ドミートリイ・ショスタコーヴィチ (Dmitri Shostakovich,1906-1975)作曲の『森の歌』Op.81 (Song of forests Op.81)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。
解説
ショスタコーヴィチの『森の歌』について解説します。
『森の歌』の作曲と改訂
ショスタコーヴィチは1948年にジダーノフ批判を受けます。その回答として1949年に作曲されたのが『森の歌』です。作詞は詩人のエフゲニー・ドルマトスキーです。
第2次世界大戦で荒廃した国土を植林計画で立て直そうという、スターリンが進める事業を讃える内容です。
『森の歌』の改訂
スターリンの次の指導者であるフルシチョフ時代には、スターリン賛美の歌詞は改訂され、1962版が作曲されています。
初演の大成功
初演は1949年11月15日にムラヴィンスキーの指揮とレニングラード・フィルによって行われ、見事な大成功をおさめます。
この曲はショスタコーヴィチの他の作品と比べ、明らかに明るい内容で、祝典序曲のメロディを引用したりしていて、かっこいい曲です。そのため、世界的にも有名になり、日本ではアマチュア合唱団によって盛んに演奏されました。ショスタコーヴィチの作品の中でも最も社会主義リアリズムに忠実で、それでいながらかなりの名曲となっています。
交響曲第5番でも祝典序曲でもそうですが、ショスタコーヴィチはこういう健康的で明るい名曲を作曲できるんですね。凄い才能だと思います。
第1曲「戦争が終わって」
バスが、戦争が終わり、春が来たことを歌う。
第2曲「祖国を緑にかえよう」
力強い弦楽器や合唱の呼びかけで盛り上がっていきます。
第3曲「過去の記憶」
凶作に苦しめられた過去の記憶を歌います。
第4曲「ピオネール達が木を植えている」
ピオネールとは旧ソ連の少年少女団です。児童合唱が活躍します。
第5曲「スターリングラード市民は前進する」
(1962年版では「コムソモール達は前進する」と変わっている)
祝典序曲に似た音楽で、スリリングに盛り上がります。
第6曲「未来の散歩道」
民謡「静けさの中に夜鶯は幸せそうに歌う」をテノール独唱が歌います。
第7曲「賛歌」
雄大なスケールで曲を締めくくります。
おすすめの名盤レビュー
それでは、ショスタコーヴィチ作曲『森の歌』の名盤をレビューしていきましょう。
テミルカーノフ=レニングラード・フィル
テミルカーノフとレニングラード・フィルの録音です。1997年録音で音質は良いです。テミルカーノフらしいリズミカルでスリリングな演奏です。今ではあまり演奏されない初版を使った演奏で、スターリン賛美などが入っていますが、テミルカーノフはそれを強調することなく爽やかな演奏をしています。
第1曲では穏やかな響きの中、バスの歌声が響きます。ここは少し抑制された表現に格調の高さを感じます。弦の一体感のある盛り上がりは、初演したオケであることを感じさせます。テンポ取りからしてもテミルカーノフはムラヴィンスキーを意識していると思います。第2曲「祖国を緑にかえよう」はリズミカルでスリリングな音楽でブリリアントな女声合唱が入ります。この辺りの表現はテミルカーノフが得意とする所です。ラストの派手なパーカッションも品格を持って演奏しています。第3曲「過去の記憶」はバスが重々しい歌唱を聴かせてくれます。
第4曲「ピオネール達が木を植えている」はpでのリズミカルな金管と管楽器で始まり、児童合唱が入ります。このリズムも胸が躍るようなもので、テミルカーノフは速めのテンポでアッチェランドして第5曲に突入していきます。第5曲「スターリングラード市民は前進する」は速いテンポで、胸が躍るような快演です。このスリリングさは尋常ではなく、テミルカーノフの才能をフルに発揮したようなテンポ取りです。第6曲「未来の散歩道」は讃美歌のような合唱が小さく響く中、テノールが歌います。最後の方では、神々しい合唱を聴くことが出来ます。第7曲「賛歌」はリズミカルな少年合唱から始まります。フーガ風に盛り上がっていきますが、キレの良い合唱とオケの響きが印象的です。
来日した時も初版で演奏していて話題になりました。NHKで放映されましたが、それほど違和感はなく、テミルカーノフのセンスが良く格調高い演奏が記憶に残っています。
パーヴォ・ヤルヴィ=エストニア国立管弦楽団
パーヴォ・ヤルヴィとエストニア国立管弦楽団を中心とした演奏です。エストニアは元々ソヴィエトですので、パーヴォ・ヤルヴィもエストニアの演奏家たちも母国の歴史の中にある曲と言えます。2012年と新しい録音で高音質です。響きに透明感があります。
第1曲「戦争が終わって」から非常にスケールが大きく、ゆるやかなリズムに乗って独唱も合唱も朗々と歌います。第2曲「祖国を緑にかえよう」は弦のアクセントによるリズムに乗って女声合唱はスケールが大きいです。色々なパートが入ってくるととても色彩的になってきます。金管やパーカションには民族的な味があります。第3曲「過去の記憶」はバスは朗々と歌いますが、合唱は迫力があります。バスも悲壮感よりは、堂々と歌って感情的に盛り上がっていきます。
第4曲は奥の深さが感じられる響きの中、金管や木管は少し野蛮さがあり、児童合唱は少しゆったり歌います。そのあと、急激にアッチェランドして第5曲に突入します。第5曲は丁度良いスピード感で、圧倒的な管弦楽の色彩感を感じながら、胸の透くような爽快感に浸れます。さすがネーメ・ヤルヴィでエストニア国立管弦楽団はクオリティの高いアンサンブルを繰り広げています。速くなりすぎず、しかしスリリングさは上手くテンポをコントロールして維持しています。第6曲「未来の散歩道」は透明感に満ちた合唱ではじまり、テノールが朗々と歌います。合唱は讃美歌のようですが、田舎の教会を思い起こさせます。第7曲「賛歌」は少年合唱がのどかさを感じさせます。まさに森の歌、という感じですね。対位法を上手く活用して、女声合唱と男声合唱の絡みはとてもスケールが大きいです。ラストは圧倒的にスケールの大きさで締めます。
エストニアのオケや合唱は、パーヴォ・ヤルヴィによりレヴェルアップしたとはいえ、このページにあるレニングラードやイギリスと比べると少しレヴェルは落ちます。でもエストニアはソ連を構成する一国だった訳で、民族的な所となのかも知れません。とてもふくよかさがあり、自由さを感じる演奏です。
アシュケナージ=ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
ウラジーミル・アシュケナージとロイヤル・フィルを中心とした演奏です。合唱もイギリスの合唱団を起用しており、演奏家の大半はロシアと直接関係がありません。また音質が非常によく、色彩感溢れる響きを上手く録音しており、また弦の艶やかさも良く再現されています。
第1曲「戦争が終わって」はスタンダードな西側の演奏という感じで、洗練された響きを聴くことが出来ます。第2曲「祖国を緑にかえよう」はリズムがしっかりしています。女声合唱もまとまった響きで、男声合唱もイギリスだけに民族的な響きは無く、洗練されています。第3曲「過去の記憶」は『革命』の第3楽章を思わせるような憂鬱な雰囲気で始まります。バスの後、盛り上げ方が素晴らしいです。また後半の脈動するリズムもリアリティがあって良いです。
第4曲「ピオネール達が木を植えている」は速めのテンポで始まります。リズミカルな管楽器に緊張感が感じられます。児童合唱は速めのテンポで、アシュケナージが煽り気味で、そのまま第5曲に突入します。第5曲「スターリングラード市民は前進する」は胸が躍るようなリズムですが、ロシアの演奏家に比べると爽やかです。
第6曲「未来の散歩道」の合唱は讃美歌のようですが、シリアスさがあります。テノールは明るさがあり朗々と歌っています。第7曲「賛歌」は少し遅めのテンポから始まります。徐々に盛り上がり、ダイナミックになっていきます。終盤はダイナミックですが引き締まったサウンドが素晴らしいです。
やはり西ヨーロッパのイギリスの演奏家だと、ロシア的な部分は少なく、その代わり洗練されています。歌唱や合唱団、オケのレヴェルの高さを感じます。
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楽譜・スコア
ショスタコーヴィチ作曲の『森の歌』の楽譜・スコアを挙げていきます。
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