ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト (Wolfgang Amadeus Mozart,1756-1791)作曲のヴァイオリン協奏曲 (Violin concerto)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。最後に楽譜・スコアも挙げてあります。
モーツァルトは一応全部で5曲のヴァイオリン協奏曲を残しています。いずれも若い時の作品ですが、モーツァルトの父のレオポルド・モーツァルトがヴァイオリンの大家で有名な教本を出版していた位です。その中でも第3番、第4番、第5番『トルコ風』は名作の域に入ります。また、大人になって始めたアマチュア・ヴァイオリニストが中級レヴェルを目指すときのゴールとなる曲ですね。スズキ教本の第9巻に第5番、第10巻に第4番が入っています。
聴いて楽しむ場合は、3番以降はいずれも名曲ですが、第3番の第1楽所、第5番『トルコ風』の第3楽章が有名です。
解説
モーツァルトのヴァイオリン協奏曲について解説します。
1年で5曲作曲
モーツァルトのヴァイオリン協奏曲は全て1775年の1年の間に作曲されています。その間に長足の進歩を遂げ、第3番以降は名曲の部類に入ります。一つの協奏曲が20分~30分と意外に規模の大きな曲です。
作曲の動機はザルツブルクの宮廷ヴァイオリニストであったアントニオ・ブルネッティのために書かれたとされています。しかし、1年でこれだけの規模の協奏曲を5曲も書いている訳で、その理由は分かっていません。
作品の構成
モーツァルトの5曲のヴァイオリン協奏曲の構成について、書いていきます。
1775年4月14日にザルツブルクで作曲されました。しかし、それ以前に既に書かれていた可能性が高いです。演奏時間は約23分です。第2番以降はギャラント様式で作曲されますが、この第1番のみオーストリア的な作風となっています。
■第1楽章:アレグロ・モデラート
ソナタ形式です。
■第2楽章:アダージョ
緩徐楽章です。自由なソナタ形式です。
■第3楽章:プレスト
速いテンポの自由なソナタ形式です。
1775年6月14日にザルツブルクで作曲されました。フランス風のギャラント様式で書かれています。演奏時間は約20分です。
■第1楽章:アレグロ・モデラート
ソナタ形式です。
■第2楽章:アンダンテ
ソナタ形式の緩徐楽章です。
■第3楽章:ロンドー,アレグロ
冒頭から有名なメロディで始まる協奏曲です。この主題はは自作のオペラ『牧人の王』K.208、第3曲のアリアから引用されました。5曲のヴァイオリン協奏曲の中で最初に成功した作品です。1775年9月12日に作曲されました。演奏時間は26分とそれなりの規模です。
■第1楽章:アレグロ
ソナタ形式です。上記の有名な主題で始まります。
■第2楽章:アダージョ
緩徐楽章です。レオポルト・アウアーは「驚嘆すべきアダージョ」と絶賛しています。
■第3楽章:ロンド – アレグロ
この曲も歳の割に成熟した協奏曲で、聴き所が多いです。演奏時間は22分で少し小さめです。1775年10月24日にザルツブルクで作曲されました。しばしば『軍隊』というタイトルで呼ばれます。
■第1楽章:アレグロ
一応ソナタ形式のようなのですが、あまりはっきりしない形式です。この楽章の曲調から「軍隊」と呼ばれるようになったようです。
カデンツァはヨーゼフ・ヨアヒムが作曲したものが、良く演奏されます。
■第2楽章:アンダンテ・カンタービレ
緩徐楽章です。
■第3楽章:ロンド、アレグレット・グラツィオーソ – アレグロ・マ・ノン・トロッポ
ヴァイオリンの主題にしばしば現れる重音はおそらくバグパイプのドローンで、曲調からも「軍隊」風といえるかも知れません。
1775年12月20日にザルツブルクで作曲されました。第5番になると充実してきて、他の作曲家のヴァイオリン協奏曲と比較しても十分な内容を持ったものです。演奏時間が30分を超えるなど、意外に大作です。
■第1楽章:アレグロ・アペルト – アダージョ – アレグロ・アペルト
ソナタ形式です。カデンツァがありますが、モーツァルト自身のものが残されていないため、後世のヴァイオリニストが作成したものが残っています。マックス・ロスタル、ヨーゼフ・ヨアヒムなどが有名です。
■第2楽章:アダージョ
緩徐楽章です。この楽章にもカデンツァがあります。弦楽器の複雑な絡みを楽しめる楽章でもあります。
■第3楽章:ロンド
中間にトルコ行進曲風の部分が挟まれています。
スコア
おすすめの名盤レビュー
それでは、モーツァルト作曲ヴァイオリン協奏曲の名盤をレビューしていきましょう。モーツァルトはヴァイオリンが急速に発達していた時期に活躍しました。1750年ごろに弓が逆ぞり(今の形)に変わったと言われています。もちろん、急に変わったのではなく、段々と変わっていったのですけれど。逆ぞりの弓になっても、今のモダンボウと同じものになったのではなく、もっと軽い「クラシック・ボウ」と呼ばれる弓を使っていた、とされています。
ムター,ロンドン・フィル
アンネ=ゾフィー・ムターがロンドン・フィルを振り弾きした演奏です。
軽快な伴奏で始まります。ムターの演奏は優雅でロマンティックなもので、ヴィブラートも強く、古楽器奏法の影響はあまり受けていないです。モダン楽器の演奏として完成度も高く、技術的に安定しています。もちろん、昔風の演奏スタイルで演奏しているわけでは無く、近年のモーツァルトの軽妙な演奏です。これまでのモダンヴァイオリンの演奏法の流れにあるスタイルです。
カデンツァは長く派手な演奏で、超絶技巧を聴かせてくれます。緩徐楽章では、独特の優雅さと艶やかさのある音色で、上手くヴィブラートなどをかけつつ高い表現力を聴かせてくれます。
DVDもあります。CDと伴奏が違いカメラータ・ザルツブルクになっています。モーツァルトの伴奏としてはカメラータ・ザルツブルクのほうがレヴェルが高そうです。同じ2005年の録音で、ムター自身の演奏スタイルは変わりませんし、アマチュア・ヴァイオリニストの方向けに良いと思います。ヴァイオリンの手や指の動きが分かりますから。
カルミニョーラ,アバド=モーツァルト室内管
カルミニョーラはモダン・ヴァイオリンとバロック・ヴァイオリンの両方が弾けるヴァイオリン奏者です。その気になれば、バロック・ヴァイオリンで思い切り即興を入れて演奏できる実力派の古楽器演奏家でもあります。ヴィヴァルディの『四季』など、印象的な演奏でした。アバドとモーツァルト室内管弦楽団は、軽妙で爽快な伴奏を繰り広げています。カルミニョーラもアバドもイタリア人なので音楽的にとても合うようです。アバドとモーツァルト室内管弦楽団は、たまに明るすぎるように感じるのですが、このCDではそういったことは感じず、感性が良く合っていて相互に高めあっている感じです。
第3番の第1楽章は軽妙で少し音を詰めていてスリリングです。第3楽章はリズミカルでカルミニョーラの即興も入っていて、楽しんで聴くことが出来ます。第5番は速めのテンポで始まり、ソロが入ると自由にテンポアップします。即興を楽しめる演奏ですね。カデンツァは明るく超絶技巧ですが短めです。緩徐楽章も他の演奏に比べると速めです。アンサンブルも細かい所まで上手く絡めていて絶妙です。第3楽章も速めのテンポで特にトルコ行進曲はスリリングです。
イタリア的な明るさとピリオド奏法が上手くマッチしていて、カルミニョーラの即興的な演奏もあり、聴いて楽しめる名盤です。
ファウスト,イル・ジャルディーノ・アルモニコ
イザベル・ファウストとイル・ジャルディーノ・アルモニコの演奏です。イザベル・ファウストは古楽器奏法でモーツァルトを演奏しています。モダン楽器とバロック・ヴァイオリンの両方を弾ける演奏家ですが、モーツァルトの協奏曲はモダン楽器かそれに近い楽器を使う場合が多いです。ここでは古楽器アンサンブルのイル・ジャルディーノ・アルモニコが伴奏ということもあって、かなり忠実なピリオド奏法をしていると思います。ヴィブラートは一切使わず、逆に即興もあまりしておらず、それ以外の様々な表現法を使って、気品のある響きを出しています。また録音が非常によく、透明感溢れる高音質で楽しめます。
イル・ジャルディーノ・アルモニコは普段通りバロック奏法を活かした溌剌とした演奏をしています。スフォルツァンドの弾き方が印象的です。イザベル・ファウストもバロック奏法を使って、モーツァルト時代の弾き方をしています。ただ、この演奏はその中でもスタンダードに近い演奏スタイルを取っていて聴きやすいです。バロック奏法だからといって構えて聴く必要はありません。普通に有名なヴァイオリン協奏曲として聴いても何の違和感も無いと思います。
グリュミオー,C.デイヴィス=ロンドン交響楽団
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演奏のDVD、Blu-Ray
ヴァイオリンの基礎となる曲なので、ムターのDVDがあることは重要ですね。弦楽器はボーイングや奏法など、色々学べます。
Vn:ティボー・ノアリ, ミンコフスキ=ルーヴル宮音楽隊
ムター,カメラータ・ザルツブルク
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楽譜・スコア
モーツァルト作曲のヴァイオリン協奏曲の楽譜・スコアを挙げていきます。
ヴァイオリン楽譜
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