ショスタコーヴィチ 交響曲第10番

ドミートリイ・ショスタコーヴィチ (Dmitri Shostakovich,1906-1975)作曲の交響曲第10番 ホ短調 Op.93 (Symphony No.10 e-Moll)について、解説おすすめの名盤レビューをしていきます。

色々いわくつきの第2楽章が人気です。Promsでもドゥダメルが取り上げる位です。南米、ベネズエラ・ユース・オケはシベリアの大地のような冷たい演奏はしないと思いますし、スピード勝負ですね。

実際の所、全楽章を聴いても、交響曲第8番と同じくらい聴き所の多い曲で、緊張感もかなりのモノですが、交響曲第10番は内容の豊富な名作です。ただ、第2楽章以外は解説を読んでから聴かないと、途中で飽きるかも知れません。もっとも解説を読んでも何を表現したいのか、分からないと思いますけど、聴くときのポイントは分かります。

解説

ショスタコーヴィチ交響曲第10番について解説します。

ジダーノフ批判

ショスタコーヴィチ交響曲第8番ソヴィエト当局を困惑させ、次の交響曲第9番で周囲はベートーヴェンの第九のような壮大な交響曲を期待していましたが、見事にそれを裏切りました。スターリンは交響曲第9番を聴いて、激怒します。そして1948年にジダーノフ批判により、ショスタコーヴィチの立場は危うくなりました。

それから1953年のスターリンの死までの間、ショスタコーヴィチはソヴィエト当局のプロパガンダに沿った作品を作曲して非難を避けました。この時期の作品としてオラトリオ『森の歌』が有名です。『森の歌』はソヴィエト当局の意向に沿って歌詞が買えられたりしています。それにしても、プロパガンダに沿った作品でも素晴らしい曲を作曲してしまうのがショスタコーヴィチです。明るい作風ですが『森の歌』は駄作ではありません。
しかし交響曲はその期間、作曲していません。

スターリンの死、同年に初演

そしてスターリンが死んだ1953年から、ソヴィエト「雪解けの時代」を迎えます。スターリンの死を待っていたかのように発表されたのが、この交響曲第10番です。交響曲第9番から8年後のことでした。交響曲第10番はソヴィエトの楽壇では賛否両論でした。

初演1953年12月17日にエフゲニー・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルハーモニーの演奏で行われました。

戦争交響曲の完結編

交響曲第10番ショスタコーヴィチが弟子に宛てた手紙で「戦争三部作の完結編」と述べています。また「私は人間的な感情と情熱とを描きたかった」と述べています。

第1楽章重苦しい雰囲気零下20度くらいのシベリアの大地のような音楽が20分も続くので、コンサートで聴いてもCDで聴いても緊張感で客席にいるだけでも大変です。でもこの緊張感がなければ、名演とは呼べないと思いますけど。

ロストロポーヴィチ最後の来日

昔、ロストロポーヴィチの最後の来日で交響曲第10番を聴きましたが、これは物凄い緊張感でした。前プロのヴァイオリン協奏曲ではヴァイオリンの弦が切れ、交響曲第10番ではロストロポーヴィチはなんと新日本フィルの弦から零下20度の凍り付くような響きを出して見せました。凄い、こんな響きが出るんだと圧倒されましたが、長い緊張感の連続。こんなにしんどいコンサートはなかなか無いですね。今ではここまでリアリティのある演奏が出来る指揮者はもう居ないかも知れません。

そして「ショスタコーヴィチの証言」では、第2楽章を「音楽によるスターリンの肖像」と書いています。一番人気のある第2楽章が独裁者を表す音楽なのですから、皮肉なものです。

第3楽章は、モスクワ音楽院の教え子の女性エルミーラ・ナジーロヴァの主題が入っています。2人は親密に文通していました。それにしては不気味な曲なので難しいですけど。

第4楽章は、速いテンポでダイナミックに盛り上がります。そしてショスタコーヴィチ自身を表すDSCH音型で止められます。その後、まだ盛り上がり、最後はダイナミックに終わります。

おすすめの名盤レビュー

それでは、ショスタコーヴィチ作曲交響曲第10番名盤をレビューしていきましょう。

カラヤン=ベルリン・フィル

  • 名盤
  • 定番
  • ダイナミック

超おすすめ:

指揮ヘルベルト・フォン・カラヤン
演奏ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

1966年,ベルリン,イエスキリスト教会

ショスタコーヴィチ:交響曲第10番
在庫情報:残り1点レビュー数:12個

カラヤンショスタコーヴィチの交響曲第10番を得意としていて、第5番『革命』の録音はないのに、交響曲第10番は何度も録音しています。1966年の録音はその最初期にあたるものです。その後1969年にロシア公演ショスタコーヴィチ本人ムラヴィンスキーの前で演奏している位です。その時、ショスタコーヴィッチからは「美しい演奏」という賛辞をもらっています。この時の録音もあり、CD化されています。

第1楽章は重厚な響きで、冷たさとダイナミックさがあります。スケールの大きさはさすが当時のカラヤン=ベルリン・フィルです。緊張感と凄いアンサンブルには圧倒されます。どんなにダイナミックに演奏しても響きは透明感を保っていて、とても1966年の録音とは思えません。第2楽章は速くはありませんが力強い演奏で、アンサンブルは完璧です。後半のダイナミックさは凄いものがあります。第4楽章は、速めのテンポで重厚かつダイナミックです。

カラヤン=ベルリン・フィルの演奏は、スコアを忠実に音化したのもで、あまり感情を入れていないので、ロシア系の演奏に比べるとむしろクールかも知れません。ロシア勢と演奏スタイルは大分違います。その代わりロシア系の演奏家では聴けない新鮮なショスタコーヴィチが聴ける名盤です。

ムラヴィンスキー=レニングラード・フィル

第2楽章の物凄いスピード!静けさの中に情熱を感じる

ムラヴィンスキー=レニングラード・フィルの演奏は、初演者の演奏ということもあって、曲への強い共感と感情的なダイナミズムに溢れています。この曲の多くを占める静かな音楽は、緊張感あふれる冷たい音楽です。これを表現するのにレニングラード・フィルを超えるオケがあるとは思えません。

第1楽章は静かですが、クールさと共に感情的に濃厚な表現もあり、両方を同時に表現してしまう、レニングラード・フィルの弦セクションは凄いです。恐怖感と作曲者への共感のレヴェルも高いです。後半の叫びのような盛り上がりも非常にリアリティがあります。第2楽章スピードは恐らく一番速いと思います。録音状態によりけりですが、技術的には完璧で凶暴で驚きのアンサンブルです。前半で既に圧倒されてしまいますが、後半金管が入ってくるのでさらに凄いことになっています。第3楽章も第1楽章と同様、曲への理解の深さを感じます。後半の金管の咆哮も迫力あります。第4楽章はテンポが速く素晴らしい演奏です。強烈なリズム、金管の咆哮!レニングラードフィルの金管の凄さを感じます。

カラヤン盤は凄い演奏ではありますが、やはりスコアを再現したものであって、ショスタコーヴィチ自身の感情は入っていません。1960年代なので録音も少なく仕方ないかも知れませんけれど。その点、ムラヴィンスキーは初演者でショスタコーヴィチ自身とやり取りしているので、その意見も入っていると思います。ただ、第4楽章ではムラヴィンスキー独自の解釈で楽譜を変えているので、そこは気に留めておいたほうがいいかも知れませんけど。

ムラヴィンスキー=レニングラード・フィル1976年ライブが定番でしたが、意外に入手しにくいようでしたら、最近は1955年プラハ・ライヴがありますね。1955年は古い気もしますが、初演が1953年なのと一応ステレオ録音なので、リアリティがありそうです。

ロストロポーヴィチ=ロンドン交響楽団

スケールが大きく、リアリティがある名盤
  • 名盤
  • 定番
  • 共感
  • 重厚
  • スケール感

超おすすめ:

指揮ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ
演奏ロンドン交響楽団

1988-1995年

Complete Symphonies -Box
在庫情報:残り16点レビュー数:106個

[タワレコ]ショスタコーヴィチ: 交響曲全集
在庫情報:お取り寄せレビュー数:1

ロストロポーヴィチはテンポも遅いし、昔はあまり聴いていなかったのですが、最近になって大きく見直しました。西欧やアメリカのオケを使ってロシア的な響きを出してくることや、新日本フィルで実演に接したときに零下20度の弦の響きを新日本フィルから引き出してくる指揮者としての力量です。ただムラヴィンスキーコンドラシンに比べるとテンポが遅いため、スリリングさは弱いです。しかし、緩徐楽章で見せる重厚さと時代のリアリティはやっぱり凄いですね。

第1楽章厚めの響きでロシアの冷たい大地のような響きです。分厚い響きのまま盛り上がりスケールのあるサウンドになります。後半は金管がダイナミックに咆哮し、パーカッションが容赦なく打ち付けます。そして、教会の讃美歌のような音楽になっていきます。録音の音質も良いです。やはり1990年代の録音ですからね。第2楽章は、速さではなく重さも重視していると思います。最初の2つの音の重さはこのCDではそこまででもないですが、実演ではかなり重さを感じました。ダイナミックに盛り上がりますが、スピード勝負はしていないですね。

第3楽章は全体的に非常に静かな演奏です。静かですが緊張感があります。後半は急にダイナミックになってホルンが咆哮します。第4楽章は静かに始まり、フルートやクラリネットが不安そうに登場すると、弦が盛り上がり、テンポが速くなります。丁寧な演奏です。テンポの速い部分はリズミカルに演奏しています。最後はスピード感を保ったままダイナミックに終わります。

交響曲第10番はロストロポーヴィチに合った交響曲だと思います。オケのロンドン交響楽団もダイナミックな響きでロストロポーヴィチの音楽を的確に再現しています。アンサンブルのクオリティも高く、良いコンビです。

ペトレンコ=ロイヤル・リヴァプール・フィル

  • 名盤
  • 定番

おすすめ度:

指揮ヴァシリー・ペトレンコ
演奏ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団

2009年9月11-12日,リヴァプール,フィルハーモニック・ホール(デジタル/セッション)

[タワレコ]Shostakovich: The Complete Symphonies
在庫情報:在庫わずかレビュー数:1

ペトレンコが凄い指揮者であることは分かっているのですが、ロイヤル・リヴァプール・フィルはそこまでパワフルなオケではないので、ロイヤル・リヴァプール・フィルの調子次第という所でしょうか。この演奏でも十分素晴らしいですが、いずれベルリン・フィルで再録音が期待できますね。

第1楽章は静かに始まります。ロイヤル・リヴァプール・フィルの弦は線の細く色彩的な響きで、なんとなくバレエ音楽が得意そうな音色です。ペトレンコは鋭いアクセントをつけて緊張感を出しています。しかし世代の違いもあるでしょうけど、寒々としたリアリティはロストロポーヴィチほどではないと思います。緊張感はそれなりにあり、最近の演奏ではやはり出色の演奏ですね。録音が良いので新鮮な響きが聴けます。ショスタコーヴィチのオーケストレーションをしっかり再現していて、このクオリティはカラヤン盤以来かも知れませんね。第2楽章はオケのレヴェルの高さを見せ付けられました。ペトレンコは容赦なく速いテンポで鋭い指揮です。それにロイヤル・リヴァプール・フィルはついていって最後は相当ダイナミックに演奏しています。響きが汚くなることはありません。久々にこのレヴェルの演奏を聴いた気がします。ムラヴィンスキーコンドラシンも昔の録音で多くはソ連での録音なので、これだけ高音質でこのレヴェルの演奏が聴けるのはこのCDの凄い所です。

第3楽章は静かな演奏ですが不気味さもそれほどなく聴き易いです。スケールがあまり大きくなくホルンの咆哮もそれほど切迫感はないです。その代わり、この楽章では意外に味わい深いロシア的な弦の音色が聴けます。緊張感が少ない分、落ち着いて音楽をじっくり聴けます。リズミカルになるとロイヤル・リヴァプール・フィルは急に活気づきます。この辺りペトレンコとオケのリズム感の相性が良いですね。

CD,MP3をさらに探す

国内CD検索 輸入CD検索 MP3検索

楽譜・スコア

ショスタコーヴィチ作曲の交響曲第10番の楽譜・スコアを挙げていきます。

ミニチュア・スコア

楽譜をさらに探す

楽譜検索 楽譜検索