ヨハン・クリスティアン・バッハ (Johann Christian Bach,1735-1782)作曲のブランデンブルク協奏曲 第4番 ト長調 BWV1049 (brandenburg concertos no.4 g-dur BWV1049)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。ワンストップでスコアや楽譜まで紹介します。
第4番はブランデンブルク協奏曲の中でも人気があり、フルート(リコーダー)2本とヴァイオリンがソロを務めます。そしてヴァイオリンが荒れ狂うような技巧的なソロを弾くのが特徴です。
解説
バッハのブランデンブルク協奏曲第4番について解説します。
作曲の背景
ブランデンブルク協奏曲は、J.S.バッハが1721年3月24日にブランデンブルク=シュヴェート辺境伯クリスティアン・ルートヴィヒに献呈した作品です。
J.S.バッハはアンハルト=ケーテン侯レオポルトに仕えていましたが、ケーテン侯の妃が音楽嫌いであったため、宮廷楽団が縮小され、バッハも就職活動を始めることになります。
そこで、これまで作曲した合唱協奏曲を集めてブランデンブルク=シュヴェート辺境伯に献呈し、出来ればそこに就職しようとした、と言われています。結局、その希望は叶わず、1723年にライプツィヒのトーマス・カントルに着任することになります。
1708年~1723年の間のケーテン時代に作曲されたと言われていますが、はっきりした作曲年代分かっていません。番号によっては、その前のヴァイマール時代に作曲されたと考えられる曲もあります。その中で第4番に関してはケーテン時代以降の作品で1720年頃の作曲と考えられています。
ブランデンブルクってどこ?
気軽にブランデンブルク協奏曲、と呼んでいるのですが、ベルリンに『ブランデンブルク門』があることは知っているものの、ブランデンブルクがどこにあるのか探したことはありませんでした。
現在のブランデンブルク州(Land Brandenburg)の付近で、ベルリンを囲むような位置にあり、州都はあのポツダム宣言で有名はポツダムです。そしてJ.S.バッハの時代は、ブランデンブルク辺境伯領は神聖ローマ帝国の領邦国家の中で最大の領土を保有した国家の一つでした。それだけ力のある貴族に仕えていれば、多くの管弦楽作品が作曲されたでしょうね。もちろんライプツィヒ時代は『マタイ受難曲』など、掛けがえのない名曲が作曲されています。
多彩な合奏協奏曲
基本的にはイタリアのヴィヴァルディらが良く作曲していた3楽章形式の協奏曲に近いですが、ソロコンチェルトではなく、ソロパート(コンチェルティーノ)は複数います。
ブランデンブルク協奏曲第4番は、2本のリコーダーとヴァイオリンがソロ(コンチェルティーノ)を担当しています。特にヴァイオリンパートは技巧的で、第1楽章、第3楽章で荒れ狂うように盛り上がります。
リコーダーは、第5番と異なりフルートではなくリコーダーですが、モダン・オケを中心とした演奏では、フルートも使われています。
フルートとリコーダーの違い
バッハの時代でもフルートとリコーダーの違いは大きくなく、リコーダーは「フルート」とも呼ばれ、フルートは「フラウト・トラベルソ」と呼ばれていました。トラヴェルソは「横向き」という意味です。だからといって、現在の金属製のフルートとは音色も技術も大きく違いますけれど。
古楽器を使った録音では、リコーダーを使っています。第2楽章のリコーダーの味わい深さも格別です。
第4番の楽曲の構成
ヴィヴァルディ風の協奏曲の形式(緩ー急ー緩)で書かれています。演奏時間は約15分です。実際、J.S.バッハはヴィヴァルディの作品をよく研究していて、作品3の4つのヴァイオリンのための協奏曲を、4つのチェンバロのための協奏曲に編曲したりしています。
第1楽章:アレグロ
リトルネット形式です。落ち着いた2本リコーダーの演奏が続き、ヴァイオリン・ソロが入ってきます。ヴァイオリン・ソロは中盤で派手に細かいパッセージで超絶技巧を披露します。このソロは悪魔的な感じすらしますね。また、穏やかになり、様々な楽器のアンサンブルが奏でられます。
第2楽章:アンダンテ
緩徐楽章です。遅めの短調でイタリア風の情熱も感じられる楽章です。遅めと言ってもアンダンテなので、リズム感を失わない程度のテンポです。演奏者の解釈によってはテンポが速めな時もあります。リコーダーはあまり前面には出ず、奥ゆかしく演奏していきます。
第3楽章:プレスト
冒頭から弦のフガートで始まり、速いテンポでスリリングさもある楽章です。途中、ヴァイオリン・ソロに超絶技巧な個所もあるので、そこまで速くは出来ませんが、優れたヴァイオリニストがいればかなり速いテンポで演奏していることも多いです。
■ソロ楽器群(コンチェルティーノ)
ヴァイオリン
リコーダー×2
■合奏楽器群(リピエーノ)
ヴァイオリン×2、ヴィオラ、チェロ、ヴィオローネ
通奏低音(チェンバロ、他)
おすすめの名盤レビュー
それでは、バッハ作曲ブランデンブルク協奏曲第4番の名盤をレビューしていきましょう。
Vn:イザベル・ファウスト, ベルリン古楽アカデミー
古楽器プレイヤーでもあるヴァイオリニストのイザベル・ファウストとベルリン古楽アカデミーの録音です。2021年録音と非常に高音質です。古楽器による最先端の古楽器奏法を取り入れた演奏です。
第1楽章は雅(みやび)さと軽妙さを兼ね備えた響きで、リコーダーも透明感もあります。テンポはかなり速めで、やはり主役はヴァイオリンのイザベル・ファウストで自由にテンポを動かしながら、本当の超絶技巧で速いパッセージも余裕があり、スリリングに聴かせてくれます。ベルリン古楽アカデミーらしい透明感溢れる音色と安定した技術でクオリティの高い演奏を繰り広げています。第2楽章はヴィヴァルディを感じさせるような情熱的な短調で、テンポは標準的ですが、抑揚が良く付いていて、リコーダーの素朴な音色を堪能できます。第3楽章は速いテンポで、中低弦からのフーガ風な動きを良く聴かせてくれます。ヴァイオリン・ソロは軽妙な中にも様々な表現を付け、テンポが速いので、かなりの超絶技巧で爽快に聴かせてくれます。
古楽器での演奏の素晴らしさと言い、イザベル・ファウストの積極的な表現力と言い、第4番はとても良い演奏です。今、一番お薦めな名盤です。
アバド=モーツァルト管弦楽団
アバドとモーツァルト管弦楽団の録音です。ヴァイオリン・ソロをバロック・ヴァイオリニストとしても有名で技術の高いカルミニョーラが弾いているので、スリリングな演奏になっています。このアルバムの中でも第4番は特に素晴らしいです。音質は良好でロココ調の明るい音色をよく伝えています。
第1楽章はロココ調で、音色の明るさはイタリア人特有かも知れません。少し早めのテンポでリコーダーは落ち着きつつも明るい音色です。ソロ・ヴァイオリンのカルミニョーラは明るい音色で、バロック風のタメや抑揚をつけつつ、超絶技巧を軽々と弾いていきます。やはりカルミニョーラの存在感が大きいです。第2楽章は短調ですが、暗い音楽ではなく、イタリア的な情緒が感じられます。リコーダー中心にリズムを失わない演奏です。第3楽章は速いテンポでスリリングです。バロック風のメッサデヴォーチェをかけ、カルミニョーラの技巧を堪能できますし、リコーダーとヴァイオリンの絡みも楽しめます。
全体的にピリオド奏法的な所もあれば、ロココ調の明るく雅(みやび)な音楽が楽しめる名盤です。
ピノック=イングリッシュ・コンソート
古楽器の演奏でトレヴァー・ピノックと手兵イングリッシュ・コンソートの録音です。1982年の録音ですが、残響が適切で透明感があり、高音質です。
第1楽章は落ち着いたテンポでリズム感もあります。リコーダーがとても上手く、アンサンブルのクオリティが高いです。そこにバロック・ヴァイオリンが入り、ハイレヴェルなアンサンブルを繰り広げます。後半はチェロのソロとの絡みも素晴らしいです。アンサンブルとして各楽器のバランスも良いです。第2楽章は遅めのテンポでリコーダーの素朴な音色をじっくり味わえます。出るべきところで様々な楽器が前面に出てきて、イングリッシュ・コンソートのレヴェルの高さを感じます。第3楽章はしっかり対位法を活かしたアンサンブルで楽しめます。ヴァイオリン・ソロとリコーダーのバランスも良く、それぞれが対等に絡んでいて、とてもスリリングさがあります。テンポも速めなので、ヴァイオリンの超絶技巧もとても楽しめます。
ブランデンの4番らしい優雅さの中にもリコーダーのひんやりとした響き、技巧的なヴァイオリンで、古楽器演奏のスタンダードと言える名盤です。他の番号もスタンダードな名演で、迷ったらピノック盤にすれば間違いなしです。
ゲーベル=ムジカ・アンティクヮ・ケルン
ゲーベルとムジカ・アンティクァ・ケルンの演奏です。1986年録音で、ピノック盤より少し新しいです。
第1楽章はテンポが速く、リズミカルでシャープさがあります。リコーダーも躍動感があり、ヴァイオリン・ソロは表情豊かで、超絶技巧の所はシャープにスリリングに華麗な演奏を見せつけてきます。アンサンブル全体でしっかり表現していて、ゲーベルの手腕も素晴らしいですね。第2楽章もリズムを大事にしたテンポ取りで、ゆっくりとした舞曲のようです。弦が抑揚をつけてくる中で、リコーダーの音色は素朴で味わい深く、よく対比がついています。第3楽章は速いテンポで颯爽と演奏していきます。フーガ風に次々とパートが入ってくる所が、風が駆け抜けるように、とてもスリリングです。ヴァイオリン・ソロも速いテンポで超絶技巧ですね。
古楽器アンサンブルの演奏の中でもテンポが速くメリハリがあるので、聴いていて爽やかな気分になります。スリリングな名盤です。
アーノンクール=ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス
古楽器の風雲児アーノンクールと手兵のウィーン・コンツェントゥス・ムジクスの録音です。以前は映像も出ていて、入手して良く見ていました。アーノンクールらしく、一筋縄ではいかない所がありますが、曲を理解するにはとても良い演奏です。1966年録音なので、音質は少し落ちますが、安定した録音です。
第1楽章は標準か少し遅い位のテンポで始まります。メッサデヴォーチェを上手く使って、しなやかさがあり、リコーダーの音色も深みが感じられます。ヴァイオリン・ソロは思い切りテンポを動かして表情豊かです。繊細さもあり、調性が変わると大きく表情も変えてきます。それで居ながら品格があってバッハの則を超えることはありません。第2楽章は遅めのテンポで、少し悲壮感のある表現で、リコーダーは小さな音量で繊細に吹いています。映像で観たときは第2楽章のリコーダーは2階のバルコニーで吹いていました。距離感が良く出ていて、教会で聴いているような清涼感があります。第3楽章はリズミカルな演奏でテンポは標準位です。リコーダーも深みのある音色で、アンサンブル全体も品格があります。その中でヴァイオリンは流麗に、また少し悪魔的に細かいパッセージを弾いていきます。
アーノンクールらしい演奏ですが、アーノンクールのアプローチは、このブランデンの4番はとても上手く行っていて、目から鱗が落ちる所も多く、密度の濃い名盤です。
リヒター=ミュンヘン・バッハ管弦楽団
カール・リヒターとミュンヘン・バッハ管弦楽団の録音はモダン楽器による演奏です。古楽器奏法が急速に発展しましたが、この録音の頃はほぼ存在しないに等しい訳で、モダン楽器をその奏法でしっかり使用した演奏になっています。
第1楽章は遅めで軽妙で、格調の高さが感じられます。ドイツ的な雅(みやび)さという感じですね。リコーダーは落ち着いた音色です。ヴァイオリン・ソロは目立っていて、超絶技巧の所も技巧を見せつけてきます。余計な表現を排して、しっかりした骨格があり、風格が感じられる演奏でもあります。第2楽章は情熱的な弦から始まり、静かな音楽を期待していたので少し驚きでした。確かにこの楽章にはイタリア的な情熱もあると思います。弦の熱気と静かなリコーダーが上手く馴染んでいて、奥の深さを感じさせます。第3楽章はしっかりしたオルガンのフーガのようで格調の高さが戻ってきます。ヴァイオリンとリコーダーの絡みもコクがあります。リズム感もしっかりあり、楽しんで聴くことが出来ます。
パイヤール=パイヤール室内管弦楽団
パイヤールとパイヤール室内管弦楽団の録音です。モダン楽器の演奏ですが、パイヤールはバロック期の音楽を得意としています。録音は1973年で、音質はまあまあです。
第1楽章から暖かみがあり、ロココ調の優雅さのある演奏です、リコーダーはフルートを使っているように聴こえます。リコーダーだと落ち着いた音色になりますが、フルートだと高音域が目立つ感じですね。弦セクションはかなりヴィブラートをかけていて、古楽器アンサンブルの演奏と大分違います。ヴァイオリン・ソロは瑞々しい響きで、超絶技巧の所もそれを前面に出しすぎることなく、優雅さを保っていきます。
第2楽章は少し情熱的な弦セクションと、高音域が美しい音色のフルートで、イタリア風の優雅な雰囲気を醸し出しています。第3楽章は少し遅めのテンポでリズミカルに始まり、2本のフルートとヴァイオリンの絡みやヴァイオリンとチェロの絡みが丁寧で味わい深いです。後半は段々と楽器が増えて盛り上がっていき、ラストは思い切り伸ばして締めくくります。
昔、学校で聴いたとか、CMで聴いた、などの場合は、パイヤール盤は定番なのでこの演奏かも知れませんね。
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演奏のDVD,Blu-Ray
有名曲であるため、いくつかの映像もリリースされています。各演奏団体により、大分楽器が異なることが良く分かります。
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楽譜・スコア
バッハ作曲のブランデンブルク協奏曲第4番の楽譜・スコアを挙げていきます。