グランド・キャニオン (グローフェ)

ファーディ・グローフェ (Ferdinand Grofe,1892-1972)作曲の組曲『グランド・キャニオン』 (Grand Canyon)について、解説おすすめの名盤レビューをしていきます。

解説

グローフェ『グランド・キャニオン』について解説します。

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編曲家として活躍

グローフェはクラシック音楽家の両親のもとに生まれ、クラシックおよびジャズの分野で主に編曲家として活躍しました。

編曲家としての最も有名な仕事はガーシュイン作曲の『ラプソディ・イン・ブルー』のオーケストレーションです。

作曲家として作品を残す

まだアメリカでクラシック作曲家が居なかった時代の作曲家で、アメリカ音楽の源流とも言えます。グローフェ自身の作品としては、この組曲『グランド・キャニオン』が最も知られています。また、組曲『ミシシッピー組曲』ピアノ協奏曲も録音されています。

組曲『グランド・キャニオン』は、グローフェが実際にグランド・キャニオンを訪れた際に、音楽にして残すべき、と考え、1920年に構想されました。しかし、グローフェ自身が作曲の教育を受けていないことと、編曲の仕事に忙殺されたため、完成したのは1931年でした。ガーシュインの『ラプソディ・イン・ブルー』のオーケストレーションは1926年に完成しているため、その後で作曲されたということですね。

音楽の教科書に掲載

『グランド・キャニオン』は、表題の通りダイナミックなグランドキャニオンの情景を描いた音楽による絵画のような作品で、表現の仕方が分かりやすいこともあり小学校の音楽の教科書に採用されたりもしました。日本での知名度の高さは主に教科書によるものだと思います。クラシック音楽自体もそうですが、教科書に採用されると、知名度が上がる半面、テストに出たりして、嫌いになってしまう人もいると思います。難しい所ですね。

また曲は、分かりやすいですが、それほど深みが無く、『ラプソディ・イン・ブルー』などガーシュインの作品群と比べると、そこまで名曲とも言えないかも知れません。しかし、オーケストレーション能力は素晴らしく、パーカッションも多用し、華麗なオーケストレーションを行っています。

曲の構成

組曲『グランド・キャニオン』は、5曲から成り立っています。名前の通りグランド・キャニオンを絵画的に音楽にしたものです。アメリカらしい素材を用いています。そのせいか、聴いてみるとポップス的な要素を多く持っています。

組曲『グランド・キャニオン』

第1曲:日の出 (アンダンティーノ)
グランド・キャニオンの日の出の様子を音楽にしています。静かに始まり、シャコンヌ風に盛り上がります。ダイナミックな日の出です。

第2曲:赤い砂漠(レント)
灼熱の大地を感じさせる音楽です。

第3曲:山道を行く (アンダンティーノ・モデラート-アレグレット・ポコ・モッソ)
ロバに乗ってグランドキャニオンを旅する様子を描いています。工夫に満ちた音楽で、最初のヴァイオリン・ソロは技巧的です。ロバの足音を上手く描写し、途中も様々な景色に応じて音楽はどんどん変化していきます。終盤チェレスタによるオルゴールを模した演奏となり、その後、盛り上がって曲を閉じます。

第4曲:日没 (モデラート-アダージョ)
アメリカ的な素材を使った音楽で、静かな日没風景を描写しています。

第5曲:豪雨 (ラルゴ-アレグロ・モデラート)
穏やかに始まり、第1曲のモチーフが回想されます。不穏な空気が漂い、とても色彩的なオーケストレーションで嵐が表現されます。稲妻と轟き、ウインドマシーンを派手に使った描写で激しい嵐を表現します。嵐が去った後、第3曲のモチーフでフィナーレとなります。

全曲聴いてみると、その後のディズニーの音楽映画などを思い出しますね。実際、グランド・キャニオンは映画化もされています。

おすすめの名盤レビュー

それでは、グローフェ作曲『グランド・キャニオン』名盤をレビューしていきましょう。

バーンスタイン=コロンビア交響楽団

  • 名盤
  • 定番

指揮レナード・バーンスタイン
演奏コロンビア交響楽団

1963年5月,ニューヨーク (ステレオ/デジタル/セッション)

バーンスタインとコロンビア交響楽団の録音です。1960年代のバーンスタインは新進気鋭で、名演を多く残してインすが、コロンビア交響楽団とのCDはあまり多くないかも知れません。ニューヨークで録音されているので、母体はニューヨーク・フィルかも知れませんが。音質は少しドライですがしっかり安定しています。『グランド・キャニオン』なので、ドライな響きの方が雰囲気が出ます。

第1曲「日の出」は少し速めの軽快なテンポで、ppから段々と盛り上がってきます。弦が入る所が印象的で、おだやかですが、段々とダイナミックになっていきます。ラストは一度テンポを落としてから、アッチェランドしてダイナミックに曲を締めます。第2曲「赤い砂漠」乾燥したうだる様な暑さを上手く表現しています。後半の弦のスケールの大きさも良く録音されています。細かい木管のアンサンブルなどに良く表情を付けています。

第3曲「山道を行く」アメリカらしい雰囲気を醸し出しています。ヴァイオリン・ソロも上手いだけでなく、アメリカらしいリズムです。オーボエのソロなどはコミカルです。クラのグリッサンドも思い切りやっています。

第4曲「日没」は軽快なホルンで始まります。朗々とした弦やホルンの穏やかな表現です。第5曲「豪雨」は嵐がやってくるシーンは、現代音楽のような、映画音楽のような感じですけど、不協和音なども軽快なリズムでしっかり演奏していてかなりの迫力です。ラストはアメリカらしい盛り上がりで、曲を締めくくります。

グランド・キャニオンを録音した指揮者やオケはアメリカの場合が多いですが、その前にトスカニーニの名演があります。バーンスタインの録音は、まさにアメリカらしい『グランド・キャニオン』です。

マゼール=ピッツバーグ交響楽団

現代の大指揮者による高音質でクオリティの高い演奏
  • 名盤
  • 定番
  • 透明感
  • 高音質

超おすすめ:

指揮ロリン・マゼール
演奏ピッツバーグ交響楽団

1991年 (ステレオ/デジタル/セッション)

マゼールとピッツバーグ交響楽団の演奏です。録音の音質は良いです。廃盤なのでアマゾン・ミュージックでMP3を入手するか、アマゾン・ミュージックUnlimitedに加入がお薦めです。演奏はスタンダートでクオリティの高いものです。映画音楽的な演奏とは一線を画しています。

第1曲「日の出」は、最初のピアノの部分が繊細で録音が良いのでよく聴き取れます。この辺りはセンスが良く、色彩感があります弦の登場はブリリアントで印象的です。ラストのテンポの巻きは、なかなかダイナミックです。第2曲は砂漠の感じを上手く出しています。第3曲「山道を行く」は、極端な表現ではなく、アンサンブルのクオリティがとても高いです。管のグリッサンドを強調してアメリカらしさを出しています。弦の響きが美しく、ホルンソロも映えます。金管も艶やかな響きです。チェレスタも録音が良いので映えますね。ラストはダイナミックですが、オケ全体で磨き抜かれた響きがいいですね。第4曲「日没」マゼールらしい緻密なテクスチャで、とても美しい響きです。夕方の情景が浮かんできます。弦の響きもとても色彩的です。第5曲「豪雨」もとても繊細で美しいアンサンブルで始まり、グローフェとは思えない精密さです。穏やかな雰囲気も良く出ています。

トスカニーニ=NBC交響楽団

クラシックらしい表現、圧倒的な迫力!
  • 名盤
  • 定番
  • ダイナミック
  • モノラル

超おすすめ:

指揮アルトゥーロ・トスカニーニ
演奏NBC交響楽団

1945年 (モノラル/アナログ/セッション)

トスカニーニとNBC交響楽団の名演奏です。これは歴史的名盤ということで、このCD全曲が歴史的価値を持つものです。何故なら、日本との終戦の年である1945年に録音されたアメリカ音楽集だからです。しかも、いずれの曲も熱気があって、圧倒的な迫力です。まずは聴いてみましょう。

トスカニーニの表現はあくまでクラシックで、アメリカらしい民族性やリズム感は少なくシンフォニックに演奏しています。第1曲は暗い砂漠の風景から始まり、乾燥した大地に容赦なくダイナミックに上ってくる太陽をド迫力で表現していて、度肝を抜かれます。この曲ってこんなに凄い曲だったのか、と思い知らされます。第2曲は砂漠の何もかもが死に絶えたような灼熱を感じます。後半は弦が容赦なく照らしてくる太陽を描き出します。第3曲「山道を行く」はダイナミックに始まり、鋭い技巧のヴァイオリン・ソロが出てきます。多少のユーモアを交えつつもクラシックの範囲を超えない演奏です。ロバの表現も普通です。次々と出てくる景色が鮮烈といってもいい演奏です。チェレスタもいいですね。第4曲「日没」も雄大です。第5曲「豪雨」は、一日の締めくくりで、くつろいだ気分を演出します。そこに嵐の予感ですが、これがまるで現代音楽です。嵐、というよりゴジラでも出てきそうです。NBC交響楽団の上手さとグローフェのオーケストレーションに舌を巻きます。ちょっとやり過ぎかもしれませんけど、トスカニーニ流のジョークも入っているでしょうかね。嵐のシーンはヴィヴァルディ『四季』からハチャトゥリアン(『ガイーヌ全曲盤』)まで、色々ですが、こんな凄い表現は初めてです。そして感動のラストをダイナミックに締めくくります。

カップリングの『パリのアメリカ人』もクラシック音楽的な名演です。スーザのマーチ「星条旗よ、永遠なれ」も凄い白熱した演奏です。最後はアメリカ国歌で、これも燃え上がるような演奏です。初めて聴いたとき、凄い演奏を聴いたと思いつつ、CDの裏を見ていたら1945年の録音でまた驚いた、という訳です。

ショスタコーヴィチの第7番などは、第2次世界大戦の戦意高揚に使われましたが、このアメリカ初演者はトスカニーニです。もちろん、日本側も戦意高揚で軍歌などが歌われていた訳で、戦後70年以上たった現在では、このCDは歴史的遺産だといえます。にしても、この演奏を聴いたら勝てるわけ無さそうですね、汗。

カンゼル=シンシナティ・ポップス

高音質とソロの上手さ、鮮やかな色彩感
  • 名盤
  • 定番
  • 色彩的
  • 高音質

超おすすめ:

指揮エリック・カンゼル
演奏シンシナティ・ポップス・オーケストラ

1982年 (ステレオ/デジタル/ライヴ)

カンゼル=シンシナティ・ポップスの演奏です。録音の音質が良く、色彩感のある演奏です。表現はポップスのような親しみやすさを持っているかも知れません。技術的にも優れており、この曲を代表する名盤です。シンシナティ・ポップスは首席を含まないシンシナティ交響楽団の奏者で構成されている、とのことですが、聴いた感じ、ソロは非常に上手いです。

第1曲「日の出」は、静かなホルンで始まり、木管のソロは美しいです。色彩感もあり、ダイナミックに盛り上がっていきます。第2曲は、灼熱の大地を表現していますが、色彩的で親しみやすい表現です。筆者は行ったことはありませんが、砂漠なのでうだるような灼熱の大地を表現できればもっと良かったかな、と思います。第3曲「山道を行く」は、アメリカらしい主題で始まります。ヴァイオリン・ソロが上手いです。その後の表現はポップス・オケらしく、親しみやすい響きです。クラリネット・ソロも上手いですね。テンポ変化も上手いです。次々と移り変わる様々な場面をとても色彩的に描いています。チェレスタも奇麗に録音されていて、本物のオルゴールのようです。第5曲は、表情豊かで穏やかに始まりますが、嵐の予感がかなりシリアスに表現されています。嵐のシーンはウィンドマシーン全開本物の嵐の音も収録されているようです。ダイナミックな金管はさすがシンシナティ交響楽団が母体だけのことはあります。

ストロンバーグ=ボーンマス交響楽団

ドラティらしい真摯な解釈と色彩的な演奏
  • 名盤
  • 定番
  • 色彩感
  • 高音質

おすすめ度:

指揮ウィリアム・ストロンバーグ
演奏ボーンマス交響楽団

1998年7月,イギリス,ドーセット,プーレ,プーレ芸術センター (ステレオ/デジタル/セッション)

ストロンバーグとボーンマス交響楽団による演奏です。ストロンバーグは映画音楽の指揮者のようで、ナクソスでコルンゴルドなど多く映画音楽を録音しています。の演奏はクラシックの範疇で、速めのテンポでメリハリがあり、一般的にはもっともお薦めできる演奏です。

第1曲「日の出」はトスカニーニには遠く及びませんが、シャコンヌ風に盛り上がり、最後の畳み込みもなかなかです。ボーンマス交響楽団は、比較的ダイナミックで安定したサウンドで、軽快な演奏ですが、スケール感もあります。第3曲「山道を行く」はシャープに始まります。ヴァイオリン・ソロはクラシック風です。ロバはマイペースで歩きます。各所で現れる景色は鮮明で、聴いていて飽きさせません。チェレスタは録音の良さもあり、透明感たっぷりに響いています。第4曲「日没」は、とても味わい深い演奏です。この4曲目はいい演奏が少なかったので良いですね。第5曲「豪雨」は、穏やかな透明感のある弦の響きで始まります。嵐の始まりの部分は現代音楽のような響きではなく、様々なパートがバランスよく鳴っていて本来のグローフェの狙い通りではないでしょうか。もう少しダイナミックでもいいかも知れませんが、ボーンマス交響楽団の実力かも知れません。ラストは壮大さと明るさをもって曲を閉じます。

カップリングはミシシッピ組曲組曲「ナイアガラ大瀑布」です。さすがナクソスで全曲グローフェの作品です。ミシシッピ組曲は「アメリカ横断ウ●ト●ク●ズ」でおなじみの音楽が入っています。組曲「ナイアガラ大瀑布」は、グローフェのダイナミックなオーケストレーションが堪能できます。

ドラティ=デトロイト交響楽団

ドラティらしい真摯な解釈と色彩的な演奏
  • 名盤
  • 定番
  • 色彩感

おすすめ度:

指揮アンタル・ドラティ
演奏デトロイト交響楽団

1982年10月,デトロイト,ユナイテッド・アーティスツ・オーディトリアム (ステレオ/デジタル/セッション)

ドラティとデトロイト交響楽団による演奏です。このCDは昔からの『グランド・キャニオン』の定番です。クラシックらしい落ち着きのある演奏です。ただトスカニーニカンゼルに比べると真面目すぎて、色彩的な響きは上手く出していますが、迫力に欠けますかね。ただ、当時音楽の授業でよく使われたレコードだと思いますので、昔を懐かしんで買う方にはいいと思います。

第1曲「日の出」は、丁寧な演奏で色彩感があります。当時としては録音も良かったと言えますね。スケールは大きいですが、ラストの巻き方が今一つで迫力に欠けます第2曲は、色彩的でスケールの大きな演奏です。第3曲「山道を行く」は真摯な演奏ですが、ロバも遅いし、音色は美しいですが、少し飽きます。。チェレスタはクラシックらしく、『くるみ割り人形』のチェレスタを思い出します。第5曲「豪雨」の冒頭は雄大で、お茶でも飲みながら雄大な景色を眺めているような雰囲気です。その時、小さい音で現代音楽のような弦の動き、パーカッションが次第に迫ってくる凄い嵐を表現しています。やはりグローフェが行った時のグランド・キャニオンは嵐が来ると生命の危機を感じる位、危険なものなのでしょうか?警告のようなトランペット、で盛り上がりますが、そのままラストの盛り上がりに入って終わってしまいます。カンゼルのほうが聴きごたえがありますね。

昔はコープランドの『ロデオ』がカップリングされていて、そちらが名演でしたので、それ目当てで購入しました。現在も同じですが、演奏がジンマン=ボルティモア交響楽団に代わったようです。『グランド・キャニオン』もトスカニーニ並みの名盤を期待したい所です。

グローフェ=ロチェスター・フィルハーモニック (自作自演)

デッドな録音だが、グローフェのやりたかったことが分かる
  • 名盤
  • 自作自演

おすすめ度:

指揮ファーデ・グローフェ
演奏ロチェスター・フィルハーモニック管弦楽団

1959年2月,ロチェスター (ステレオ/アナログ/セッション)

グローフェ自身が指揮した演奏も残っています。演奏はイギリスのロチェスター・フィルハーモニー管弦楽団です。1959年でセッション録音です。録音会場はとてもデッドです。オケのせいか録音のせいか、1959年にしては録音が良いとは言えないですね。

第1曲「日の出」は、ゆっくりしたテンポで始まり、弦が入る瞬間は新鮮な響きです。デッドな会場など意に介さない様子で十分色彩的な演奏です。結構いい演奏ですね。管楽器が入るとやっぱり随分デッドだなと思います。ラストはダイナミックに畳み込んでいきますが、残響ゼロですね。第2曲乾燥した大地を上手く描いています。色彩的になりすぎず、かといって灼熱な感じでもありませんけれど。第3曲「山道を行く」は意外に遅めに始まります。ロバの歩みはとても遅いです。ロバですからね、納得です。歩みを止めたり、風景を丁寧にスケール大きく描いています。チェレスタの響きは綺麗です。ラストの金管はどこか別の部屋にいるのか、妙にデッドですね。第4曲「日没」弦の響きになかなか味わいがあって良い演奏です。第5曲嵐の近づいたシーンでは、結構現代音楽的な弦の動きを聴けます。しかしネアカなのでグロテスクさはあまりありません。パーカッションはなかなかダイナミックです。自作自演でオーケストレーションのポイントが良く分かります。ラストはダイナミックに盛り上がって終わります。

カップリングは珍しいグローフェのピアノ協奏曲です。演奏時間15分の小さめの作品で、ラフマニノフグリーグを想起させますが、ヨーロッパの一流作曲家と直接比べるのは、ちょっと厳しいかなと思います。アメリカらしさを芸術まで高めたガーシュインと比べると、クラシックらしさのある作品です。

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楽譜・スコア

グローフェ作曲の『グランド・キャニオン』の楽譜・スコアを挙げていきます。

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