ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト (Wolfgang Amadeus Mozart, 1756~1791) の交響曲第25番 ト短調 K.183について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。
映画「アマデウス」で有名な交響曲です。
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解説
モーツァルト交響曲第25番 ト短調の解説をしていきます。
1773年にモーツァルトが17歳の時、ウィーンに滞在した時に作曲した作品です。
この頃、ちょうどウィーンでハイドンが活躍し、「シュトルム・ウント・ドラング期」(疾風怒濤期)で、激しい感情を持つ短調の交響曲を作曲していた時期でした。
ハイドンはモーツァルトに大きな影響を与え、激しい感情を持つ作品を作曲しました。ト短調でストレートであることと、第1楽章の主題があまりにキャッチーで、当時のモーツァルトの天性を最大限発揮した作品です。第1楽章以外も、第2楽章はまだまだ発展途上ですが、それ以外の楽章は十分才能が感じられる大人の作品です。
曲の構成
交響曲第25番 ト短調は典型的な4楽章構成です。演奏時間は25分程度ですが、全楽章がどこかで聴いたことがあるメロディで出来ているという凄い曲です。
第1楽章:アレグロ・コン・ブリオ
ト短調でソナタ形式です。序奏なしで、いきなり有名な主題が現れます。
第2楽章:アンダンテ
安らぎのある楽章です。ヴァイオリンは弱音器をつけて演奏します。ヴァイオリンの旋律にファゴットが寄り添う第1主題、ヴァイオリンによる安らぎのある第2主題を元に展開されていきます。
第3楽章:メヌエット
ト短調のメヌエットです。トリオではのどかな雰囲気に変わります。
第4楽章:アレグロ
ト短調でソナタ形式です。第1主題を中心に悲痛な感情を持つ楽章です。
オーボエ×2、ファゴット×2
ホルン×4
弦五部
おすすめの名盤レビュー
モーツァルト交響曲第25番 ト短調のおすすめの名盤をレビューしていきます。
モーツァルトの第25番、あるいはそれより前の作品はやはりピリオド奏法か、古楽器オケで聴くのが一番です。モダンオケは指揮者によりますが、かなりテンポが遅いものが目立ちます。
コープマン=アムステルダム・バロック管
コープマンと手兵アムステルダム・バロック管弦楽団の録音です。音質は非常に良く透明感があります。
第1楽章は速いテンポでスリリングです。速いテンポの演奏のスタンダードと言えるような完成度です。小編成の楽団なので、小回りが利く感じで、小気味良い表現になっています。オーボエなど木管の音色がとてもリアルに録音されており、透明感があり細かいアンサンブルまでよく聴き取れます。後半もモーツァルトの才気が良く伝わってきます。第2楽章は小編成のオケらしく、見通しの良い響きです。古典派らしい味わいのある名演です。弦と管のバランスも良いです。コープマンのモーツァルトの中でも繊細な表現にこだわった演奏です。
第3楽章は速いテンポのリズミカルなメヌエットです。淡い悲壮感があり、聴きごたえがあります。中間部は一転して、オーボエを中心とした管楽器が素朴な演奏を繰り広げます。第4楽章は速めのテンポですが丁寧に始まります。バッハを得意とするコープマンはフーガ調の部分を上手く聴かせてくれます。モダンオケだと音が薄くなりがちですが、古楽器オケだと上手くはまっていて、満足度が高い演奏です。
この演奏は、モーツァルトの才気立った第25番の凄さをストレートに聴かせてくれます。テンポが速いだけではなく、曲の構造を良く研究して演奏していることが分かります。
ノリントン=シュトゥットガルト放送響
ノリントンとシュトゥットガルト放送交響楽団のピリオド奏法による録音です。音質はとても良く、非常に透明感があります。
第1楽章は速めのテンポでスリリングです。ドイツのオケでもノリントンが振ると古楽器オケのように小気味良さがあって良いですね。金管は古楽器も混じっているかも知れませんが、思い切り吹いてもモーツァルトらしさを失うことはありません。弱音の個所ではチェンバロの優雅な響きが聴こえてきます。後半は絶妙な表現で、感情の細やかな変化を描いています。とても丁寧ですが、アクセントも効いているのでスリリングに聴こえます。第2楽章は速めのテンポです。この曲でこのテンポだと弦などはスリリングさも出てきて、色々な表情が交錯するようになります。モーツァルトの才気を感じさせる演奏です。
第3楽章は中庸くらいのテンポで典型的なメヌエットです。淡い悲劇性の中、様々なアーティキュレーションで、色々な表現をしています。中間部は音質が良いこともあり、素朴さがとても楽しめます。特にホルンが上手いですね。第4楽章はかなりの速さで、とてもスリリングです。この第4楽章は画期的な演奏です。ノリントンはよくそういう発見をする指揮者ですね。リズムの躍動感が素晴らしく、フーガなど対位法的な部分も表現に上手く取り入れて、目から鱗が何枚か落ちるような名演です。モダン・オケであることを忘れる位で、密度の濃い演奏で、本当の意味でスリリングです。
この第25番はピリオド奏法の演奏の中でもとても上手くいった例だと思います。コープマンがバロックから見たモーツァルトだとすると、ノリントンはベームなどのモダンオケの演奏スタイルも取り入れていると感じます。廃盤にならずに長く聴かれていくことを願うばかりです。
ベーム=ベルリン・フィル
モーツァルトを得意としているカール・ベームとベルリン・フィルの録音です。アナログ録音ですが、しっかりした音質です。
第1楽章は遅めのテンポで始まります。さらに遅くなっていき、止まってしまうのでは、と思える位です。疾走感はないですが、悲哀をじっくりと表現しています。とても格調の高い演奏で、ゴシック建築を思い出す位です。丁寧に演奏していきますが、決してロマン派的にはなりません。得意な曲だけあって、語り口の上手さに感嘆させられる所も多いです。第2楽章はとても品格のある演奏でロココ調です。淡い悲壮感と長調での明るさを丁寧に描き分けていて、味わい深いです。
第3楽章は遅めの演奏で、悲壮感が良く表現されています。中間部は素朴で艶やかさもあり、味わい深いです。第4楽章も遅いテンポで神妙に始まり、丁寧で練られた表現です。フーガ調の部分も意識されていますが、スリリングというよりはスケールが大きく、丁寧にしっかり演奏しています。
ベームの演奏は、当時のモーツァルト演奏のスタイルを極めたものだと思いますが、改めて聴き返すと気づかされる所が多いですね。ベルリン・フィルをしっかり鳴らしてもちゃんとモーツァルトに聴こえる演奏で、ベームの名盤はモーツァルト演奏史の一つの頂点だと思います。
バーンスタイン=ウィーン・フィル
円熟期のバーンスタインとウィーン・フィルの録音です。
第1楽章の冒頭はさすがウィーン・フィルで、遅めのテンポでも絶妙なアンサンブルで上手く聴かせてくれます。バーンスタインは中庸か少し遅め位のテンポで、しっかりツボをついた指揮ぶりです。後半は少しロマン派的な感情表現で味わい深いです。テンポを少し落として低音を聴かせてみたり、とバーンスタインの指揮ぶりが目に浮かぶようです。第2楽章は少し速めのテンポでリズムを活かしています。古典派の音楽であることを意識しつつも、微妙な転調での表情の変化を上手くつけており、感情的な深みを感じる部分もある位です。
第3楽章は遅めのテンポで、モダン・オケらしくしっかりとステップを踏んでいきます。中間部は素朴な雰囲気の自然体のアンサンブルでウィーン・フィルの木管とホルンの音色を楽しめます。第4楽章はダイナミックでスケールの大きさもあります。自然体で力が抜けているため、それほど重い感じはありませんが、第25番をモダン・オケで演奏するとダイナミックになりすぎる所はありますね。
クリヴィヌ=フィルハーモニア管
クリヴィヌとフィルハーモニア管弦楽団の演奏です。第25番は20番台なのでフルオケだとパワフルすぎるように思いますが、クリヴィヌは25番のみフィルハーモニア管弦楽団を指揮して録音しています。
第1楽章はシャープで、実にきれいな演奏です。情熱もありますが、オケの響きがきれいな演奏です。プルトを減らしているのでしょうかね。第2楽章は有名なメロディがありますが、繊細に演奏されています。
第3楽章はフィルハーモニア管弦楽団からフランスのオケのような響きを引き出しています。感情表現も上手いです。中間部の木管も良いですね。録音の音質もかなり良いです。第4楽章は少し落ち着いたテンポです。とても端正な演奏です。
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楽譜
モーツァルトの交響曲第25番 ト短調の楽譜・スコアを挙げていきます。
No.316 モーツァルト/交響曲 第25番 ト短調 (Kleine Partitur)
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