バッハ 無伴奏チェロ組曲

ヨハン・クリスティアン・バッハ (Johann Christian Bach,1735-1782)作曲の無伴奏チェロ組曲 (Unaccompanied Cello Suite)について、解説おすすめの名盤レビューをしていきます。ワンストップでスコアと楽譜まで紹介します。

第1番の最初の曲からとても有名です。バッハを聴いてみたい人の入門にもとても良い曲です。聴いていくと、有名な曲は他にも多くあり、どこかで聴いたメロディのオンパレードです。

解説

バッハ無伴奏チェロ組曲について解説します。

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バッハ唯一のチェロ作品

作曲年代は、詳しくは分からないものの、J.S.バッハが器楽曲の名曲を作曲したケーテン時代1717年~1723年だろうと言われています。無伴奏ヴァイオリン・ソナタとパルティータブランデンブルク協奏曲も同時期の名曲ですね。この頃のバッハは多くの器楽作品を作曲し、頻繁に改訂していました。

しかし、バッハ本人による自筆譜が残っていないため、この作品は自筆譜による研究が出来ません。筆写譜がいくつか残っていますが、一番古いものはJ.P.ケルナーの筆写譜1726年に作成されおり、写譜した時期に間違いが無ければ、それ以前に完成していた言えます。この最初の筆写譜以外にもいくつか残っていますが、その後、改訂が加えられたことが分かっています。また、時期を変えて筆写が行われた、ということは、良く演奏されていた可能性があります。

6つの組曲から構成

バッハの無伴奏チェロ組曲は、6つの組曲から成り立っています。

バッハ 無伴奏チェロ組曲

第1番 ト長調 BWV1007
第2番 ニ短調 BWV1008
第3番 ハ長調 BWV1009
第4番 変ホ長調 BWV1010
第5番 ハ短調 BWV1011
第6番 ニ長調 BWV1012

無伴奏チェロ組曲の作曲目的も分かっていません。楽譜は発見されていましたが、シンプルな分散和音を中心とした曲ですので、当初は練習曲と考えられていました。ケーテン宮廷ヴィオラ・ダ・ガンバおよびチェロ奏者であったクリスティアン・フェルディナント・アーベルのために書かれたのではないか、と言われています。

チェロとヴィオラ・ダ・ガンバ

当時はヴィオラ・ダ・ガンバも良く使用され、低音域の楽器はまだ未完成でした。J.S.バッハの時代はまだチェロよりもヴィオラ・ダ・ガンバが主流だったかも知れません。少し前のヴィヴァルディの時代ではチェロヴィオラ・ダ・ガンバは共存しています。ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者のサヴァールなどはヴィヴァルディのコンチェルト・グロッソのチェロパートをヴィオラ・ダ・ガンバで弾いています。

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ヴィオラ・ダ・ガンバは弦の数も異なり、ギターのようにフレットがついた楽器です。

第1番~第4番までは、現在のチェロで弾ける曲です。第5番はスコルダトゥーラといって、一番高い弦であるA線を、全音低いGに調弦して弾きます。ハ短調の曲では効果的で良く行われたようです。

第5番、第6番は、現在のチェロで弾くことが難しく、ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラという楽器のための曲ではないか、と言われています。高音域に一つ弦を追加した5弦の楽器で、つまり現在のヴィオラとチェロの両方の音域を弾くことが出来ます。

ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラによる第6番

チェロと同様にヴィオラもまだ楽器の形が決まっておらず、さまざまなヴィオラが存在していました。バッハ自身、後年のライプツィヒ時代にはコレギウムでヴィオラを弾いてアンサンブルをまとめていた、ということで、色々な弦楽器を弾くことが出来たようです。

無伴奏チェロ組曲の再発見

前述したように、無伴奏チェロ組曲は、そのシンプルさゆえに、単なる練習曲と見做されていたようです。バッハによる自筆譜が残っておらず、2番目の妻であるアンナ・マグダレーナ・バッハによる筆写譜が残っています。それをチェロの芸術作品として再発見したのは、パブロ・カザルスです。現在でも良く聴かれているカザルスの名演奏により、チェロ作品のバイブルのような存在と見做されるようになりました。

フランス風舞曲が基本

無伴奏チェロ組曲の様式は、フランス風舞曲の組み合わせです。前奏曲はフランス風序曲とは異なるスタイルですが、それ以降は、アルマンド、クーラント、サラバンド、ブーレ、ガヴォット、ジーグと、フランス風舞曲で構成されています。この構成は6つの組曲で大きく変わらないので、ブランデンブルク協奏曲と異なり、一時期に書かれたと考えられます。無伴奏ヴァイオリンのパルティータに似た構成です。

アルマンドはドイツの舞曲をベースとしています。他の曲も、ルーツはフランス以外にあるものが多いのですが、ルイ14世のフランスの宮廷で実際に踊られていたため、フランス舞曲と呼ばれます。フランス風舞曲が踊られた時代は、バッハよりも前の時代で、J.S.バッハはフランス風舞曲を元に独自に発展させたと考えられます。無伴奏チェロ組曲でも番号によって色々な試みが見られます。同時代の同じドイツの作曲家であるヘンデルテレマンも独自に発展させて組曲を作曲しています。イタリアとフランスが中心だったバロック音楽が国際化していった時代です。

おすすめの名盤レビュー

それでは、バッハ作曲無伴奏チェロ組曲名盤をレビューしていきましょう。

パブロ・カザルス

まさに王道の歴史的名盤
  • 歴史的名盤
  • 定番
  • 奥深さ
  • ダイナミック

超おすすめ:

チェロパブロ・カザルス

1936年-1938年 (モノラル/アナログ/セッション)

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この曲を語る上で外せないパブロ・カザルスの演奏です。時代的に古楽器奏法などはまだ無く、ロマン派風な演奏です。実はJ.S.バッハの音楽は無伴奏チェロ組曲に限らずですが、ロマン派風のアプローチによっても魅力的な演奏が出来ます。これはJ.S.バッハが幻想主義と言われるブクステフーデの影響を受けているからで、元々劇的な感情表現が豊かな曲です。古いモノラル録音ですが、チェロのソロ曲ですので、それ程古さは感じません。昔のレコードのような味のある音色です。

カザルスの演奏はロマン派風といえども、当時のバッハ演奏らしく、楽譜に忠実です。その中で、感情表現をしています。無伴奏チェロ組曲のバイブルと言える演奏だけに、どの曲を聴いても、奇を衒うことのない王道の表現です。特に有名な曲はイメージ通りの演奏です。ダイナミックさが必要な曲は、躊躇なくダイナミックに弾いているなど、表現の幅が大きいです。同時に滋味に満ちていて感情表現が豊かで、とても味わい深い演奏です。

CDもリマスタリングされていて良い音色ですが、レコードで聴くとさらに良さそうです。

パブロ・カザルス

  • 歴史的名盤
  • 定番
  • 奥深さ
  • ダイナミック

超おすすめ:

チェロパブロ・カザルス

1936年-1938年 (モノラル/アナログ/セッション)

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ヨーヨー・マ

  • 名盤
  • 定番
  • 高音質

超おすすめ:

チェロヨーヨー・マ

2017年12月12-15日,マサチューセッツ州,メカニクスホール (ステレオ/デジタル/セッション)

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現役で活躍するヨーヨー・マによる名盤です。3回目の録音です。カザルスの時代はまだ古楽器奏法はありませんでしたが、今ではモダンなチェロでも古楽器奏法を取り入れるのが普通です。その意味で、カザルスよりも洗練された現代的な名盤です。感情表現も豊かで、モダン楽器を使った演奏としては一二を争う名盤です。

ヨーヨー・マの演奏は少しテンポが速めで、第1番前奏曲はつぶやくような表現で始まります。繊細な表現で、スター奏者ですが派手さは無く、じっくり味わって聴ける演奏です。力を抜いた柔らかい弾き方は古楽器の影響もあるように感じます。カザルスとはまた違った演奏スタイルですね。でも、表現はこなれていて、味わい深さがあります。

ヤープ・テル・リンデン (古楽器)

  • 名盤
  • 定番
  • 高音質

超おすすめ:

バロック・チェロヤープ・テル・リンデン

2006年6月 (ステレオ/デジタル/セッション)

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バロック・チェロを使った演奏も紹介します。オランダのチェリスト、ヤープ・テル・リンデンの演奏です。2006年と新しい録音で音質も良いです。バロック・チェロの演奏と言えば、ビルスマの名盤がパイオニアです。しかし、その後、新しい録音が出てきていて、当盤の評価が高いです。

第1番第1曲ゆっくりしたテンポでじっくり聴かせてくれます。バロック・チェロは足で支えるのでエンドピンが無く、暖かみがあって伸びのある音色が出ますが、その音色を良く活かしています。クーラントジーグなどの舞曲は、リズミカルで舞曲らしい演奏です。当時の演奏法を取り入れていると思います。第3番ブーレもリズミカルで生きいきしています。第3番アルマンドは柔らかく伸びやかな演奏です。

カザルスで慣れていると少し刺激が足りないかも知れませんが、細かい表現まで良く練られていて、古楽器らしい演奏です。聴き慣れてくるとバロック・チェロの世界に浸れる名盤です。

ヤーノシュ・シュタルケル (1992年)

チェロの力強く、太い音色が魅力の名盤
  • 名盤
  • 定番
  • 力強さ
  • 円熟
  • 濃厚
  • 高音質

おすすめ度:

チェロヤーノシュ・シュタルケル

1992年6月19、20、22-24日,ニューヨーク,アメリカ芸術文化アカデミー (ステレオ/デジタル/ライヴ)

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ヤーノシュ・シュタルケルはハンガリーのチェロ奏者です。バッハの無伴奏チェロ組曲は4回も録音しています。その中で最も新しい録音です。旧盤ではマーキュリーの録音も人気があります。ハンガリー人らしく力強さがあり、太く豊かな音色が魅力です。1992年の録音で音質も安定しています

第1組曲の前奏曲はシュタルケルの暖かみのあるチェロの音色が印象的です。カザルスに比べて速めのテンポですが、他の演奏に比べると落ち着いていて枯淡の境地という風合いです。クーラントは速めのテンポで快活でリズミカルです。遅めのテンポの曲は、とても味わい深い表現です。第3組曲前奏曲は伸びやかな演奏です。アルマンドは地に足のついたしっかりした表現です。ブーレはリズミカルですが、深い味わいがあります。

第4組曲前奏曲とても渋い表現で味わい深いです。クーラントはなめらかでリズミカルで、技巧の高さを感じさせます。第5組曲は繊細で感情表現が素晴らしいです。味わい深さと漂う不安感をミックスさせた絶妙な表現です。第6組曲になると高い技巧が要求されますが、暖かみのある演奏であると共にスリリングさもあります。高音域もきつくなることはなく、素朴さのある音色です。有名なガヴォットは生き生きとした演奏です。

シュタルケルのチェロの音色は落ち着いていて、暖かみと渋さがあり、いつまで聴いていても心地よい演奏です。レコードで聴くにも相応しいと思います。

ヤーノシュ・シュタルケル (LPレコード)

シュタルケル1回目のバッハ無伴奏全集
  • 名盤
  • 力強さ
  • 暖かみ

超おすすめ:

チェロヤーノシュ・シュタルケル

1957年-1959年,アビイロード第3スタジオ (ステレオ/デジタル/セッション)

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楽譜・スコア

バッハ作曲の無伴奏チェロ組曲の楽譜・スコアを挙げていきます。チェロの楽譜はもちろんですが、人気曲なので、ヴァイオリンなど他の楽器に編曲された楽譜も多く出版されています。他の楽器の編曲版を探すには、「楽譜検索」のボタンをクリックしてください。

また曲の詳しい解説や演奏法についての書籍も多い曲です。

ミニチュアスコアとIMSLPどっちが得?

楽譜

電子スコア

鈴木秀美氏による無伴奏チェロ組曲の詳しい解説と、校訂付き楽譜です。古楽器も含め、深く研究されていて参考になると思います。無伴奏チェロ組曲をより深く知りたい方にお薦めです。

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