ヨハネス・ブラームス (Johannes Brahms,1833-1897)作曲のピアノ協奏曲 第2番 変ロ長調 Op.83 (Piano Concerto No.2 B-dur Op.83)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。
解説
ブラームスのピアノ協奏曲第2番について解説します。
ブラームスは1878年に初めてイタリア旅行をしています。1878年から1893年までの夏の季節に8回もイタリアを訪問しています。そのイタリアにインスピレーションを受け、ピアノ協奏曲第2番を作曲しました。1878年に作曲を開始し、1881年に書き上げられました。その間にもイタリア旅行をしています。
ピアノ協奏曲第1番が作曲されてから、実に22年もの歳月が流れています。ヴァイオリン協奏曲、交響曲第2番と同時期に作曲され、全盛期の傑作の一つです。三大ピアノ協奏曲は、ベートーヴェン、チャイコフスキー、グリーグのものですが、少なくともそれらと同等か、音楽的には上かも知れません。
初演の大成功
初演は1881年11月9日に、ブラームス自身の独奏とアレクサンダー・エルケルの指揮によりブダペストで行われました。初演は大成功であり、その後各地で演奏されています。
ブラームスの作曲の先生であるエドゥアルト・マルクスゼン(1806 – 1887)に献呈されました。エドゥアルト・マルクスゼンはピアニスト、作曲家、教育者であり、ハンブルク作曲家協会で名誉会員に選ばれた人物です。門下生にはブラームスの他にもフェルディナント・ティエリオ(1838-1919)がいます。
曲の構成
通常の協奏曲は3楽章形式構成が一般的ですが、ピアノ協奏曲第2番は4楽章構成となっています。
演奏時間は約50分と協奏曲としては長大です。当時の有名な音楽評論家エドゥアルト・ハンスリック(1825-1904)は「ピアノの序奏を伴う交響曲」と述べています。
またピアノ独奏が非常に難しい曲と言われており、長い曲で集中力が要求されます。またオーケストレーションも凝っており、必ずしもピアノが前面に立たず、オーケストラの比重が高い曲です。明確なカデンツァもありません。
第1楽章:アレグロ・ノン・トロッポ
ソナタ形式です。シンフォニックで演奏時間も約18分と長大です。冒頭からホルンが活躍し、ドイツの深い森を思わせます。3連符があるのでブルックナーを思い出してしまいます。
第2楽章:アレグロ・アパッショナート(スケルツォ)
複合三部形式のスケルツォです。ピアノ協奏曲がスケルツォを含むケースは珍しいですが、リストのピアノ協奏曲もスケルツォがあり、ブラームスが初めてという訳ではありません。オケとの掛け合いとなり、後半はダイナミックです。
第3楽章:アンダンテ
複合三部形式の緩徐楽章です。主題提示をピアノではなくチェロ独奏が行います。弦を中心にした演奏が続き、ピアノ独奏は曲の1/3位の所で登場します。とても深みを感じる音楽です。後半、曲が進むにつれ、さらに深みが増していきます。
第4楽章:アレグロ・グラツィオーソ – ウン・ポーコ・ピウ・プレスト
ロンド形式です。軽快でイタリア的な明るさがあります。また、この楽章はトランペットとティンパニは使用されません。第3楽章もトランペットとティンパニは使用されませんが、これは緩徐楽章だから分かります。フィナーレである第4楽章で使用されないのは珍しいと思います。優美で情熱的な第4楽章の主題は有名だと思います。
独奏ピアノ
フルート×2(ピッコロ持ち替え1)、オーボエ×2、クラリネット×2、ファゴット×2
ホルン×4、トランペット×2
ティンパニ
弦五部
おすすめの名盤レビュー
それでは、ブラームス作曲ピアノ協奏曲第2番の名盤をレビューしていきましょう。
ピアノ:バックハウス, ベーム=ウィーン・フィル
決定的名盤と呼ばれるバックハウスのピアノ独奏とベーム=ウィーン・フィルの伴奏です。もちろん、この位の曲になると、一つの演奏があらゆる面でスバ抜けて凄い、ということはありませんけれど。バックハウスの円熟し、達観したかのようなピアノにベームとウィーン・フィルは重厚な伴奏を付けています。録音は1967年ですが、なかなか良い音質です。
第1楽章はウィーン・フィルのホルンから始まりますが、非常に透明感があって自然体の演奏です。バックハウスのピアノも自然体で枯淡の境地です。透明感のあるピアノの音色で、スケールの大きな演奏ですが、自然体で余分な表現は無く、余分な力も入っていません。ドイツの深い森というより、宇宙的なスケールの大きさです。ベームとウィーン・フィルはスケールが大きく情熱的な表現もあり、それぞれの良さが上手くブレンドされていると思います。第2楽章はアクティブなピアノで始まります。ウィーン・フィルもスリリングなダイナミックさで、オケとの絡みはダイナミックです。
第3楽章はチェロのソロの音色がとても渋く味わいがあります。そしてスケールの大きく情熱的な弦に引き継がれます。ピアノは透明感のある音色で神々しい演奏を繰り広げます。後半、穏やかな中でチェロのソロを中心に木管が主題を演奏していきますが、ピアノはとても自然に雰囲気を作り上げています。第4楽章はピアノが力強く主題を演奏し、オケが情熱的に演奏していきます。弱音の個所では木管が美しく響き渡っています。後半、オケの白熱した演奏が印象的です。
バックハウスのピアノは枯淡の境地で、時間が経つのを忘れさせてくれます。長大でも飽きることはなく、逆に最後まで聴きたくなってくる名盤です。初めて聴く方にもお薦めです。
ピアノ:ツィメルマン, バーンスタイン=ウィーン・フィル
ツィメルマンのピアノ独奏とバーンスタイン⁼ウィーン・フィルの演奏です。音質は1983年にしては良いとは言えませんが、ウィーン・フィルの味わい深さが良く収録されています。
第1楽章はバーンスタインの遅めの自然体の指揮でホルンが広々と主題を吹いて始まります。ツィメルマンのピアノはダイナミックでシャープさもあります。緩急の差が大きく、晩年のバーンスタインらしい遅めのテンポ取りで味わい深いです。テンポは遅めですが、ブリリアントなピアノとバーンスタインとウィーン・フィルの味わい深さに引き込まれて、この名曲に浸って聴いていけます。とても充実感のある演奏です。第2楽章はピアノのスリリングな演奏で始まります。ピアノとオケの緻密なアンサンブルは見事です。テンポが遅い個所では、味わい深さがあります。
第3楽章はチェロのソロが朗々と響き渡ります。晩年のバーンスタインらしいゆったりとした自然体の指揮で、ウィーン・フィルの音色がとても味わい深く楽しめます。ツィメルマンは透明感のあるピアノでとても自然です。曲が進むにつれ深みと味わいが増していきます。第4楽章はツィメルマンのリズム感の良いピアノで始まり、オケも自然体でピアノにつけていきます。緩急が大きく、盛り上がる所では白熱しています。有名なメロディは少し速めのテンポで堪能できます。ラストは速いテンポでダイナミックに盛り上がり、曲を締めます。
ピアノ協奏曲第2番が超名曲であることが良く分かる充実した名盤です。余分な力が入っておらず、自然に聴ける名演です。他の演奏で良さが分からなかった人や初めて聴く人にもお薦めです。
ピアノ:ギレリス, ヨッフム=ベルリン・フィル
鋼鉄のタッチを持つピアニスト、エミール・ギレリスと、ヨッフム=ベルリン・フィルのスケールの大きな伴奏です。録音は1970年代アナログ録音で、イエス・キリスト教会の音響も良くしっかりしたものです。
第1楽章は冒頭のホルンが弱音で出てピアノに繋げ、ギレリスのピアノは情熱的でダイナミックに盛り上がります。オケの主題は非常な迫力で、燃え上がるようです。ブルックナーも得意とするヨッフムは奥行きのある立体的なサウンドを作っていきます。何度も弱音からの盛り上がりが繰り返されます。第2楽章もダイナミックさがあり、とても情熱的です。後半、オケのトゥッティはとても白熱しています。
第3楽章はチェロのソロが艶やかに主題を演奏します。ピアノは少しふくよかに、ロマンティックな表現で演奏を繰り広げていきます。色彩感もあり、おだやかに、時には情熱的に表現していきます。第4楽章は明るくダイナミックに盛り上がります。オケはスケールも大きく、ハンガリー的な哀愁に満ちています。
このピアノ協奏曲第2番の名盤の中でもダイナミックさとスケールの大きさでは抜きんでています。奥の深さはバックハウスに譲りますが、曲としてのフォルムもしっかりしており、完成度の高さも兼ね備えています。
ピアノ:グリモー, ネルソンス=ウィーン・フィル
エレーヌ・グリモーのピアノ独奏とネルソンス=ウィーン・フィルの伴奏です。現代的な名演奏と言えるものです。録音は2012年と新しく高音質です。
第1楽章はホルンの音色が美しいです。木管など落ち着いた出だしでピアノが入ってきます。グリモーのピアノはシャープで色彩感があり情熱的です。ウィーン・フィルのトッティはネルソンスによって良くまとめられ、高音質もあって、透明感のある音色です。情熱的に盛り上がりますが、スタイリッシュさがあります。スケールも大きいですが、バックハウスやギレリスと比べるとバランスの良さが感じられます。オケと一緒に爽やかに盛り上がります。第2楽章はピアノのアーティキュレーションがしっかりついていて、繊細で味わい深くかつスリリングです。オケはとても知的な伴奏を付けています。ピアノとオケが演奏する部分では、スタイリッシュさを感じます。
第3楽章のチェロのソロは少し控えめな所のあるロマンティックな表現で、格調の高さを感じます。ピアノは落ち着いた雰囲気ですが、音色が色彩的でとても表情豊かです。品格もあり、バックハウスとは違う良さが感じられます。中ほどでロマンティックに盛り上がった後、チェロのソロが戻って来て、優美にメロディを奏でます。
第4楽章はシャープさと新鮮さのあるピアノで始まります。結構テンポは速めですね。色彩感があり、色々な音色を聴かせてくれます。オケは憂鬱なハンガリー風の主題を民族的に演奏し、情熱的があると共に、細かいテクスチャまでしっかりまとめています。
グリモーのピアノは新鮮さに満ちオケの伴奏も彫りが深く、ダイナミックさやスケールの大きさだけに終わらない品格のある演奏で、この曲の新しい良さを発見できるかも知れません。
ピアノ:シフ, エイジ・オブ・インライトゥメント管弦楽団
アンドラーシュ・シフの振り弾きと古楽器オケのエイジ・オブ・インライトゥメント管弦楽団の伴奏です。ブラームスの時代だとあまり古楽器演奏はありません。もっともブラームスの時代と20世紀半ばの演奏では大分異なる演奏だったと言われています。この曲の場合、振り弾きも少ないと思いますが、興味深いディスクです。録音は2019年でとても新しく高音質です。
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楽譜・スコア
ブラームス作曲のピアノ協奏曲第2番の楽譜・スコアを挙げていきます。