フランツ・レハール (Franz Lehar,1870-1948)作曲のオペレッタ『メリー・ウィドウ』 (Operetta “Merry widow” / Die Lustige Witwe)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。ワンストップでスコアと楽譜まで紹介します。『メリー・ウィドウ』は昔から人気のあるオペレッタで、抜粋が演奏されることもあります。吹奏楽にも編曲されています。
解説
レハールの『メリー・ウィドウ』について解説します。
「ラブコメ」の元祖?
題名の『メリー・ウィドウ』は「陽気な未亡人」の意味です。オペレッタの筋書きは割と庶民的なラブストーリーで、若い未亡人と元恋人のくっつきそうでくっつかないストーリーが展開されていきます。言ってみれば、オペレッタのラブコメですね。現実にありそうな恋愛を繊細に描いたストーリーは、当時から非常な人気を博しました。それまで恋愛物といえば、『ロメオとジュリエット』などがあり、これも市民に好まれましたが、親しみやすさでは『メリー・ウィドウ』のストーリーの方がずっと上で、そういう意味で革新的と言えます。
後世のミュージカルや映画、TVドラマにまでその影響は及び、恋愛物の元祖と言えます。日本の漫画やアニメーションにも影響を与えています。中でも高橋留美子氏の『めぞん一刻』は強い影響を受けています。主人公が未亡人ということが一緒で、物語のベースの段階で強い影響を受けていますね。キャバレーが出てくることも共通点ですね。『めぞん一刻』は日本のラブコメの元祖といえるので、その後の漫画、アニメも影響を受けていると言えます。
一方、大作曲家マーラーも『メリー・ウィドウ』がお気に入りで、弟子をお忍びで観に行かせた、などと言われています。またヒトラーが好んだことでも知られています。庶民的なオペレッタですが、大作曲家から政治家まで、当時の多くの虜にしています。当時はこの手のストーリーは斬新だったのかも知れませんね。
ヒトラーとメリー・ウィドウ
ナチス・ドイツのヒトラーは、ドイツのオペラを好んでおり、ワーグナーなどを好んだことが知られています。そして、オーストリア出身の作曲家であったレハールの『メリー・ウィドウ』も非常に好み、レハールはヒトラーにスコアを贈った位です。
その後、ナチスはユダヤ人虐待を行ったため、『メリー・ウィドウ』の「ダニロの歌」がショスタコーヴィチの交響曲第7番に引用されました。これはヒトラーに対する批判を『メリー・ウィドウ』の主題を使って、暗黙的に行っているんです。その後、バルトークがそのメロディを管弦楽のための協奏曲に引用しました。そんな風にして、『メリー・ウィドウ』は政治的な意味合いをも持つようになってしまいました。
あらすじ
『メリー・ウィドウ』のあらすじを書いてみたいと思います。台本はアンリ・メイヤック『大使館付随員 (L’Attache d’ambassade)』を基にしています。
登場人物が少し多いので複雑な感じがするのですが、未亡人ハンナと元恋人のダニロの物語です。それ以外の登場人物はハンナとダニロを引き付けようとしたり、邪魔したりします。しかし、オペレッタが進むにつれ、段々と2人の距離は縮まっていきます。2時間程度のオペレッタとして良くできた台本ですね。
■第1幕
舞台はパリのポンデヴェドロ公使館です。国王の誕生祝賀会が開かれています。
主人公はハンナ・グラヴァリというポンデヴェドロ国の若い未亡人です。母国ポンデヴェドロで老富豪グラヴァリと結婚しますが、わずか8日で亡くなってしまったのです。その後、ハンナは住居をパリに移したのでした。
未亡人ハンナは巨万の富を得ました。パリの沢山の男たちが言い寄ります。しかしハンナはお金目当てで言い寄られることに嫌気がさしていました。
ハンナには元恋人のポンテヴェドロ公使館の一等書記官ダニロ・ダニロヴィッチ伯爵がいました。以前、ダニロとハンナは結婚しようとしましたが、ダニロは伯爵家で、田舎から出てきたハンナの身分は十分ではなかったのです。しかしダニロは元恋人のハンナを忘れられず、高級キャバレー「シェ・マキシム」に入り浸っていました。
ポンデヴェドロ国からハンナが持っている巨万の金がフランスに流出すると、小国のポンデヴェドロ国は危機に瀕してしまいます。ポンデヴェドロ公使のツェータ男爵は、未亡人ハンナと元恋人のダニロを結婚させようとします。しかし、ダニロは自分も資産目当てと思われることを嫌い、ハンナと付き合うことを拒みます。
一方、色男カミーユはツェータ男爵の妻ヴァランシエンヌを口説いています。ヴァランシエンヌ夫人は悪い気はしないものの、その気はなく、カミーユを未亡人ハンナにあてがおうとしています。
舞踏会でハンナは踊りの相手にダニロを指名しますが、ダニロはその権利を一万フランで売ると言います。周囲にいたパリの男たちは一万フランは高すぎると去っていきました。買い手が付かなかったダニロは、ハンナと踊りますが、口論から喧嘩になってしまいます。
■第2幕
舞台は翌日のハンナ・グラヴァリ邸の庭です。ハンナは故郷ポンデヴェドロの「ヴィリアの歌」を歌います。そこにダニロがやってきます。
一方、色男カミーユがヴァランシエンヌ夫人を追って口説いています。カミーユはヴァランシエンヌ夫人を東屋(あずまや)に連れ込みます。そこにツェータ男爵が現れ、東屋で会議を開こうと言います。夫人が男と東屋に入ったことを目撃したニェーグシュはツェータ男爵に「カミーユと女が東屋の中にいる」と告げます。ツェータ男爵は鍵穴から暗い東屋を覗きますが、そこにはヴァランシエンヌ夫人が居ました。
しかしハンナが身代わりになってヴァランシエンヌ夫人と入れ替わり、未亡人ハンナと色男カミーユが東屋(あずまや)から出てきます。ツェータ男爵の妻ヴァランシエンヌへの疑いは晴れますが、成り行き上、ハンナとカミーユは婚約を発表します。
ツェータ男爵は未亡人ハンナがフランス人のカミーユと結婚してポンデヴェドロから資産が流出することを嘆きます。
ダニロも、ハンナとカミーユの婚約を知って動揺を隠せず、気を紛らわすために高級キャバレー「マキシム」に行きます。それを見たハンナはダニロの自分への気持ちを確信します。
■第3幕
舞台はハンナ・グラヴァリ邸の庭ですが、高級キャバレー「マキシム」風の飾り付けがされ、踊り子たちも揃っています。
ポンデヴェドロから公使館に電報が届きます。未亡人ハンナの資産がポンデヴェドロ国に残らないと国が破綻の危機に瀕する、というのです。ダニロは「祖国ポンデヴェドロのため」という理由で、ハンナにカミーユとの婚約を解消するように告げます。
一方、東屋からヴァランシエンヌ夫人の扇子が見つかり、ヴァランシエンヌ夫人と色男カミーユが居たことがばれてしまいます。ツェータ男爵は再度妻ヴァランシエンヌと離婚してハンナに求婚すると言い出します。ダニロは、ハンナが身代わりだった事情を知り、ハンナと和解します。しかし、まだダニロは結婚を申し込むことはしません。
ハンナは老富豪グラヴァリの遺言を読み上げ始めます。「再婚するときには、彼女は全財産を失う」それを聞いたツェータ男爵は求婚を撤回します。
ダニロは資産目当てという誤解を心配する必要がなくなり、ハンナに求婚します。するとハンナは「彼女は遺産のすべてを失い、その遺産は再婚した夫のものとなる」と遺言の続きを読み上げます。
一方、ヴァランシエンヌ夫人の扇子には「私は貞淑な人妻です」と書かれていました。真実を知ったツェータ男爵は妻ヴァランシエンヌに謝ります。
ハンナとダニロは無事結婚し、ポンデヴェドロ国も救われました。
おすすめの名盤レビュー
それでは、レハール作曲『メリー・ウィドウ』の名盤をレビューしていきましょう。
メルビッシュ湖上音楽祭
メルビッシュ湖上音楽祭のライヴです。屋外の広い舞台で、ゴージャスな舞台セットで上演されています。映像は1993年で若干古さを感じますが、歴史的でオーソドックスな演出と、センスの良い衣装・照明など、最初に観る人には良い舞台です。
歌手たちの演技もレヴェルが高いです。屋外の演奏ですが、DVDではしっかり録音されています。
このDVDの一番良い所は解説がしっかりしていることです。魅惑のオペラシリーズはカラーの解説書で、とても分かり易く解説されています。オペレッタを始めて観る人も良く理解できて楽しめると思います。
チューリヒ歌劇場
レハールと同じオーストリア出身で、スッペなどオーストリアのオペレッタに造詣が深いフランツ・ウェルザー=メストの指揮による上演です。チューリヒ歌劇場はスイスのオペラハウスの中でも、特にクオリティの高い上演で知られています。日本語字幕付きで、2004年収録の比較的新しい映像です。
CDの名盤レビュー
シュワルツコップ,マタチッチ=フィルハーモニア管弦楽団,他
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楽譜・スコア
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