ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン (Ludwig van Beethoven,1770-1827)作曲の『レオノーレ』序曲 第3番 Op.72b (Leonora Overture no.3 Op.72b)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。ワンストップでスコアと楽譜まで紹介します。
解説
ベートーヴェンの『レオノーレ』序曲 第3番について解説します。
ベートーヴェンが作曲した唯一の歌劇『フィデリオ』は何度も書き直されています。まずはあらすじを書いておきます。
16世紀のスペインが舞台。不当に牢獄に投獄された政治家フロレスタンを、妻のレオノーレが男に変装してフィデリオと名乗り、勇敢にも刑務所に潜入して夫を助け出す
レオノーレは妻の名前で、フィデリオは男装した時の名前です。このオペラは当初は歌劇『レオノーレ』という名前でした。ベートーヴェンはレオノーレの夫婦愛に満ちた行動にとても共感していたと言われています。歌劇『レオノーレ』の第1稿は1805年に作曲されました。そして最後は歌劇『フィデリオ』と名前を変え、1814年に上演されています。ブランクはありましたが、10年近くも大幅な改訂を繰り返しており、序曲は4つ書かれました。
レオノーレの序曲
この第3番は歌劇『レオノーレ』第2版のための序曲であり、『レオノーレ』序曲 第2番を改作する形で作曲されています。元の『レオノーレ』序曲 第2番もなかなか味わい深い名曲ですが、第3番はドラマティックになり、曲の構成もベートヴェンらしく引き締まっています。最後の『フィデリオ』序曲は一から書き直されているため、『レオノーレ』序曲 第3番はいくつかある『レオノーレ』序曲の集大成で、演奏時間13分と少し長めですが、ほとんど無駄がなく、完成度が高いです。
初演は、歌劇『レオノーレ』第2版の序曲として、1806年3月29日にアン・デア・ウィーン劇場で行われています。
なお『レオノーレ』序曲 第1番はベートーヴェンの死後に発見されたもので、作曲年代は1805年説と1807年説があり、後者の方が有力なようです。番号は後からつけられたもので作曲順とは無関係で、第3番よりも後に作曲された可能性が高いです。楽譜が残っているだけなので、実は歌劇『レオノーレ』との関係すらはっきりしないのです。ただ、歌劇からアリアが引用されているため、恐らく歌劇『レオノーレ』に関係する楽曲だったろう、と考えられています。
楽曲構成
楽曲構成は、序奏付きのソナタ形式です。
序奏はアダージョで静かに始まります。主部はアレグロでベートーヴェンらしい力強く構築的な音楽です。展開部に有名な舞台裏からのトランペットソロが演奏されます。どこからともなく聴こえてくるファンファーレで、この曲の人気の要因ですね。最後はテンポアップして盛り上がって終わります。
フルート×2、オーボエ×2、クラリネット×2、ファゴット×2
ホルン×4、トランペット×2、トロンボーン×3
(舞台裏)トランペット×1
ティンパニ
弦五部
おすすめの名盤レビュー
それでは、ベートーヴェン作曲『レオノーレ』序曲 第3番の名盤をレビューしていきましょう。
小澤征爾=サイトウキネン・オーケストラ
小澤征爾とサイトウキネン・オーケストラの演奏です。小澤征爾はレオノーレ序曲と得意としていて、第1番、第2番も含めて『レオノーレ』序曲第3番は曲を知り尽くしていて、晩年の円熟もあり、響きも熱気がありつつも重厚です。ドラマティックで深みを感じる演奏を繰り広げています。力強く凝集された音楽で、スコアの読みが相当深いことが感じられます。
序奏は神妙に始まりますが、ロマンティックなこの曲でも、このコンビは常にスタイリッシュさを忘れません。主部に入ると躍動感のリズムと綿密なアンサンブルが素晴らしいです。力強さ、ドラマティックさはそのままにスタイリッシュな響きが聴けます。ライヴ演奏ですが、とても練りこまれたアンサンブルでクオリティの高いです。展開部に入るとさらに感情表現が強まり、トランペットソロは印象的です。
小澤征爾とサイトウキネン・オーケストラのとても良い面が出た演奏です。円熟味もあり、深みも感じられます。
ヴァント=北ドイツ放送交響楽団
ヴァントと手兵北ドイツ放送交響楽団の演奏です。1990年の録音でヴァントらしい緻密な音楽づくりと円熟した味わいが共存した名演です。レオノーレ第3番はドラマティックでロマンティックさのある曲ですが、ヴァントはロマンティックさよりも真摯にスコアを読み込み、ロマンティックになりすぎることなく、引き締まった演奏を繰り広げています。北ドイツ放送交響楽団の重厚でダイナミックな響きも特筆ものです。
序奏はシリアスですが、過度にロマンティックな表現は無く、最初からベートーヴェンらしいしっかりした音楽づくりを聴くことが出来ます。それまでロマンティックな演奏を聴いていた人には目から鱗で新しい発見がある演奏です。オケのダイナミックさは半端ではなく、フォルテになると爆発的と言えるくらいダイナミックです。主部に入ると凝集された堅固な音楽作りで、ヴァントらしいこだわりを感じさせくれます。同時にそれがベートーヴェンの作りこんだ感情的なドラマを過不足なく表現しています。舞台裏のトランペットソロも強調されずに自然ですが、とても説得力があります。フルートソロはとても印象的です。会場の響きの良さを感じさせてくれます。ラストはテンポが速く、とても引き締まっていて圧倒的に盛り上がります。
レオノーレ第3番はドラマティックな曲ですが、構成がしっかりしていて完成度が高い曲でもあります。ヴァントの妥協のないアプローチは、曲自体がもっている情熱と完成度の高さを自然に引き出しています。
フルトヴェングラー=ウィーン・フィル
フルトヴェングラーは歌劇『フィデリオ』の上演も行うなど、歴史的にも重要な役割を果たしています。歌劇『フィデリオ』は『フィデリオ』序曲が使われていますが、当時は歌劇の第2幕第2場への間奏曲として『レオノーレ』序曲第3番を演奏していました。これを考えたのはマーラーですが、フルトヴェングラーがそれを引き継いだことで、一般的になりました。フルトヴェングラーは『レオノーレ』第3番に対して、歴史的に重要な役割を果たしただけでなく、その録音は今でも高い評価を受けています。
ウィーン・フィルとの録音ですが、非常に力強くロマンティックな演奏です。フルトヴェングラーらしく暖かみもあり、感情表現が素晴らしいです。ウィーン・フィルは重厚な響きです。録音は古いですが、しっかりしたモノラル録音で聴き易いです。主部も圧倒的なスケールで始まります。細かい表情付けが良くハマっていて、完成度が高く、それぞれの表現にとても説得力があります。全体的に遅めのテンポでじっくり聴かせてくれるので味わい深いです。ラストは凄い速さで追い込み、圧倒的な迫力です。
いずれのオケであっても、フルトヴェングラーのレオノーレ序曲は、この曲の原点として聴く価値がある名演です。
全曲版
歌劇『レオノーレ』の全曲版のCDがリリースされています。歌劇『フィデリオ』ではなく、歌劇『レオノーレ』の第1稿、第2稿ですね。
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楽譜・スコア
ベートーヴェン作曲の『レオノーレ』序曲 第3番の楽譜・スコアを挙げていきます。
ミニチュア・スコア
大型スコア
電子スコア
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