このページではルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン (Ludwig van Beethoven, 1770~1827) の交響曲第4番 変ロ長調 Op.60の解説の後、この曲の名盤をレビューしていきます。
交響曲第4番は有名な『英雄』と『運命』に挟まれ、いまひとつ地味な存在ではありますが、古典様式の交響曲としての完成度は一つの頂点に達していて、じっくり聴くべき名曲です。
解説
ベートーヴェン交響曲第4番を解説します。
古典派交響曲の最高峰
基本的にはハイドン、モーツァルトなどのスタイルの交響曲として書かれていて、ベートーヴェンとしてはその頂点に位置する名作です。
交響曲第5番「運命」以降は、もうロマン派といえるベートーヴェン独自のスタイルを確立し、交響曲第8番も古典派のスタイルでは無いと考えられるので、この交響曲第4番がベートーヴェン最後の古典派様式の交響曲といえるかも知れません。
前奏付きの第1楽章、第2楽章はアダージョ、第3楽章はスケルツォですが第4楽章はアレグロと、ハイドン以前の交響曲の要素を多く持っています。
1806年の夏に短期間のうちに作曲されました。
シューマンは
交響曲第3番『英雄』と交響曲第5番『運命』の間に挟まれた美しい乙女のようだ
と語っています。美しい乙女、かもしれませんが、古典派様式の完成と、古典派様式からの決別をした交響曲だといえます。
緻密な作曲技巧
曲の作りは、とても緻密で緊張感があります。基本的に長調の交響曲なのですが隙(すき)がないのです。例えば、第1楽章の前奏をとってもシンプルな中に非常な緊張感をはらんでいます。第3楽章は、すべてがシンコペーションになっています。第4楽章は速いテンポで演奏するものが多いですが、ファゴットが演奏不可能な速さになったりします。演奏家にとってもとてもスリリングな交響曲で、ベートヴェンの交響曲の中でも難しい曲に数えられます。
おすすめの名盤レビュー
ベートーヴェン交響曲第4番のおすすめの名盤をレビューしていきます。
カルロス・クライバー=バイエルン放送交響楽団
- 名盤
- 定番
- 白熱
- スリリング
超おすすめ:
指揮カルロス・クライバー
演奏バイエルン放送交響楽団
1982年5月3日,ミュンヘン,ナツィオナールテアーター(ステレオ/ライヴ)
カルロス・クライバーは公式には4番、5番、7番しか録音していません。しかし、その全てが超名演奏です。特に4番、7番はこれがあれば、他に探して聴く必要を感じないくらい完成度の高いものです。
最近、ピリオド奏法などが多く出てきても全く色あせる所はありません。むしろピリオド奏法の結論を先取りしたような演奏ですね。
ベートーヴェンの仕込んだリズムの面白さを、これでもかと強調した名演奏です。
アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団とのDVDもありますが、こちらも名盤です。オケのキャラクターでドイツのバイエルン放送交響楽団のほうが筋肉質な演奏でしょうか。
パーヴォ・ヤルヴィ=ドイツ・カンマー・フィル
- 名盤
- 定番
- スリリング
- ピリオド奏法
超おすすめ:
指揮パーヴォ・ヤルヴィ
演奏ドイツ・カンマー・フィルハーモニー・ブレーメン
2005年8月,フンクハウス・ベルリン・ナレーパシュトラッセ (ステレオ/デジタル/セッション)
パーヴォ・ヤルヴィ=ドイツ・カンマーフィルらしいクールで透明感の高い演奏です。スコアが透けて見えるような、と形容したくなる正確な演奏で、交響曲第4番でスコアを見ながら聴いているととても面白いです。
第1楽章の序奏は木管と少人数の弦で不安定な感じを絶妙に表現しています。スフォルツァンドはかなり鋭く、ダイナミックにクレッシェンドして長調の主部に突入します。スリリングでアクセントはしっかりつけて、このコンビならではの楽譜が透けて見えるような透明感のある演奏です。精緻でありながら、メリハリがとてもあってとても爽快です。第2楽章は少し速めでピリオド奏法らしいテンポ取りです。重厚さはまったくなく、軽妙で透明感のある音楽となっています。繊細に木管が美しい音色で歌っています。弦はとても精緻で、スイスの時計のようです。そういう意味でもハイドンの古典様式をしっかり受け継いでいる曲だと分かりますね。精妙に変化を付けつつ曲を進めていきます。
第3楽章はP.ヤルヴィはクライバーと違ってきちんと拍を振っています。それで第3楽章をきちんと振り抜くのは大変ですが、だからこそスコアを見ながらだと余計楽しめるというものです。きちんと振りぬいて、オケをしっかりコントロールしています。とてもスリリングです。第4楽章は凄い速さで物凄くスリリングです。C.クライバーも上回るスピードに聴こえます。そのテンポでも各パートは正確に演奏しきっていて、本当に驚きです。ファゴットもきちんと吹けているように聴こえます。このスピードでこれだけのクオリティのアンサンブルが出来るのはまさに奇跡的です。
重厚ではありませんが、ストイックで筋肉質なところもあり、交響曲第4番に相応しい名盤ですね。
ムラヴィンスキー=レニングラード・フィル
ムラヴィンスキーとレニングラート・フィルの録音です。ムラヴィンスキーはベートーヴェン交響曲第4番を得意曲としていて、ライヴ録音をいくつか残しています。確かにムラヴィンスキーとベト4は合いそうな雰囲気があります。その中でも来日した際の演奏が一番評価が高いです。
第1楽章は緊張感に満ちた序奏で始まり、主部に入ると速めのテンポでレニングラード・フィルの引き締まったサウンドが心地よいです。弦のエネルギーが素晴らしく、クレッシェンドもスリリングです。ベト4らしい、緻密さもあります。第2楽章は少し遅めで穏やかな表情の演奏です。アンサンブルのクオリティが高く、滑らかさにある音色が印象的です。クレッシェンドする箇所は思い切りダイナミックに盛り上がります。常に一定の緊張感があり、ある種の気品すら感じられます。後半は木管のソロのレヴェルが高く、生き生きとした演奏で、徐々に味わいが深まっていきます。
第3楽章は速めのテンポで躍動感があります。アンサンブルは綿密でとても正確でスリリングです。低弦から高弦まで一糸乱れぬアンサンブルです。中間部は少し落ち着いて素朴さがあります。第4楽章は凄い迫力です。リズミカルで緻密なアンサンブルは全く崩れることなく、オケ全体がここまで一糸乱れぬアンサンブルはなかなか聴けるものではありません。ダイナミックに盛り上がって曲を締めます。
ムラヴィンスキーとレニングラード・フィルはベートーヴェンによく合います。その中で、ひと際曲の完成度の高い名曲の第4番を完璧なアンサンブルで再現し、迫力ある名盤です。
アーノンクール=ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス
- 名盤
- 円熟
- 格調
- 古楽器
- 高音質
おすすめ度:
指揮ニコラウス・アーノンクール
演奏ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス
2015年5月8-11日,ウィーン,ムジークフェラインザール (ステレオ/デジタル/ライヴ)
アーノンクールと古楽器オケである手兵ウィーン・コンツェルトス・ムジクスとの演奏です。アーノンクールは『運命』では、かなりユニークなことをしていましたが、交響曲第4番は奇を衒わず充実した演奏になっています。もっともアーノンクールは円熟して『運命』もかなりの名演なので、多少奇を衒っていても充実した演奏になりますね。
全体的に少し遅めのテンポで、ゲネラル・パウゼを大きくとってスケールの大きな演奏になっています。古楽器オケなので響きも暖かみがあり、これも充実感につながっています。
第1楽章の序奏は不安な感じが付きまといますが、この演奏はそれに格調ある響きがプラスされています。これは古楽器オケだから、というのもあると思います。ソロや各パートのバランスも良く、コクのある響きです。主部に入ると強めにアクセントをつけてテンポは少し遅めですが、遅いとはあまり感じません。それだけ中身が濃いです。
第2楽章も格調の高さがあります。奇を衒った所はありません。その代わりに細かいアーティキュレーションがつけられ、リズムはしっかり鋭く演奏されています。アーノンクール=ウィーン・コンツェルトス・ムジクスの組み合わせで好調の時は、こういう演奏になりますね。例えば、ハイドンの交響曲第92番『オックスフォード』も素晴らしく格調高い演奏でした。
第3楽章は速めのテンポで指揮しています。この楽章はリズムがずっとシンコペーションだったり、ヘミオラがあったりして、きちんと演奏するのは難しいのですが、アーノンクールは慣れたもので、さらにアクセントを増やしたりしています。トリオは遅めにして、味わい深いです。第4楽章も速めのテンポで飛ばしています。スリリングですが、安定感がある演奏です。
全体的にカルロス・クライバーとは全く違った印象を与える演奏で、重厚さがあります。この聴き比べは面白いですね。
カラヤン=ベルリン・フィル
カラヤンとベルリン・フィルの1960年代の録音です。録音の音質は適度な残響があり、とても安定しています。
第1楽章は重厚でクオリティの高さが感じられます。不安定な響きをしっかりと再現しています。主部に入るとテンポは速めで、弦の張りのある音色が印象的です。フォルテではベルリン・フィルらしいダイナミックさがありますが、全体としては端正な演奏です。弦のキレのいいスフォルツァンドなど、粒の立ったティンパニのロールなど、聴いていて爽快です。第2楽章も大編成の音の厚みも印象的ですが端正さがあり、カラヤンにとっての第4番の位置づけが分かります。緩徐楽章らしい穏やかな演奏で、響きに暖かみがあります。
第3楽章は少し速めのテンポでリズミカルです。難しいリズムをとても安定したアンサンブルで聴かせてくれます。中間部も素朴さ、というよりは木管楽器のクオリティの高さが感じられます。第4楽章は少し速め位のテンポで、ベルリン・フィルなのでスリリングですが、C.クライバーのような熱狂ではなく、端正さと美しさを常に保っていると思います。難所のファゴットも完璧に決めていて、破綻は全くありません。ファゴットはこの位のテンポでも結構ギリギリなんだな、と思いましたけれど。ラストはダイナミックに曲を締めくくります。
重厚でダイナミックな響きを持っていた当時のベルリン・フィルですが、カラヤンはダイナミックになりすぎることなくコントロールし、端正さや美しさを併せ持った名盤となっています。
CD,MP3をさらに探す
演奏のDVD、Blu-Ray
ベートヴェンの交響曲第4番は非常にスリリングな曲で、映像で指揮ぶりや演奏を観ることでもとても楽しめます。特に第3楽章以降は、C.クライバーの踊る様な指揮ぶりには感服ですし、パーヴォ・ヤルヴィの正確なタクトにも脱帽させられますね。
カルロス・クライバー=アムステルダム・コンセルトヘボウ管
カルロス・クライバーとアムステルダムコンセルトヘボウ管の映像です。まず第1楽章からカルロス・クライバーの指揮ぶりに圧倒されます。リズム感に優れたカルロス・クライバーはただ踊る様に指揮しているだけではなく、音楽を完全に体現しています。
第3楽章は何度見ても表拍を振っていたと思ったら、裏拍のスフォルツァンドにアクセントをつけてみたり、ヘミオラを振ってみたり、裏拍を振ってみたり、、とバラエティに富んだ指揮ぶりで、数あるカルロス・クライバーの映像の中でも、『こうもり』序曲と同じ位、凄い指揮です。第4楽章はファゴットがギリギリですが、とてもスリリングで映像で観るとさらに凄いです。
ヤルヴィ=ドイツ・カンマー・フィル
パーヴォ・ヤルヴィとドイツ・カンマー・フィルの交響曲全集の映像からです。『運命』も素晴らしいですが、それに劣らず素晴らしい指揮ぶりを見せてくれるのが、第4番の第3楽章、第4楽章です。カルロス・クライバーのような踊る様な指揮ぶりではなく、パーヴォ・ヤルヴィはきちんと律儀に拍を刻んでいます。
きちんと拍を刻む、というのは一見当たり前に思えますが、必ずしも良いこととも言えず、オーケストラのペースでアンサンブルさせた方が正確な場合も多いです。指揮のテクニックが正確だからと言って、オーケストラが正確な演奏をするとは限りません。例えば、小澤⁼サイトウキネンオーケストラは拍を正確に刻んでいるのに第3楽章で少し混乱しています。カラヤンはオーケストラをドライヴする、と言っていて、正確に拍を刻むことはしていません。
パーヴォ・ヤルヴィはその危険を知りながら、あえてドイツ・カンマーフィルとのベートーヴェンでは、かなり細かい指揮をしていて、この第4番の第3楽章も芸術的、と言える位、正確なバトンテクニックを魅せてくれます。スフォルツァンドなどもきちんと振りぬいていて、とてもスリリングな映像です。
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楽譜
ベートーヴェン交響曲第4番の楽譜を列挙します。
ミニチュア・スコア
大判スコア
Beethoven: Symphonies Nos. 1,2,3 and 4 in Full Score
4.6/5.0レビュー数:57個