ヨハン・ゼバスティアン・バッハ (Johann Sebastian Bach,1685-1750)作曲のヴァイオリン協奏曲第1番,第2番,2つのヴァイオリンのための協奏曲 (Violin concerto)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。
解説
バッハのヴァイオリン協奏曲について解説します。
ケーテン宮廷楽長時代
バッハは30代のころ、ケーテンの宮廷学長を務めていました。教会や宗教に関係する立場ではなく、そのため器楽曲も多く書かれました。その時期は『無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ』などが特に有名です。
ヴァイオリン協奏曲もケーテン宮廷楽長時代の1717~1720年ごろに作曲されました。いずれも有名なヴァイオリン協奏曲です。アマチュアに人気があります。特に『2つのヴァイオリンのための協奏曲』は非常に人気があり、鈴木ヴァイオリン教本にも掲載されているため、ヴァイオリンの発表会などで良く演奏されます。またヴァイオリン協奏曲第1番も鈴木ヴァイオリン教本に掲載されています。
『2つのヴァイオリンのための協奏曲』は観賞用としても十分耐えられるクオリティです。BGMなどに良く使われます。
曲の構成
J.S.バッハのヴァイオリン協奏曲は3つともイタリアのヴィヴァルディらが生み出したソロ・コンチェルトの様式に従って書かれています。全て3楽章構成で、急ー緩ー急の構成をとっています。ただし、完全に従っているわけではなく、バッハのほうがより複雑で高度な対位法を使っています。また和音進行も複雑でバッハ特有のエネルギーのあるドラマティックな曲となっています。
■ヴァイオリン協奏曲第1番 ニ短調 BWV1041
・第1楽章:ヴィヴァーチェ
・第2楽章:ラルゴ・マ・ノン・タント
・第3楽章:アレグロ
■ヴァイオリン協奏曲第2番 イ短調 BWV1042
・第1楽章:アレグロ
・第2楽章:アンダンテ
・第3楽章:アレグロ・アッサイ
■2つのヴァイオリンのための協奏曲(ドッペル・コンチェルト) ホ長調 BWV1043
・第1楽章:アレグロ
・第2楽章:アダージョ
・第3楽章:アレグロ・アッサイ
おすすめの名盤レビュー
それでは、バッハ作曲ヴァイオリン協奏曲の名盤をレビューしていきましょう。
元々曲が持っているエネルギーや情熱のため、モダン楽器で弾いてもさほど違和感がありません。逆にバロック楽器で演奏してもそれほどバロック奏法が生きてこない曲でもあります。バロックもモダンもあまり区別せずに、おすすめのCDをレビューしていきます。
Vn:ユリア・フィッシャー,アカデミー室内管弦楽団
ユリア・フィッシャーは、バッハのヴァイオリン協奏曲を軽やかに楽しく弾いています。モダン楽器ですが、この軽妙さ、しなやかさ、ノリの良さは、バロック奏法を意識していると思います。世間的にJ.S.バッハというと難しいイメージが無くもないですが、ヴィヴァルディのように弾いていてとても親しみやすいです。
もちろん、技術は素晴らしいですし、緩徐楽章も艶やかな歌いまわしです。表現がフレッシュでどこを聴いても、気難しい感じがするところはありません。参考演奏にもBGMにも適した良いCDです。
Vn:ポッジャー, ブレコン・バロック
レイチェル・ポッジャーとブレコン・バロックの2012年の録音です。新しい録音で非常に音質も良く、残響もちょうど良いです。CDは2つに分かれていて、ソロコンチェルトのみのCDと複数のヴァイオリンソロのあるこのCDの2種類です。こちらにはドッペル・コンチェルトが入っています。
ドッペル・コンチェルトは上のYouTubeもレイチェル・ポッジャーの演奏です。もちろん違う演奏ですが、同じ位のテンポです。第1楽章はレイチェル・ポッジャーと2ndのソロを誰が弾いているか分かりませんが、細かい所までクオリティの高い演奏です。メッサデヴォーチェを良く良く使ったスピード感のある表現です。2本のヴァイオリンの絡み(=対位法)が分かり易く聴けます。ドローン(バグパイプの模倣)を目立たせてみたり、面白い気づきのある演奏です。
有名な第2楽章はおすすめの名演です。まず舞曲シチリアーナのようなテンポで独特の揺れがあって自然に聴けます。歌い方も艶やかで味わい深いです。かなり感情を入れた演奏で、暖かみがあります。第3楽章はかなり速いテンポです。
バロック奏法もどんどん発展してきています。クイケン盤と比べると、さらに自由で自然になっています。
カップリングはBWV1044が特に聴き物です。それ以外にも『3本のヴァイオリンのための協奏曲』などが収録されていて、新鮮な曲目で楽しめます。
このポッジャーの録音は廃盤になってしまいました。ポッジャーと人気バロックヴァイオリニストのマンゼの競演によるディスクを挙げておきます。
Vn:ポッジャー,Vn:マンゼ,エンシェント室内管弦楽団
Vn:諏訪内晶子&ヨーロッパ室内管弦楽団
諏訪内晶子のバッハのヴァイオリン協奏曲集は非常に優美で軽やかな名盤です。
テンポは少し速めで軽やかなリズムにのって演奏しています。諏訪内晶子のしなやかな表現力が素晴らしいです。ドッペルコンチェルトの第2楽章は、諏訪内晶子らしく優雅にしっとりと歌いこんでいます。ヨーロッパ室内管弦楽団も上手く軽妙な伴奏を付けています。
カップリングのルルーのオーボエによる「ヴァイオリンとオーボエのための協奏曲」も名演です。BGMとしても相応しいですし、演奏の参考にするよりも、じっくり聴いてみたい名盤です。
Vn:イザベル・ファウスト,ベルリン古楽アカデミー
Vn:クイケン,ラ・プティット・バンド
クイケンは定番の演奏で、発売時からクオリティの高いバロック楽器の演奏として、君臨しています。
クイケンは、もともとこれ見よがしにバロック奏法を聴かせるヴァイオリニストではありませんが、この曲ではモダン楽器とほぼ変わらない演奏をしていると思います。テンポもかなり遅めで丁寧です。バロック奏法という点で見ると模範演奏、という感じもしますが、聴きこむと内容がしっかりしているだけにジワジワと良さが分かってくる端正な名盤です。
録音も良く、対位法を使った箇所がきれいに聴こえる演奏です。
Vn:グリュミオー,ゲレツ=ソリスト・ロマンド
グリュミオーの演奏です。1978年の録音で音質は良いです。演奏スタイルは古き良き演奏で、最近の演奏と比べるとヴィブラートがやはり強いですね。好みの問題ですけど、パイヤールやイ・ムジチでもこんなに強いヴィブラートは掛けないので、久々に古い録音を聴くと「ヴィブラート酔い」してしまいます。
演奏は、非常にロマンティックで艶やかな暖かみのある音色です。テンポはかなり遅めで落ち着いています。3つの協奏曲とも第2楽章はさらにテンポが遅いです。グリュミオーはヴィブラートが中心ですが、色々な表現を入れてきて、感情的な表現を中心に弾いていきます。伴奏の過剰なヴィブラートを無視すれば、これはやはり一つの完成された表現なのだと思います。「エネスコ譲りの」と書いてありましたが、それだけ長い期間を掛けて作り上げられてきた表現です。
ロマン派風、というか、伴奏はロマン派の協奏曲よりもヴィブラートが強い気がしますが、ロマン派の時代は、バロックや古典派は貴族風の優美な演奏を想像していた訳ですね。「無伴奏」のほうは、シゲティなど硬派な演奏もありましたが、他の協奏曲に対するイメージは変わらなかったということなんでしょう。グリュミオーの「無伴奏ヴァイオリン」は良さが分かりました。
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楽譜・スコア
バッハ作曲のヴァイオリン協奏曲の楽譜・スコアを挙げていきます。
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ミニチュア・スコア
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