ドミートリイ・ショスタコーヴィチ (Dmitri Shostakovich,1906-1975)作曲の祝典序曲 イ長調 Op.96 (Festive Overture a-dur Op.96)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。また最後にスコア・楽譜をご紹介します。
お薦めコンサート
🎵クラウス・マケラ(指揮)/オスロ・フィルハーモニー管弦楽団
■2023/10/23(月) サントリーホール
・ショスタコーヴィチ:祝典序曲
・ショスタコーヴィチ:ピアノ協奏曲第2番[ピアノ:辻井伸行]
・R.シュトラウス:交響詩《英雄の生涯》
解説
ショスタコーヴィチ作曲の祝典序曲Op.96の解説を書きます。
作曲の経緯
1947年に十月革命30周年を記念して作曲されました。しかし、その際には演奏されませんでした。
その後、1954年、ロシア革命37周年記念演奏会のための式典で、幕開けに相応しい曲がないことに気づき、ショスタコーヴィチに演奏会数日前に作曲を依頼しました。そこでショスタコーヴィチは1947年に作曲した序曲を改作して、曲を提供しました。
他にも色々な説があるようですが、ソヴィエトの祝賀の式典で演奏するために作曲されたのは、間違いないようです。
分野を超えて大人気に
典型的な序曲の形式です。金管のファンファーレから始まり、アレグロの主部に入ります。最後にまたファンファーレが繰り返され、壮大なコーダで幕を閉じます。ファンファーレもアレグロの主部も、とにかくカッコいい曲ですね。
ショスタコーヴィチとしては、割と簡単に作曲したように思えますが、こんな素晴らしいメロディが次々に出てくるのですから、凄いですね。普段、難しい音楽ばかり作曲していても、必要であればこんな序曲を作曲できるのですから、やはりショスタコーヴィチの才能は凄いです。機会音楽ということで、プロパガンダ用音楽として有名な「森の歌」には、この作品が引用され、素晴らしい効果を上げています。
モスクワオリンピックでも演奏され、西側にも知られるようになりました。
また、日本では吹奏楽で非常に人気の高い曲です。簡単な曲ではありませんが、吹奏楽の演奏のほうがずっと多いと思います。
おすすめの名盤レビュー
ショスタコーヴィチの祝典序曲の名盤をレビューしてきます。全体的にみると、プロにとっては特別な難曲という訳では無く、センスの良し悪しがモノを言いますね。やはり作曲したショスタコーヴィチと同郷のロシア系の演奏家がセンスの良いテンポ取りで名演を残しています。
テミルカーノフ=サンクト・ペテルブルグ・フィル (1996年)
テミルカーノフとサンクト・ペテルブルグフィル(ソ連時代はレニングラードフィル)のコンビは、本当に素晴らしい演奏をしています。ファンファーレの速めの絶妙なテンポどり、主部の中低弦のメロディのレガート、民族的な中にも斬新さを感じさせるサウンド、どれをとっても他の演奏にはないものです。主部のテンポの速さもかなりのもので、サンクト・ペテルブルグフィルのアンサンブル力の高さに感銘を受けます。また、中低弦の重厚でコクのある響きは本当にロシアを感じさせるものです。
一番、上手かったのはソ連が崩壊した直後の来日の時です。ムラヴィンスキー時代の高度なアンサンブル能力が色濃く残るレニングラード・フィルとテミルカーノフの組み合わせは素晴らしいものでした。最近のサンクト・ペテルブルグフィルはまだレベルが上がってきて、ロシアの民族モノ、ラフマニノフ、プロコフィエフなどで名演奏をしています。
テミルカーノフのショスタコーヴィチは交響曲などはムラヴィンスキー、コンドラシンなどの偉大な指揮者のレヴェルに達していませんが、リズム感に優れていて「祝典序曲」と「森の歌」のような明るい音楽では、向かう所敵なしですね。
アシュケナージ=フィルハーモニア管弦楽団 (2001年来日ライヴ)
アシュケナージとフィルハーモニア管弦楽団の録音です。演奏スタイルはロシアの正統派でテミルカーノフやマキシム・ショスタコーヴィチの演奏に近い、スタイリッシュなものです。録音が良く高音質で楽しめます。
冒頭のファンファーレの部分は少し速めでショスタコーヴィチらしい演奏です。フィルハーモニア管の金管もダイナミックで張りのある演奏を繰り広げています。
テンポが速まり主部は速めのテンポの中にもアンサンブルがしっかりしています。やはりオケの機能性がモノをいう曲なのでイギリスの名門フィルハーモニア管弦楽団なら、アンサンブルのクオリティも高いですし、厚みのあるサウンドです。アシュケナージはフィルハーモニア管からロシア的なダイナミックなサウンドを引き出しています。
カップリングの第5番『革命』もしっかりした演奏で、適度に感情も入っており名演です。
ネーメ・ヤルヴィ=スコティッシュ・ナショナル管
ロシアに近いですが、バルト3国のリトアニアの指揮者ネーメ・ヤルヴィとスコティッシュ・ナショナル管弦楽団の演奏です。音質はシャンドスらしく少し残響が多めで、心地よく聴けます。
ネーメ・ヤルヴィの指揮は、普段はバランスよく民族的な味のある演奏なのですが、「祝典序曲」は民族的というより、爽快なテンポで飛ばしていて、さわやかに演奏しています。テンポどりが適切なせいか、スコティッシュ・ナショナル管弦楽団ものびのびと演奏しています。
スヴェトラーノフ=ロシア国立交響楽団
スヴェトラーノフとロシア国立交響楽団の「祝典序曲」は、その爆演ぶりで有名です。スケールの大きな(大仰すぎ?)前奏で始まり、爆速で主部に入ります。最後はまた遅いテンポでファンファーレを演奏して凄いスケールです。
同じロシアのオーケストラですが、テミルカーノフやアシュケナージの洗練された音楽とは全然違います。スヴェトラーノフはこういうロシアの土の香りがする演奏を好みました。ボロディンやムソルグスキーなども凄い演奏です。
上に挙げたものは、ソヴィエトが民主化されてロシアになった後の演奏です。もっと凄いのはソヴィエト時代の演奏です。
スヴェトラーノフ=ソヴィエト国立交響楽団
ロシアの凄いオケの演奏が続いた後ではありますが、爆演とは違うタイプの演奏も紹介していきたいと思います。もっとも結果的には指揮者はロシアかロシアに近い人ばかりになりましたけれど。
ショスタコーヴィチの息子であり指揮者のマキシム・ショスタコーヴィチがロンドン交響楽団を指揮した演奏です。演奏スタイルはテミルカーノフに似ています。ということは、テミルカーノフの演奏スタイルはショスタコーヴィチ直伝なのかも知れませんね。ショスタコーヴィチ自身はレニングラード・フィルのリハーサルによく来たでしょうから。
ロンドン交響楽団は、ベルリンフィルに匹敵するパワーと技術を持ったイギリスでもダイナミックなサウンドと安定感を持つオーケストラです。結果として、安定感とスリリングさが上手くバランスした仕上がりになっています。
アシュケナージ=ロイヤル・フィル
アシュケナージはロイヤルフィルとも「祝典序曲」を録音しています。聴いてみたところ、ロイヤル・フィルのほうは色彩的で面白い演奏ですね。
テンポはいずれの演奏も速めで、ロシアのオケほどではありませんが、十分な爽快感を楽しめます。西側のオケのスタンダードといってもいいかも知れませんね。
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楽譜・スコア
ショスタコーヴィチ作曲の祝典序曲の楽譜・スコアを挙げていきます。
ミニチュアスコア
スコア ショスタコービッチ/祝典序曲 作品96 (Zen‐on score)
4.1/5.0レビュー数:13個