
ヨハン・シュトラウス (Johann Strauss,1825-1899)作曲の喜歌劇『こうもり』 (Die Fledermaus)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。最後に楽譜・スコアも挙げてあります。
解説
ヨハン・シュトラウスの喜歌劇『こうもり』について解説します。
オペレッタ「こうもり」は、ヨハン・シュトラウス2世により、1874年に作曲され、アン・デア・ウィーン劇場で初演されました。
日本語で「こうもり!」と言っています。しかもウィーンフィルより速い!
オペレッタの王様
オペレッタ「こうもり」は、華やかなオペラであり、「ウィンナ・オペレッタの王様」と呼ばれました。スター歌手を沢山配役することができます。初演時から現在まで継続して上演されている人気演目であり、大みそかにはオーストリア、ドイツ圏の劇場で上演されたそうです。
ウィーンでは、ウィーン国立歌劇場が格式を重視して、オペレッタは上演しない方針を取っていました。しかし、マーラーが音楽監督を務めたときに、オペレッタも上演されるようになります。
マーラーはまじめな作曲家ですけれど、ミーハーなところもあるというか、結構オペレッタ好きだったようで、レハールの「メリー・ウィドウ」を好んでいたようですね。
オペレッタ「こうもり」の成功まで
ヨハン・シュトラウス二世は、オッフェンバックに会った際に、オペレッタの作曲を勧められます。しかし、既にウィーンでは、フランツ・フォン・スッペのオペレッタが大人気であったため、シュトラウスは乗り気ではありませんでした。
しかし、アン・デア・ウィーン劇場の支配人マックス・シュタイナーはヨハン・シュトラウスの妻にオペレッタの作曲をするよう説得させます。完成した第1作目のオペレッタは主役をめぐるトラブルで上演にこぎ着けることができませんでした。第2作目は上演されましたが、あまり台本が良くなく上演打ち切りになってしまいます。
それでもマックス・シュタイナーはあきらめず、「こうもり」の原作となるアンリ・メイヤックとリュドヴィ・アレヴィ作の戯曲『夜食』をウィンナ・オペレッタに合うように台本を手直しさせてから、ヨハン・シュトラウス二世に渡します。
シュトラウスは台本を気に入り、短期間でオペレッタ「こうもり」を書きあげたのでした。初演時から好評をもって受け入れられました。
「こうもり」序曲 おすすめCD,DVD
喜歌劇『こうもり』、こうもり序曲のお薦めの名盤をレビューしていきます。
クライバー=ウィーン・フィル (1989年&1992年)
クライバー,演奏:ウィーン・フィル (1989年)
カルロス・クライバーとウィーンフィルの「こうもり」序曲は、もう伝説というくらい素晴らしい演奏です。これ以前の演奏よりも圧倒的に素晴らしいし、これ以後の演奏で、この「こうもり」を超える演奏はないですね。
映像付きのDVDで観ると指揮ぶりも見られますが、まるで踊っているようです。拍を指揮するようなことはほとんどなく、宙を泳いでいるような感じですね。たまに拍を打ったかと思えば、裏拍だったりするのです。オーストリア人のクライバーは完全にウィンナ・ワルツのリズムを体得しているようです。
ウィーン・フィルも例年になく楽しそうに弾いています。あまり指揮者に拍を打たれると、ウィンナ・ワルツのリズムなんて、世界的名指揮者よりもウィーンフィルのほうが専門なんです。ウィーンフィルが自主的に演奏しているときには、邪魔してはいけないのですが、ウィンナワルツでそれが出来る指揮者は滅多にいません。カルロス・クライバーはウィーンフィルにとってもこれ以上ない位、素晴らしい指揮者なのだと思います。
カラヤン=ベルリン・フィル (1966年)
カラヤンと手兵ベルリン・フィルの正規録音です。ニュー・イヤー・コンサートは晩年ですが、1960年代はまだカラヤンが若い頃の録音です。1966年録音ですが、安定した音質です。
オーストリア出身のカラヤンはウィンナ・ワルツも得意としています。演奏はベルリン・フィルですが、カラヤンの手兵であり、1960年代は重厚で力強い名演が多く残っています。カラヤン壮年期の油の乗った名演です。
今の若い人は知らないでしょうけれど、昔はウィーンフィルのニューイヤーコンサートは、ずっとボスコフスキーが指揮していました。その前はクレメンス・クラウスという風に、代々受け継がれてきたのです。でもボスコフスキーが引退してから、現在はスター指揮者がニューイヤーコンサートを指揮するようになりました。ウィーンフィルがウィンナ・ワルツのセンスも技術も既に持っているので、誰が指揮をしてもウィンナ・ワルツになりますね。
ボスコフスキーは、1955年から1979年までの間、毎年ニューイヤーコンサートを指揮していましたし、もともとウィーンフィルのコンサートマスターです。ウィンナ・ワルツ演奏の大家でした。それでもカルロス・クライバーと比べてしまうとやっぱりクライバーは天才過ぎますね。他のスター指揮者に比べると、ボスコフスキーの演奏は、いまでも十分に通用すると思います。本物のウィンナ・ワルツを聴きたいなら、ぜひ一度ボスコフスキーを聴いてみてください。「こうもり」序曲だけでなく「美しき青きドナウ」など定番のワルツなどは、他の指揮者を寄せ付けません。
2002年に東洋人として初めて小澤征爾はニューイヤーコンサートの指揮台に立ちました。アバド、メータ、ムーティら同世代の競争相手が常連なのですから、いずれは小澤もニューイヤーコンサートに登場するだろうと思われていました。
小澤征爾はきっちり拍を刻む指揮者です。独特の揺れのあるウィンナワルツのリズムを刻んでいくとどうなるか、火を見るより明らかでした。オーストリア的な品の良さというのは、やはり日本人には難しかった、といえるでしょうね。そして、指揮棒は持ちませんでしたが、それを大舞台で堂々とやってのけたのでした。
小澤だって、リズムの取り方が多少違っても、拍を刻まないでウィーンフィルに任せておけば、自動的にウィンナ・ワルツのリズムになるはずですし、近隣のドイツやフランスの指揮者だって、リズムはウィーン・フィルにお任せにしているのです。しかし、斉藤式の教育を受けた小澤征爾は、ニューイヤーコンサートの大舞台でも、自分を曲げることはせず、きっちり拍を刻みました。
もちろん、東洋人が誇れるような記念すべきコンサートだったわけなので、あまり悪い所ばかり書くのも良くないかも知れませんけれど。
オペレッタ「こうもり」おすすめDVD
オペレッタ『こうもり』の上演のDVD、ブルーレイをレビューしていきます。
クライバー=バイエルン国立管弦楽団 (1987年)
クライバー=バイエルン国立管弦楽団 (1975年)
オペレッタでの上演もカルロス・クライバーがダントツで良いです。ここではウィーンフィルではなく、手兵ともいえるバイエルン国立歌劇場とのコンビです。ウィンナ・ワルツの優雅さやリズムの妙などは、ウィーンフィルのほうが良いのですが、バイエルン国立歌劇場のオーケストラはパワーもあり、クライバーとの演奏にも非常に慣れているからか、息もピッタリです。歌唱陣も実力派揃いです。集中力が高く、非常に楽しめる公演です。
小学館の「魅惑のオペラシリーズ」は、非常に丁寧で読みやすいカラーの解説がついており、DVDの内容も一流の劇場の公演で、大変お薦めです。
コヴェント・ガーデン王立歌劇場(ロイヤル・オペラ)はイギリスの歴史あるオペラ座で、オペラからバレエまで上質な公演を行っています。迷ったら、このシリーズを購入すると間違いないです。
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オペレッタ「こうもり」の楽譜
ヨハン・シュトラウス作曲の喜歌劇『こうもり』、『こうもり』序曲の楽譜・スコアを挙げていきます。