ハイドン 交響曲第101番『時計』

フランツ・ヨーゼフ・ハイドン (Franz Joseph Haydn,1732-1809)作曲の交響曲第101番『時計』について、解説おすすめの名盤レビューをしていきます。

解説

ハイドン作曲の交響曲第101番『時計』の解説をします。

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ハイドンの不朽の名作

ハイドンの交響曲の中でも最高傑作のひとつです。最後の交響曲である第104番「ロンドン」と双璧をなす存在ですね。

もっとも交響曲は第104番で終わりになりましたが、その後オラトリオを作曲しています。最後のオラトリオ「四季」がハイドンの最高傑作といえると思います。

さて、第101番「時計」は名前の通り、「時計」を意識して作曲された交響曲と思われます。「時計」という標題はハイドンがつけたものではありませんが、第2楽章や第3楽章の中間部を聴いても、明らかに時計を意識した音楽になっています。

ロンドンセットには第100番「軍隊」もありますが、これはシンバルが活躍する明らかに「軍隊」を意識した交響曲なんです。こんな感じで、ハイドンの場合、標題音楽に近いものでも交響曲には標題をつけないのです。

「時計」はハイドンの交響曲の中でも一番を争う名曲です。それはもちろん時計を模した第2楽章などが素晴らしいという訳ではなく、全楽章が素晴らしいです。

曲の構成

第1楽章の前奏は時間の重みを感じさせるような息苦しい音楽で始まります。シンプルなのにこれだけの表現が可能なのです。特にフルートを使ったオーケストレーションのうまさには舌を巻きます。

前奏が終わり、ソナタ形式に入りますが、実にしっかりした音楽で、まさに交響曲の第1楽章というべき風格が感じられます。また急に雰囲気を変え、嵐のような場面になったりするところも素晴らしい聴きどころです。ハイドンとしては長めに展開し、深みのある音楽を展開しています。

第2楽章は時計の振り子を模倣した音楽ですね。しかし、演奏家にとっては難しい音楽であり、特にテンポどりは多くの指揮者を悩ませてきました。今聞くと遅いテンポの演奏が多いですね。変奏曲風ですが、こちらも荒々しい音楽になったり、静かになったり、休止が入ったり、と様々に展開していきます。ハイドンの音楽のボキャブラリーの豊富さが感じられます。

第3楽章は打って変わってゴージャスな音楽になります。これまでの「時計」の雰囲気とは違うかなと思いますが、中間部に入ると急に静かになり、時計の振り子を思わせる音楽になります。ここでのフルートの使い方も上手いですね。オーボエはバロック時代から弦楽器と一緒によく使われていますが、ハイドンはフルートと弦楽器のオーケストレーションが非常に素晴らしいです。

最後の第4楽章もなかなかの名曲です。非常にスリリングな音楽で、後半にはフーガとなり、盛り上がって終わります。弦楽器の難易度はかなり高いと思いますが、ハイドンの時代にはどのくらいのテンポで演奏したのでしょうね?

そんな感じで非常に聴きどころの多い音楽で、ポイントが分かればとても楽しめる曲です。

おすすめの名盤レビュー

『時計』は第2楽章のテンポで大分雰囲気が変わります。一番特徴的なのはノリントンで、実際の時計と同じく一拍一秒になるようにしています。そうすると、とても速いテンポになり、曲の雰囲気も大分変ってきます。

ノリントン=シュトゥットガルト放送交響楽団

  • 名盤
  • 定番
  • ピリオド奏法

超おすすめ:

指揮ロジャー・ノリントン
演奏シュトゥットガルト放送交響楽団

(ステレオ/デジタル/セッション)

このロンドンセットはノリントン=シュトゥットガルト放送交響楽団の一つの集大成といえる名盤だと思います。その中で「時計」の第2楽章の速さは尖ったところです。でも、音楽としてはとてもコミカルで、モダンオケでもこんな軽快な演奏ができるんだな、と感心してしまいます。第3楽章トリオの味わい深さも本当に素晴らしいです。第4楽章は爆速です。

「時計」を楽しみたいならば、DVDのほうを断然お薦めします。ノリントンが楽しんで指揮しているのがよく分かりますし、何より会場の雰囲気がとても良いのです。付属のドキュメンタリーも(英語ですが)楽しめます。

古楽器オケのロンドンクラシカルプレイヤーズとの演奏もありますが、新しいシュトゥットガルト放送交響楽団との演奏のほうが軽快でしなやかであり、楽しめます。

そして終楽章はモダンオケのパワーを発揮して、とても速いテンポでスリリングな演奏を繰り広げています。数ある「時計」の録音の中でももっともテンポが速いのではないでしょうか?

「時計」はもともと聴きどころの多い曲ですが、この演奏は一つとして聴きどころを素通りすることはなく、ここぞという時に味わい深い演奏を繰り広げてくれます。これだけ満足度の大きな演奏もなかなか無いですね。

ノリントン=シュトゥットガルト放送交響楽団

  • 名盤
  • 定番
  • ピリオド奏法

超おすすめ:

指揮ロジャー・ノリントン
演奏シュトゥットガルト放送交響楽団

(ステレオ/デジタル/セッション)

ミンコフスキ=ルーヴル宮音楽隊

  • 名盤
  • 定番

超おすすめ:

指揮マルク・ミンコフスキ
演奏ルーヴル宮音楽隊

2009年6月,ウィーン,コンツェルトハウス (ステレオ/デジタル/セッション)

ミンコフスキとルーヴル宮楽隊の録音です。ミンコフスキは古楽を中心にユニークな演奏をする指揮者ですが、ハイドンとはとてもウマが合うようです。まるでロマン派音楽のように感情を入れて演奏しています。メリハリのつけ方も小気味良いですし、どの曲を聴いても楽しいです。

テンポは速めで、ノリントンほどではありませんが、第2楽章も楽しく聴くことができます。オーケストラも上手いです。ハイドンを始めて聴く人にも文句なしにお薦めできる名盤です。

モントゥー=ウィーン・フィル

ウィーンフィルを活かした軽妙で深みのある名盤
  • 名盤
  • 定番
  • 軽妙
  • スリリング
  • 円熟

超おすすめ:

指揮ピエール・モントゥー
演奏ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

1959年,ウィーン (ステレオ/アナログ/セッション)

モントゥーとウィーン・フィルは非常に相性の良い組み合わせで、ハイドンでも真摯でウィットに富んだ表現で楽しめます。時代的にピリオド奏法など無縁な演奏で、最近の演奏に慣れた耳には少しレガート気味な印象もあります。逆に当時のロマン派的な演奏が多い中で、知的な名演を繰り広げていて、ピリオド奏法を先取りしたようなモントゥーの指揮には感心しきりです。

第1楽章前奏は非常に味わい深く、非常に深みがあり、しみじみ味わえます。プレストに入ると現代のピリオド奏法とは異なるテヌートを多用した演奏です。しかし、ウィーン・フィルの透明感のある音色を活かした軽妙さがあり、相当味わい深いものです。

第2楽章は少し速めのテンポで、ノリントンほどではありませんが、軽快さがありとても自然に聴けます。ウィーン・フィルは重厚な響きは避け、立体的なアンサンブルです。機械仕掛けの時計が目に見えるような演奏です。録音も良く、クオリティの高いアンサンブルです。第3楽章は主部はゴージャスです。さすが時計のメヌエットに対する洞察力が高いですね。中間部も素朴でフルートがウィットに富んだソロを聴かせてくれます。

第4楽章とても速いテンポでスリリングです。ウィーン・フィルらしい艶やかな響きで、今のピリオド奏法とはまた違った良さがあります。しかし、演奏内容はピリオド演奏とほぼ変わらない軽妙でスリリングで、モントゥーのセンスには驚かされます。後半のフーガも精密で、ウィーン・フィルのアンサンブルの上手さがよく分かります。最後までとても楽しく聴くことができる名盤です。

ブリュッヘン=18世紀オーケストラ

  • 名盤
  • 定番
  • 円熟
  • 古楽器

おすすめ度:

指揮フランス・ブリュッヘン
演奏18世紀オーケストラ

(ステレオ/デジタル/セッション)

ブリュッヘンと18世紀オーケストラの録音です。ブリュッヘンはリコーダー奏者から指揮者になった人です。アーノンクールよりも一世代上くらいで、バロックの演奏を聴いても少しヴィブラートを掛けていたりして、少しロマン派的な味のある演奏が得意です。

そのため、モーツァルトは特別な名盤なのですが、ハイドンのほうはノリントンに比べると少し重い感じがします。第2楽章もかなり遅いですね。最近までこのテンポが普通でしたけれど。

ツボはしっかり押さえていて、聴きどころは味わい深いです。どこをとってもとても丁寧で、やはり名盤の一つに数えられるでしょう。

カラヤン=ベルリン・フィル

  • 名盤

おすすめ度:

指揮ヘルベルト・フォン・カラヤン
演奏ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

カラヤンとベルリン・フィルの『時計』ですが、実はカラヤンはハイドンを得意としているので、特に絶対音楽的に優れた所は素晴らしい演奏をしています。時々ダイナミックになりすぎることもありますが、この『時計』は聴きごたえのある名演です。

やはりソナタ形式の第1楽章が一番聴きごたえがあります。序奏でここまで深く演奏してくれる演奏も少ないです。主部に入ると少し立派過ぎる感じではありますが、ハイドンの面白さを存分に味合わせてくれます。この演奏はピリオド奏法とは全く違うのですが、カラヤンはハイドンの良さをよく理解しているようで、聴きごたえがあることは確かです。

第2楽章のテンポはとても遅いです。まあ、ここは仕方ない所ですね。ピリオド奏法や古楽器オケでも色々なテンポで演奏されています。ノリントンに慣れている筆者には、このテンポだと『時計』に聴こえないのですね。それとは別に、短調の個所などスケールが大きく、古楽器オケ全盛の時代に却って新鮮味があります。

第3楽章もテンポがピリオド奏法よりは遅いですが、普通に楽しめる演奏です。結構、ゴージャスなメヌエットなので、そういう演奏を期待していましたが、意外にまじめな演奏ですね。第4楽章はとても速いテンポで、かなりスリリングです。ベルリンフィルからすると、大した速さではないかも知れませんけれど、やっぱり上手いなぁと思います。

アーノンクール=アムステルダム・コンセルトヘボウ

  • 名盤
  • 定番
  • 透明感
  • ピリオド奏法

おすすめ度:

指揮ニコラウス・アーノンクール
演奏アムステルダム・コンセルトヘボウ

(ステレオ/デジタル/セッション)

アーノンクールとアムステルダムコンセルトヘボウ管弦楽団のハイドンは、ピリオド奏法を全面的に取り入れて、極めて透明感の高い演奏を繰り広げています。とりわけ第104番「ロンドン」は本当に素晴らしい演奏です。第101番『時計』はどうでしょうか。

第2楽章の感情表現などを聴くと、このヴィブラートを外したからと言って必ずしもクールになってしまうわけではないことがわかります。ハイドンの最後の交響曲にふさわしい名演奏です。

ただ、少し作為的なところもあってテンポの変化が大きいかなという気もします。『時計』は評価が分かれそうです。ここぞ、というときにテンポが急に遅くなってしまうのです。特に第4楽章の遅さは意外過ぎます。アーノンクールの演奏はたまにそういうことがあるのですが、このテンポだと『時計』の面白さを聞き逃してしまうかも知れませんね。

トータルでは気づきの多い名演奏が多いので、アーノンクールのハイドンはロンドンセット一式で購入することをお薦めします。

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スコア

ハイドン作曲の交響曲第101番『時計』の楽譜・スコアを挙げていきます。

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電子スコア

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Symphony No. 101 D major, “The Clock”: Hob. I: 101 (Eulenburg Studienpartituren) (English Edition)

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ぷりんと楽譜 (YAMAHA)

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