ベートーヴェン 交響曲第9番『合唱』Op.125

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン (Ludwig van Beethoven, 1770~1827)作曲の交響曲 第9番 ニ短調 作品125 『合唱付き』(Sinfonie Nr. 9 d-moll op. 125 Choral) の解説と、評判の良い名盤をレビューしていきます。 『第九』『合唱』などの愛称で呼ばれ、年末にアマチュア合唱団なども含めて第九のコンサートが行われるなど、広く親しまれています。

1万人第九のコンサートなどは世界的にも有名になりました。初演もプロ・アマ混成で行われていますし、ベートーヴェンの思想にも相応しいですね。

私が子供の頃は5000人の第九でした。
もう何十年も続いている、日本以外ではありえない1万人の第九です。
800万回再生、約10万の「イイね」は凄いです。

解説

ベートーヴェン交響曲第9番『合唱付き』を解説します。

ベートーヴェンは『運命』『田園』と同じころ、『合唱幻想曲』という作品を作曲しています。これは交響曲第9番の原型と言われています。

交響曲に合唱を持ち込むという試みは、既に他の例が発見されているため、初めて、という訳ではないようです。交響曲第6番『田園』も先例があり、CDも出ています。ベートーヴェンが先例を知っていたかどうか分かりませんが、知っていたとしても余程の名作でない限り、あまり参考にしなかったと思います。

この曲は、交響曲の作曲家であると共に対位法の作曲家であるベートーヴェンの総決算だからです。

作曲

1815年ごろからベートーヴェンは作曲を開始しました。第九の作曲については様々なことが言われています。例えば、7番、8番、9番は3連作として作曲される予定だったなどです。

しかし実際は、1814年以降10年間は、フランス革命に端を発した貴族の没落により、交響曲の需要が減ってしまったこともあり、バッハの「平均律クラヴィーア曲集」を勉強し、対位法に強い影響を受けた『ハンマー・クラーヴィア』ソナタや宗教音楽である『ミサ・ソレムニス』など、ベートーヴェンの作曲技法に対しては、かなり重要な作品を作曲していました。

そして、1822年52歳の時にロンドン・フィルハーモニック協会から新しい交響曲の作曲依頼を受けます。実は、交響曲第8番を作曲する前の1809年頃から第九のスケッチが存在するため、第九のアイデアは10年以上も前からあった可能性があります。上述の7番、8番、9番が連作として構想されていた可能性は十分あるのですね。

確実に言えることは、交響曲から離れていた10年間の間も、交響曲に対する作曲意欲が衰えていたわけではない、ということです。

自分が貧乏でなかったら無報酬でも作曲したいところである

との言葉が残っています。

「シラーの詩」に至っては、1790年に作曲したカンタータでもその思想を思わせる歌詞を使っています。実にベートーヴェンが若いころからのライフワークともいえます。

さてWikipediaによれば、当初は2曲並行して作曲する予定だったようですが、

しかしさまざまな事情によって、交響曲を2つ作ることを諦めて2つの交響曲のアイディアを統合し、現在のような形となった。

Wikipediaより

依頼から2年後の1824年に初稿が完成し、その後、何度も手直しして、1824年5月7日に初演が行われました。

初演と評価

第九初演はプロ・アマチュアの混成で、弦楽器のみで50人、管弦楽トータルで80~90人、合唱は40人という説と80人という説があるようです。とにかく当時としては大人数だったということですね。しかし、当時のオケだと合唱80人ではオケが聴こえなくなりそうです。

ウィーンのケルントナートーア劇場において、ミヒャエル・ウムラウフの指揮も下で行われました。練習不足と歌手が若手であること、直前に2人が変更になったこと、アンサンブルの崩壊を防ぐためピアノが入ったこと、などがWikipediaに記載されています。

そして一番面白い逸話というべきか、耳が完全に聴こえなくなってしまったベートーヴェンは、指揮者のウムラウフと共に指揮台に上がり、ウムラウフに対してテンポを指示したということです。初演時に作曲家が練習に立ち会って意見を交換するのは当然ですけど、指揮者の二人羽織って、本当だったのですかね。

それでも第九初演は大成功でした。しかし、聴衆の拍手が聞こえなかったベートーヴェンは初演を失敗と勘違いし、しばらく聴衆のほうへ振り返らず、ウムラウフに促されてやっと初演の成功を知ったという逸話があります。(これは有名な逸話かもしれませんね。)

楽曲構成

第九では交響曲に合唱を組み入れるという構想を実現するため、ベートーヴェンはあらゆる作曲技法を組み合わせています。それこそ、交響曲、オラトリオ、オペラの様々な技法を組み合わせています。

前半3楽章はこれまでベートーヴェンが築き上げてきた交響曲がベースとなり、スケールを大きくしたものです。

あまり難しい話は避けますが、第4楽章は長いうえにストーリーがあります。それを頭に入れておくと5分程度の音楽にわけて聴くことができます。

第1楽章~第3楽章

第1楽章が弦のトレモロで幻想的に始まるのは特徴的で、弦のロングトーンから始まる曲はよくあるのですが、トレモロに変えたことで神々しい音楽となっています。これは後年、ブルックナーに大きな影響を与えています。ブルックナー開始はここから来ています。

また第2楽章にスケルツォを置き、第3楽章を緩徐楽章としたことで、第4楽章に管弦楽のみの序奏的な音楽を置くことが出来ました。

第4楽章

第4楽章はチャレンジングな楽章となりました。ここに合唱を入れるために、ここまでの3楽章を作曲してきたわけですが、第4楽章もすぐに合唱が入るわけではありません。

♪第0部:管弦楽のみ

第1楽章から第3楽章の回想から始まります。勝手に第0部と命名しました。

この部分は管弦楽のみよるレチタティーヴォという非常に独創的で矛盾した音楽です。レチタティーヴォは通常オペラやオラトリオで歌手がセリフを語るときに使用される形式です。第4楽章はまずオペラから引用してきた様式で、合唱が出るまでの準備をしているのです。

歌手や合唱がいるのに管弦楽によるレチタティーヴォというのはとてもユニークです。弦楽器がセリフを語るように演奏しますが、楽器ではセリフは言えませんから、難しいし聴いているほうも物足りないですね。

第4楽章の1/3にさしかかるころ、低弦によりpで『歓喜の歌』のメロディが提示されます。そしてカノンの技法により、徐々に参加するパートが増え、最後にはオーケストラのトゥッティとなります。すなわち管弦楽のみの『歓喜の歌』です。

合唱の登場

「管弦楽のみでは物足りない」ついに合唱が入る下地が整いました。

合唱が入るとそこから先は、対位法が中心となり、バッハやヘンデルから学んだ技法を一気に放出しています。しかし、その外側を大きく見ると、3部形式 (または2部形式)で、(いびつですが)展開部なしのソナタ形式とみることも出来ます。

堅固な形式の中で、対位法などの古い音楽様式が使用されていきます。ベートーヴェンが知っていたバッハの作品は、鍵盤など器楽曲が多かったため、主にヘンデルのオラトリオをベースにしていると思いますが、それだけでは説明できません。オラトリオは小さな楽曲が連続して出来ています。交響曲の様式と対位法の様式をベートーヴェンなりに解釈して、合成させて昇華した音楽といえます。

♪第1部

『歓喜の歌』が管弦楽で演奏されましたが、最初の強烈な音楽によって引き戻されます。この後、初めてバリトンの歌唱が出てきてレチタティーヴォ「おお友よ、このような音ではない!」と歌います。ここまで管弦楽による第1楽章~第3楽章までの音楽が回想され、『歓喜の歌』を演奏してきたわけですが、最初の歌詞はここまで演奏してきた管弦楽だけの音楽をいきなり否定しています。

そして『歓喜の歌』が合唱を含めて再度演奏されます。全体の流れを見ると、ここまでの音楽は、このために作曲されてきたといっても過言ではないと思います。このセクションの最後は合唱のキツいロングトーンで有名ですね。

第1部は先ほどの合唱による『歓喜の歌』から始まり、対位法を用いた音楽が展開されていきます。

後半は6/8拍子の軍隊風の「行進曲」になります。シンバルなど打楽器群を用いた行進曲は壮大に盛り上がっていきます。その後、管弦楽のみの複雑で力強く、苦悩に満ちたフガートが演奏されます。このフガートはオーケストラセクションでは難しくて有名な「間奏」で、第九の中でも凄い厳しさを伴った音楽で、バッハの影響が伺えます。

♪第2部

トロンボーンによる荘重なコラール風の新しい旋律が登場します。「抱擁の詩」です。さらに「創造主の予感」が引き続き歌われます。ソナタ形式で見た場合はこれが第2主題でしょうね。(調性未確認)

♪第3部

有名な「ドッペルフーガ」(二重フーガ)に入ります。2つの主題を持つフーガのことです。ここでは「歓喜」と「抱擁」の2つの主題によるドッペルフーガです。ソナタ形式で見ると第1主題と第2主題のドッペルフーガになるので、ちょっと無理がありそうです。

速いテンポの2拍子となり、4人の独唱が「歓喜の歌」をフーガ風に歌います。そこに合唱が入ってきます。また4人の独唱のアンサンブルに戻り、独唱はここで終わりです。曲調も終わりに近づいたことが感じられます。

最後は、Prestoでクライマックスを築いていきます。4小節間マエストーソとなり、最後に「歓喜の歌」を合唱で歌い上げた後に、管弦楽のみPrestoに戻り曲を閉じます。

おすすめの名盤レビュー

ベートーヴェン作曲の交響曲第9番『合唱』(通称『第九』)の名盤をレビューしていきます。

フルトヴェングラー=バイロイト祝祭管弦楽団(バイエルン音源)

  • 歴史的名盤
  • ライヴ
  • モノラル

超おすすめ:

ソプラノエリザベート・シュワルツコップ
アルトエリザベート・ヘンゲン
テノールハンス・ホップ
バスオットー・エーデルマン
合唱バイロイト祝祭合唱団
演奏バイロイト祝祭管弦楽団
指揮ヴィルヘルム・フルトヴェングラー

1951年7月29日,バイロイト,フェストシュピールハウス

icon アマゾンミュージックUnlimitedとは?

フルトヴェングラーと言えば、というか「第九」といえば、バイロイトの演奏、というくらい有名です。戦後、復活された1951年の演奏がやはり力強く感動的です。ちなみにバイロイトはもう一つあります。バイロイト1953年の演奏です。どちらも良いですが、まずは1951年ですね。

ウィーンフィルやベルリンフィルとの演奏も名演ですが、迫力とか気合いでいえば、やはりバイロイト盤のほうが上です。ちなみにバイロイトの第九は、2000年代に入って、本物が発見され、いままでのCDは実はリハーサルだった可能性が高いということです。

世紀の再発見!待望の一般発売!

バイエルン放送音源による「バイロイトの第九」登場!

録音:1951年7月29日バイロイト音楽祭ライヴ・音源:バイエルン放送

「レコード芸術」2007年9月号(※詳細はP.70~74、P.211~214をご参照ください)にて大きく取り上げられた、フルトヴェングラー・センター盤「バイロイト第九」。そもそも会員向け頒布という性格のため、同センターへの入会が必須条件という特殊CDでしたが、弊社とORFEOとの粘り越しの交渉の末このたび市販流通化が実現しました。EMIとはちがう、フルトヴェングラー1951年「バイロイト第九」のまったく新たなソース。演奏内容についてはすでに折り紙つき。このバイエルン放送音源による録音の意味はいくら言葉を費やしても尽くせません。ぜったいに、間違いなく、ことしの第九はこれでキマリといえましょう。

ADD;モノラル [コメント提供;(株)キング・インターナショナル]

タワーレコード

それでも、あれだけ凄みがあるわけですから凄いですね。リハーサルは、会場の響きを確認したり、と言ったことが目的で、気合は本番に取っておく場合が多いと思いますが、バイロイトの場合はリハの段階から、それだけ凄みのある演奏だったわけです。

第4楽章で大きくずれて居た合唱とオーケストラがきちんと合っています。その代わり、合唱が天上で歌っているような独特の響きがなくなって、普通のライヴになっている感じです。フルトヴェングラーはダイナミクスがかなり大きいのでマイクの位置を変えたのかも知れません。

第1楽章は、今までと印象は変わりません。バイロイト祝祭管弦楽団のヴィブラートが強く、ダイナミックな響きはきちんと捉えられていて、充実した演奏です。特に後半盛り上がってくるのはライヴゆえでしょうか。

第2楽章もダイナミックでテンポを見てもフルトヴェングラーらしいですね。テンポはEMI音源と同じです。

第3楽章は、ウィーンフィル盤などと比べても味わいがあると思います。基本的にはオケの違いだと思いますけど。

第4楽章は録音の悪さはEMI音源と変わりませんが、縦の線がきちんと合っているので、これが普通のライヴ録音だと思います。オケもきちんと採れていますし、合唱もばっちりです。ただ、EMI音源は上のほうから合唱が響いてくる感じがあったのに比べ、この音源では普通に同じ舞台上にいるのが分かります。残響が減っていたりして、神々しい部分も少なくなっている気がします。

テンポはEMI音源と同じです。最後の畳み込むような盛り上がりはバイロイト独特で、かなりの迫力です。最後の拍手はありません。

EMI音源で刷り込みがある人は、意外と物足りなく感じる気がします。録音の問題ですが、音の密度もEMI音源のほうが濃く感じます。EMI音源にあった特別な響きが少なくなっていて、名演ではあるのですが、普通のライヴの名盤になっているように聴こえるかも知れません。

筆者はウィーン・フィルで刷り込んであるので、どちらを聴いてもダイナミックで、粗い演奏に聴こえますけれどね。

フルトヴェングラー=バイロイト祝祭管弦楽団, 他(EMI音源)

  • 歴史的名盤
  • ライヴ
  • モノラル

超おすすめ:

ソプラノエリザベート・シュワルツコップ
アルトエリザベート・ヘンゲン
テノールハンス・ホップ
バスオットー・エーデルマン
合唱バイロイト祝祭合唱団
演奏バイロイト祝祭管弦楽団
指揮ヴィルヘルム・フルトヴェングラー

1951年7月29日,バイロイト,フェストシュピールハウス

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リハーサルかも知れないと難癖をつけられた格好のバイロイト第九のEMI音源ですが、長年名盤として親しまれてきたのは意味があってのことです。リハであってもこれだけ凄い演奏なんですから。

第1楽章はバイロイト祝祭管弦楽団のダイナミックな響きが印象的です。弦楽セクションなどのまとまりはウィーンフィル盤のほうが綺麗ですが、バイロイト祝祭管弦楽団は迫力があります。ウィーンのムジークフェラインとバイロイト祝祭劇場の違いもあると思います。バイロイト祝祭劇場は中に入ったことはありませんが、外から見ても木造の建物で響きにこだわったホールという印象でした。本当に音響がいいようですね。

第2楽章もダイナミックです。ウィーンフィルとはテンポが少し違います。トリオはバイロイトが遅いです。ウィーンフィル盤のほうが、すっきりしています。

第3楽章は遅いテンポで、ウイーンフィル盤より輪郭がはっきりしています。大きなヴィブラートもこのバイロイト祝祭管弦楽団の特徴ですね。遅いテンポで味わい深い演奏です。

第4楽章は冒頭からレチタティーヴォはちょっとこの録音の悪い所が出ているように思います。録音のせいもありますが、ちょっと荒さが目立ちます。残響のせいかも知れませんが、何か不安定な感じがします。

テノールは良いです。合唱はかなりズレがありますね。これはバイロイト祝祭劇場の音響の問題かも知れません。オケピットが客席の下にあるので、時間差があるらしいです。第九ではオケも合唱も当然舞台上にいるわけですが、合唱が随分遠い感じで、6/8に入ってもテノールは合わせるのが大変そうです。マイクの位置や、オケピットが残響に悪さをしているのかも知れませんねぇ。その後のオケの間奏は凄い迫力です。

ドッペルフーガに入っても合唱のズレが目立ちますね。フルトヴェングラーは結構速めのテンポで演奏しているので、舞台上ではあまり実感は無いのかも知れませんけど。

最後に向かって、どんどんテンションがアップしていきます。大分ズレがあるように聴こえますが、テンポもどんどんアップして行き、大迫力です。確かにリハーサルとは思えません。最後の速さは半端じゃないです。拍手も演奏が終わってすぐに大拍手ですが、フライングしていない所が凄いです。(なんか、わざとらしい)

フルトヴェングラー=ウィーン・フィル

  • 名盤
  • 定番

おすすめ度:

ウィーン国立歌劇場合唱団
指揮:ウィルヘルム・フルトヴェングラー,ウィーン・フィルハーモニー

録音:1952年,ウィーン(ライヴ)

ヴィルヘルム・フルトヴェングラーとウィーンフィルの名高い第九です。

ウィーン・フィルの透明感のある響きを活かした神々しさのある名演で、筆者は昔からフルトヴェングラーと言えばこちらの演奏を聴いていますが、聴けば聴くほど素晴らしさが身に染みる名演です。ライヴ録音のため段々と感情が入って盛り上がってきます。LPで聴くのほうがリアリティのある響きになりますね。

実は筆者が中学の時に買ったLPです。バイロイトの第九を買いに行って、間違えたのです。回数的には一番これを聴いていますので、とても懐かしいです。買って初めて再生した時には、あまりの下手さにオーディオの調子がおかしいのかと思い、次にレコードが不良品なのかも?と思いました。当時のウィーンフィルはこれでも上手い方だった、ということを後になって知ることになります。

第1楽章は、遅いテンポで始まり、段々速くなってきます。ライヴのせいか、盛り上がってきて充実したソナタ楽章を聴かせてくれます。第2楽章は、意外と速めです。録音の良さのおかげもあって聴きやすいです。特にトリオは速めのテンポで良いです。

第3楽章は、意外に神妙さは少なく、変奏を楽しむかのような演奏です。枯れた表現の中に、愉しさすら感じられます。そして、2か所出てくるトランペットとその後の感情表現も素晴らしいです。この感情表現はフルトヴェングラーにしか出来ない芸当ですね。こんなに味わい深い所があると、やはりフルトヴェングラーは永遠の名盤なんだなと思います。

第4楽章は(録音のせいもあって)凄い不協和音から始まります。他の演奏では軽く流しがちなレチタティーヴォや回想部分も力を入れて演奏しています。『歓喜の歌』の出だしはとても良い雰囲気です。
やがてテノールや合唱が出てくると凄いスケールと熱気に包まれます。6/8も盛り上がり、オケの間奏もなかなか凄いです。

コラールは合唱が上手く、とても神々しい響きです。おそらく合唱の人数も多めだと思うのですが、このディスクの合唱はとても上手く、雰囲気も出ています。ドッペルフーガも神々しいです。

ここから先は、フルトヴェングラーらしい自由なテンポ取りが全開です。盛り上がってくるとアッチェランドし、じっくり聴かせるところは思い切り遅くし、最後は古楽器演奏よりも早い爆速テンポで終わります。こんな味わい深い演奏はフルトヴェングラー以外にはありません。超名盤です。

正直、フルトヴェングラーで慣れてしまうと他の演奏が聴けなくなってしまう位、凄いです。一番最初は小澤盤ネルソンス盤にしておいて曲を知ってから、このフルトヴェングラーのウィーンライヴをじっくり聴いてみるといいと思います。

フルトヴェングラー=ベルリン・フィル

  • 歴史的名盤
  • ライヴ
  • モノラル

ソプラノティルラ・ブリーム
アルトエリーザベト・ヘンゲン
テノールペーター・アンデルス
バスルドルフ・ヴァッケ
合唱ブルーノ・キッテル合唱団
指揮ヴィルヘルム・フルトヴェングラー
演奏ベルリン・フィルハーモニー

1942年3月22-24日フィルハーモニー,ベルリン(ライヴ)

icon アマゾンミュージックUnlimitedとは?

フルトヴェングラーには、戦時下にあたる1942年の第九もあります。手兵ベルリン・フィルを振ったもので、さぞ録音が悪いだろう、と思いきや意外にしっかりした録音です。

バーンスタイン=バイエルン放送響(ベルリンの壁崩壊記念)

  • 名盤
  • 歴史的名盤
  • ライヴ

超おすすめ:

ソプラノジューン・アンダーソン
メゾ・ソプラノ:サラ・ウォーカー
テノールクラウス・ケーニヒ
バスヘンドリンク・ローテリ ング
演奏バイエルン放送合唱団
指揮レナード・バーンスタイ
演奏バイエルン放送交響楽団

1989年12月25日

Ode to Freedom: Symphony No 9 – Official Concert [DVD]
レビュー数:78個
在庫あり。¥1,999円

1989年にベルリンの壁が崩壊し、東西ドイツが統一されました。その年のクリスマスに演奏された第九です。演奏は東ドイツ側のコンツェルトハウス(旧ベルリン交響楽団の本拠地)で行われました。バイロイトの第九と並び称される歴史的名演です。

バイエルン放送交響楽団が中心ですが、シュターツカペレ・ドレスデン,ニューヨーク・フィルハーモニック,ロンドン交響楽団,キーロフ劇場(現マリインスキー劇場)管弦楽団,パリ管弦楽団のメンバーなど、東ドイツやロシアからもメンバーが駆け付け参加しました。ここまで多くの国から参加すれば、これは世界オーケストラですね。(あ、日本がない)アメリカやロシアなんて演奏の仕方が全然違うのですから、凄いオーケストラです。

こういう混成オーケストラは毎年近いメンバーが集まるバイロイト祝祭管弦楽団とも違います。本当に一期一会です。

第1楽章は遅いテンポです。スケールが大きな演奏で、フォルテになると金管やティンパニを鳴らして、スケール感を出しています。一方、さまざまな国、オーケストラからやってきた楽員たち、一応バイエルン放送交響楽団という強力なオケが中心になっていますが、東西でも分断されていた長い期間に大分演奏スタイルに違いが出てきたことが感じられます。バーンスタインも年齢的にも遅いテンポが相応しいですが、リハーサルを十分行うのは難しいでしょうね。スタイルの違いを丁寧におおらかに合わせていくように、じっくりとした歩みで演奏されています。

第2楽章は、遅めではありますが、そこそこなテンポで演奏しています。リズム感はオケ内部でも大分合ってきた雰囲気です。細かい所は色々なアーティキュレーションがあって面白いですけど。トリオはアッチェランドして少し速めのテンポで演奏しています。

第3楽章は素晴らしいです。凄く遅いテンポで、とても円熟味があり、味わいがあります。大分団員の息もあってきて非常に素晴らしい演奏です。後半になり、短調が多くなってくると、さらに味わい豊かになります。バーンスタインは至る所でテンポを落とし、じっくりと味合わせてくれます。金管が出てくる所はかなりダイナミックですが、その後の余韻の歌わせ方はとても深みがあり凄いです。

第4楽章も遅くスケールが大きい演奏で始まります。レチタティーヴォの歌い方に本当に円熟味が感じられます。この辺りでは、第1楽章で感じたズレはもうさほど感じられません。これは凄いことですね。じっくり演奏される「歓喜の歌」は神々しさを感じるほど、素晴らしい演奏です。

テノールと合唱が入ってきますが、合唱の水準はとても高いです。東西の混成合唱団ですが、素晴らしい合唱を聴かせてくれます。テンポが遅いこともあり、とてもスケールが大きく、ここまでテンポが遅い演奏は他にはないかも知れませんね。オケの間奏は凝集力はありませんが、スケールが大きく力演です。

コラールもスケールが大きく、合唱の響きがとても素晴らしいです。ドッペルフーガは、少し荒々しいですが、とても合唱の響きが素晴らしく聴いていて充実感があります。

最後は一気にスピードアップし、一気に盛り上がります。合唱もオケも素晴らしいです。ブラヴォーコールも臨場感があっていいですね。第九の演奏のクオリティなら、ウィーンフィル盤の方が良いですが、こういう記念コンサートはまた違った楽しさがあります。

手元にあるのはCDなのですが、舞台の上がどうなっているのか、是非映像付きで見てみたいですね。

  • 名盤
  • 歴史的名盤
  • ライヴ

超おすすめ:

ソプラノジューン・アンダーソン
メゾ・ソプラノ:サラ・ウォーカー
テノールクラウス・ケーニヒ
バスヘンドリンク・ローテリ ング
演奏バイエルン放送合唱団
指揮レナード・バーンスタイ
演奏バイエルン放送交響楽団

1989年12月25日,シャウシュピールハウス(現コンツェルトハウス),ライヴ

バーンスタイン=ウィーン・フィル

円熟したバーンスタインのスケールの大きな名盤!
  • 名盤
  • 定番
  • ライヴ

超おすすめ:

ソプラノギネス・ジョーンズ
アルトハンナ・シュヴァルツ
テノールルネ・コロ
バスクルト・モル
指揮レナード・バーンスタイン
演奏ウィーン・フィルハーモニー

1979年

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バーンスタイン=ウィーンフィル第九はスケールの大きな名演です。バーンスタインの円熟が感じられます。録音は1979年ライヴで、良くも悪くもないですが、聴きやすいです。

第1楽章は中庸で自然なテンポ取りです。余分な力が入っておらず、しなやかさもあり、自然な音楽が楽しめます。テンポは別に遅いわけではなく、盛り上がる所はダイナミックに盛り上がります。でも、自然体の演奏だと思います。ソナタ形式の第1楽章はしっかり楽しめます。第2楽章は結構速めのテンポのスケルツォです。このウィーンフィルと共演した頃のバーンスタインは、円熟していてたまに凄くテンポが遅い所もありますが、大体インテンポですね。

第3楽章は、遅めのテンポで静かに始まります。静かにゆっくりと進んでいきます。神妙さもあり、味わいも深いです。フルトヴェングラーとはまた違った、美しさのある名演です。もう少し残響があるとなお聴かせどころで良い面が出たかも知れませんね。

第4楽章はかなりの不協和音から始まります。レチタティーヴォはじっくりゆっくり演奏されています。『歓喜の歌』も遅いテンポで演奏され、ウィーンフィルの特に弦楽器が美しい音色を出しています。冒頭が戻ってきます。ホルンが激しい音を出しているため不協和が強調されてますね。

テノールが入ります。声の太いテノールですね。スケールが大きく、油絵のような音楽となって進んでいきます。もともとテンポが遅いうえに、合唱のロングローンは長くて、クレッシェンドしていて凄いです。6/8は遅めなのですが、オケのみになるとテンポを速くして間奏部分は迫力があります。

コラール部分は合唱が凄いです。天上の女声が現世の男声と上手く絡み合って、独特の響きを引き出しています。ドッペルフーガも同様に素晴らしいです。これを聴くとドッペルフーガの意味も分かりますね。最後はテンポが速くなり、熱狂の中で終わります。

全体としては、レナード・バーンスタインの円熟期の演奏で、指揮のテクニックは全く落ちていませんから、味わい深さのあるスタンダードな名盤です。カラヤン盤や小澤盤のように一つの理想を追求しきった演奏とは違いますが、特に第4楽章でのロマン派的な表現が素晴らしいです。

カサド=フライブルク・バロック・オーケストラ

意外性の塊!超ユニークな演奏だが、第九を聴いた充実感がある怪演
  • 名盤
  • ユニーク
  • 古楽器
  • 高音質

超おすすめ:

ソプラノクリスティアーネ・カルク
アルトゾフィー・ハルムセン
テノールヴェルナー・ギューラ
バスフロリアン・ベッシュ
合唱チューリヒ・ジング・アカデミー
指揮パブロ・エラス=カサド
演奏フライブルク・バロック・オーケストラ

2019年11月

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2019年録音の古楽器による第九です。フライブルグ・バロック・オーケストラは、ドイツの3大バロックオケの一つで、非常に高いクオリティの演奏をします。ここでは、弦のプルトを増やし、管楽器・打楽器を追加して演奏しています。

第1楽章は独特なリズミカルな演奏で、オケのほうも響きの厚みが感じられません。カサドはスペインの指揮者ですが、独特なリズムの感性を持っていますね。特に裏拍を徹底して強調しています。最近の古楽器演奏は裏拍を上手く使っている演奏が多いですが、カサドは徹底しています。それとベートーヴェンとしては少し色彩的な所があります。独特な歌いまわしも意外なものがどんどん出てきて全く飽きさせません。他には無い位ユニークな演奏でありながら、第九を聴いた充実感もあるという面白い演奏です。

第2楽章になると慣れてきたのか、独特の響きは気にならなくなります。この楽章は速めですが、普通のテンポです。大事な所はしっかり演奏しているので、物足りない所はありません。

第3楽章も速めのテンポながら、とても味わいのある名演です。古楽器演奏のせいか、管楽器は少し曇った音色になっていますが、これも独特の味わいに繋がっています。アーティキュレーションはユニークですがとても面白いです。

第4楽章は鋭い不協和音から始まります。レチタティーヴォの自由なテンポ取りと、アーティキュレーションの面白さ、バロック演奏の基準で考えても音の長さを思い切り短めにしています。「歓喜の歌」が始まると、普段聴いているような演奏スタイルで、こういう大事な所は奇を衒わずにしっかり演奏しています。

テノールが出てきてもユニークなスタイルは変わりません。合唱のレヴェルも高いです。伴奏のオケはユニークさがありますが、歌手や合唱は普通に上手く、聴いていて充実感があります。オケの間奏はテンポアップしてスリリングに聴かせてくれます。

コラール~ドッペル・フーガは遅めでじっくり聴かせてくれます。その後はまたかなり速くなり、迫力があります。四重唱の所は遅いテンポでじっくり味わい深く聴かせてくれます。その後、最後に向けてまたテンポアップして、凄い熱狂の中、曲を閉じます。

思うにカサドという指揮者は、アカデミックな所も無いわけではありませんが、独特でユニークなセンスと、お客さんを満足させる演奏を知っている指揮者だと思います。バロック~モダン的な奏法まで上手く使い分けた充実感のある演奏です。

カラヤン=ベルリン・フィル (1980年代)

  • 名盤
  • 定番
  • ダイナミック

おすすめ度:

ソプラノジャネット・ペリー
アルトアグネス・バルツァ
テノールヴィンソン・コール
バスジョゼ・ヴァン・ダム
合唱ウィーン楽友協会合唱団
指揮ヘルベルト・フォン・カラヤン
演奏ベルリン・フィルハーモニー

1983年9月,ベルリン(デジタル)

icon アマゾンミュージックUnlimitedとは?

カラヤンの第九はフルトヴェングラー以来の演奏スタイルの上にはのっておらず、やはりトスカニーニのように、いやトスカニーニともまた違うかも知れませんけれど、スコアを読みこんでスケールの大きな音楽を再構築しています。

カラヤン=ベルリンフィルのダイナミックさには圧倒されます。カラヤンは第九の場合は特に遠慮なくダイナミックに演奏しています。たまに味わいが足りないとか、いう人もいますが、もともと味わいを引き出そうとはしていません。そういう演奏は他にいくらでもありますし。カラヤンのスタイルで突き詰めてみて、結果として響きだしてきたのが、この演奏なのだと思います。

1980年代のカラヤンは円熟して独特の響きを出していますが、第九に関しては1970年代以前の演奏の延長に聴こえます。第九は1980年代の演奏がピークに聴こえます。

第1楽章から物凄い気合いでダイナミックな演奏です。正直、このサウンドには圧倒されます。他の演奏でも第1楽章は感銘を受けますが、それとはまた違った感銘を受けます。第2楽章は速めのテンポで生きいきと演奏されています。どんな所でもダイナミックでありながら、サウンドに濁りが無い所に凄みを感じます。

第3楽章は朗々と歌わせています。スケールが大きいですね。ただ、この楽章になってやっと1980年代らしいシルバー色(あるいは無色透明)の響きが聴こえました。インテンポで進んでいきますが、少しゆとりを感じます。しかし、トランペットの強奏の後の短調にも味わいがないというのは凄いですね。そういう、余韻のような音はなく、すべてに実体がある音です。

第4楽章はダイナミックで凄い速さで始まります。レチタティーヴォはあっという間に終わり、『歓喜の歌』が始まると一気に雰囲気が変わります。それなりに盛り上がった後、また急速なテンポで冒頭部分が出てきます。ここのアンサンブルは凄い正確さです。

落ち着きを取り戻し、テノール中心の世界がしばらく展開され、合唱や四重唱など合唱が大きなピークを作ります。6/8に入りオケの間奏は格別な迫力はなく、あくまで間奏という位置づけですね。

コラールは何だか地声?に聴こえるのですが、女声やオケは天上の音楽のように響きます。録音の問題か、意図的なのか分かりませんね。ドッペルフーガも一部のパートは何でしょう?ヴィブラートの掛け方ですかね。この付近は、非常に立体的に聴こえて大聖堂にいるかのようです。

四重唱が入ると、そろそろ終わりだなぁ、と感じるものですけど、この演奏ではそういう情緒はなく、最後までダイナミックに演奏しきっています。

小澤盤もそうですが、カラヤン盤も一つの方向に迷いなく完成度を挙げてきた演奏なのだ、と思います。カラヤン盤のほうが壮大で油絵の飾ってある大聖堂のような立体感がありますね。どちらが良い、という話ではないのですが。

カラヤン=ベルリン・フィル (1960年代)

  • 名盤

おすすめ度:

ソプラノグンドゥラ・ヤノヴィッツ
アルトマイダン
テノールヴァルデマール・クメント
バスヴァルター・ベリー
合唱ウィーン楽友協会合唱
指揮ヘルベルト・フォン・カラヤン
演奏ベルリン・フィルハーモニー

1962年10月8日,9日,12日,13日,11月9日,ベルリン,イエス・キリスト教会

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カラヤンの1960年代の録音です。1980年代の録音とどちらがいいか、甲乙つけがたいです。

ショルティ=シカゴ交響楽団 (旧盤)

アメリカ・グラミー賞を受賞!
  • 名盤
  • 定番
  • ダイナミック

超おすすめ:

ピラール・ローレンガー
イヴォンヌ・ミントン
スチュアート・バロウズ
マルッティ・タルヴェラ
合唱シカゴ交響合唱団
指揮ゲオルグ・ショルティ
演奏シカゴ交響楽団

1972年

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ショルティ=シカゴ交響楽団は最近見直されてきて評判が良いですね。確かに改めて聴いてみると、気付かされることが多い第九です。このショルティの録音は、第九のスコアをほぼ完全に演奏した名盤です。録音も素晴らしいです。

ショルティの力強さのある指揮のもと、シカゴ交響楽団は全てのパートが聴こえるくらい実直で素晴らしい演奏をしています。この後、同じショルティ=シカゴ交響楽団の組み合わせで、再録音していますが、こちらの旧盤のほうを評価する声が大きいですね。

第1楽章はマッシブな力強い演奏です。カラヤン盤ともまた違った魅力があります。テンポはかなり変化します。速めのテンポで行くのかと思っていましたが、意外と遅めですね。後半は独特のリズムで躍動感もあり、楽しめます。ヨーロッパのオケが多いので、シカゴ響の響きはすっきりしていて、また良いです。重厚なシカゴ響から小気味良さのある響きを引き出せるのはショルティの凄さですね。

第2楽章は、第1楽章と大差ないかと思いきや、意外に面白く聴けます。ヨーロッパのオケとは大分違いますが、ヴォキャブラリーは多いと思います。

第3楽章は、遅めのテンポですが、神妙とか感動的な演奏とは違って、肩の力を抜いて聴ける演奏です。いろいろな音が聴こえてきて面白いです。そんな動きがあったのか、と新たな発見があります。結構、味わい深さもあります。こんなに味わい深い演奏だったのは意外でした。

第4楽章の冒頭はレチタティーヴォでなかなか歯切れのよい表現が多いです。テノール、合唱が入ってくるとダイナミックになってきますが、歯切れが良いので、気持ちよく聴けます。6/8のオケの間奏は迫力があって聴きものです。

コラールも良いです。合唱のレヴェルは高いですね。男声と女声の位置づけがあまり変わらないので、天上から女声が響いてくる感じは少ないですが、筋肉質なドッペルフーガは聴き物です。

少し速めのテンポとマッシヴなリズムで最後まで行きます。とても清々しい名演です。

小澤征爾=サイトウキネンオーケストラ

小澤征爾=サイトウキネン、日本人らしい力強くも端正な第九!
  • 名盤
  • 端正
  • 円熟
  • ライヴ

おすすめ度:

東京オペラシンガーズ指揮小澤征爾、サイトウ・キネン・オーケストラ

2002年9月,松本,長野県松本文化会館(ライヴ)

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小澤征爾のベートーヴェンは、第7番あたりは名演だと思いますが、第九はどうでしょうか?ベートーヴェンらしい力強さよりも、シャープですっきりした美しさを感じる演奏です。サイトウキネン・オーケストラのアンサンブルは完璧ですし、力強さで誤魔化さず、丁寧にまとめています。DVDも持っているのですが、小澤征爾の指揮は力強くしっかり拍を刻んでいます。指揮ぶりを見られるので、DVDのほうが良いかも知れませんね。

第1楽章からシャープで力強い演奏です。しかし、極端なダイナミックさはなく、丁寧さが常に感じられます。

小澤征爾のベートーヴェンは解釈は、昔から大きな変化がなく、常に一つの方向に向かって迷いなく進化しています。しかし、ヨーロッパの指揮者と違って水彩画のような繊細さも併せ持ち、近道せずに徐々に自分の音楽を表現できる範囲が広がってきた感じです。

率直に言うと小澤征爾はもともとベートーヴェンのような古典派の音楽はそれほど得意としてはいないと思います。小澤征爾の名盤と言えば、プロコフィエフ、ヤナーチェクやプーランク、オネゲルなどの近現代作品が多いですね。鋭い感性を持っていて近現代の作品に一番あっているのです。ヤナーチェク『シンフォニエッタ』オネゲルの『火刑台のジャンヌダルク』は超名演の部類です。

でもベートーヴェンは賛否ありますね。第九は小澤征爾という天才にとっても努力の賜物なのです。サイトウキネン・オーケストラという自分と音楽性の近いオケを結成できたことも大きな力となっていると思います。

さて第4楽章に入りました。演奏はあくまで丁寧であり、不協和音がドロドロと響くこともありませんし、アンサンブルはどんな時も正確で、羽目を外すことはないです。レチタティーヴォでは、弦楽器中心で管楽器は軽く入るのみです。

やがて冒頭の不協和音が戻り、テノールが入り合唱が入るとスケールを増してきます。6/8もリズミカルですが、雑さは全くありません。盛り上がって器楽の間奏に入るとオケはかなり凄みのある演奏をしていますが、端正さは失われません。コラール部分も合唱はかなり盛り上がってきています。終盤はかなり味わい深くなりますが、指揮ぶりを見ていても、やはり最後まで端正さがあり、典型的とも言えるテンポ取りでダイナミックな中でも最後まで緩みはありません。

でもとても充実感のある演奏で、演奏後には会場は熱狂的なブラヴォーコールに包まれますし、DVDで見ていても凄い充実感と感動を覚えます。それは小澤征爾=サイトウキネンが最後まで一点の妥協もなくやり遂げたことへの充実感なのだと思います。

「何も足さない、何も引かない」ニッカ・ウィスキーのような演奏です。そう考えると小澤氏の円熟もかなりあるのかも知れません。数か所、つまんで聴くだけだと妙にスッキリした演奏に聴こえるかも知れません。やはり全曲通しで聴くことは大事ですね。

小澤征爾=水戸室内管弦楽団

オケ/歌唱のクオリティの高さと小澤氏の円熟した名盤
  • 名盤
  • 円熟
  • 芳醇

おすすめ度:

ソプラノ三宅理恵
メゾ・ソプラノ:藤村実穂子
テノール福井敬
バリトンマルクス・アイヒェ
演奏東京オペラシンガーズ
指揮小澤征爾
演奏水戸室内管弦楽団

2017年10月,水戸芸術館,コンサートホールATM(セッション第1&2楽章/ライヴ第3&4楽章)

小澤征爾と水戸室内管弦楽団の演奏です。水戸室内管は常設オケですので、アンサンブル能力は年1回のサイトウキネン・オーケストラより上です。人数も少なめなので、弦楽セクションのレヴェルの高さは世界でも有数です。管楽器も昔、フィリップスで発売されていたラヴェルなどの頃に比べて、大分レヴェルアップしてきています。

この第九は小澤征爾の体力を考えて、コンサートでは第1楽章、第2楽章はホルン奏者のパボラークが指揮を担当しています。第3楽章、第4楽章を小澤征爾が指揮しています。CDでは第1楽章、第2楽章は別途セッション録音されていて、全ての楽章を小澤征爾が指揮しています。

第1楽章は小澤征爾らしい力強さもありますが、円熟した味わいがあります。セッション録音のほうが力強さがあり、充実したソナタ形式を堪能できます。第2楽章も意外にシャープでリズミカルです。水戸室内管の演奏はハイレヴェルです。

第3楽章は、心持ち遅めのテンポで進んでいきます。水戸室内管の弦楽セクションは細かなニュアンスをつけて非常にクオリティが高いと同時に味わいがあります。やはり無観客の第1楽章、第2楽章とは違いますね。味わいの深みが増しています。小澤征爾はライヴで実力を発揮するタイプですからね。

第4楽章は鋭い不協和音から始まります。ティンパニはかなり硬めの撥を使って効果的なアクセントをつけています。テンポは遅めで丁寧です。「歓喜の歌」は心持ちじっくり歌っていて味わい深いです。テノール・合唱が入ってくると、そのレヴェルの高さに釘付けになります。合唱は少数精鋭でまさに天上の合唱で、遅めのテンポでじっくり味わえます。

コラール~ドッペルフーガは合唱を十二分に味わえる特に素晴らしい部分です。その後も落ち着いたテンポでその美声を心行くまで楽しませてくれます。もちろん、盛り上がる所は盛り上がりますが、熱狂という所までは行きません。その代わりに最後まで高いクオリティを失わず、最後の目まぐるしいオケも綺麗に弾けるテンポで終わります。それでいて会場もとても盛り上がっています。CDで聴いても充実感の高い演奏です。

特に後半は、遅めのテンポになっていますが、基本的な方向性は2002年サイトウキネン盤と大きな違いはありません。そういう意味で小澤征爾の目指してきた第九はサイトウキネン盤でほぼ完成したのだと思います。

この水戸室内管盤は、小編成ならではのクオリティの高さと、小澤氏の円熟の度合いが増したことが、はっきりと聞き取れる名盤です。ただ、セッション録音とライヴとの差が結構あるので、椅子に座って指揮しても全曲ライヴにできなかったのかな、とは思います。

そういう意味で、まずはサイトウキネン盤をお薦めしたいですが、味わい深い水戸室内管盤もじっくり聴いてみてほしいです。

ネルソンス=ウィーン・フィル

スタンダードでしなやかさのある充実した名演
  • 名盤
  • 高音質

おすすめ度:

ソプラノカミラ・ニールンド
アルトゲルヒルト・ロンベルガー
テノールクラウス・フロリアン・フォークト
バスゲオルク・ツェッペンフェルト
演奏ウィーン楽友協会合唱団
指揮ネルソンス
演奏ウィーン・フィルハーモニー

2018年5月,ウィーン

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新進気鋭のネルソンスとウィーンフィルの2018年録音の新しい第九です。録音が新しいため、音質は素晴らしいです。残響もあり、聴き易いです。

第1楽章はテンポは中庸でしょうか。特別に尖ったところは無さそうです。こういう普通の演奏もいいですね。少しスケールが大きめで、ダイナミックさもありますが、カラヤンのような凄みはなく、普通の演奏です。日本人が聴いても十分理解できるし、納得もできる充実感のある演奏だと思います。

第3楽章は落ち着いたテンポですが、平坦になってしまわないように、上手く目立たないようにテンポを動かしています。変奏では、細かいニュアンスもあり、聴こえにくい声部もきちんとまとめています。適度に感情も入っていて充実感もあります。

第4楽章は不協和音が聴こえる様に入りますが、それほどダイナミックではないですね。レチタティーヴォのところは、あまり力を入れず、すぐに終わってしまう感じです。『歓喜の歌』がオケで出てくるところはなかなあ雰囲気を出しています。

冒頭の不協和音に戻り、テノールが入ります。段々と盛り上がってくる感じですね。細かいアンサンブルまで完璧で細部まで自然でしなやかです。合唱が入るとダイナミックになってきて、盛り上がってきて充実感があります。6/8はかなり盛り上がり、オケの間奏も凄みがあります。その後の合唱も充実感があります。

コラールも良いです。力強い男声、天上の音楽のような女声、合唱のレヴェルも高いです。ドッペルフーガもとても良いテンポ設定です。最後もスタンダードなテンポ設定で細部まできちんとした演奏を繰り広げています。

全体的に、現代の真面目な指揮者が普通にやるタイプの第九の演奏で、それをレヴェルアップしたものと考えて頂ければいいか、と思います。フルトヴェングラー盤カラヤン盤のような特別さを感じる演奏ではありませんが、いろいろな要素のバランスが良く年末に聴くにはちょうど良さそうですね。

ベーム=ウィーン・フィル(1970年)

  • 名盤
  • 定番

おすすめ度:

ソプラノグィネス・ジョーンズ
アルトタティアーナ・トロヤノス
テノールジェス・トーマス
バスカール・リッダーブッシュ
合唱ウィーン国立歌劇場合唱団
指揮カール・ベーム
演奏ウィーン・フィルハーモニー

1970年4月,ウィーン,ムジークフェラインザール

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カール・ベーム、ウィーン・フィルによる1970年代の第九です。

第1楽章、第2楽章のテンポは少し遅めです。ウィーンフィルらしいふくよかさがあり、それに重厚感が加わっています。凄くスケールの大きな演奏で、フォルテでのテンポが遅めですね。響きはウィーンフィルの柔らかさがありますが、バーンスタイン盤と異なり、かなり厳しさのある演奏に聴こえます。この辺りが好みの分かれ目だと思います。盛り上がりはフルトヴェングラー盤を連想します。

第3楽章も遅めのテンポでじっくり聴かせてくれます。響きは非常にきれいで、完成度は高いですが、味わい深さということでいえば、バーンスタイン盤のような枯れた所があまりないですね。

第4楽章は冒頭は普通のテンポで始まり、完成度の高い演奏を聴かせてくれます。響きの美しさはこのページの名盤の中でも特に素晴らしいものがあります。

テノールが入り合唱が入っても、レヴェルの高さは変わりません。バーンスタイン盤やカラヤン盤の合唱は今一つな時がありますが、非常にきれいにまとまっています。6/8はゆっくりめで、オケの間奏は少し遅めで演奏され丁寧です。

コラールは壮大です。盛り上がるほどにテンポを落としていくので物凄いスケールになっていきます。女声は本当に天上から歌っているようです。ドッペルフーガもそのスケールのまま演奏されていきます。凄い完成度の高さを感じますね。その後、四重唱の所まで、完成度の低い所は一つもありません。そのまま最後まで演奏しきります。

うーん、どうも私はベームが昔から苦手なのですが、この第九を聴いてその理由がよく分かりました。ベームの演奏は一見聴きやすいそうでいて、非常に厳しさと完成度の高さがあるんです。そんな訳で聴いた後に疲れてしまうという訳です。一見、フルトヴェングラーに似ていますけど、混濁併せのむフルトヴェングラーとは根本的な所が違いますね。ベームの演奏が目指す方向とリスナーの好みがマッチすれば、この演奏は完成度が高いだけに凄い名演だと思います。

アバド=ベルリン・フィル

容赦ない速めのテンポ、シャープで尖った演奏
  • 名盤
  • スリリング
  • ダイナミック
  • 高音質

おすすめ度:

ソプラノカリタ・マッティラ
メッゾ・ソプラノ:ヴィオレッタ・ウルマーナ
テノールトーマス・モーザー
バストーマス・クヴァ ストホフ
合唱エリック・エリクソン室内合唱団
合唱スウェーデン放送合唱団
指揮クラウディオ・アバド
演奏ベルリン・フィルハーモニー

2000年5月,ベルリン,フィルハーモニー

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アバド=ベルリンフィルのベートーヴェンは全体的にシャープでダイナミックで、テンポが速めであり、ピリオド奏法の影響を受けています。そういえば、ピリオド奏法でブランデンブルグ協奏曲も演奏していましたし。ただ曲によって大分違いますし、アバドの視点から必要な所だけピリオド奏法を取り入れています。

第九はその中でも特にピリオド奏法の影響が強い方だと思います。ただ、ガーディナー盤やヘレヴェッヘ盤のように極端な速いテンポではなく、少し速いという程度で、シャープな印象があります。

第1楽章から速めで、シャープさのある演奏です。リズムをしっかり刻み、テンポを詰めていって情熱的に盛り上がります。聴いていると、第九はこんなにもリズミカルな音楽だったんだな、と目から鱗が落ちる思いです。細かい所にリズミカルな合いの手が入っている個所もあります。速めのインテンポで密度が高く、充実した演奏になっています。聴いていてソナタ形式をよく認識できます。

アバドはイタリア人なので、軽快すぎる演奏になりがちですが、この位のテンポだとアバドらしいリズム感を出しても自然に聴こえます。第2楽章は非常にシャープでティンパニも思い切り鋭い音で叩いています。トリオは思い切ったテンポですね。

第3楽章もかなり速いテンポでそのままアゴーギク少な目で最後まで通しています。音が薄手で変奏が手に取るように分かります。ただ、独特の軽快さがあって、少し味わいには欠けるかも知れませんね。

第4楽章は速めのテンポで、少し繊細に始まります。不協和音を思い切り鳴らしたりはせず、レチタティーヴォ~オケの歓喜の歌までは、あっという間です。テノールが入ると雰囲気が少し変わり、シャープさのある合いの手が入りますが、テンポも落ち着いてきます。合唱も上手いですね。オケの間奏はかなりシャープで迫力があります。

後半も結構速めで、ダイナミックな盛り上がりもあり、そこではさらにアッチェランドしていきます。テンポの変化が大きな演奏で、かなり熱気もあります。最後は、モダンオケ風なテンポの速さで、熱狂的に盛り上がって終わります。

少し肩透かし気味で、第九の世界にどっぷり漬かれる演奏ではないかも知れません。しかし古楽器オケの演奏をいくつか聴いていたとしても、なお新しい発見のある面白い演奏です。

ヘレヴェッヘ=シャンゼリゼ管弦楽団

古楽器オケでも感情豊かな演奏はできる、古楽器オケ随一の名盤!
  • 名盤
  • 古楽器
  • 爆演

超おすすめ:

指揮フィリップ・ヘレヴェッヘ
演奏シャンゼリゼ管弦楽団

1998年10月(ライヴ)

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ヘレヴェッヘ=シャンゼリゼ管弦楽団の録音は、古楽器オケの中では抜きんでた名演奏です。ヘレヴェッヘはまだシャンゼリゼ管弦楽団とはベートーヴェン全集をシャンゼリゼ管弦楽団とは録音していません。ロイヤル・フランダースフィルの全集があるので、もうしばらくしてから録音するのかも知れませんが、早めに録音してほしいですね。

これは単なる古楽器での録音ということではなく、ヘレヴェッヘの円熟とこの曲への思い入れが詰まったディスクです。かなりテンポは速いですが、当然のテンポであって、速すぎるとは感じません。

第1楽章はpからクレッシェンドしてくるとすぐにシャープでダイナミックで圧巻な演奏となり、この時点でもう引き込まれてしまいます。細かいアーティキュレーションは入っていますが、それより強く感じるのはベートーヴェンらしい意思の強さです。第1楽章も長い曲ですが、爆発的ともいえるクレッシェンドとダイナミックな演奏に圧倒されて、あっという間に終わってしまいます。第1楽章はベートーヴェンのソナタ形式の曲としても充実した名作なわけですが、こんな演奏なら何度でも聴いても飽きない名演です。

第2楽章も出だしのシャープさ凄いです。アクセントを上手く利用して、弦には厚みがあり、テンポは速めですがリズムに重さが感じられます。結果として凄く密度の濃い演奏です。トリオは遅くなるかと思いきや、さらにテンポアップします。デュナーミク(強弱)が良くつけられていて、クレッシェンドのところなどは、新鮮さを感じます。

第3楽章も速めのテンポでスムーズに進んでいきます。アダージョとアンダンテの組み合わせなので、そこまで速いのか?という気もしますが、テンポが速いことによる違和感は感じられません。味わいもありますし、変奏や対位法的な動きがパトス(感情表現)に埋没せずに分かり易く聴こえるのが良い所です。そんな工夫があったのか、と気づく新鮮味があります。テンポが遅いと浸れますけど、全体の構成が聴こえにくくなりますね。

さて、やっと第4楽章です。冒頭は不協和音ですが、そこまで強調していないので、綺麗に響いています。回想とレチタティーヴォの部分は軽めに演奏しています。なので、あっというまに『歓喜の歌』のカノンに入ります。このカノンは透明な響きで美しいですが、それほど盛り上がらず、すぐに冒頭の不協和音に中断させられます。

テノールが入った後は、少しテンポを落とし、じっくり聴かせてくれます。合唱が入り充実感が増していきます。でもそこまでダイナミックではなく強いアクセントをつけたりはしていないですね。6/8に入るとかなり速くなります。テノールの独唱が素晴らしいです。オケのみの間奏部分はかなりシャープでダイナミックです。

トロンボーンが先導するコラールは、柔らかさがあり、合唱の後、テンポを落としてじっくり聴かせてくれます。ドッペルフーガは遅いテンポでモダンオケよりも遅いテンポかも知れません。終わりに向かってスケールが大きくなっていきます。独唱の4重奏もじっくり聴かせてくれます。最後はそのままそこまで速くならずに終わります。

非常に内容が濃く、密度が高いディスクです。それだけ非常に情熱的で、感動的な名盤です。古楽器オケで第九を聴いたことが無い方は、是非、この録音で聴いてみることをお薦めします。第九に対する認識が変わってしまう位、価値のある名盤です。

ガーディナー=オルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティク

やはり古楽器オケのパイオニアは今でも凄かった。一度は聴かねばならない演奏!
  • 名盤
  • 古楽器
  • 爆演
  • スリリング

おすすめ度:

指揮:ガーディナー、オルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティク
モンテヴェルディ合唱団

録音:1992年10月,ロンドン

ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」
レビュー数:9個
通常6~11日以内に発送します。

Beethoven: The Symphonies
レビュー数:104個
残り2点

古楽器オケのパイオニア、ガーディナーの第九です。もう新しい古楽器演奏は沢山ありますし、ヘレヴェッヘ=シャンゼリゼ管弦楽団も素晴らしいしい十分でしょう、と思いましたが、聴いてみてやはりこの演奏は外せないと思いました。古楽器のベートーヴェンを聴くなら今でも欠かせない、偉大な全集ですね。

第1楽章は凄くシャープでテンポもとても速いです。それをダイナミックに演奏するわけで、弦楽セクションは超絶技巧ですね。ガーディナーは、速いテンポでも速いと思わせません。スリリングで速いほうがいいと思わせてくれます。第1楽章はダイナミックさもありますし、充実した演奏です。第2楽章も同じ方向性ですね。リズミカルでダイナミックですが余計な力は入っていないので、小技も効きます。

第3楽章は少し遅めです。古楽器らしい透明感のあるサウンドで、意外にゆったりと聴けます。味わいも豊かです。木管やホルンの響きが古楽器らしい木目調なのも良いですね。変奏も楽しげに弾いているのが分かります。

第4楽章は冒頭からあくまでダイナミックです。シャープですが不協和音はそのまま響かせています。管弦楽のみの『歓喜の歌』も美しく、最後はかなりダイナミックに盛り上がります。

テノールが入る頃には速めのテンポにも十分慣れてきて、現代の演奏と変わらない感銘を受けますね。ガーディナーはリズムに非常に鋭敏で、少しの変化も逃さず聴かせてくれます。細かいことを挙げるときりが無いので止めておきますけど。6/8になると、どんどん前に進んでいきます。管弦楽のみの間奏もかなりの迫力と超絶技巧です。

ドッペルフーガ付近は少し遅めです。といっても、このテンポでも低弦は凄いことになっていますけど。最後はまたテンポアップして行きます。最後は少し遅いですが、スコアを見ると凄いことになっているので、基本的に超絶技巧であっても、弾けるテンポは超えないようにしているのでしょうね。

古楽器オケですが、ガーディナーは奇を衒うことなく、真摯に演奏しています。この第九のリズムに対するヴォキャプラリーは『英雄』以上です。でも基本的には現代の演奏を出発点にしていると思います。ダイナミックですが、耳が痛くなるようなことはありません。この辺りのバランス感覚は、一部のピリオド奏法ではまだ課題がありそうですね。

鈴木正明=バッハ・コレギウム・ジャパン

  • 名盤
  • 古楽器

おすすめ度:

指揮:鈴木雅明、バッハ・コレギウム・ジャパン

録音:2019年1月東京オペラシティ コンサートホール,タケミツメモリアル(ライヴ)

第1楽章は標準より少し速い程度のテンポです。古楽器オケとは思えない機能性で、とても技術的に素晴らしいです。音色はモダン楽器のような澄んだ音色です。もちろん古楽器奏法なのは良く聴こえます。新しくて録音が非常に良いせいもあるかも知れません。基本は日本人的というか、ダイナミックさのある第一楽章です。

第2楽章は鋭い弦楽器が印象的です。割とモダンでもあるテンポで演奏しています。

現在の古楽器のテンポはガーディナーが譜面に書いてあるメトロノームテンポで演奏したことに源流がありますが、やはり速すぎですよね。曲によりますけれど。それまでのフルトヴェングラーらのテンポはワーグナーの影響が大きく遅すぎることは事実ですが、メトロノームテンポが正しいか否かは分かりません。

そもそも当時のオケが、そんな速いテンポで演奏できるほど上手いとも思えないです。第九に至っては編成が大きいこともあり、プロ・アマの混成だったことを考えれば尚更ですね。

第3楽章もテンポは少し速い程度です。第3楽章は変奏曲であるため、テンポが速めな方が全体が良く見えて分かり易くなるメリットはありますけど。

第4楽章になるとテンポは普通にモダンと変わらないです。古楽器の響きが良いですね。ライヴで良くここまできれいにアンサンブルできるものですね。不協和音もダイナミックに演奏していますが、汚くは聴こえません。

テノールは、少し独自の装飾も入れてますね。合唱は、縦の線も声の質も、驚くほど揃っています。とてもライヴとは思えません。オケの力強い間奏のあと、コラールはとてもきれいな合唱を聴くことが出来ます。人数も絞っているとは思いますが、これだけきれいなコーラスは、なかなか聴けないと思います。ドッペルフーガはどの声部も天上の響きに聴こえます。

最後はダイナミックに盛り上がり、モダン演奏と変わらない終わり方です。

素晴らしい演奏ですが、どの瞬間も日本人的な丁寧さを失わない演奏です。ドイツ語の発音などよく分かりませんけれど、最後のほうで盛り上がっても丁寧さがあって、それは小澤盤もそうなのですが、欧米の指揮者やオケとは少し違う所です。これだけ日本の演奏レヴェルが上がってくると、それも悪いことでは無いのかも知れません。

パーヴォ・ヤルヴィ=ドイツ・カンマーフィル

ピリオド奏法の難しさを考えさせられる演奏
  • 名盤
  • ピリオド奏法

おすすめ度:

指揮パーヴォ・ヤルヴィ、ドイツ・カンマーフィルハーモニー

2009年

Paavo Jarvi – Beethoven The 9 Symphonies
レビュー数:36個
在庫あり。

P.ヤルヴィ=カンマーフィルのピリオド奏法の演奏です。CDとDVDもあります。DVDだとカンマーフィルの楽器編成が大枠わかります。ホルンはモダン楽器、木管もモダン楽器、Tpだけ古楽器です。Tpは管が長く、音が鋭いのが特徴で、古楽器になるととても難しい楽器になります。Tpが古楽器なのでティンパニも古楽器にすれば軍楽隊風になりますが、ティンパニはモダン楽器です。バスドラムは古楽器に見えます。第九はトロンボーンがハーモニー楽器として使われていないのですが、実は古楽器のトロンボーンは音が細くハーモニーが苦手です。第九は第4楽章で合唱を先導するだけなので、その時に分かりますね。

第1楽章はテンポは速いので、弦楽器は大変そうですが、演奏は自然な感じで、普通のモダンオケの演奏を聴いているような雰囲気です。やはりアクセントをつければモダン楽器の響きになりますし、演奏スタイルがモダンのシャープな演奏とあまり変わらず、ノリントンらと違いそこまで個性的でも実験的でもないですね。でも、とてもシャープで力強い名演です。テンポが速い分はスタイリッシュに聴こえます。第2楽章もテンポ意外に取り立てて大きな差はないです。トリオもそうですね。力強さがあり、スタイリッシュです。

第3楽章も意外以外は普通で『運命』のような斬新さは無さそうですね。モダン楽器だからか、ヘレヴェッヘのように対位法が良く聴こえるほどの透明感は無いようです。編成の大きさの問題かも知れませんし、『運命』の時と違って、P.ヤルヴィに気合いが入り過ぎているのかも知れません。P.ヤルヴィは特別ピリオド奏法の指揮者では無いですからね。その代わり、ピリオド奏法としてはじっくり聴かせてくれる演奏です。

第4楽章は速いテンポで不協和音もモダンオケ並みに演奏しています。レチタティーヴォはあっという間におわり、『歓喜の歌』に入ります。Tpが入る頃にはダイナミックになっています。冒頭の不協和音が戻り、テノールが入ります。テノールが入るとオケには透明感が出てきて、明らかに響きが変わります。6/8は凄く速いです。オケのみの間奏は凄い迫力で聴きものです。

さてコラール風のところはテンポを落としてスケールがあります。トロンボーンはモダン楽器ですね。ドッペルフーガは遅めのテンポです。スケールが大きくなってくるとモダンとあまり変わらなくなってきます。もっともヘレベッヘも後半は遅かったので、テンポの指示が遅いのかも知れませんけれど。むしろ、さらにテンポを落として壮大な音楽を作り出していきます。この先はモダンと大差ないですね。モダンオケも速いですから。ダイナミックな第九でした。

うーむ、P.ヤルヴィの第九はテンポ以外はモダンオケに近いですね。細かい所で工夫も見られましたが、驚くような新鮮味はないかも知れません。ピリオド奏法のスタイリッシュな第九ですが、テンポと奏法以外はモダンに近いので聴きやすいとは思います。

M.T.トーマス=サンフランシスコ交響楽団

  • 名盤

おすすめ度:

指揮:マイケル・ティルソン・トーマス,サンフランシスコ交響楽団,他

録音:2012年6月,サンフランシスコ

Symphony No.9
レビュー数:21個

Beethoven: Symphony No. 9MP3
レビュー数:21個

M.T.トーマスの演奏は、ピリオド奏法や古楽器オケともまた違った、楽譜に忠実な演奏です。録音もライヴですが2012年と新しいため高音質です。基本的にシャープなサウンドで、長い演奏の伝統のあるヨーロッパのオケと異なり、サンフランシスコ交響楽団は非常に上手い一方、ナチュラルな演奏スタイルを持っています。

M.T.トーマスは、スコアの細かいところまできちんと見極めて、再現しています。ベートーヴェンの時代背景まで考えるとピリオド演奏などになりますが、ピリオド演奏と言いつつ指揮者の個性がかなり入っている演奏が多い中で、ここまで中性的な演奏は貴重です。非常に知的にまとまっていて、充実感があり、決して物足りない演奏ではありません。

第1楽章はドイツ的な響きはありませんが、シャープで透明感の高い響きで、知的で整理された演奏を聴くことが出来ます。あまり感情が入ることはありませんが、ショルティ盤のようにツボはしっかり押さえていて、下手なヨーロッパのオケよりも新鮮で聴きごたえがあります。音楽自体が語っているのかも知れません。

第2楽章も同様でテンポは速くも遅くもなく、しっかりリズムを刻んでいます。トリオに入ると大分テンポアップして、古楽器オケなみにどんどん前に進んでいきます。

第3楽章は透明感のある響きですが、かなり遅めのテンポで進んでいきます。結構、味わいもありますね。管楽器のソロも上手いですし。テンポはほぼ一定でルバートもあまりかかりません。途中、弦が動き始めるとテンポがアップします。この辺りは古楽器オケの演奏に似ていて、変奏の面白さを上手く活かしています。トランペットの後の余韻も適度に活かして味わい深さが良く出ています。ダイナミックになっても音が濁らない所は本当に凄い技術です。

第4楽章の最初は不協和音を活かしています。レチタティーヴォのテンポは中庸で、丁寧です。テノールや合唱が入っても盛り上がり過ぎずに、落ち着いて丁寧に演奏しています。管弦楽の間奏も落ち着いています。

コラールは大分ダイナミックです。とはいえドッペルフーガも知的な所がある演奏です。知的さを失わない程度にパッションをコントロールしつつ、最後まで合唱も綺麗でオケのアンサンブルが雑になることはなく、しっかり演奏しきっています。

情緒や感情ばかりの第九に飽きた人には、ショルティ盤と共にとてもお薦めです。マッシヴなショルティ盤とは大分違いますが、どちらも聴きごたえがあります。

ハイティンク=ロイヤル・コンセルトヘボウ管

  • 名盤

おすすめ度:

ソプラノ:ルチア・ポップ,アルト:キャロライン・ワトキンス,テノール:ペーター・シュライアー,バス:ロベルト・ホル,合唱:オランダ放送合唱団,指揮:ベルナルド・ハイティンク,演奏:ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

1987年12月4-10日,アムステルダム,コンセルトヘボウ

マタチッチ=チェコ・フィル

指揮ロブロ・フォン・マタチッチ
演奏チェコ・フィルハーモニー

1980年6月6日,プラハ

マタチッチがチェコフィルとライヴ録音した第九です。マタチッチはチェコフィルと良い関係にあって、ブルックナーなどで名盤が残されています。マタチッチが指揮したオケの中で、もっともレヴェルの高いオケの一つだと思います。1980年のライヴ録音で当時東側の技術なので、音質はあまり良いとは言えませんが、聴きやすい音質ではあります。

第1楽章はマタチッチらしい筋肉質な演奏です。特別個性的というわけでもなく、ただ結構推進力を感じます。チェコフィルは木管が良く、味わいがあります。後半になってくると、段々と熱が入ってきてマタチッチらしい盛り上がりで熱演になってきます。第2楽章は速めのテンポです。マタチッチらしい力強さのある演奏です。

第3楽章は素晴らしい演奏です。最初からチェコフィルの響きもあって味わい豊かで、曲が進むにつれて色々な色彩を放っていきます。ヨーロッパの少し田舎の自然の多い地方の雰囲気ですね。テンポは遅くはなく、ちゃんと変奏曲として聴けます。後半の盛り上がりは金管を思い切り鳴らして凄いです。

第4楽章の合唱はチェコ語で歌われています。確かに演奏家の名前を見ても全員チェコ系の人のように思います。冒頭からレチタティーヴォにかけてはマタチッチらしいマッシヴな演奏です。「歓喜の歌」に入ると意外に速いテンポで進み、ダイナミックに盛り上がります。さらにテノールが入るとスケールが大きくなりダイナミックに盛り上がります。

ドイツとチェコは隣国ですが、言語は大分違います。不自然とは思いませんが、語調はなんとなくグラゴル・ミサを思い出します。4人の独唱者は言葉が聴き取れるようにしっかり録音されているようですね。マタチッチの音楽作りは東欧系と良く合うのでチェコ語でも良いのですが、オケとのバランスがちょっと不自然かも知れません。オケの間奏はスケールが大きく、かつリズミカルに進みます。

コラールも壮大です。合唱のレヴェルは高く、女声は天上から聴こえてくるようです。ドッペルフーガも迫力ある合唱です。終盤は、かなりテンポが速めになり、パーカッションを派手に鳴らして熱狂的に曲を締めくくります。

マタチッチらしさのある演奏と思いますが、録音が悪いことと、チェコ語の歌唱を大きめに録音しています。考えてみれば、チェコ人向けになんでしょうね。

マタチッチは他にNHK交響楽団ともライヴ録音があります。

マタチッチ=NHK交響楽団

N響演奏会史上空前の盛り上がりを見せた定期演奏会
  • 名盤
  • ライヴ

指揮ロブロ・フォン・マタチッチ
演奏NHK交響楽団

1973年12月19日,NHKホール

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ノット=東京交響楽団

  • 名盤
  • ライヴ

おすすめ度:

指揮:ジョナサン・ノット、東京交響楽団

録音:2019年12月28-29日東京・サントリーホール(ライヴ)

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