウィーン・フィル

ムーティの力強く充実した演奏
  • 名盤
  • 洗練
  • ダイナミック

おすすめ度:

指揮リッカルド・ムーティ
演奏ウィーン・フィルハーモニー

1993年

ムーティは筋肉質な力強い演奏スタイルなのですが、何故かモーツァルトが得意です。ニュー・イヤー・コンサートの演奏などを聴いていると、ウィンナワルツを極めて自然に振っているので、実はリズムが軽快なのが良いのかも知れません。この第31番第41番『ジュピター』の組み合わせは意外な気もしますが、ムーティが得意なタイプのスケール感のある交響曲ですね。

ブリュッヘン=18世紀オーケストラ

古楽器オケだが、端正でスタンダードな名盤
  • 名盤
  • 円熟
  • ダイナミック
  • 古楽器

超おすすめ:

指揮フランス・ブリュッヘン
演奏18世紀オーケストラ

1985年11月,オランダ

フランス・ブリュッヘンモーツァルトをとても得意としています。18世紀オーケストラもレヴェルの高い古楽器オーケストラで、端正な演奏を繰り広げています。

冒頭はバロックティンパニと弦のアクセントが心地良いダイナミックさの響きを生み出しています。他の古楽器演奏でありがちな、異様なテンポの速さや個性的なアゴーギクはありません。ベームよりもスタンダードな演奏だと思います。『パリ』はしっかりした作りの交響曲ですが、ヴィブラートがかかっていないため、色々な声部が聴こえてきて面白いです。また、ブリュッヘンの感情表現も短めですが展開部で聴かれます。第2楽章はじっくりふくよかに歌っています。しなやかで硬さがないので自然体で聴けます。古楽器オケ特有のくすんだ弦の響きも味わい深いです。まとめ方も丁寧で、完成度が高く充実しています。第3楽章は、標準的なテンポですね。踊りのようなリズムを上手く再現しています。ポリフォニックな所はノンヴィブラート奏法の得意とする所です。展開部も面白く聴けます。テンポが遅めなので、端正でしっかりした名演になっています。

他の番号でもそうですが、これだけの名盤が廃盤なのは本当にもったいない話です。

ピノック=イングリッシュ・コンサート

  • 名盤
  • 古楽器

超おすすめ:

指揮トレヴァー・ピノック
演奏イングリッシュ・コンサート

1993年9月,ロンドン,ヘンリー・ウッド・ホール(ステレオ/セッション)

トレヴァー・ピノックとイングリッシュ・コンソートの演奏です。古楽器演奏としては、やわらかめの響きで、スケールも大きめです。フレッシュさがあり、若いころのモーツァルトという雰囲気ですね。テンポ取りは標準的で、表現は派手過ぎず、すっきり丁寧に演奏されています。古楽器演奏でのスタンダードといえると思います。第2楽章優雅で気品があり、フランス風の緩徐楽章の雰囲気です。

ノリントン=シュトゥットガルト放送響

内容が濃くノリントンの全集の中でも名演奏
  • 名盤
  • 洗練
  • ピリオド奏法
  • 高音質

超おすすめ:

指揮ロジャー・ノリントン
演奏シュトゥットガルト放送交響楽団

2006年9月,シュトゥットガルト・リーダーハレ,ヘーゲルザール

ノリントンとシュトゥットガルト放送交響楽団ピリオド演奏によるものです。このコンビは長年ピリオド演奏を続け、その表現力は非常にレヴェルアップしています。録音の音質も良いので透明感のある響きの中にチェンバロの音まで聴こえて、素晴らしい雰囲気です。ピリオド演奏は古楽器オケよりも透明度が高いので、上手く演奏できれば、古楽器オケには出来ない魅力を出せます。ノリントンはこのモーツァルト全集でそういった演奏をいくつも録音しています。

この第31番『パリ』かなり好調で、聴いていて非常に楽しい演奏です。第2楽章はテンポが速めですが、他の楽章は、少し遅めでスコアの隅々まで音化しています。第1楽章はダイナミックですが、響きが透明で芳醇な音楽になっています。アーティキュレーションはノリントンらしい所がありますが、自然さのある演奏です。透明感があり、各声部が手に取るように聴こえます。各声部の絡み合いが面白いですね。第2楽章は速めのテンポですが、おかげでリズムが生き生きしています。ノリントンのリズムは自然体で、速めのテンポをあまり感じさせず、すぐに慣れてしまいます。第3楽章はダイナミックですが、それほど速いテンポではありません。この楽章は色々な要素が詰め込まれていて、ノリントンはそれらを聴かせようと余裕のあるテンポをとっています。舞曲風な動きのあるリズム、展開部のポリフォニックな動きなどが、自然に耳に入ってきて楽しめます。

クリヴィヌ=シンフォニア・ヴァルソヴィア

すっきりした美しい演奏、軽快で格調がある名盤
  • 名盤
  • 格調
  • 円熟

おすすめ度:

指揮エマニュエル・クリヴィヌ
演奏シンフォニア・ヴァルソヴィア

1990年,ワルシャワ,ショパン・アカデミー

フランス人指揮者エマヌエル・クリヴィヌシンフォニア・ヴァルソヴィアの演奏です。非常にすっきりした爽やかさと格調がある演奏で、クリヴィヌのこだわりが感じられるクオリティの高いアンサンブルです。録音の音質も良く、特に弦の高音域が綺麗に録音されています。

第1楽章はテンポが速めで軽快さがあります。小編成の演奏で小気味良い響きです。溌剌とした音楽ですが、品格があり、ドイツ=オーストリア系の演奏とは響きが異なり、透明感があります。第2楽章は落ち着いた端正な演奏です。穏やかさがありますが、透明感もあって、品格を失うことはありません。第3楽章はかなり速めのテンポで、爽快さと楽しさがあります。この楽章は対位法的な所も多く、クリヴィヌのようにきっちりまとめる指揮者だと面白みがよく分かります。

モーツァルトはドイツ=オーストリア系の演奏がスタンダードですが、クリヴィヌのような軽快で透明感のある格調高い演奏は貴重です。気になる人は、廃盤にならないうちに入手したほうがいいですね。

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楽譜・スコア

モーツァルト作曲の交響曲第31番 『パリ』ニ長調 K.297の楽譜・スコアを挙げていきます。

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