ショスタコーヴィチ 交響曲第9番 名盤レビュー

ドミートリイ・ショスタコーヴィチ (Dmitri Shostakovich,1906-1975)作曲の交響曲 第9番 変ホ長調 Op.70 (Symphony no.9 es-dur Op.70)について、解説おすすめの名盤レビューをしていきます。ショスタコーヴィチの交響曲の中でも短く(25分)、内容が豊富で飽きにくいので、第5番『革命』の次に人気のある交響曲と言えると思います。

解説

ショスタコーヴィチ交響曲第9番について解説します。

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作曲の経緯

この第9番の前に位置するのは、第7番『レニングラード』、第8番と長大な名曲が並んでいます。それもあってソヴィエト当局としては第5番『革命』の時と同じく、ベートーヴェンの交響曲第9番のような曲を望んでいました。

作曲はヨーロッパで戦争の結果が見えてきた1944年に行われました。しかし、曲の内容は戦争交響曲の最後を飾るとは思えないものとなりました。

確かにまだ若いショスタコーヴィチがベートーヴェンの第9のような曲を書くにはまだ早いと言えます。しかし、ショスタコーヴィチ自身が周囲の人に合唱を含む交響曲を作曲している、ということを漏らしていたのです。そして、友人に第1楽章を聴かせ、彼はその壮大さに感銘を受けました。

しかし、ショスタコーヴィチはまだ若いこともあり、ベートーヴェンの最終到達点といえる第9に比肩するような交響曲を作曲することにプレッシャーを感じていました。

壮大な作品と思われる初期稿の作曲は途中で中断され完成することなく破棄され、その代わり演奏時間が極端に短く(約25分)、シリアスながら風刺に満ちた音楽であることが誰でもわかる様な作品が完成することになります。そんな経緯もあって、周囲の期待とは全く異なる交響曲となりました。

初演とジダーノフ批判

この交響曲第9番の初演は1945年の11月3日にムラヴィンスキーとレニングラード・フィルによって行われ、好評だったとのことです。

しかし、戦争の勝利を祝うような大作を期待していたソヴィエト当局を大きく裏切る様な交響曲であったため、ショスタコーヴィチは窮地に追いやられ、ジダーノフ批判へとつながっていきます。ショスタコーヴィチも当局を批判しようとした訳ではないようですけれど。

ムラヴィンスキーもこの曲の演奏は行わず、録音も残していません。こういう結果になるだろうことはリハーサル中に分かりそうな気もしますが…

第5番『革命』とのカップリングで有名に

この交響曲第9番は小規模ではありますが、その分中身の濃い曲と言えます。25分でショスタコーヴィチの交響曲を聴けるわけです。CDで第5番『革命』を録音する時、カップリングに第9番が収録されることが多くなり、高い知名度を誇る交響曲となりました。

おすすめの名盤レビュー

それでは、ショスタコーヴィチ作曲交響曲第9番名盤をレビューしていきましょう。ムラヴィンスキーの演奏が無いのが残念ですが、演奏時間が短いためか、交響曲第5番『革命』などとカップリングされ多くのディスクがリリースされています。

ロジェストヴェンスキー=ソヴィエト文化省交響楽団

皮肉に満ちた第9番を軽快かつダイナミックに再現!
  • 名盤
  • 定番
  • 風刺
  • リズミカル
  • スリリング

超おすすめ:

指揮ゲンナジ・ロジェストヴェンスキー
演奏ソヴィエト文化省交響楽団

1983年 (ステレオ/デジタル/セッション)

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ロジェストヴェンスキーとソヴィエト文化省交響楽団はショスタコーヴィチ交響曲全集を残しています。その中でも皮肉に満ちた第13番『バビヤール』と、この第9番は特に名演です。録音はメロディアなので、まあまあですけれど、こんな風刺に満ちた演奏はなかなか無いです。

第1楽章からとてもリズミカルで面白い演奏です。スネヤが軽快なテンポで叩き、マーチのような音楽を遠慮なく展開していきます。トロンボーンの強奏が良いですね。ソヴィエト文化省交響楽団は評判が良いとは言えませんが、今聴くとこの演奏は良いと思います。そんなオケを上手く使って皮肉に満ちたこの曲を思う存分味合わせてくれます。

第2楽章緊張感に満ちた空間を作り出しています。木管がレヴェルの高いソロを演奏し、不気味な弦はタコ9らしいものです。第3楽章速いテンポでアンサンブルの精度がソヴィエト文化省交響楽団とは思えない位、高いです。とてもリズミカルで内在するエネルギーは凄いものを感じます。木管のソロはレヴェルが高く、金管もロシアらしくて良いです。第4楽章強いアクセントをつけたトロンボーンが咆哮します。音程もしっかりしていて、「やれば出来るんじゃないか!」と思ってしまいます。宙を彷徨うようなファゴットのソロも印象的です。第5楽章も不気味な音響の中、軽快な主題の演奏でかなり風刺の利いた表現です。弦は共産主義的な歌に聴こえますが、これもとても皮肉が入っています。ホルンや低弦が響き渡る個所など、凄い盛り上げです。そのまま、風刺満点のフィナーレになだれ込みますが、これも凄い表現ですね。ラストは凄い速さで圧巻です。

ロジェストヴェンスキーは余程第9番とあっているのか、本当に無駄な表現やルバート一切なく、この曲の本質にまっすぐ切り込んでいきます。第9番の本当の凄さを知りたいなら是非聴くべき名演です。CDよりもアマゾン・ミュージックで聴くことをお薦めします。

バーンスタイン=ウィーン・フィル

  • 名盤
  • 定番
  • 奥深さ
  • スリリング
  • ライヴ

おすすめ度:

指揮レナード・バーンスタイン
演奏ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

1985年10月 (ステレオ/デジタル/ライヴ)

晩年のバーンスタインとウィーン・フィルのライヴ録音です。演奏のレヴェルの高さと子気味良いバーンスタインの指揮ぶりで、スタンダードな名盤と言えます。

第1楽章バーンスタインらしい子気味良いリズムと音楽づくりで楽しめます。ロシアのオケに比べて、木管などのソロがさすがに上手いです。ラストもコミカルにまとめています。第2楽章ウィーン・フィルの木管のアンサンブルが楽しめます。バーンスタインも晩年で表現に余裕と深みがありますね。後半の弦の盛り上がりは、ウィーン・フィルらしい透明感のある弦の音色を活かしていて絶妙です。第3楽章は速めのテンポでリズミカルにコンパクトにまとめられています。第4楽章力みすぎることなく、適度に金管が咆哮しています。晩年のバーンスタインらしい自然さのある表現ですね。第5楽章は早いテンポですが、自然なリズム感で子気味良いです。弦のアンサンブルはウィーン・フィルらしい柔らかさがあり、木管の響きの柔らかさも特筆ですね。

ロシアのオケではなかなか聴けない世界観の演奏だと思います。

ネルソンス=ボストン交響楽団

  • 名盤
  • 定番
  • クオリティ
  • 奥深さ
  • スリリング
  • 高音質

超おすすめ:

指揮アンドリス・ネルソンス
演奏ボストン交響楽団

2015年 (ステレオ/デジタル/セッション)

ロシアに近い元ソヴィエトのラトビア出身のネルソンスと高い技術を持つボストン交響楽団の録音で、近年のショスタコーヴィチとしては出色の演奏です。録音は2015年でライヴとはいえ、クオリティの高い音質です。

第1楽章速めでリズミカルな演奏です。ラトビア出身なので西側の指揮者よりはストレートで迫力のある演奏です。とはいえロジェストヴェンスキーのように風刺を強調したりはせず、しっかりスコアを読み込んで、真摯な演奏に徹しています。第2楽章は遅めのテンポで、しっかり不協和音を鳴らしますが、弦も丁寧に弾いています。高音質と深みを感じる音響で管楽器も荒くなることはなく、じっくりとクオリティの高い響きを聴かせてくれます。後半は、弦に熱気があり、段々と盛り上がります。第3楽章は凄い速さで圧巻です。小気味良く木管を鳴らし、弦のアンサンブルは聴いていてすっきりするほど上手いです。金管の響きはボストン響としてもとてもクオリティが高く驚くほど上手いです。

第4楽章トロンボーンは量感と自然さのあるダイナミックさです。このページに挙げた他の録音が強烈すぎるのかも知れませんけど。その代わり、奥深さを感じる演奏で、やはり戦争三部作の最終作なのだな、と実感します。ファゴットのソロも自然です。適度に抑制された中に情感を感じます。第5楽章は遅めのテンポのファゴットから始まります。アンサンブルの精度の高さと高音質による音色の奇麗さに舌を巻きます。後半はオーケストレーションの見事さが伝わってくるサウンドで、盛り上がってフィナーレに突入します。風刺を感じさせる所でテンポアップして上手く表現しています。ラストはまた凄い速さで、輝かしいと言える演奏で曲を締めます。

入手しやすい方のCDで、高音質な上に演奏内容も奥深さがある名盤です。

ネーメ・ヤルヴィ=スコティッシュ・ナショナル管弦楽団

  • 名盤
  • 定番
  • スリリング
  • ダイナミック

おすすめ度:

指揮ネーメ・ヤルヴィ
演奏スコティッシュ・ナショナル管弦楽団

1987年 (ステレオ/アナログ/セッション)

ネーメ・ヤルヴィとスコティッシュ・ナショナル管弦楽団の録音です。シャンドスレーベルで適度な残響で音質も良いです。このコンビは第7番『レニングラード』のように、凄い時は本当に名演です。

第1楽章は速めのテンポのリズミカルなマーチでどんどん前に進んでいきます。ためらいや余分な表現は一切なく、ショスタコーヴィチらしくスネヤを思い切り鳴らして最後まで演奏しきっています。皮肉という点では意外にシリアスな表現に聴こえます。第2楽章は速めのテンポですが、なかなかシリアスで多彩な表現で飽きることがありません。フルートなども上手いです。弱音器を付けた弦も透明感のある良い音色です。第3楽章は速めのテンポで色彩的です。様々な要素が入り混じっていて、楽しく聴ける演奏です。もちろん、金管の咆哮はネーメ・ヤルヴィらしい凄さで、スコティッシュ・ナショナル管の実力の高さを感じます。

第4楽章トロンボーンに迫力があり、ファゴットの息の長いソロも印象的です。第5楽章は意外に落ち着いたテンポで始まります。ただリズム感は健在です。皮肉というよりはシリアスさがあり、途中からテンポを速めてそこからは圧倒的な迫力で、フィナーレに突入します。フィナーレは金管とパーカッションが透明感のあるサウンドで思い切り咆哮し、迫力があります。ラストは凄い速さで、鳥肌が立つような一気果敢な演奏で幕を閉じます。

第9番に関していえばロジェストヴェンスキーのような風刺の利いた表現ではなく、まじめでシリアスです。技術的・音質的にはネーメ・ヤルヴィ盤の方が上です。

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演奏の映像(DVD,Blu-Ray,他)

バーンスタイン=ウィーン・フィル

  • 名盤
  • 定番

指揮レナード・バーンスタイン
演奏ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

(ステレオ/デジタル/セッション)

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楽譜・スコア

ショスタコーヴィチ作曲の交響曲第9番の楽譜・スコアを挙げていきます。

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