カミーユ・サン=サーンス (Camille Saint-Saens,1835-1921)作曲の交響詩『死の舞踏』ト短調 Op.40 (Symphonic poem “Danse macabre” g-moll Op.40)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。ワンストップでスコアと楽譜まで紹介します。
解説
サン=サーンスの『死の舞踏』について解説します。
作曲と初演
フランスの詩人アンリ・カザリスの奇怪で幻想的な詩にインスピレーションを得て作曲されました。1872年に歌曲として作曲され、1874年に管弦楽曲としてまとめられました。
初演は、1875年1月24日パリのシャトレ座にてエドゥアール・コロンヌ指揮コロンヌ管弦楽団によって行われました。しかし、初演は失敗に終わり、シロフォンによる骨のかち合う表現などは「悪趣味の極み」と批判された位です。
リストの『死の舞踏』
もともと『死の舞踏』はヨーロッパの中世に流行した美術のモチーフでした。当時ヨーロッパではペストが大流行しました。このページの冒頭の画像はミヒャエル・ヴォルゲムートという画家の『死の舞踏』です。
またそのモチーフを使った音楽としてフランツ・リストの『死の舞踏』(『怒りの日』によるパラフレーズ)があります。ピアノとオーケストラによる表現で、グレゴリオ聖歌の『怒りの日』を主題とした変奏曲です。ベルリオーズの幻想交響曲の第5楽章の影響を受けた可能性がある、と言われています。この曲はリストとしては力作で良く演奏しましたが、ドイツでは受けが悪かったようです。
サン=サーンスは作曲のきっかけとして詩人カザリスからインスピレーションを受けましたが、曲に引用された『怒りの日』を聴くに、リストの『死と舞踏』の影響もあっただろうと考えられます。
不謹慎な表現
サン=サーンスは、少なくともこの曲を作曲した頃は、あまり死に対してシリアスな受け止めをしていなかったようです。40歳ごろなので昔ならベテランの領域に入りますが、まだ死に対するリアリティは少なかったのでしょうかね。絵画的な直截的な表現をして、初演では不評でした。サン=サーンスはフランス的なエスプリに満ちていますが、『動物の謝肉祭』なども含めて、少し行きすぎな所がありますね。しかし、それは次世代の近現代音楽家たちに影響を与えることになります。
『死の舞踏』は、カザリスの詩を、そのまま管弦楽で描写したようになっています。
カザリスの詩 | 音楽 |
夜中の12時、死神が墓場に現れる | ハープが12回、Dの音を奏でる。 知らないとただの前奏にしか聴こえないですね。 |
死神がヴァイオリンを弾く | ヴァイオリン・ソロがAとE♭の不協和音で死神らしい雰囲気を出します。が、現代ではこの程度の不協和音では死神を想起するのは難しいです。 |
骸骨の踊る不気味なワルツ | 「怒りの日」に基づく主題が出てきます。これはいかにも幻想交響曲の引用で分かりやすいですね。 |
カチャカチャと骨の擦れる音 | シロフォンによる表現 ショスタコーヴィチなどに比べれば、不気味さは無く、むしろワルツによる甘美さが感じられます。 |
朝を告げる雄鶏の鳴き声 | オーボエのソロ。言われてみると確かにこのオーボエは鶏のコケコッコーに似ています。 |
AとE♭の不協和音を同時に弾くため、独奏ヴァイオリンはスコルダトゥーラ(変則調弦)を使用します。スコルダトゥーラ(変則調弦)は、マーラーの交響曲第4番で使用されていることで有名ですね。
7分と短い曲で、リストの『死の舞踏』ほどシリアスではないので、何も知らずに聴くと、甘美なワルツのアンコール・ピースのような音楽に聴こえてしまいます。場面も良く聴いていないと聴き逃してしまうので、ご注意を。
後世の作品への影響
この7分程度の作品は、後世の作曲家のインスピレーションを強く刺激し、影響を受けている作曲家が結構いると思います。まずはサン=サーンス自身が『動物の謝肉祭』で引用しています。
もう一人はショスタコーヴィチだと考えています。交響曲第14番『死者の歌』、交響曲第15番で、パーカッションを上手く使っています。大体、主人公の死で終わる交響曲は、チャイコフスキーの交響曲第6番『悲愴』のように、消え入るように終わるスタイルだったものを、交響曲第15番では骸骨のようなパーカッションのリズミカルな音楽にしています。サン=サーンスの前例があったので、インスピレーションを刺激された可能性もありますね。
おすすめの名盤レビュー
それでは、サン=サーンス作曲『死の舞踏』の名盤をレビューしていきましょう。曲が短いため、他の曲にカップリングされている場合が多いです。
バレンボイムとパリ管弦楽団は相性が良いのかどうか、賛否ある所だと思います。今、バレンボイムと言えばフルトヴェングラーを尊敬し、ワーグナーのオペラを劇場で指揮したりしています。フランス物とは縁遠い感じですね。ただ、サン=サーンスは結構あっています。特に『死の舞踏』は面白い演奏だと思います。若いからというのもあると思いますが、全体的にテンポが速めでキレのあるスリリングな演奏です。
冒頭の12時を伝えるハープも分かりやすいです。シャープにヴァイオリン・ソロが入ります。ワルツの甘美さは控えめで、むしろシャープさがあり、『死の舞踏』の骸骨が踊る感じを強調しています。シロフォンもかなり鳴らしています。金管をダイナミックに鳴らして骸骨たちが熱狂的に踊るシーンを描き出しています。突然、静かになり、オーボエが入りますが、ティンパニもしっかり鳴らしています。
後にオペラで活躍するバレンボイムの描写力を感じさせる演奏です。
レーグナー=ベルリン放送交響楽団
レーグナーと手兵だった東側のベルリン放送交響楽団の演奏です。このフランス音楽を収録したCDは非常に評価が高いですね。ロマンティックな『白鳥の湖』の名演も有名です。
意外に色彩的な響きを作るのが上手いレーグナーと、それに応えるベルリン放送交響楽団により、色彩的で、ロマンティックな味わいのある演奏となっています。ロマンティックであってもわざとらしくないのがレーグナーの良い所です。各場面が丁寧に演奏されていて、詩との関連を見ながら聴くにもいいですね。ワルツは思い切り甘美に演奏されていて、夜中に骸骨たちが自由に踊るひと時が甘美に表現されている訳で、サン=サーンスがここにワルツを用いた理由なんでしょうね。
現在は廃盤ですが、タワーレコードや楽天では新品の取り寄せを受け付けています。またアマゾンミュージックで聴くことができます。
デュトワ=フィルハーモニア管弦楽団
デュトワはフィルハーモニア管弦楽団から色彩的でダイナミックなサウンドを引き出しています。『死と舞踏』だからか、普段よりも少し重厚な響きになっています。
冒頭のハープは透明感ある響きできれいに聴こえます。ヴァイオリン・ソロはクールで力強さも感じます。アンサンブルはモントリオール交響楽団並みのクオリティです。ワルツも少しシリアスなのであまり甘美な感じはしないです。リズムは筋肉質で引き締まった感じです。オーボエの鶏は上手いですね。その後の神妙に終わります。
全体的にはスタンダードな演奏というに相応しいですね。デュトワとフィルハーモニア管の筋肉質なサウンドは、交響曲第3番『オルガン付き』に相応しいものです。何故、この曲がワルツなのか考えてみると、レーグナーの甘美さは正孔を射ているな、と改めて感心します。デュトワのケレン味の無いスタンダードな演奏も逆に貴重ですね。
プレートル=フランス国立管弦楽団
プレートルは結構サン=サーンスが得意な指揮者で、特にフランスのエスプリを聴かせた曲は得意です。『動物の謝肉祭』も名演でした。この曲も少し効きすぎているとはいえ、エスプリのある曲です。
フルネ=東京都交響楽団
フルネは都響と多くの名演奏を残しています。多くの曲は重複して、オランダ放送フィルなどにも録音していて、当時は技術レヴェルも色彩感もそちらのほうが上だったので、都響との沢山の録音は忘れ去られつつあります。当時の都響は今に比べて、技術的にもまだまだだったため、仕方のないことです。しかし、この『死の舞踏』は他に録音が無く、都響との演奏も廃盤ですが、アマゾンミュージックで聴ける貴重な演奏です。今聴いてみると、多少リズムなどに粗があるものの、サン=サーンスは結構いい演奏をしています。
冒頭のハープはいい感じです。ヴァイオリン・ソロも上手いです。ソリストは小林健次氏です。ヴァイオリン・ソロは渋くて良い雰囲気を醸し出しています。シロフォンもしっかり鳴っています。色彩感はありませんが、ワルツもさすがフルネで品格のあるしなやかなリズムを引き出しています。都響からサン=サーンスらしい響きを引き出している所もあって、感心させられます。骸骨たちが盛り上がる場面の金管はちょっと荒っぽいですが、ダイナミックに盛り上がります。そして急に静かになりオーボエは少し品がいい感じの鶏ですね。
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楽譜・スコア
サン=サーンス作曲の『死の舞踏』の楽譜・スコアを挙げていきます。
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