
解説
ハイドンの交響曲第83番『めんどり』について解説します。
ハイドンはハンガリーの貴族エステルハージ家の副学長として70曲以上の交響曲を作曲してきました。20~30人で構成されたオーケストラが常設されており、オペラハウスまでありました。しかし、家長が子供に相続された際に、後継者はあまり音楽好きではありませんでした。
有名な曲はほとんどありませんが、ハイドンはずっと4楽章形式の交響曲を作曲しつづけていました。そしてシュトゥルム・ウント・ドラング(疾風怒濤)期を経て、交響曲のスタイルを確立してきました。
エステルハージ家から世に出たハイドン
交響曲第83番はパリセット(第82番~第87番)の中の一曲で、小編成ですが大分円熟してきた時期の作品です。パリセットはフランスからの注文です。
このころからエステルハージ家から離れて最終的には2つのロンドンセットを作曲して、貴族というより市民に向けて「時計」「ロンドン」「驚愕」「軍隊」など、有名な交響曲を作曲していくことになります。
パリセット
パリセットは後年のロンドンセットと比べられてしまうと、小規模で有名な曲もありません。でもパリセットはとても円熟した作品群であり、良い演奏で聴くととても面白い作品ばかりです。
第82番 ハ長調『熊』 Hob.1-82
第83番 ト短調『めんどり』Hob.1-83
第84番 変ホ長調 Hob.1-84
第85番 変ロ長調『王妃』 Hob.1-85
第86番 ニ長調 Hob.1-86
第87番 イ長調 Hob.1-87
中でも第82番「熊」と第83番「めんどり」は、分かりやすい名曲です。力強い動機から始まる「熊」、めんどりの鳴き声も模したような「めんどり」など、とても分かりやすいのです。もちろん、いずれも標題音楽ではなく、ハイドン自身が意識して作曲していたかどうかは分かりません。
ユニークな交響曲「めんどり」
パリセットはCDで買っても一緒になっている場合が多いので、全曲一気に聴いてしまうことをお薦めします。でもここでは、一番ユニークな第83番「めんどり」に特にフォーカスしてみたいと思います。
この曲は、なぜか短調なのです。ハイドンの作品は長調が多いですが、この曲だけは短調で情熱的に始まります。しかし、第2主題に来ると例のめんどりの鳴き声のような、機械仕掛けの時計や人形を思わせるユニークな音楽に変わります。とても精緻でハイドンらしい音楽で、後年の「時計」の第2楽章を思わせますね。
第2楽章以降も名曲続きで、交響曲全体の流れがとても良いです。第4楽章もユニークな音楽ですね。ハイドンが何を考えてこの音楽を作曲したのか知る由もありませんが、軽妙で親しみやすい名曲です。
おすすめの名盤レビュー
ハイドン作曲の交響曲第83番『めんどり』の名盤をレビューしていきましょう。
ノリントンとチューリヒ室内管弦楽団の録音です。お薦めCDはやはりピリオド奏法の演奏家によるものになります。ハイドンといえばノリントン。ノリントンはハイドンの生まれ変わりなんじゃないかと思ってしまうくらい、面白い演奏を繰り広げてます。わざとらしいことはせず、インテンポで演奏しています。特に変わったことはやっていないのですが、とても楽しめるのです。メリハリが良くついていて、引き締まったリズムが心地よいです。
別の演奏ですがYouTubeを貼っておきます。ちょっと画質・音質が悪いのですが良い演奏です。もちろん上記のCDは良い音質です。
アーノンクール=ウィーンコンツェルトムジクス
アーノンクールと手兵ウィーンコンツェルトムジクスは良質で楽しめる演奏をリリースしています。凝ったジャケットから感じられる期待を全く裏切らない楽しく、かつクオリティの高い演奏です。音質も非常によく、残響も適切です。
テンポは大分動かしていてアーノンクールらしいですが、バロック・オケなので、軽快な上に気品が感じられます。パウゼ(休み)を少し長めにしてみたり、テンポを速めてスリリングに表現したり、と様々な表情がある演奏です。そして、とても楽しく聴けることもポイントです。やはりパリセットは市民向けに書かれたのでしょうし、非常に親しみやすさを併せ持った演奏ですね。
指揮者なしのオーケストラであるコレギウム・アウレウムによる演奏。指揮者なしなので作為的なところは一切なく、インテンポで演奏されています。それでもパリセットの面白みは十二分に伝わってくる名演奏です。本来、この時期の交響曲というのは、ロマン派などと違って指揮者なしでも楽しめるように作曲されているのですね。ノリントンやアーノンクールよりも少し前の演奏様式なので、第2楽章は遅めですし、モダンオケを中心に聴いている方でも自然に楽しめると思います。
カラヤンとベルリン・フィルの録音です。ハイドンのパリセットといえば、スケールの大きいイメージのあるカラヤンとは全く合いそうにありません。でも、実際聴いてみると、カラヤンはすでに晩年で円熟しています。ロマン派的な押しの強さは全くありません。あくまで譜面通りにきちんと演奏しています。ベルリンフィルもコンパクトなサウンドで、このコンビにはこんな演奏もできるんだなと感心させられます。
やはりハイドンは、ベートヴェンやブルックナーと並ぶ絶対音楽の巨匠ですから、カラヤンがきちんと取り組めば悪い演奏になることなんてありません。面白く演奏してやろうとか、そういう邪心は全く感じられず、非常に質の高い演奏だと思います。
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ハイドン作曲の交響曲第83番『めんどり』やパリセットのスコア・楽譜等を挙げていきます。