ヨハネス・ブラームス (Johannes Brahms,1833-1897)作曲の交響曲第3番 ヘ長調 Op.90 (Symphony No.3 F-Dur Op.90)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。最後に楽譜・スコアも挙げてあります。
ブラームス交響曲第3番は比較的地味な交響曲ですが、とても有名な第3楽章があり、人気があります。ただ、技術的にも難しめで演奏しにくく、最後に盛り上がらずに静かに終わるため、コンサートで最後盛り上がりにくくて、アマチュア・オーケストラでは人気のない曲目です。名曲と言われてはいるんですけどね。
お薦めコンサート情報
🎵クリストフ・エッシェンバッハ、ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団
・ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調 Op. 90
・ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 Op. 68
2023/5/10(水)19:00開演 会場:横浜みなとみらいホール 大ホール (神奈川県)
解説
ブラームスの交響曲第3番 ヘ長調 Op.90について解説します。
交響曲第3番は、難しい位置づけの交響曲で、第4番のような明確な革新性もなければ、第2番のような明らかな主題もありません。ハンス・リヒターは「英雄交響曲」と褒めたたえましたが、ブラームスはそのようなことは言っていないのです。かなり硬派な交響曲かな、と思いますが、一方で第3楽章はとてもロマンティックです。全体の構成は交響曲第2番に似ているようにも思いますし、ヘ長調ですが、自然を描いている訳でもないようです。
言えることは、第2番に比べて難解で、作曲技術が大きく進歩していることです。これは革新的な第4番につながっていきます。また、第3番は誰にも献呈されていません。ベートーヴェンの第8番のように、個人的な内容を含む交響曲である可能性も高いです。
作曲と初演
交響曲第3番は、温泉地として知られるヴィースバーデンに滞在し、作曲されました。作曲開始は1882年夏ごろと見られています。1883年5月に完成しました。
初演は1883年12月2日にハンス・リヒターの指揮、ウィーンフィルの演奏で行われました。初演は大成功でした。
楽曲の構成
4楽章形式の通常の交響曲です。曲の構成を見ても、何かありそうな交響曲で、たぶん解説も書き直すことになると思います。
第1楽章:アレグロ・コン・ブリオ
ソナタ形式です。第1主題はシューマンの交響曲との関連が指摘されています。また第2主題はワーグナーの歌劇『タンホイザー』との関連が指摘されています。
第2楽章:アンダンテ
自由な3部形式またはソナタ形式。平和でおだやかな楽章です。
第3楽章:ポコ・アレグレット
非常に有名なメロディがある楽章で、明らかにロマンティックで目立っています。恋愛がらみの音楽かな?と想像できます。
第4楽章:アレグローウン・ポーコ・ソステヌート
自由なソナタ形式。フィナーレに当たる楽章ですが、デクレッシェンドしてpで終わります。
シューマンへのオマージュとも言われています。それもあるかも知れませんけど、それだけではないと思います。恋愛関係を描いている部分もあるかも知れませんが、おだやかでロマンティックなものの、あまり明るい曲とは言えないので、それだけでは無いと思います。
おすすめの名盤レビュー
それでは、ブラームス作曲交響曲第3番 ヘ長調 Op.90の名盤をレビューしていきましょう。
ヴァント=北ドイツ放送交響楽団 (1990年ライヴ)
ヴァント=北ドイツ放送交響楽団(NDR)は、ブラームスに力を入れていて、1980年代にセッション録音の全集もリリースしています。ヴァントの演奏スタイルは、スコアを綿密に再現していくことです。かなり緻密なので、全集は少し密度が濃すぎたかも知れません。しかし、それだけ曲をしっかり再現していて、第3番のような曲では特に効果的です。
その後、ヴァントは円熟してきてテンポに余裕が出てきました。ブルックナーなどの名演もあり、世の中の評価も急上昇します。この1990年ライヴ録音の全集はテンポに余裕があり、録音の音質が優れていて透明感のある響きです。明らかにヴァント=NDRの最高のブラームスで、このコンビの長所が全て録音されていると思える位です。
テンポが遅くなったとはいえ、少し余裕が出てきたという感じで、普通の演奏よりは速めです。特にロマンティックなルバートなど、アゴーギクは最小限です。第1楽章も自然で力が抜けた演奏ですが、テンポはほぼ一定です。硬派な表現で全くケレン味はありませんが、曲に浸れる余裕と深みがあります。第2楽章もインテンポに近いです。ソロが上手く、弦の響きに味わいがあります。低弦も入り自然と深みを増していきます。第3楽章は甘美に演奏するのが普通ですが、ヴァントはここでも先入観なしで演奏していて、甘美さはありますが、過剰ではありません。他の演奏はこの楽章に来ると急にロマンティックになって不自然に感じることもありますが、ヴァント盤はあくまで硬派です。第4楽章はかなり遅いのテンポです。ダイナミックでスケールが大きい演奏です。
このCDは最初に聴いたときは驚きました。セッション録音の旧全集は持っていて気に入っていたのですが、それとは大きく違います。旧全集は引き締まっていて、それはそれで素晴らしいです。新全集には代わりにヴァントの円熟が大幅に深まり、凄く高音質です。旧全集の延長上にあるとは思いますが、結果として全然違う印象です。
ボールト=BBCフィル
晩年のボールトとBBCフィルのライヴ録音です。ボールトはブラームスを得意としていて、数々の名録音を残していますが、ドイツ系の指揮者にはない格調が感じられる演奏で、円熟による深みも感じられます。オケもイギリスのオケを起用しています。録音はライヴですが、リマスタリングされているのか、特に不満は感じられません。
第1楽章は自然体で格調のある演奏です。3拍子も落ち着いて処理されていて、アンサンブルが乱れることもないです。ここぞというときには金管もしっかり鳴っていて、聴きごたえがあります。第2楽章は控えめな感情表現が素晴らしいです。管楽器も自然に鳴り、弦は厚みがあり、かなり情熱的に盛り上がります。自然の中に居るような心地よさが素晴らしいです。
第3楽章の有名なメロディは哀愁に溢れた名演で、わざとらしくなること一切ありません。ボールトらしい格調が常に維持されています。テンポ取りもまさに中庸で、自然に浸って聴くことが出来ます。第4楽章は遅めのテンポで始まり、かなりテンポを動かして盛り上げていきます。効果的な演出かも知れませんが、わざとらしさを感じることはなく、却って自然なテンポ取りに聴こえます。弱音では渋い響きの中に木管が響き渡ったり、盛り上がってくるとオケ全体が白熱して強い感情表現です。
ブラ3には多くの名盤がありますが、その中でも玄人好みの一枚と思います。カップリングのエルガーの第1番も情熱的な名演です。
ザンデルリンク=ドレスデン・シュターツカペレ
旧東ドイツの指揮者クルト・ザンデルリンクと手兵ドレスデン・シュターツカペレの録音です。いぶし銀の演奏として昔から定評を得ている名盤です。旧東ドイツの録音と思いますが、案外自然で聴きやすい音質です。
第1楽章はドレスデン・シュターツカペレの柔らかく格調のある、いぶし銀の音色が印象的です。ザンデルリンクは正統派の演奏を繰り広げています。テンポ取りも標準でしっかりしているし、盛り上がった時の響きも低音から積み上げるようにドイツの正統派の流儀にしたがって演奏しています。後半は味わいも出てきて音楽に浸れます。第2楽章は落ち着いたテンポで渋い弦と管のソロが素晴らしいです。弦が明るめに盛り上がったかと思えば、弱音の個所は低弦が深みのある音色響かせています。後半は喜びに溢れる美しい響きとなり、どんどん深まっていきます。教会にでもいるかのようです。
第3楽章は美しく適度に感情の入った演奏です。いぶし銀の音色ではありますが、ここではかなりロマンティックで色々な響きを聴かせてくれます。第4楽章はスケールが大きくダイナミックな演奏です。テンポは遅めで、清純な響きと喜びが感じられます。
ザンデルリンクのブラームスは、この曲を理解する上でも是非持っておきたい名盤です。
カラヤン=ベルリン・フィル (1988年)
カラヤン=ベルリン・フィルの第3番は1988年録音です。カラヤンは第4番を録音する前に世を去ってしまいました。そのため、カラヤン=ベルリン・フィルの最後のブラームスということになります。
第1楽章は、速めのテンポでダイナミックに始まります。速めのテンポのまま進み、展開部以降はスリリングさもある位です。終盤はどんどん盛り上がりダイナミックです。第2楽章は標準的なテンポです。ソロが素晴らしいです。後半は結構浸れる個所もありますが、やはり少しテンポが速い感じがしますね。終盤までくるとテンポが遅くなり、深みが感じられます。第3楽章はインテンポですが、ロマンティックさを感じる演奏です。中間部は静かさが感じられ、深みもあります。第4楽章はスケールが大きく、テンポは遅めです。徐々にダイナミックになっていきます。ラストは平穏な雰囲気で終わります。
全体的に、特に第2楽章以降は静かな部分も多くシリアスです。しかし第4楽章の最後は平和に終わります。ベルリン・フィルはアンサンブルにいつもと違って滑らかさやレガートが少ないです。カラヤンも万全ではなかったのかも知れませんが、全体的にはしっかり振り抜きました。
ベーム=ウィーン・フィル (1975年)
カール・ベームは晩年円熟した時にウィーン・フィルとのブラームスを残しています。円熟して力が抜けてきたとはいえ曲に真正面から対峙し、スケールが大きく、重厚さのある演奏です。ブラ1は凄いスケールで聴くのが疲れる位で、カラヤンあたりを聴くようになって大きくイメージが変わったものです。ブラ3は重厚で厳格さがあっても良い演奏になる曲だと思います。
第1楽章はスケールが雄大で自然さがあります。標準的なテンポで晩年で円熟した演奏ですが、手綱を完全に緩めたわけでは無く、しっかりした骨格と重厚さもあります。録音の音質はとても良く、1975年の録音なので相当力を入れて録音したんだろう、と思います。後半に入ると、どんどんスケールが増してきて、ダイナミックになってきます。第2楽章は遅いテンポとなり、一音一音に情念を入れるように丁寧に演奏していきます。丁寧ですが、そこが少し重いかも知れません。ベームも若いころの演奏はインテンポで推進力があるのですが、1970年代の録音は遅くて重厚な演奏が多いです。名演ですけど、好みは分かれそうです。
第3楽章は遅いテンポで甘美すぎず、非常に素晴らしい名演です。ルバートして、じっくり歌い上げますが、どこか硬派な演奏です。第4楽章は遅めのテンポですが、円熟した巨匠としてはさほど遅いテンポではないです。熱く盛り上がり、テンポも速くなりスケールが大きく、ダイナミックです。ラストは平穏に終わります。
ベームとバーンスタインとは似ているように見えて、大分違う円熟の仕方ですね。もっともバーンスタインは第3番になるとウィーンフィルに任せている部分が多すぎる雰囲気ですけど。
バーンスタイン=ウィーン・フィル (1981年)
バーンスタイン=ウィーン・フィルの組み合わせのブラームスは自然体で名演が多いです。
第1楽章は冒頭からスケールの大きな音楽です。テンポも遅めですね。ウィーンフィルの管楽器の響きが綺麗に響いています。力を抜いた自然さのある演奏ですが、展開部や終盤などは感情表現が強くなってきます。バーンスタインの円熟によりスケールの大きさを感じます。第2楽章はテンポは普通ですが、力が抜けていて自然さがあります。ウィーンフィルのふくよかな響きに浸って聴くことが出来ます。第3楽章はかなり哀愁とロマンティックさがあります。あくまで少し自然さを超える程度ですけれど。第4楽章は少し遅めのテンポで、スケールが大きく、感情的にもかなり盛り上がります。
自然体でウィーンフィルの味のある響きを活かしているので、味わい深く聴けます。ただ、ヴァントやクナッパーツブッシュと比べるとこの交響曲の微妙な不安感ももう少し表現すべきじゃないかな、と思いました。ただ、普通に楽しんで聴く分にはコスパも良いし、いい選択肢だと思います。
クナッパーツブッシュがシュトゥットガルト放送交響楽団を指揮したライヴ録音です。異様なまでに遅いテンポですが、シュトゥットガルト放送響とのライヴは録音が良いです。クナッパーツブッシュはブラームスを得意としています。世評の高いブラ3でも非常に説得力のある名演を繰り広げています。
シュトゥットガルト放送響はクナッパーツブッシュとそれまであまり共演してこなかったためか、クナの遅いテンポに戸惑ったり、急に速めのテンポで出てしまったりする時がありますが、クナはあくまで遅いテンポで押し通します。縦の線を合わせようなんて、考えても居ないようです。
交響曲第2番ではオーストリア的な味わいが濃かったクナですが、交響曲第3番はなかなか渋くてダイナミックな演奏です。第1楽章から、遅いテンポの中でゆったりした3拍子に浸ることができ、味わい深い演奏です。ラストはスケール大きく盛りあがり、広々とした音楽です。第2楽章はこの演奏の白眉だと思います。肩の力を抜いて、自然な幸福感を味わうことが出来ます。第3番は長調の交響曲ですからね。少しだけ不安感も混ざってきますが、ゆったりした安心感が強いです。第3楽章は遅いテンポで悲哀を伴っていて、その繊細な表現は素晴らしいものがあります。テンポが遅いため、より精妙な表現をしています。第4楽章は凄く遅いテンポで神妙に始まります。盛り上がってきても遅いテンポのまま進みます。かなり感情の入った演奏で、不安とか悲哀は表現されていますが、テンポが遅く幅広さがあるので、シリアスに過ぎることはありません。ラストの段々長調になっていく所は天から光がさすように、平穏が訪れます。
クナの演奏は、第1楽章~第4楽章が一体になったような自然な音楽づくりで、シリアスさと自然な穏やかさのバランスが絶妙に取れています。
CD,MP3をさらに探す
演奏の映像(DVD,Blu-Ray,他)
いくつか映像がリリースされているため、ご紹介します。
ウェルザー-メスト=クリーヴランド管弦楽団
DVD,Blu-Rayをさらに探す
楽譜・スコア
ブラームス作曲の交響曲第3番 ヘ長調 Op.90の楽譜・スコアを挙げていきます。
電子スコア
タブレット端末等で閲覧する場合は、画面サイズや解像度の問題で読みにくい場合があります。購入前に「無料サンプル」でご確認ください。