セルゲイ・プロコフィエフ (Sergeevich Prokofiev,1891-1953)作曲のバレエ『ロミオとジュリエット』 (Romeo and Juliet) Op.64について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。最後に楽譜・スコアも挙げてあります。
『ロメオとジュリエット』はバレエとしてもよく上演されます。オーケストラ曲としても3つの組曲を中心に、主に抜粋版が演奏されます。吹奏楽でも人気のある曲目です。ということで、プロコフィエフらしいモダンな音楽であるにも関わらず、色々なジャンルのファンがいる曲です。
一番、有名なのは「モンターギュー家とキャピュレット家」の音楽です。また「少女ジュリエット」もスリリングな音楽で人気があります。「タイボルトの死」も有名な音楽です。
解説
プロコフィエフのバレエ『ロミオとジュリエット』について解説します。
バレエの作曲
バレエ『ロミオとジュリエット』Op.64は、バレエ音楽として作曲されました。バレエリュス(ロシアバレエ団)などの新機軸では無く、チャイコフスキーの後継者という位置づけです。
バレエの台本は、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』です。
作曲と初演
プロコフィエフは1935年にバレエ『ロミオとジュリエット』の全曲を完成させました。そして初演しようとしますが、レニングラード・バレエ学校で初演される予定でしたが、上演前に酷評されて初演は中止となりました。
プロコフィエフは管弦楽組曲を作曲し、第1組曲を1936年、第2組曲を1937年に初演しましたが、ソヴィエト国内でのバレエの初演は出来ませんでした。初演は、1938年12月30日にチェコの国立ブルノ劇場でプソタの振付により行われました。この初演は成功し、ソヴィエト国内でもキーロフ歌劇場で1940年に上演されることになります。
多くの振付
初演後、各国の劇場のレパートリーに追加されるにつれ、新たな振付が作られています。
ラヴロフスキー振付(キーロフ劇場)
1940年のキーロフ歌劇場(現マリインスキー劇場)で上演されるに当たり、レオニード・ラヴロフスキー振付が作成されました。音楽にも手を入れ、プロコフィエフの反対を受けています。なお、マリインスキー劇場のDVDはラヴロフスキー版ですね。
アシュトン版(デンマーク王立バレエ団:1955年)
1955年にデンマーク王立バレエ団で初演するにあたり新しくアシュトン版が作成されました。ドリーヴの「シルヴィア」ではアシュトン版が有名ですね。
マクミラン版(ロイヤル・バレエ:1965年)
1965年に英国ロイヤル・バレエ団が初演するにあたり、ケネス・マクミラン版が作成されました。現在でもロイヤル・バレエはこの舞台を上演しています。初演時はジュリエット役がマーゴ・フォンテイン、ロミオ役がルドルフ・ヌレエフと豪華メンバーで、下のほうで紹介しますが、1965年収録のDVDも残っています。
ノイマイヤー振付(フランクフルト・バレエ団:1971年)
1971年にフランクフルト・バレエ団で初演された舞台です。ジョン・ノイマイヤーはコンテンポラリーダンスに近いモダンな振付です。ハンブルク・バレエ団でも上演されています。
ヌレエフ版(パリ・オペラ座バレエ:1977年)
有名なダンサーであるヌレエフが振付を行ったもので、イングリッシュ・ナショナル・バレエにより1977年に初演されました。1984年以降、パリ・オペラ座バレエがヌレエフ版を使っています。芸術的な意味合いでヌレエフ版が一番評価が高いです。
グリゴローヴィチ版(ボリショイ・バレエ:1919年)
ユーリー・グリゴローヴィチによる振付は、1979年にボリショイ・バレエにより初演されました。現在もボリショイ・バレエで使用されています。
演奏会用組曲
演奏会用組曲が作成されましたが、第3組曲まであり、演奏時間もかなりかかる大規模なものでした。現在は、主に第2組曲が演奏され、有名な曲はほとんどここに入っています。
演奏会用組曲は、バレエの初演より先に作曲されました。第1組曲は1936年、第2組曲は1937年に初演されています。かなり期間が空いて、第3組曲は1946年に初演されました。
第1曲:フォーク・ダンス
第2曲:情景
第3曲:マドリガル
第4曲;メヌエット
第5曲:仮面
第6曲;ロメオとジュリエット
第7曲:タイボルトの死
第1組曲には「ロメオとジュリエット」と「タイボルトの死」が入っています。
第1曲:モンターギュー家とキャピュレット家
第2曲:少女ジュリエット
第3曲:僧ローレンス
第4曲:踊り
第5曲:別れの前のロメオとジュリエット
第6曲:アンティル諸島から来た娘たちの踊り
第7曲:ジュリエットの墓の前のロメオ
第2組曲には「モンターギュー家とキャピュレット家」、「少女ジュリエット」、「ジュリエットの墓の前のロメオ」が入っており、筋書きから大きく外れない構成です。
第1曲:噴水の前のロメオ
第2曲:朝の踊り
第3曲:ジュリエット
第4曲:乳母
第5曲:朝の歌
第6曲:ジュリエットの死
第3組曲はあまり有名な曲がなく、あまり演奏されません。
第1組曲、第2組曲から有名な曲を抜粋し演奏することが多いです。それで結構40分程度の時間になったりします。
おすすめの名盤レビュー
それでは、プロコフィエフ作曲バレエ『ロミオとジュリエット』の名盤をレビューしていきましょう。
多くは全曲盤や抜粋です。筆者は抜粋でいいと思います。全曲盤は結構長いです。それなら、バレエのDVDが沢山あるので、それを入手したほうが映像もあって参考になります。何かの参考で組曲版が欲しい場合は探す必要がありますね。
ゲルギエフ=マリインスキー劇場管弦楽団 (全曲盤)
ゲルギエフと手兵マリインスキー劇場管弦楽団の録音です。劇場オケらしいライヴ感のあるサウンドで音質も十分良いです。
冒頭からケレン味のない自然な演奏で、バレエの舞台が目に浮かんできます。ゲルギエフはリズムの粒が立っていますし、クラなどの木管楽器は色彩感もあり、飽きずに楽しめます。第4曲「朝の踊り」は速めのテンポで軽快でスリリングです。マリインスキー劇場のレヴェルの高さも感じられます。作為のない自然なテンポ取りで曲の良さが上手く伝わってきます。
一方、「モンターギュー家とキャピュレット家」は、遅めのテンポでシリアスにじっくり演奏しています。オケも金管がダイナミックです。「少女ジュリエット」は小気味良く速いテンポで、絶妙の演奏です。中間部ではテンポを落とし、透明感のある響きと美しい表現で、さすが実際の舞台も上演するマリインスキー劇場です。「ガヴォット」もインテンポでガヴォットらしいリズムですね。
全体的にロシアの演奏家らしいリズム感が良くダイナミックな名盤です。
小澤征爾=ボストン交響楽団 (全曲,抜粋)
小澤征爾はプロコフィエフを得意としています。理由は分かりませんが、プロコフィエフの管弦楽曲は皆いい演奏です。独特のしなやかさと軽妙なテンポ取りで、他の指揮者では聴けない面白みを発見できる演奏です。小澤征爾も全曲録音していますが、そこからの抜粋盤もあり、曲目は分かりませんが、CDにより色々ありそうです。
「モンターギュー家とキャピュレット家」は自然なテンポで重厚ですが、ボストン響のサウンドは爽やかさがあります。中間のソロが多い部分は小澤氏らしい所で、他の指揮者と違って、間を詰めないので自然ですね。「タイボルトの死」も速いテンポですが、キビキビしたものではなく、あくまでバレエの情景を自然に演奏しています。「ガヴォット」が入っています。ガヴォットはバロック期のフランス宮廷のダンスなのですが、その独特のリズムを小澤氏がどの位再現しようとしているのか分かりませんが、結構芸が細かいです。「ジュリエットの墓の前のロメオ」は、ロメオの悲しみをしなやかに歌い上げていて、段々深みが増していきます。
手元にある抜粋盤は有名な曲が続いていきます。演奏は素晴らしいですが、音楽の流れはアバド盤のほうが上かも知れません。
アバド=ベルリン・フィル
アバド=ベルリン・フィルの演奏は、非常にレヴェルの高いものです。録音も良く透明度の高い高音質です。全曲が録音されていますが、抜粋版もあり、20曲抜粋されています。
ダイナミックレンジも広く、「モンターギュー家とキャピュレット家」は、強弱の差が凄いです。スリリングにクレッシェンドしてベルリンフィルのパワーも感じます。主部に入ってもテンポ取りが適切で、とても充実した演奏です。またソロのレヴェルも高いので、そういった楽しみ方もできます。「少女ジュリエット」では、速いテンポでクオリティの高いアンサンブルが楽しめます。「タイボルトの死」も速いテンポでスリリングです。「ジュリエットの墓の前のロメオ」はシリアスな鋭い弦のサウンドで入り、盛り上がります。この透明感はさすがベルリン・フィルです。
全曲からの抜粋なので、組曲に入っていてもこの抜粋盤に入っていない曲もありますが、抜粋の仕方が自然で、ストーリーを考えても違和感がありません。抜粋でも十分聴きごたえのあるCDです。
テミルカーノフ=サンクト・ペテルブルク・フィル (抜粋)
テミルカーノフとサンクト・ペテルブルグ・フィルが2009年に録音した『ロメオとジュリエット』です。第1組曲から「タイボルトの死」、第2組曲から6曲、合計7曲です。第7曲は「ジュリエットの墓の前のロメオ」です。サンクト・ペテルブルグ・フィルは中低弦がいい音を出していて、引き締まったサウンドです。舞曲は全体的にテンポが速めです。
「モンターギュー家とキャピュレット家」では重厚な響きで楽しめます。「少女ジュリエット」はかなりテンポ速めでスリリングです。途中のクラなどのソロも渋いです。中間部のフルート、チェロのソロは上手いですね。こういう所にも芳醇な味わいがあるのがテミルカーノフらしいです。「ロメオとジュリエット」は表現も大人ですし、響きにコクがあって楽しめます。「タイボルトの死」もリズミカルで速いテンポですが、後半はかなり感情的に盛り上がります。金管がダイナミックです。「ジュリエットの墓の前のロメオ」は、弦の響きがさすがサンクト・ペテルブルグ・フィルで芳醇です。感情的に盛り上がってくるとダイナミックな金管が聴けます。この辺りはテミルカーノフの音楽づくりは上手いですね。
テミルカーノフの指揮は円熟味も加わって、感情的な盛り上がりと格調が上手くバランスした演奏になっています。サンクト・ペテルブルグ・フィルの芳醇な弦セクションは素晴らしく、味わい深い演奏です。録音も良いです。
ロストロポーヴィチ=ナショナル交響楽団 (組曲)
このCDは、抜粋では無く、第1組曲と第2組曲が全部入っています。組曲がきちんと入っているのは意外と珍しいです。それでも第3組曲は入っていませんが、第3組曲はマイナーなので不要な感じもしますけど。
第1組曲の前半はあまり有名な曲も無く、なるほど、カットされるのも仕方ないかな、と思います。第2組曲も有名な曲を除くと、特に素晴らしい曲を揃えている訳でも無い感じです。しかし、オケや吹奏楽で演奏する人には組曲が全部入っているのはありがたいです。
演奏はロストロポーヴィチらしい重厚でダイナミックなものです。『ロメオとジュリエット』の場合、曲に対する共感が深いようで、静かな曲でも情感豊かに演奏されていて、飽きることはありません。ナショナルフィルも高い技術力で熱演を支えています。「ロメオとジュリエット」は名演です。「タイボルトの死」は凄い速さでオケがギリギリな所がありますが、パワフルに演奏しています。後半も熱気のある名演です。「モンターギュー家とキャピュレット家」は重厚で遅いテンポです。「ジュリエットの墓の前のロメオ」も鋭い弦セクションの響きと重厚な金管で共感溢れる名演です。
美しさとダイナミックさでメリハリがあり、テンポも少し極端ですが、ロストロポーヴィチらしい名演です。録音も十分良く、響きも心地良いです。
ムラヴィンスキー=レニングラード・フィル(第2組曲より)
小澤征爾=サンフランシスコ交響楽団 (抜粋)
小澤征爾がサンフランシスコ交響楽団の指揮者だったころに録音された『ロメオとジュリエット』が3種類収録されています。チャイコフスキー、プロコフィエフ、ベルリオーズです。いずれも小澤氏の十八番の作曲家ですね。
プロコフィエフの『ロメオとジュリエット』は、抜粋されて20分程度になっていますが、若いだけあってストレートな演奏です。ボストン交響楽団とのしなやかで新鮮なプロコフィエフまでは到達していませんが、代わりに迫力があります。録音はそれほど気になりませんが、少し古いですかね。サンフランシスコ交響楽団は、ボストン交響楽団に比べるとさすがに管楽器などが荒いです。でも、小澤征爾の若いころの爽やかさが魅力です。
なお、チャイコフスキーの『ロミオとジュリエット』は、白熱していて名演です。
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バレエ版DVD
全曲盤のCDも沢山リリースされていますが、結構長いバレエなので折角なら、バレエの映像を観たほうが良いと思います。ストーリーは有名で分かり易いですし。
ロイヤル・バレエ(マクミラン版:1984年)
筆者が持っているDVDです。1984年収録で画質も音質もあまり良いとは言えませんが、コスト・パフォーマンスは相当良いと思います。ジュリエット役のフェリの名演技で話題になったDVDでかなり長い間、定番といえる座にいました。演技のみならず、衣装も舞台装置も伝統的で親しみやすいです。音質はいまいちですが演奏は良いと思います。最近は、映像が良いDVDやブルーレイが目白押しですが、まだまだこのDVDはお薦めできると思います。
ロイヤル・バレエ(マクミラン版:2012年)
もちろん余裕があれば、新しい方が映像は良いですし、音質も良くなります。マクミラン版でロイヤル・バレエなら、高いクオリティで親しみやすい舞台なので、2012年のこのDVDもお薦めです。
ロイヤル・バレエ(マクミラン版:1965年)
ロイヤルバレエのマクミラン版は1965年に作成されました。このDVDはそのシーズンの上演を収録した貴重なものです。画質はかなり悪いですが、ダンサーはロミオ役がヌレエフ、ジュリエット役がフォンティーンと豪華なメンバーで、非常に表現力が高く、見ごたえのある舞台です。興味のある方はお早めに。
パリ・オペラ座バレエ(ヌレエフ版)
もう一つ、パリ・オペラ座の上演もお薦めです。ロイヤル・バレエほど分かり易くは無いかも知れませんが、芸術性の高い舞台と言われています。振付もヌレエフ版で、非常に評価が高い振付です。ヌレエフ自身が選んだ配役で上演されており、ヌレエフが理想とする上演です。
マリインスキー劇場(ラヴロフスキー版)
キーロフ劇場がロシア初演した訳ですが、その時のラヴロフスキー版による上演です。
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楽譜・スコア
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