ドミートリイ・ショスタコーヴィチ (Dmitri Shostakovich,1906-1975)作曲のジャズ組曲第1番、第2番 (Suite for Jazz Orchestra)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。
解説
ショスタコーヴィチのジャズ組曲について解説します。
ソビエト・ジャズ委員会という、ソヴィエトにおいてジャズやバンドの音楽を普及させることを目的とした委員会がありました。ショスタコーヴィチもそのメンバーに名前を連ねており、その活動の一環としてジャズ組曲を作曲しました。
ジャズ組曲第1番
ジャズ組曲第1番は1934年に作曲されました。普段の不協和音を多く使ったショスタコーヴィチの作風からは大分異なる明るく聴ける音楽になっています。楽器編成はサックスを中心に金管と多くのパーカッションで構成されています。ジャズバンドとは少し異なるようです。
ジャズ組曲第2番と「舞台管弦楽のための組曲第1番」
次のジャズ組曲第2番は1938年に作曲されましたが、戦争の混乱で楽譜が行方不明となり、そのままになっていました。1999年にピアノ譜が発見されるまでその内容は不明でした。
次に「舞台管弦楽のための組曲第1番」が1950年代に作曲されます。これは少し規模が大きく8曲から構成され、ジャズ組曲第2番として誤って知られて行きます。シャイーの演奏でもジャズ組曲第2番として、この曲が演奏されています。
内容は、過去に作曲した映画音楽から編曲されたものが多く、もともとショスタコーヴィチは映画音楽では明るい音楽も沢山書いていたのですね。ショスタコーヴィチのこれまで見えていなかった一面を知ることが出来ます。編成は現在の吹奏楽に近く、フルートやクラリネットも追加されています。しかし、チェレスタを含む多くの打楽器は簡単には揃えられませんね。
タヒチ・トロット
「タヒチ・トロット」はアメリカのヴィンセント・ユーマンスのヒットソング「二人でお茶を」をオーケストレーションしたものです。初演は1928年11月25日です。この曲は、ソヴィエトの中で大変人気が出たそうです。
ジャズだけではなく…
実際聴いてみると、ジャズというより、他の民族音楽の要素も混じっていそうな雰囲気です。ジャズだと思って聴くとかなりシュールですが、ハチャトリアンの仮面舞踏会だと思って聴くと、なるほどと思えます。ワルツなど、作りが似ています。
日本でいえば、昭和風の喫茶店を思い起こさせます。そもそもショスタコーヴィチはアメリカに行ったことが無いので、ジャズの雰囲気位しか知らないはずです。アメリカ的な音楽が色々と繰り広げられているのは分かります。第2番にはジャズと言いつつスーザ風のマーチも入っています。
組曲全体がアメリカ風を目指していると思いますが、何故かワルツやポルカが多かったりして、不思議な雰囲気を醸し出しています。第2番の第6曲「ワルツ」は有名ですね。またタチヒ・トロットは有名です。
■ジャズ組曲第1番
第1曲: ワルツ
第2曲: ポルカ
第3曲: フォックストロット
■ジャズ組曲第2番(舞台管弦楽のための組曲第1番)
第1曲: 行進曲
第2曲: リリック・ワルツ
第3曲: 第1ダンス
第4曲: 第1ワルツ
第5曲: 小さなポルカ
第6曲: 第2ワルツ
第7曲: 第2ダンス
第8曲: フィナーレ
タヒチ・トロット(二人でお茶を)作品16
おすすめの名盤レビュー
それでは、ショスタコーヴィチ作曲ジャズ組曲の名盤をレビューしていきましょう。
シャイー=ロイヤル・コンセルトヘボウ管
最初のトランペットとサックスの主題から、昭和の喫茶店の雰囲気です。戦前に作曲された音楽ですけれどね。管楽器のソロが多いですが、なんといっても世界三大オーケストラの一つであるロイヤル・コンセルトヘボウ管ですから、勿体ない位ハイレヴェルです。ユーモアのある音楽でも、ダイナミックというよりは、品格ある演奏です。サックスのアンサンブルを聴いていると確かにジャズのような響きですね。
かなり残響の多いコンセルトヘボウという世界的な名ホールで演奏している訳ですが、マーチなどダイナミックな音楽は響きすぎな傾向がありますね。しかし、色彩的で透明感のあるロイヤル・コンセルトヘボウ管らしい響きが聴けます。
この曲にとっては、勿体ない位のコンセルトヘボウ管というオケ、コンセルトヘボウという名ホールでの演奏でとても豪華なのですが、結果として昭和の喫茶店の雰囲気になってしまう所がこの曲の面白い所ですね。
ヤブロンスキー=ロシア国立交響楽団
第2番(舞台管弦楽のための組曲第1番)が最初に入っています。録音は良く残響もちょうどよく、聴いていると響きが吹奏楽に近いですね。色彩的で、ダイナミックさもあります。行進曲やフィナーレなどリズミカルな曲でリズムが生き生きしており、楽しく聴くことが出来ます。有名な第6曲「ワルツ」も速めのテンポで雰囲気が良く出ています。
「タチヒ・トロット」は意外に精緻さがあって変化に富んた演奏で、ショスタコーヴィチ編曲の良さが出ています。これを45分で編曲したショスタコーヴィチは凄いですね。
ジャズ組曲は、難しいことは考えず、楽しんで聴くのがいいですね。ただ、カップリングでバレエ「ボルト」が入っています。こちらも名演で聴きごたえがあります。
キタエンコ=フランクフルト放送交響楽団の演奏です。「タチヒ・トロット」は入っていません。演奏、録音共にクオリティの高い演奏です。色彩的という訳ではないのですが、様々な楽器の音がしっかり聴こえるCDです。
第1番のフォックストロットのハワイアンギターは面白い音色です。もしかすると電子楽器で代用しているかも知れませんが。
第2番もクールでハイレヴェルな演奏です。キタエンコもそれぞれの曲についてしっかりまとめています。ジャズ組曲とか楽しい音楽というよりも、交響曲並みのクオリティで良くまとまっています。もしかするともう少し色彩感があったほうが良いのかも知れませんが、この曲でここまでのクオリティのCDは他には無いと思います。
クチャル=ウクライナ国立交響楽団の演奏です。ジャズ組曲のみで、「タヒチ・トロット」は入っていません。
非常に軽快で音が立っており、リズムもしっかり打ち込んできます。例えば、マーチは溌剌としていて、こういう演奏だとユーモアも伝わってきます。録音も残響が少な目で、リズミカルな曲ではパーカッションが響きすぎずにしっかり聴こえて楽しめます。
ウクライナ交響楽団はジャズ組曲に関しては、技術的にも良い演奏をしています。他の曲は若干パワー不足にも感じますが。全体に軽快で明るい音色の快演です。
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楽譜・スコア
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