ヨハン・セバスティアン・バッハ (Johann Sebastian Bach,1685-1750)作曲の管弦楽組曲 第2番 ロ短調 BWV1067 (The Orchestral Suite No.2 h-Moll BWV1067)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。最後に楽譜・スコアも挙げてあります。
管弦楽組曲第2番は全体をフルート・ソロが占めており、編成的にはフルート協奏曲です。ただし、形式はフランス風組曲です。最後の曲、バディネリ(バディヌリ)が有名です。
また、ポロネーズも有名です。
解説
バッハの管弦楽組曲 第2番 ロ短調 BWV1067について解説します。
組曲全体をフルート・ソロが中心になっています。一方、曲の様式はフランス風組曲というユニークな構成です。イタリア風コンチェルト様式ではないので、フルート協奏曲と呼ばれないのだと思います。
フラウト・トラヴェルソ
バッハの時代だと、フルートの古楽器であるフラウト・トラヴェルソ(あるいは単にトラヴェルソ)が使われていました。古楽器アンサンブルのCDではトラヴェルソが使われているはずです。
バディヌリとは
漠然と舞曲のことです。18世紀に入ってから使われました。バディヌリーは女性名詞で、男性名詞のバディナージュが使われることもあります。この曲の有名なバディヌリはテンポの速い2拍子となっています。
バッハは他の組曲で「余興」の意味で、バディヌリという曲を使っていて、おそらくここでもアンコールに近い意味合いがあるだろう、ということです。ということは、この曲は第6曲メヌエットで一旦終わっているのですね。そう考えれば、曲数が多い理由も分かります。
曲の構成
この曲は短調です。フランス風序曲から始まりますが、短調の哀愁を活かした音楽になっています。
第1曲:序曲
フランス風序曲です。
第2曲:ロンド
第3曲:サラバンド
3拍子系の舞曲で、バッハの時代には緩徐楽章のように使用されています。
第4曲:ブーレ I – II – I
2拍子系の少しテンポが速い舞曲です。
第5曲:ポロネーズ
ポーランド宮廷の華麗な舞曲です。有名な曲ですね。
第6曲:メヌエット
第7曲:バディヌリ
おすすめの名盤レビュー
それでは、バッハ作曲管弦楽組曲 第2番 ロ短調 BWV1067の名盤をレビューしていきましょう。
古楽器アンサンブル中心に取り上げていますが、フルートソロが中心になるので、フルートの名手が良く取り上げる曲でもあります。
ベルリン古楽アカデミーは、しっかりした古楽器奏法で演奏しています。短調の雰囲気は淡い感情として出していて、とても品格があります。
第2曲ロンドで2拍子のリズムを揺らしているのは「イネガル」というバロック時代の演奏習慣です。第4曲ポロネーズも、しっかりしたリズムの上で短調の音楽を演奏していて、味わいがあります。フラウト・トラヴェルソのオブリガートもいいですね。第7曲バディヌリは品格があり、そこに淡い感情が入っています。
有田正広=ラ・ストラヴァガンツァ・ケルン
有田正広氏がフラウト・トラヴェルソを吹いたラ・ストラヴァガンツァ・ケルンの演奏です。このCDの特徴は何といってもフラウト・トラヴェルソの音色の暖かみのある美しさです。伴奏のラ・ストラヴァガンツァ・ケルンはテンポは適切ですけど、メリハリが少ない演奏ですね。その代わり有田氏のトラヴェルソの音色はきれいに録音されています。聴けば聴くほど、この演奏の良さが分かってきます。ただ、他の番号はメリハリが少なく、名演とは言えないです。
トラヴェルソは繊細でしなやかな演奏です。あまり音量が大きくないためか、他のパートは小さめに演奏している感じです。教会での演奏に相応しい雰囲気です。ただテンポは十分速く、舞曲などもしっかり演奏しています。フランス風序曲はトラヴェルソ中心に音作りをしていて、常にトラヴェルソの音が聴こえ清涼な雰囲気です。第2曲ロンドは少し遅めですが、素朴なトラヴェルソには丁度良いテンポです。第3曲サラバンドは曲調がトラヴェルソに合っていて味わい深いです。第5曲ポロネーズは小編成の良さが生きていて、とても素朴な味わいです。トラヴェルソのオブリガートも透明感があり、天上の音楽のようです。第7曲バディヌリはかなり速いテンポでスリリングです。
有田氏は妥協無くフラウト・トラヴェルソの良さを出し切っていて、素晴らしいです。もう一つ、管弦楽組曲第2番があり、これは日本が誇る浜松市楽器博物館の貴重なトラヴェルソを使った演奏です。ヨーロッパにも楽器博物館は結構ありますが、この浜松市楽器博物館はトラヴェルソに限らず、貴重なチェンバロなど歴史的楽器を所有しているので、機会があったら行ってみることをお薦めします。
サヴァール=ル・コンセール・デ・ナシオン
フランス風序曲から通奏低音の低音が充実していて渋い響きを醸し出しています。フラウト・トラエヴェルソも柔らかい音色で味わいのある演奏です。装飾の類が非常に自然につけられています。サヴァールはガンバ奏者なのですが、ソロだけでなく、他のパートにも聴きどころが多い演奏です。
第4曲ポロネーズは、管弦楽がしっかりしたリズムを刻み、味わいのある演奏です。特に中間部のフラウト・トラエヴェルソのオブリガートが素晴らしいことと、主旋律のチェロもさすが渋くて素晴らしい演奏です。第6曲メヌエットは落ち着いた演奏で味わい深いです。第7曲バディヌリはスピード感もあり渋い響きの中で格調の高い演奏になっています。
コープマン2度目の録音です。一度目は1988年でまだ古楽器奏法が完全には確立していなかった時代です。今回は1997年と大分古楽器奏法が確立してきた段階での再録音です。いつものように快速テンポで情熱的な演奏を繰り広げています。特に短調のこの曲にはコープマンの解釈は合うようです。速めのテンポですが、それが感情的な表現につながっていて、「ポロネーズ」も「バディヌリ」も非常に名演です。廉価盤ですが、演奏内容は素晴らしいです。
リヒター=ミュンヘン・バッハ管
リヒター=ミュンヘン・バッハ管弦楽団はモダン楽器でも古いスタイルの演奏ですね。第1曲フランス風序曲は、古楽器アンサンブルの倍くらいのテンポで演奏しています。カラヤンの方が自然に聴こえる位です。
舞曲になるとリヒターの方が自然なテンポ取りになります。第3曲サラバンドも遅いですが不自然なほどではないです。第4曲ポロネーズも少し遅い程度できちんとポロネーズに聴こえます。舞曲のテンポ取りが遅すぎるカラヤンに比べると、有名な曲は聴きやすいです。第7曲バディヌリはやや速めのテンポでスリリングもあります。フルートのニコレは譜面に充実にしっかりした演奏を繰り広げています。
カラヤン=ベルリン・フィル (1964年)
カラヤン=ベルリンフィルによるモダンオーケストラの演奏です。しかも1960年代とまだバロック音楽が流行りだした頃で古楽器奏法もなく、カラヤンが重厚な演奏をしている時代のものです。ここまで重厚で大迫力のフランス風序曲はある意味、凄いです。その後は、フルート・ソロが中心でオケはサポート役に徹しています。テンポ以外にそれほど違和感を感じないのは、ヴィブラートが控えめだからだと思います。
フルート・ソロはカールハインツ・ツェラーによるものです。例えばドビュッシーの「牧神の午後の前奏曲」でもフルートソロを担当した名手です。明るい音色の中に悲哀に満ちたソロで味わいがあります。ポロネーズなど、カラヤンの少し遅いテンポ取りは今一つですが、最終曲のバディヌリは良い演奏です。
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楽譜・スコア
バッハ作曲の管弦楽組曲 第2番 ロ短調 BWV1067の楽譜・スコアを挙げていきます。
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