ハイドン 交響曲第104番『ロンドン』

フランツ・ヨーゼフ・ハイドン (Franz Joseph Haydn,1732-1809)作曲の交響曲第104番『ロンドン』ニ長調 Hob.I:104 (Symphony No.104 London D-Dur Hob.I:104)について、解説おすすめの名盤レビューをしていきます。最後に楽譜・スコアも挙げてあります。

特別有名なメロディは無いのですが、内容が非常に充実した交響曲です。特に第2楽章が素晴らしいです。アマチュアオーケストラでも良く演奏されますが、結構難しい曲です。

解説

ハイドン交響曲第104番『ロンドン』ニ長調 Hob.I:104について解説します。

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ハイドン最後の交響曲

交響曲第104番『ロンドン』は、2回目のザロモンコンサートのために作曲された一連の交響曲のうちの最後の交響曲です。

初演1795年4月13日にロンドンで行われました。5月4日という説もあり、その日に演奏された記録がありますが、交響曲全集のランドン版を作った研究家のロビンス・ランドンによれば、前者が初演だということです。

第2次ザロモンセットと104番

第2次ザロモンセットは編成が大きくなり、分かり易い趣向を凝らした交響曲が増えました。第100番『軍隊』第103番『太鼓連打』など、派手なパーカッションを売りにしたものや、第101番『時計』のように時計の精密機械のようなリズムを真似してみたり、という分かり易さです。第1次ザロモンセットで第94番『驚愕』が成功したため、ロンドンの聴衆に合う交響曲を作曲したのだと思います。

ただ、それは表面的なことで、交響曲の内容としても深化しています。展開部の長さや短調部分の強調など、いままでに無かったスケールと同時に端正さもあります。

最後の交響曲である交響曲第104番は、分かり易い小細工はなく、ダイナミックかつ格調の高い作品で、ハイドンの交響曲の中でもひときわ名作です。特に第2楽章の変奏曲は素晴らしく、そのクオリティはスコアを見ると一目瞭然です。

ブリュッヘン=18世紀オーケストラ

ハイドン交響曲第104番『ロンドン』の後、交響曲は書いていません。悠々自適に長生きした作曲家で、最後はオラトリオの名作を2つ残しています。一つは有名な『天地創造』、もう一つは超名曲の『四季』です。晩年の作品はいずれも深みのある名曲が多いです。そのため、ハイドンが第104番を書いたときに「これが最後の交響曲」と考えていたか、は分かりません。

『ロンドン』という愛称

『ロンドン』は愛称ですが、後の時代になってつけられたものです。理由は不明ですが、ロンドン・セットの代表的交響曲という意味かも知れません。ロンドンという大きな都市に見合ったダイナミックさと格調の高いフォルム、深みのある内容、確かにどれを取ってもロンドン・セットの代表作と言えると思います。

曲の構成

交響曲第104番『ロンドン』は、特別な分かり易い趣向もなく、正道を行く交響曲です。

交響曲第104番『ロンドン』

第1楽章:アダージョ~アレグロ
大胆でダイナミックな序奏から始まります。その後、テンポの速いソナタ形式の主部に入ります。ダイナミックですが端正さが感じられる名曲です。

第2楽章:アンダンテ
変奏曲形式です。メリハリのある変化の激しい変奏曲です。感情表現も変化が激しく、聴きごたえのある名曲です。演奏するととても難しいですけど。始まってすぐに木管が悲しげなメロディを演奏します。短調になり、激しく感情的な音楽が展開されます。

第3楽章:メヌエット
少しゴージャスなメヌエットとなっています。トリオは木管が複雑に絡み合います。

第4楽章:フィナーレ:スピリトーソ
ソナタ形式でテンポの速いフィナーレです。

おすすめの名盤レビュー

それでは、ハイドン作曲交響曲第104番『ロンドン』ニ長調 Hob.I:104名盤をレビューしていきましょう。

第104番『ロンドン』古楽器オケとモダンオケの中間位が丁度よい音楽です。ダイナミックなのでモダンオケでもある程度ピリオド奏法を取り入れれば十分名演になります。また、昔ながらのロマン派的演奏でも部分的にとても良い演奏になったりして、知名度の割に名盤の宝庫です。なので、ここに取り上げているのは、名演の頂点に近いものばかりで、星の数も増えますね。

アーノンクール=ロイヤル・コンセルトヘボウ管

ピリオド奏法で透明感があり、第2楽章を中心に目の覚めるような名盤
  • 名盤
  • 定番
  • 格調
  • ピリオド奏法

超おすすめ:

指揮ニコラウス・アーノンクール
演奏ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

1986-92年,アムステルダム (ステレオ/デジタル/セッション)

アーノンクールとロイヤル・コンセルトヘボウ管の名盤です。アーノンクールのハイドンは工夫に満ちていて、上手く行っている時と、そうでもない時があります。上手く行くと名盤ですが、この『ロンドン』の演奏は上手く行った代表格です。試行錯誤が全てハマっていますし、メリハリが良くついているため、この演奏を聴けば聴き所がすぐに分かり、第104番『ロンドン』が如何に名曲であるか、がとてもよく分かります。

冒頭のダイナミックさ、その後の主部のスケール第2楽章の激しい表現、第3楽章の華麗なメヌエット、第4楽章のスリリングな表現、など、他の番号でもこういう演奏をすれば、ロンドンセット全体が誰にも文句は言われない名盤になったでしょうね。そしてアーノンクールが良い演奏をしている時には、非常に格調が高い演奏になります。もちろん、これは曲調にもよりますが、しっかりした構造と内容、そして端正なフォルムを持つ第104番『ロンドン』は、うってつけです。アーノンクールは非常に格調の高い演奏で、他の演奏を寄せ付けないレヴェルです。同じような名演に交響曲第92番『オックスフォード』がありますが、この曲も近いうちにページを作りたいです。

この演奏を聴けば、今までハイドンの面白さに目覚めていなかった方も、開眼するかも知れません。『ロンドン』交響曲の凄さを知らないのは、とても勿体ないことなので、是非気に入った演奏を聴いてみてください。

クイケン=ラ・プティット・バンド

  • 名盤
  • 定番
  • 端正
  • 古楽器

おすすめ度:

指揮シギスヴァルト・クイケン
演奏ラ・プティット・バンド

1995年1月16-20日,オランダ,ハーレム,ドープスヘヅィンデ教会(ステレオ/DDD/セッション)

クイケンと手兵ラ・プティット・バンドによる録音です。クイケンはハイドンの前半は得意そうですが、ロンドンセットまで録音するとは思いませんでした。しかもこの録音は1995年と古楽器オケによるハイドンとしては比較的古い録音です。クイケンのハイドンは奇を衒うことなく、特にこの『ロンドン』に関しては、端正なフォルムが生きた演奏になっています。

第1楽章はテンポが速く引き締まった響きです。ある程度の編成の大きさを感じます。他の演奏に比べてアンサンブルが丁寧です。第2楽章はかなり遅めのテンポを取っています。強弱(デュナーミク)のメリハリがかなりありますが、アーノンクールほどのシャープさは無く丁寧さが目立ちます。テンポからするとモダンオケで慣れている人にも違和感が少ないと思います。第3楽章、第4楽章は速めでダイナミックで小気味良く端正な演奏です。

クイケンはロンドンセットとして、出来・不出来の差が少ないため、これ一つ持っていると標準的な古楽器オケのハイドンを聴けます。

ブリュッヘン=18世紀オーケストラ

ハイドンから味わい深さを引き出した名盤
  • 名盤
  • 定番
  • 芳醇
  • 古楽器

超おすすめ:

指揮フランス・ブリュッヘン
演奏18世紀オーケストラ

1990、92、93年(デジタル)

ブリュッヘン=18世紀オーケストラは、モーツァルトの交響曲で感情を入れた演奏をして、名盤を沢山残しました。ハイドンも基本的に同じ路線です。ただハイドンはそこまでロマン派的な感情表現が多くないので、モーツァルトほど上手く行くかな、と思いましたが、実際聴いてみるととても良い演奏です。ハイドンも感情的な要素は実は大きかったということですね。古楽器オケでここまで味わい深いハイドンは滅多に聴けません。

第1楽章バロック・ティンパニの強打でダイナミックに始まります。音質も良いですね。弦セクションの音色は透明で暖かみがあります。主部に入るとオケのトゥッティでダイナミックでリズミカルです。自然に感情的なエネルギーも入っています。格調の高さを維持したままで、感情を入れ過ぎないようにしています。第2楽章は非常に味わい深いです。テンポの変化がある訳ではありませんし、ロマン派風の表現もありません。しっかりした古楽器奏法です。しかし、暖かみがあり透き通った響きの中に、とても味わい深いものが感じられます。第3楽章トリオはとても味わい深いです。録音の良さが生きています。第4楽章は少し速めのテンポで引き締まったダイナミックさのある演奏です。

全体的に格調を失うことはないので、感情が入っている部分もロマン派の演奏とは全然違います。古楽器オケなので少し位、力を入れ過ぎてもハイドンの音楽を超えることはありません。晩年のブリュッヘンはモダンオケのピリオド奏法に力を入れていて、新日本フィルなどにも客演しました。この場合は、オケが力を入れ過ぎるとハイドンらしくなくなってしまうので注意が必要なんですよね。

カラヤン=ベルリンフィル

ハイドンをスコア通りに真摯に演奏、美しいフォルムの名盤
  • 名盤
  • 定番
  • 洗練
  • 端正
  • ダイナミック

超おすすめ:

指揮ヘルベルト・フォン・カラヤン
演奏ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

1980-1982年,ベルリン (ステレオ/デジタル/セッション)

モダン・オーケストラでもいくつかハイドンを聴きましたが、意外と良いのはカラヤン=ベルリンフィルでした。カラヤンらしい力強さもありますが、やはりスコアをきちんと音化するという姿勢がハイドンにあっているのだと思います。アーノンクール盤に見られるようにロンドン・セット、特に第104番『ロンドン』モダン・オケでも十分演奏できるダイナミックさがあり、他の曲と異なりハイドンにありがちなウィットが少ないので、こういう曲は小細工しないでスコア通りに演奏したほうが良いことが多いです。カラヤンの演奏で驚いたのは『パリ・セット』が非常に上手いことです。曲の良さがそのまま出ています。『パリ・セット』こそ古楽器オケに向いていると考えていたのですが、モダン・オケでも良い演奏が出来るんですね。

第1楽章はダイナミックでスケールの大きな序奏で始まります。テンポは標準的で特別遅くはありません。カラヤンも時代と共に演奏スタイルを変えてきているのか、全体的に速めのテンポ取りです。もっともカラヤンが録音した1982年頃は古楽器オケも登場し始めた頃なので、どの程度影響があったのかは不明です。速めのテンポでしっかりしたソナタ形式で演奏しきっています。この辺りのフォルムが素晴らしいです。第2楽章も緩徐楽章で。昔ならかなり遅めに演奏しそうですが適度なテンポです。メリハリも適度にあり、しっかりした土台の上で音作りがされているので聴きごたえがあります第3楽章は構築力があってゴージャスさが良く出ています。第4楽章はスケールが大きく速めのテンポで軽快です。

カラヤンのモーツァルト(『レクイエム』オペラを除き)はそれほどでもないので、ハイドンはベートーヴェンにつながる絶対音楽的な交響曲の作りが既にあるんでしょうね。それを強く感じさせてくれる名盤です。

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楽譜・スコア

ハイドン作曲の交響曲第104番『ロンドン』ニ長調 Hob.I:104の楽譜・スコアを挙げていきます。

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