ショスタコーヴィチ ヴァイオリン協奏曲第1番Op.77

ドミートリイ・ショスタコーヴィチ (Dmitri Shostakovich,1906-1975)作曲のヴァイオリン協奏曲 第1番 イ短調 Op.77 (Violin concerto no.1 a-moll Op.77)について、解説おすすめの名盤レビューをしていきます。

解説

ショスタコーヴィチヴァイオリン協奏曲第1番について解説します。

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作曲の経緯

1947年に作曲し始め、1948年に完成しました。
その頃、ソヴィエトのコンクールで優勝したオイストラフに注目し、彼のためにヴァイオリン協奏曲を書くことにしました。1948年にピアノでオイストラフに聴かせた所、とても気に入ったとのことです。

ダビット・オイストラフ


しかし、その時は難解で前衛的な技法を用いた作品に対するジダーノフ批判が行われていました。このヴァイオリン協奏曲は部分的に12音技法を用いるなど難解な曲なので、ショスタコーヴィッチはこの曲を発表しませんでした。
その代わりにオラトリオ『森の歌』や映画音楽を作曲しています。しかし、スターリンが死去し、ソヴィエトが雪解けの時代となると、交響曲第10番と同時期の1955年に発表されました。
作曲から7年の歳月が経っていました。そのため作品番号に混乱があり、Op.99と書かれることも多いですが、Op.77が正しいようです。

初演

初演は1955年10月29日にヴァイオリン独奏としてダヴィット・オイストラフ、ムラヴィンスキーとレニングラード・フィルにより行われました。
アメリカ初演は1955年12月31日にオイストラフのヴァイオリン、ミトロプーロスとニューヨーク・フィルハーモニックの演奏により行われました。
交響曲第10番に似たヴァイオリン協奏曲がある、と話題になっていたようですし、オイストラフも「交響曲第10番によく似た作品」と言っています。実際は7年前に作曲されていた訳ですけれど。

曲の構成

全体は4楽章からなり、演奏時間(約35分)などを考慮しても、交響曲に匹敵する規模の作品です。交響曲第6番と同様、緩徐楽章から始まっています。緩-急-緩-急はバロック時代の教会ソナタにも似ています。

第1楽章:ノクターン、モデラート

3部形式です。ノクターン(夜想曲)は非常に強い緊張感で哀歌のように聴こえます。伴奏はピアニシモでトレモロを弾いていますが、凍てついた大地のようです。12音技法が取り入れられ、中間部の主題は12音全てを使ったものです。この先、ショスタコーヴィチは徐々に最新の作曲技術を取り入れていきます。

また、1948年に作曲されたこともあり、第2次世界大戦のインパクトはまだ大きく曲想に影響しているように思います。

第2楽章:スケルツォ、アレグロ

厳しく激しさを伴ったスケルツォです。ヴァイオリンのシャープなグリッサンドが印象的です。速いパッセージでヴァイオリニストの技巧が試される楽章ですね。
同時に木管が独奏ヴァイオリンの先に出て、その後独奏ヴァイオリンが絡むなど、オケ側にも技巧やアンサンブル力が要求されます。細かく見ると巧みな対位法になっています。

第3楽章:パッサカリア、アンダンテ – カデンツァ(アタッカ)

テンポの遅い緩徐楽章にパッサカリアを置くのは、ショスタコーヴィチの特徴ですね。交響曲第8番の第4楽章もパッサカリアです。テンポが遅いため、パッサカリアには聴こえにくいですが、この曲は全体として新古典主義の影響があり、対位法を使用しています。最後のカデンツァはよりはっきりとバッハの影響を聴くことができ、無伴奏ヴァイオリン・ソナタなどを想起させます。

第4楽章:ブルレスケ、アレグロ・コン・ブリオ – プレスト

ロンド形式です。ブルレスケとは、風刺に満ちたおどけた楽曲のことです。R.シュトラウスの同名の作品などもあります。プレストになると第2楽章の主題が回想され、コーダに入ります。途中で第3楽章のモチーフも入っています。

編成

独奏ヴァイオリン
フルート×3(1本はピッコロ持ち替え),オーボエ×3(1本はイングリッシュホルン持ち替え),クラリネット×3(1本はバスクラリネット持ち替え)、ファゴット×3(1本はコントラファゴット持ち替え)
ホルン×4、チューバ
ティンパニ、タンブリン、タムタム、シロフォン、チェレスタ、ハープ2

※大編成でありながら、トランペットとトロンボーンを含まないことが特徴

おすすめの名盤レビュー

それでは、ショスタコーヴィチ作曲ヴァイオリン協奏曲第1番名盤をレビューしていきましょう。まずは基本としてオイフトラフとムラヴィンスキーの録音は押さえておきたいですね。

Vn:ベネデッティ, カラビッツ=ボーンマス交響楽団

スケールの大きさと哀愁に溢れた表現、トップを争う一枚
  • 名盤
  • 定番
  • しなやか
  • 迫力
  • 高音質

超おすすめ:

ヴァイオリンニコラ・ベネデッティ
指揮キリル・カラビッツ
演奏ボーンマス交響楽団

2015年4月,ボーンマス,ライトハウス (ステレオ/デジタル/セッション)

二コラ・ベネデッティのヴァイオリン独奏と、カラビッツ=ボーンマス交響楽団の録音です。録音は2015年と新しく音質は奥行き、質感ともに良く、演奏者の息遣いまで良く伝わってきます。ニコラ・ベネディッティは技術・表現ともにレヴェルが高く、ヴァイオリンの音色に力強さがあります。ボーンマス交響楽団も重厚な演奏でショスタコーヴィチの世界を良く描き出しています。

第1楽章カラビッツとボーンマス交響楽団は深みのある音色でロシアの大地を描きます。ウクライナ出身のカラビッツならではの演奏です。二コラ・ベネデッティはオケの伴奏の上で、スケール大きくも哀愁のある演奏を繰り広げます。盛り上がってくると情熱的で、女性ならではの表現です。この曲のヴァイオリンソロは女神役なので、ソリストは女性の方が合うと思うんですよね。後半の盛り上がりも重厚で壮大です。第2楽章は速めのテンポで、ベネデッティは安定した超絶技巧を聴かせてくれます。オケとのアンサンブルも正確でスリリングです。

第3楽章ダイナミックな金管の主題提示で始まります。この広大さはやはりウクライナ~ロシアに広がる草原を思い起こさせます。テンポは中庸でリズムもしっかりしています。ベネデッティ悲哀に満ちた表現で入ってきて、パッサカリアのリズムに乗って盛り上がっていきますベネデッティの芯のしっかりした太い音色は、この広大さと感情を表現するのに十分です。カデンツァは表情豊かで、音色の艶やかさも印象的です。そして激しく情熱的な表現になっていきます。

第4楽章速いテンポで迫力のある演奏で始まります。ベネデッティは速いテンポの超絶技巧でもとても丁寧さがあり、ボーンマス響もダイナミックでレヴェルの高いヴァイオリンに十分対等です。ラストは凄いスリリングになっています。

ヴァイオリンもオケもとてもハイレヴェルで、ショスタコーヴィチらしい力強さがあり、非常な名盤ですね。カップリングのグラズノフもロマンティックで生き生きとした名演です。

Vn:庄司さやか, リス=ウラル・フィル

シャープで情熱的なヴァイオリンとロシア的な土の香り
  • 名盤
  • 定番
  • 情熱的
  • 力強さ
  • 高音質

超おすすめ:

ヴァイオリン庄司さやか
指揮ドミトリー・リス
演奏ウラル・フィルハーモニー

2011年8月,エカテリンブルク・フィルハーモニー (ステレオ/デジタル/セッション)

庄司さやかのヴァイオリン独奏とリス=ウラル・フィルの伴奏です。近代のロシア物には庄司さやかは合っていると思います。プロコフィエフなど、世界でもトップを争うヴァイオリニストです。音質はもう少し透明感が欲しい気ももしますが、ヴァイオリンの音色を良く捉えています。

第1楽章から庄司さやからしい情熱的な感情表現でとても味わい深く聴かせてくれます。ウラル・フィルはロシア的な土の香りのする響きで、ドミトリー・リスの理知的なタクトで、シャープで繊細な庄司さやかの表現に相応しい演奏を繰り広げています。後半の盛り上がりはヴァイオリンのシャープで感情的な表現が頂点に達します。庄司さやかの演奏は、日本人的な繊細さを伴いながらも、リズム感がしっかりしていて自然な演奏です。ウラル・フィルは低音を効かせて良く雰囲気が出ています。第2楽章はシャープなヴァイオリンと、ウラル・フィルの木管の小気味良いロシア的な伴奏です。アンサンブルの精緻さがあるともっとスリリングですが、庄司さやかの情熱的と高い技巧を堪能できます。

第3楽章このディスクの白眉です。このパッサカリアにこれだけの感情を入れられるヴァイオリン奏者は数少ないと思います。シャープに情熱的に弾いていきますが、曲はスケール大きく盛り上がっていきます。そしてカデンツァが聴き物で、ここで激しい感情をぶつけて盛り上がり、そのまま第4楽章になだれこみます。第4楽章は速めのテンポでシャープで庄司さやからしいと名演と思います。リスとウラル・フィルも民族的で良い伴奏を付けています。

庄司さやかは日本人離れしたヴァイオリニスト、と考えていましたが、リズム感は確かに日本人離れしていますが、感情表現は日本人らしいと思います。そしてそれが欧米の音楽にも自然に溶け込んでいる所が凄いです。カップリングはショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第2番、という意欲的なディスクです。第2番も優れた演奏、というか第2番の方がさらに名演と思います。

Vn:オイストラフ, ムラヴィンスキー=レニングラード・フィル

これを聴かねば始まらない!迫力と哀愁に満ちた名盤
  • 名盤
  • 定番

超おすすめ:

ヴァイオリンダヴィッド・オイストラフ
指揮エフゲニー・ムラヴィンスキー
演奏レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

(ステレオ/デジタル/セッション)

このヴァイオリン協奏曲の初演者の組み合わせです。ヴァイオリンはオイストラフムラヴィンスキーとレニングラード・フィルという当時のロシアで最もゴージャスな組み合わせです。録音は古いですが、思ったよりは良い音質で、安定しています。

第1楽章最初の弦の音色から、凍てついた大地を思わせ、とても深みのある響きですぐにムラヴィンスキーの世界に引き込まれてしまいます。対照的に独奏ヴァイオリンは柔らかく暖かみのある響きで、感情表現も素晴らしいです。オケとヴァイオリン独奏の理想的なバランスですね。最初の楽章なのでヴァイオリン独奏も緊張感があることが多いですからね。ノクターン、というより哀歌に聴こえます。後半、オケがドス黒い響きでスケール大きく盛り上がり、ここは文章で書くのは難しいですが、とにかく凄い迫力です。第2楽章速めのテンポでスリリングです。ムラヴィンスキーならもっと速いテンポを取りそうですが、オイストラフのテンポだと思います。その証拠にオケだけの所はテンポアップして思い切り白熱してますし。

第3楽章ダイナミックなティンパニと金管の咆哮で始まります。テンポは中庸で、これならパッサカリアに聴こえると思います。オイストラフはふくよかな響きで、哀歌のような表現でスケール大きく弾いていきます。オイストラフは太い音色を持っていますが、盛り上がってくるとシャープになってきて凄い迫力です。伴奏も地の底から湧いてくるような迫力で、オイストラフと理想的ともいえる競演になっています。カデンツァ暖かみのある感情表現で、超絶技巧も交えて盛り上がっていきます。

第4楽章爆速です。この時期のレニングラード・フィルは本当に凄いです。オイストラフは余裕で演奏していて、さすがです。オケはスリリングに盛り上げていきます。ラストはオイストラフとレニングラード・フィルの丁々発止のやり取りが大迫力です。

今は新品が入手できるので、持っていない人はチャンスです。ショスタコのヴァイオリン協奏曲を聴くなら必ず聴くべき名盤です。何度も聴きたくなる名盤です。

Vn:ヒラリー・ハーン, ヤノフスキ=オスロ・フィル

クールな超絶技巧、その中に埋め込まれた感情表現
  • 名盤
  • 定番
  • シャープ
  • スリリング
  • 超絶技巧

おすすめ度:

ヴァイオリンヒラリー・ハーン
指揮マレク・ヤノフスキ
演奏オスロ・フィルハーモニー管弦楽団

(ステレオ/デジタル/セッション)

技術に優れ、クールな音色のヒラリー・ハーンのヴァイオリン独奏とヤノフスキ=オスロ・フィルの伴奏です。比較的新しい録音なので、音質は素晴らしく透明感があります。ヒラリー・ハーンのショスタコVn協奏曲はスタンダードと言って良いくらい世評が高いです。管理人もこの曲で一番最初に買ったディスクです。

第1楽章はオケは透明感のあるクールな響きで始まります。ヒラリー・ハーンは神妙に入ってきます。感情表現は抑制気味ですが、クールさと哀歌のような表情があります。伴奏の弦はとても透明感があり、スケール大きく盛り上がっても粗野になることはありません。ヒラリー・ハーンはここぞとばかりに鋭い感情表現です。

第2楽章超速なテンポでヒラリー・ハーンの超絶技巧が聴けます。鋭い音色で音を外す所か、不安定になることもありません。グリッサンドのフラジオは鋭い刃物のようです。オスロ・フィルの伴奏がヴァイオリンについていくのが大変ですが、とてもスリリングです。ラストはVn独奏とオケが精密に絡み合い凄い迫力です。この位、やってくれると気分爽快ですね。

第3楽章は冒頭は少し速めですが、少しテンポを落としてヴァイオリン独奏が入ります。オケは重厚さもあり、結構迫力があります。パッサカリアなので速めでリズムを感じさせるのがいいような気もしますが、ヒラリー・ハーンは緩徐楽章らしい暖かみもある感情表現で、じっくりと弾いていきます長いカデンツァ最初は哀歌のように始まり、後半は感情を爆発させていきます。

第4楽章は爆速です。ムラヴィンスキーより速いですね。ヒラリー・ハーンは当たり前のように超絶技巧で弾いていきます。オケの方も安定したアンサンブルで、スリリングであると共に色彩感溢れる演奏です。このテンポがラストまで続き、最後はものすごいことになっています

ヒラリー・ハーンの演奏は、少しクールですが、感情表現にも優れているし、超絶技巧は圧倒的です。伴奏も知的な組み合わせで、まだしばらくスタンダードの地位を保ちそうですね。

Vn:五嶋みどり, アバド=ベルリン・フィル

豪華な競演、ライヴでも素晴らしいテクニックを魅せる五嶋みどり
  • 名盤
  • 定番

おすすめ度:

ヴァイオリン五嶋みどり
指揮クラウディオ・アバド
演奏ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

1997年12月,ベルリン (ステレオ/デジタル/ライヴ)

五嶋みどりのヴァイオリン独奏にクラウディオ・アバドとベルリン・フィルの伴奏というゴージャスな組み合わせです。しかもベルリンでのライヴ録音です。ベルリン・フィルなので、ロシアの凍てついた大地の響きは聴けないと思いますが、どういう演奏になっているかレビューしていきましょう。録音は上々で自然さのある音質です。

第1楽章はベルリン・フィルの伴奏から始まりますが、アバドが指揮していることもあって、ベルリン・フィルは重厚さより、繊細な表現をしています。そこに五嶋みどりが入ると、淡い感情的なヴァイオリンがオケの上にいるようなイメージです。後半になりクレッシェンドしてくるとヴァイオリンも感情的に力強く盛り上がり、スケールの大きな頂点を築きます。第2楽章は少し速めのテンポで、鋭く小気味良くヴァイオリン独奏が入り、しっかりしたリズム感があります。もう少し早くてもいいような気もしますが、アバドは細かいテンポコントロールで速くなりすぎず、遅くならないテンポを維持していきます。

第3楽章はテンポは標準か、少し多い位でスケールは大きいですが、重さはありません。凍てついた、という感じはありませんが、地平線まで広がる草原のようです。そこにヴァイオリン独奏が入ってきて、哀歌のような表現で、広い草原の上で悠々とヴァイオリンを弾いている雰囲気ですね。スケールが大きくなっていきます。とても味わい深い演奏です。カデンツァは哀歌のような表現から、徐々に激しさを増して、思い切り感情をぶつけた演奏です。終盤は超絶技巧が素晴らしいです。非常に迫力のあるカデンツァです。第4楽章はアバドも吹っ切れたような速いテンポで、ヴァイオリンとオケの丁々発止のやり取りが展開されます。第2楽章ももっと速めのテンポでも良かったんじゃないか、と思いますが、第4楽章はとてもスリリングで聴きごたえがあります。終盤はアバドもかなりテンポを挙げてきますが、五嶋みどりは水を得た魚のようにシャープな超絶技巧を繰り広げています。

ロシア的な演奏ではないですが、レヴェルの高いヴァイオリン独奏と指揮者とオケなら、ライヴでもこれだけクオリティの高い演奏ができるんだな、と感嘆します。

演奏のDVD,BlueRay

演奏のDVD,ブルーレイもリリースされています。とりあえず難曲ですので、ヴァイオリニストの指に注目ですね。

Vn:バイバ・スクリデ, ネルソンス=ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

  • 名盤
  • 定番
  • 高画質

おすすめ度:

ヴァイオリンバイバ・スクリデ
指揮アンドリス・ネルソンス
演奏ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

2019年5月,ライプツィヒ・ゲヴァントハウス (ステレオ/デジタル/ライヴ)

バイバ・スクリデはCDでもショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲をリリースしており、非常にふくよかな響きの名演です。このBlu-Rayでは超絶技巧の指さばきを見ることができます。

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楽譜・スコア

ショスタコーヴィチ作曲のヴァイオリン協奏曲第1番の楽譜・スコアを挙げていきます。

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