ヨハネス・ブラームス (Johannes Brahms,1833-1897)作曲の大学祝典序曲 ハ短調 Op.80 (“Academic Festival” Overture, Akademische Festouverture c-moll Op.80)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。ワンストップでスコアと楽譜まで紹介します。
大学祝典序曲は明るく有名なメロディとリズムでアマチュアオーケストラなどでも人気のある曲目です。
解説
ブラームスの大学祝典序曲について解説します。
作曲の経緯
ブラームスは1879年にブレスラウ大学から名誉博士号を授与されました。それに対してブラームスは感謝状を贈りました。しかし大学側は、ブラームスが音楽作品を提出しれくれることを望んでいました。ハイドンの交響曲第92番『オックスフォード』の例もあるように、新しい作品を持って演奏すること普通でした。
推薦人の一人の指揮者のベルンハルト・ショルツの説得もあり、1880年に訪れていた保養地バート・イシュルで、名誉博士号の返礼として『大学祝典序曲』を作曲しました。同時に『悲劇的序曲』も作曲されています。
初演
1880年12月6日にベルリンで『悲劇的序曲』と共に公開試演され、初演は、1881年1月4日にブレスラウ大学によって開かれた特別集会においてブラームスの指揮によりブレスラウのオーケストラ協会により行われました。
曲の構成
『大学祝典序曲』は、自由なソナタ形式です。4つの学生歌を元にした主題を持っています。ブラームス自身は
学生の酔いどれ歌のひどくがさつなメドレー
という毒舌を残していますが、実際は健康的な曲想で、親しみやすいメロディを持ち、対位法や主題の変奏などの技術は高度なもので、大学に提出するに相応しくブラームスならではの作曲技法が良く使われています。
おすすめの名盤レビュー
それでは、ブラームス作曲大学祝典序曲の名盤をレビューしていきましょう。
ブロムシュテット=ライプツィヒ・ゲヴァントハウス
ブロムシュテットとライプツィヒ・ゲヴァントハウス管の演奏です。『大学祝典序曲』の新しい定番といえる出来栄えで、しっかりした構築力のあるドイツ的な演奏です。それでいて硬くなりすぎることは無く、リズミカルで楽しめます。2019年の録音で音質も良いです。
冒頭からテンポは小気味良く、リズム感があります。ゲヴァントハウス管のいぶし銀の響きを上手く引き出していて、ドイツ的な響きです。録音の良さもあって、音場がとても広く、トゥッティの響きは今まで聴けなかったものです。ブロムシュテットの円熟も感じられ、爽快なリズム感と奥深さが絶妙に同居しています。
バーンスタイン=ウィーン・フィル
バーンスタインとウィーンフィルの大学祝典序曲は、まさに定番と呼べる名盤です。ライヴ録音ですが、音質にも技術的な問題もありません。ウィーンフィルの響きを活かし、適切なテンポ取りでリズミカルに盛り上がります。肩の力が抜けていて、自然な演奏でもあります。
冒頭は速めのテンポで開始します。やがてクレッシェンドしてスケールが増してきます。主題を速めのテンポでしっかり刻んでいます。落ち着いた部分ではウィーン・フィルの響きの良さを活かした自然な味わいがあります。バーンスタインの懐の深い指揮に、ソロが自由な表現で応えています。後半はリズミカルでダイナミックさがあります。それと共に味わい深さもあり、ウィーンフィルのふくよかな響きを堪能できます。有名な主題もリズミカルで楽しく聴けます。ラストはとても盛り上がりますが、低弦の分散和音的な動きが聴こえたりして、大学祝典序曲らしいです。
リズミカルでダイナミックさもあり、ウィーンフィルの味わいのある響きを上手く引き出すとともに、大学祝典序曲のツボを突いた名盤です。
バーンスタイン=ウィーン・フィル
ワルターとコロンビア交響楽団の演奏です。昔からの定番で、速めのインテンポで演奏されています。とても分かり易く、聴き所のツボも押さえています。そして、インテンポでも円熟したワルターのタクトは、味わい深さも併せ持っています。
冒頭から軽快で速めのテンポで聴きやすい演奏です。クレッシェンドしてかなりダイナミックになりますが、弦などはアクセントを良くつけていて、シャープで爽快です。コラール風の主題は広々とスケールのある表現です。有名なファゴットの主題も親しみやすい表現です。後半、リズミカルでドラマティックな所も垣間見えます。ツボはしっかり押さえています。最後はダイナミックです。
バーンスタイン盤も名演ですが、ワルター盤は何の躊躇もなく、分かり易いスタンダードな表現で、楽しませてくれます。もしかすると、もっと古い録音では個性的な部分があるのかも知れませんけれど、まだ聴いていませんので。
マズア=ニューヨーク・フィル
今、最もその真価が認められていない指揮者の一人、クルト・マズアとニューヨーク・フィルの演奏です。そのドイツ的な響きと、紳士的で奥ゆかしい表現はまさに「いぶし銀」です。録音は良いです。
冒頭は速めのテンポで始まります。基本、インテンポで盛り上がってきますが、ニューヨーク・フィルなのでオケの実力は十分すぎる位で、格調を保ちながらダイナミックな演奏が出来ます。響きは十分ドイツ的でゲヴァントハウスが上手くなったようなイメージです。有名なメロディは速めのテンポで演奏しています。バーンスタイン盤のように、簡単に感情を表に出すのではなく、奥ゆかしいですが、同じ位、味わい深い演奏です。派手さや分かり易さには欠けるのかも知れませんが、聴けば聴くほど味わいが深まってくる演奏です。ラストはダイナミックに盛り上がって終わります。
このCDは交響曲第2番がカップリングになっていますが、本当にドイツ的で素晴らしい演奏です。タワーレコードで交響曲全集を買ってもとても割安です。
レーデル=フィルハーモニア・フンガリカ
レーデルとフィルハーモニア・フンガリカという異色の組み合わせです。しかし、レーデルはフィルハーモニア・フンガリカから実に良い、いぶし銀の響きを引き出しています。録音は1989年とは思えない音質の悪さです。東ドイツが崩壊した年の東ドイツのシャルプラッテンの録音ですからね。
冒頭はインテンポで始まります。クレッシェンドしていきますが、ふくよかさがあり、元々自由さがあるフィルハーモニア・フンガリカらしい響きです。スケールが大きく、自由さがある演奏です。コラール風の主題はふくよかな響きで艶やかです。味わい深さがあります。弦のスフォルツァンドを良くつけていて、シャープさがあります。後半は、かなりドラマティックになります。いぶし銀のドイツ的な響きも現れます。この辺りはレーデルの表現で、ある時は引き締め、ある時はオケを自由にしたりと、円熟した指揮者らしいオケのコントロールです。
カップリングの交響曲第4番もまたいぶし銀でいい演奏です。こんな良い演奏が眠っていたとは知りませんでした。アマゾンミュージックは意外な発見が多いですね。
トスカニーニ=NBC交響楽団
トスカニーニとNBC交響楽団のモノラル録音です。トスカニーニらしい力強く熱気のある演奏です。ただ1948年とNBC交響楽団との演奏としては、古めで細かい所が聴きにくい感じです。リマスタリングされ、音質も向上してきました。
冒頭の弱音の部分で既に速めのテンポで熱気を予感させます。クレッシェンドしてくると同時にアッチェランドもしてきて、段々白熱してきます。その後、歌謡的な部分では少しイタリア風の弦がカンタービレで艶やかに歌っています。後半は思い切り盛り上がり管楽器は全開で、予感通り白熱した演奏を聴かせてくれます。ブラームスでここまで加熱するのは、やはりトスカニーニですね。交響曲第1番も燃え上がるような名演ですし。
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楽譜・スコア
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