モーツァルト フルート協奏曲第1番,第2番(K.313, K.314)

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト (Wolfgang Amadeus Mozart,1756-1791)作曲のフルート協奏曲第1番 ト長調 K.313 (Flute conerto No.1 G-dur K.313)およびフルート協奏曲第2番 ト長調 K.314 (Flute conerto No.2 D-dur K.314)について、解説おすすめの名盤レビューをしていきます。

モーツァルトは2つのフルート協奏曲を作曲しました。モーツァルトのフルート協奏曲はロココ調の王道を行くような名作であり、また親しみやすい名曲です。フルート協奏曲は2つありますが、このページでは第1番と第2番の両方とも取り上げたいと思います。フルート協奏曲第2番の人気が高く、管理人もアマオケで伴奏で演奏したことがあります。

解説

モーツァルトフルート協奏曲について解説します。

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マンハイム滞在

モーツァルトは1777年9月に母と共にザルツブルクを出発し、10月にマンハイムに到着します。当時のマンハイムは18世紀ドイツのプファルツ選帝侯国の首都マンハイムの宮廷において、カール・テオドール侯に仕えた音楽家たち(マンハイム楽派)がおり。ギャラント様式の有名な作曲家が何人かおり、オーケストラもあり、交響曲の発展に重要な役割を果たしています。シュターミッツカンナビヒがシンフォニアを作曲していました。目的地はパリでしたが、モーツァルトはマンハイムに4カ月ほど滞在しました。

マンハイム(ドイツ)

ドゥジャンからの依頼

そこで多くの音楽家と親しくなりましたが、その中にフルート奏者ヨハン・バプティスト・ヴェンドリングが居ました。フルート奏者ヴェンドリングを介してモーツァルトはオランダ東インド会社に勤務しフルートの愛好家であった裕福な医師フェルディナント・ドゥジャン(1731~97)からの作曲依頼を受けます。

ドゥジャンはモーツァルトに易しいフルート協奏曲4曲と四重奏曲3曲をモーツァルトに依頼しました。

フルート協奏曲の作曲

モーツァルトは早速作曲に取り掛かり、フルート協奏曲第1番が1778年1月~2月頃に作曲されました。
さらにフルート協奏曲第2番ニ長調 K.314ですが、こちらはオーボエ協奏曲 ハ長調のソロパートをニ長調としてフルート用に書き直した曲です。こちらも1778年1月~2月頃に作曲(編曲)されました。

また四重奏曲も3曲作曲しています。しかし、ドゥジャンは協奏曲が2曲しかないことと、オーボエ協奏曲からの転用を理由に、モーツァルトは約束の報酬を半分以下しか受け取れなかった、ということです。

モーツァルトの手紙

モーツァルトはフルートをあまり好きでは無かったようです。その理由は音程が不安定だから、のようですが、確かに現在のフルートとは違い、当時のフルートは金属製ではなく木製で、暖かみのある音色で「フラウト・トラヴェルソ」と呼ばれていました。暖かみのある音色ではありますが、トラヴェルソは吹き方によって音程が変わりやすく、また倍音が多く音程が少し曖昧でした。(古楽器全般的にこんな感じですけれど。)
この逸話は「モーツァルトの手紙」にも出てきますが、ドゥジャンから十分な報酬を受け取れず、つい書いてしまったのでは?と思える文章です。

後世の評価

手抜きしたと言われているオーボエ協奏曲から転用したフルート協奏曲第2番は特に有名な作品として演奏され続け人気曲となっています。

気が進まなかったと言われている四重奏曲も3楽章構成のフルート四重奏曲ニ長調 K.285は高く評価され、フランスの劇作家で詩人のアンリ・ゲオンは第1楽章を「疾走する悲しみ」モーツァルトの本質を表すような有名な言葉を残しています。

フルート協奏曲第1番 ト長調 K.313

構成
全3楽章から構成されています。演奏時間は約25分です。親しみやすいだけではなく、この時期のモーツァルトの作品としても芸術的に素晴らしい曲です。フルートらしいロングトーンがきれいに響き、フルートのために作曲したことが良く分かる気がします。

第1楽章:アレグロ・マエストーソ
協奏風ソナタ形式です。第1主題がオケで演奏され、独奏のフルートは通常2回目の第1主題をオケと一緒に演奏するのですが、この協奏曲では第1主題をフルート独奏が演奏することはありません。これは当時の協奏曲としては異色のことです。再現部にカデンツァがあります。

第2楽章:アダージョ・ノン・トロッポ
ソナタ形式です。再現部にカデンツァがあります。
この楽章はアマチュア・フルート奏者のドゥジャンには手に負えないものでした。そのためモーツァルトはその代わりとなる曲として「フルートのためのアンダンテハ長調」を作曲し、第2楽章の代用として演奏するように、と書き残しています。そのためこの協奏曲はドゥジャンではなく、フルート奏者ヴェンドリングを想定して書いたのではないか、と言われています。

第3楽章:ロンド、テンポ・ディ・メヌエット
ロンド形式です。最後の部分にフルートの技巧的な部分が出てきます。

編成
独奏フルート
ヴァイオリン2部、ヴィオラ、低弦(チェロ、コントラバス)
オーボエ×2(フルート×2)
ホルン×2

フルート協奏曲第2番 ニ長調 K.314

構成
全3楽章から構成されています。演奏時間は約20分です。両端楽章は細かい跳躍のパッセージが多く、オーボエ協奏曲らしい気がします。

第1楽章:アレグロ・アペルト
協奏風ソナタ形式です。再現部にカデンツァがあります。

第2楽章:アンダンテ・マ・ノン・トロッポ
やや自由なソナタ形式です。ロンド形式と見ることもできます。
展開部は短く、フルートのカデンツァ風の音楽となっています。

第3楽章:アレグロ
ロンド風ソナタ形式です。この楽章が一番有名でしょうか。再現部の後にカデンツァがあります。

編成
独奏フルート
ヴァイオリン2部、ヴィオラ、低弦(チェロ、コントラバス)
オーボエ×2、ホルン×2

おすすめの名盤レビュー

それでは、モーツァルト作曲フルート協奏曲名盤をレビューしていきましょう。

Fl:パユ, アバド=ベルリン・フィル

パユのまばゆい音色を活かしたセンスの良い名盤
  • 名盤
  • 定番
  • 品格
  • 透明感
  • 高音質

超おすすめ:

Flエマニュエル・パユ
指揮クラウディオ・アバド
演奏ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

1996年 (ステレオ/アナログ/セッション)

エマニュエル・パユのフルート独奏とアバド=ベルリン・フィルの録音です。音質はしっかりと安定していて、パユのまばゆいフルートの音色を良く捉えています。

フルート協奏曲第1番第1楽章パユの輝きのある音色が存分に楽しめます。アバドとベルリン・フィルは軽快な演奏で、フルートを邪魔することなく、小気味良い演奏を繰り広げています。フルートの息の長いメロディでは清潔感のある音色第1番の良さを感じます。カデンツァ小気味良く動き回る様な演奏で、品格も感じられる名演です。第2楽章はオケの響きに透明感があり、フルートも繊細さを併せ持った透明な音色を聴かせてくれます。第3楽章は少し速めのメヌエットです。ベルリン・フィルの弦も生き生きしています。パユは細かいパッセージでも繊細さを持って味わい深く聴かせてくれます。

フルート協奏曲第2番の方はオケの前奏から繊細さがあり、スマートな演奏です。パユのフルートは繊細さとリズム感がしっかりした伴奏の上で、軽快に小気味良く歌います第2楽章はオケによる軽妙な前奏に導かれ、フルートが入り息の長いメロディを、清涼感のある響きで味わい深く聴かせてくれます。第3楽章は速めなテンポですが、オケはリズミカルかつ繊細で、パユの繊細さのある音色を存分に聴かせてくれます。カデンツァでは小気味良く音階を駆け回ります

エマニュエル・パユのフルートの音色の良さが存分に発揮され、解釈もセンス良く一番スタンダードな名盤です。幅広くお薦めできるディスクです。

Fl:ゴールウェイ, バウムガルトナー=ルツェルン弦楽合奏団

ゴールウェイの軽快で生き生きしたフルートがモーツァルトによく合う名盤
  • 名盤
  • 定番
  • 軽快
  • 艶やか
  • スリリング

おすすめ度:

フルートジェームズ・ゴールウェイ
指揮バウムガルトナー
演奏ルツェルン弦楽合奏団

1974年9月26-29日,ルツェルン近郊,セオン (ステレオ/デジタル/セッション)

ジェイムズ・ゴールウェイのフルート独奏、バウムガルトナーとルツェルン弦楽合奏団の録音です。音質はオケが少し硬く、1974年ならもう少しクオリティの高さがあっても良い気もします。ゴールウェイのフルートはしっかり録音されているので、十分楽しめると思います。

ジェイムズ・ゴールウェイのフルートはとても軽快で細かいパッセージも完璧に吹きこなすことが特徴です。細かい音符まで躍動感があり、とても生き生きとした演奏で聴いていて爽快です。バックのバウムガルトナーとルツェルン弦楽合奏団はロココ調を得意とする組み合わせですが、今聴くと大編成でダイナミックさを感じてしまいます。

フルート協奏曲第2番第1楽章はゴールウェイの良さが良く出た名演で、カデンツァでは華麗さと躍動感が素晴らしく聴いていてとてもスリリングです。第2楽章は息の長いカンタービレを自然に演奏していますが、細かいヴィブラートがかかっていて、とても生き生きとしています。華麗なカデンツァもゴールウェイらしいです。第3楽章はオケもロココ調な演奏を聴かせてくれます。テンポは中庸ですが、細かいパッセージが心地よく響きますカデンツァは圧倒的な演奏で、圧倒されます。

フルート協奏曲第1番は美しく滑らかなメロディを、神々しさすら感じさせる音色で演奏していきます。第2楽章はオケとフルートの絡みが上手く、良い響きを生み出しています。心ゆくまでゴールウェイのフルートが楽しめます。第3楽章はメヌエットらしいリズムで速めのテンポで始まります。ゴールウェイもリズミカルで生き生きとした音色を聴かせてくれます。

ゴールウェイのフルートはモーツァルトに相応しい小気味良さで、この曲を聴くなら外せない名盤です。

Fl:ヒュンテラー, ブリュッヘン=18世紀オーケストラ

1720年製木管フルートの味わい深い音色に自然体の18世紀オケ
  • 名盤
  • 定番
  • 古楽器

超おすすめ:

フルートコンラート・ヒュンテラー
指揮フランス・ブリュッヘン
演奏18世紀オーケストラ

1991年9月,1993年5月,ユトレヒト,フレデンブルク (ステレオ/デジタル/セッション)

古楽器での演奏です。フルートはコンラート・ヒュンテラー、ブリュッヘンと18世紀オーケストラの録音です。録音はしっかりした音質です。使用楽器は1720年製木管フルートでトラヴェルソではないのかも知れません。

フルート協奏曲第2番第1楽章は古楽器オケなので遠慮しなくても普通に演奏するとモーツァルトらしい軽快さが出てきます。とても自然なモーツァルトです。フルートが入ると少しくぐもったトラヴェルソらしい音色です。細かいパッセージだとモダン楽器のような躍動感が出にくいですが、暖かみのある音色で曲に自然に馴染みますそれでもカデンツァでは細かいパッセージも多く、ニュアンスに富んだ音色で演奏しています。第2楽章は若干速めの古楽器らしいテンポです。木製らしい響きで、とても味わい深いです。ブリュッヘンもうまくオケをコントロールして、フルートとオケの絡みも良いです。カデンツァでは自然な高音域の音色を堪能できます。第3楽章フルートもオケも小気味良く、ブリュッヘンらしく練られた演奏です。トラヴェルソと古楽器のホルンの音色は良く合い、トラヴェルソとオケが上手く絡み合っています。最後のカデンツァこのフルートの表現力を最大限引き出したような演奏です。

フルート協奏曲第1番は冒頭のオケから味わい深さがあります。モーツァルトらしい凝ったモチーフを軽妙に演奏しています。フルートは息の長いメロディを気持ちよさそうに吹いていきます。とても丁寧で味わい深さのある演奏です。カデンツァ美しい音色でとても清涼な演奏です。第2楽章はフルートは清潔感のある演奏で、息の長いメロディで音色の良さをじっくり味わえます。カデンツァはさらに味わい深いです。第3楽章は18世紀オケだけに本物のロココ調のメヌエットです。フルートは細かいパッセージでも響きの柔らかさは変わらず、メヌエットのリズムに乗って品格のある演奏を繰り広げていきます。

やはり古楽器での演奏は一度は聴いてみるべきですね。木製フルートは、現代の金属フルートのような小気味良さやまばゆい音色とは大分違い、どんなに細かいパッセージを吹いてもその柔らかい音色は変わりません。その結果、どこをとっても味わい深い名盤となっています。

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演奏のDVD,BluRay

演奏の映像がいくつかリリースされています。パユ、ゴールウェイ、ランパルらの演奏を観ることができます。

Fl:パユ,ヤンソンス=ベルリン・フィル

  • 名盤
  • 定番

Flエマニュエル・パユ
指揮マリス・ヤンソンス
演奏ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

2001年5月1日イスタンブール,聖イレーネ教会 (ステレオ/デジタル/ライヴ)

ハイドン、モーツァルト、ベルリオーズと多彩なプログラムですが、モーツァルトのフルート協奏曲第2番がパユのフルートで楽しめます。ヤンソンスとベルリン・フィルの演奏も実に丁寧です。映像も良く、パユのフルート演奏が良く見えるカメラワークです。

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楽譜・スコア

モーツァルト作曲のフルート協奏曲の楽譜・スコアを挙げていきます。

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