ヨハネス・ブラームス (Johannes Brahms,1833-1897)作曲のハンガリー舞曲集 (Hungarian Dance)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。
第1番、第5番、第6番が有名です。第7番のメロディも良く聴くように思います。特に第5番、第6番はアンコールピースとして定着しています。
解説
ブラームスのハンガリー舞曲について解説します。
民族音楽の蒐集
ブラームスはバロックなど古い時代の音楽と共に、民族音楽にも興味を持っていました。ヴァイオリン奏者エドゥアルト・レメーニの伴奏ピアニストとして、ドイツやハンガリーなどを演奏旅行した際に、農民の舞曲や民謡を蒐集しました。
その時、ドイツやハンガリーにはジプシー(ロマ)が多く、ブラームスがスケッチした素材は実際はジプシーの音楽でした。酒場などでスケッチしたのだと思いますが、当地で歌い継がれた民謡というより、作曲者も特定できるジプシーの曲も多かったようです。
本当にハンガリー舞曲なの?
ブラームスが行った民謡の収集活動は、バルトークやコダーイなど、ハンガリー民謡を蒐集した作曲家に先駆けたものです。ドヴォルザークなども含め、各国の国民楽派につながる活動でした。
一方、ハンガリーに関しては、大多数を占めるマジャール系の人々の音楽よりも、ヨーロッパ各国で移動生活を送るジプシーの音楽が目立ち、それがハンガリーを代表する音楽と見做されるようになりました。ハンガリー舞曲のみならず、リストのハンガリー狂詩曲なども同様で、バルトークはそのような風潮に対して批判を行っています。
ピアノ連弾のハンガリー舞曲の出版
ブラームスはスケッチしたものを大きく変えずにハンガリー舞曲にしたようで、ブラームス自身は「編曲」した曲として、作品番号もつけていません。ただし、曲によってはブラームスが創作した作品も含まれています。
全部で21曲あります。もともとはピアノ連弾のために作曲され、出版されると大人気となりました。
1867年にいくつかの曲が作曲されています。出版社のジムロックから第1、2集が1869年に出版されると大人気となり、1880年に第3、4集が出版されました。ジムロック社はその後、ブラームスの紹介によりドヴォルザークにスラヴ舞曲の作曲を依頼し、これも大人気となりました。
オーケストラ版
現在良く演奏される管弦楽版は、必要に応じて少しずつ編曲されました。まず1973年にブラームス自身が演奏会で取り上げるために、第1番、第2番、第10番をオーケストレーションしました。
その後、様々な作曲家がオーケストレーションを手掛けています。主なものでは、ドヴォルザークが第17番~第21番をオーケストレーションしました。第5番、第6番、第11番~第16番はアルバート・パーロウによる編曲が良く使われます。第4番はパウル・ユオン、第2番、第7番はアンドレアス・ハレーン、第8番、第9番はハンス・ガルによりオーケストレーションされました。
上記は主なものであり、他の作曲家による編曲も存在します。
おすすめの名盤レビュー (全集)
それでは、ブラームス作曲ハンガリー舞曲の名盤をレビューしていきましょう。
スタンダードはやはりアバド盤でいいと思います。スウィトナー盤も味わいがあります。マズア盤は聴けば聴くほどハマる演奏で、とても良いです。もう一つ、アマゾンミュージックでは一番凄い演奏であるプレートル=シュトゥットガルト放送響盤が全曲聴けます。CDではブラ1とのカップリングで全曲ではないですが、こんなに楽しい演奏は滅多にありません。
アバド=ウィーン・フィル
指揮はイタリア人でリズム感に優れ、スリリングな演奏をするアバド、演奏はハンガリーの隣で、民族的な響きも出せるウィーンフィル、ということで、ハンガリー舞曲集にこれ以上ない位の最適な組み合わせです。
第1番からスリリングなテンポ取りで、ウィーン・フィルの民族的な響きを活かした溌剌とした演奏です。第4番はハンガリー的な歌いまわしでジプシー的な音楽を聴かせてくれます。第5番はこの曲のスタンダードとして全く異論のないテンポ取りと上手いテンポの巻き方です。第6番は個性の現れる曲ですが、アバドはあくまでスリリングなテンポ取りで、テンポの緩急が激しい軽快な演奏です。
この演奏の良くない点をあえて挙げるなら、ウィーン・フィルによって大分助けられていますが、やはりどうしてもイタリア的なリズムが聴こえてしまう所でしょうか。いずれにせよ、ここに挙げた全集の中ではもっともスタンダードで、聴いて楽しむにも、演奏の参考にするにも、バランスが取れているということです。
スウィトナー=ベルリン・シュターツカペレ
スウィトナー=ベルリン・シュターツカペレのドイツの演奏家の組み合わせです。この組み合わせは自然な肩の力が抜けたドイツ風のふくよかさサウンドがあります。
第1番は主部は結構速くてスリリングですが、中間部はテンポを落として自然な響きを聴かせてくれます。第4番はハンガリーらしい響きがごく自然に出ています。ジプシーらしい濃厚な歌です。テンポアップするところは徐々にアッチェランドしています。第5番は速いテンポで一機果敢に演奏しています。速いテンポですが、残響が多めでこのコンビらしい柔らかい響きになっています。第6番はアバド盤よりスタンダードなテンポ取りだと思います。最初は遅いテンポから徐々にアッチェランドしていきます。もっともこの曲にスタンダードなテンポがあるのか、難しいですけど。テンポが遅めな個所が多く、ドイツ=オーストリア系の音楽家に多いテンポ取りだと思います。第7番はハンガリーの田舎にいるかのような、落ち着いていて楽しい音楽です。コダーイのハーリヤーノシュをを思い出します。第17番あたりのロマンティックなメロディも安っぽくならず上手い歌いまわしです。
アバド盤はスタンダードですが、スウィトナー盤はアバドからは聴けない色彩的な響きを聴くことが出来て楽しめると共に、興味深いです。
マズア=ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管
クルト・マズア=ゲヴァントハウスのCDです。リズミカルですが実に渋い演奏で。実はマズアはリズミカルな曲は得意です。
筆者はこのハンガリー舞曲集の第4番が大のお気に入りです。自然体でいぶし銀の響きと奥ゆかしさのある演奏で、他の番号も素晴らしいです。マイナーな番号でも良さをうまく引き出していて、アバド盤とは違った面白さがあります。
既に廃盤になっていて、入手が難しいかも知れませんが、マズア盤を聴くと目から鱗が落ちると思います。
小林研一郎=ハンガリー放送交響楽団
小林研一郎とハンガリー国立交響楽団のアンコールの演奏です。ハンガリー舞曲は第5番だけですが、とても個性的です。ハンガリー国立交響楽団は、地元ハンガリーなので、とてもハンガリーらしい情熱的で濃厚な弦の響きがとても印象的です。おそらくハンガリー舞曲の求めている響きですね。小林研一郎のテンポ取りが独特で凄く遅いテンポで、その弦の響きを聴かせて、その後急激に速くなっていきます。
おすすめの名盤レビュー (選集)
それでは、ブラームス作曲ハンガリー舞曲の名盤をレビューしていきましょう。
プレートル=シュトゥットガルト放送響
シュトゥットガルト放送交響楽団はドイツのオケですが、ジョルジュ・プレートルはフランス人です。しかし、この演奏は本当に圧巻です。ハンガリー舞曲にこれだけちゃんと取り組む姿勢も凄いですし、そこからここまで多彩で歌心豊かな音楽を引き出す手腕には感服です。ちゃんとハンガリーの民謡に聴こえます。というより、ドイツやオーストリア人の演奏よりもハンガリー風に聴こえるので、やはりプレートルは只者ではないですね。ハンガリー舞曲好きには聴いてほしいですし、演奏する人なら必ず聴いてほしい名盤です。
カラヤン=ベルリン・フィル
カラヤンとベルリンフィルは何でも録音していますが、当然のようにハンガリー舞曲のCDもあります。基本的にリズミカルでテンポが速くスリリングです。しかし、ハンガリー舞曲は結構大きくテンポが変化します。遅い所はかなり遅い演奏で、ハンガリーの歌謡性のある旋律はセンス良く歌っています。
第5番,第1番はテンポが速くスリリングです。ベルリン・フィルの音色が磨き抜かれていて美しいです。テンポ取りも奇をてらったところがなく、アバド盤でテンポが気に入らない場合は聴いてみるといいかも知れません。第6番は遅いテンポで始まり、徐々にアッチェランドしていきます。冒頭の遅さが特徴です。一番スタンダードなテンポ取りだと思います。第17番はハンガリーらしい歌心に溢れていて、さすがカラヤンです。
カップリングのドヴォルザークのスラヴ舞曲もスリリングで爽快な演奏です
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楽譜
ブラームス作曲のハンガリー舞曲の楽譜・スコアを挙げていきます。