カミーユ・サン=サーンス (Camille Saint-Saens,1835-1921)作曲のチェロ協奏曲 第1番 イ短調 Op.33 (cello concerto no.1 a-moll Op.33)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。いくつかあるチェロ協奏曲の中でも引きしまった構成で聴きごたえある曲と言えます。
お薦めコンサート
🎵カンブルラン指揮、ハンブルク交響楽団
■2023/7/21(金) 東京芸術劇場
チェロ独奏:宮田大
・ベートーヴェン:序曲「エグモント」op.84より
・サン=サーンス:チェロ協奏曲 第1番 イ短調 op.33
・チャイコフスキー:交響曲 第4番 ヘ短調 op.36
解説
サン=サーンスのチェロ協奏曲第1番について解説します。
サン=サーンスは2曲のチェロ協奏曲を残しています。この第1番は1872年に作曲されました。サン=サーンスが名作を次々に作曲していた時期にあたり、歌劇『サムソンとデリラ』、ピアノ協奏曲第4番が同時期に作曲されています。
初演は1873年1月19日にパリ音楽院にてオーギュスト・トルベックのチェロ独奏により行われました。
協奏曲の伝統とインスピレーション
随所にサン=サーンスの鋭いインスピレーションが感じられ、非常に面白い協奏曲です。
3つの部分からなる単一楽章の協奏曲で、演奏時間も20分程度と短めです。これはシューマンの協奏曲の影響です。シューマンは交響曲でも第2番などは、4つの楽章を切れ目なくつないでいます。サン=サーンスの場合、3つの部分に明確な切れ目がなく、有機的に統合されています。
スタンダードな「急ー緩ー急」の構成で、第1部はソナタ形式、第2部は三部形式、第3部はロンド形式で、伝統的な協奏曲から外れた所はないのですね。カデンツァは第2部の再現部の前に置かれています。
第1番はチェロ協奏曲の中でも第一級の作品であり、聴衆からも非常に人気が高く、パブロ・カザルスなど多くのチェリストにより継続的に演奏されてきました。一方、1902年に作曲された第2番はいまではあまり演奏されません。
編成
編成も特殊楽器は無く、パーカッションがティンパニのみ、と取り上げやすい曲目と言えます。
フルート×2,オーボエ×2,クラリネット×2,ファゴット×2
ホルン×2,トランペット×2,ティンパニ
弦5部
おすすめの名盤レビュー
それでは、サン=サーンス作曲チェロ協奏曲第1番の名盤をレビューしていきましょう。
デュプレ,バレンボイム=ニュー・フィルハーモニア管
有名で一番人気のジャクリーヌ・デュ・プレのチェロ独奏とバレンボイム=フィルハーモニア管弦楽団の組み合わせです。1968年の録音ですが、安定した音質です。
第1部の冒頭から非常に情熱的で力強いチェロで、一気にデュ・プレの世界に引き込まれてしまいます。バレンボイムの伴奏も激しく燃え上がるような演奏で、デュ・プレのチェロにぴったりです。穏やかな所もデュ・プレは思い切りチェロを鳴らして情感たっぷりです。第2部は遅めのメヌエットです。チェロは軽やかながらも感情を込めた演奏です。カデンツァでは超絶技巧が聴けます。第3部は少し遅めのテンポでスケール感のある弦で始まります。チェロは情感がある演奏で、メロディを思い切り歌わせています。またチェロもスケールが大きさも印象的です。ラストは激しくアッチェランドして盛り上がります。
サン=サーンスのチェロ協奏曲は、格調が高くインスピレーションに満ちていますが、デュ・プレの強い感情にもうまくフィットしています。振幅の大きな音楽を活かして、激しい感情表現をしており、この曲の持つ可能性の豊かさを感じます。
カピュソン,ブランギエ=フランス国立放送フィル
ゴーティエ・カピュソンのチェロ独奏とブランギエ⁼フランス国立放送フィルの演奏です。録音が新しく高音質です。
第1部はチェロ独奏のゴーティエ・カピュソンは力強く、太い音色でオケをリードしていきます。フランス国立放送フィルは色彩感があり、盛り上がり方もなかなかです。ラムルー管ほどではないですけれど。第2部は速めのテンポ取りでとてもメヌエットらしい演奏です。チェロはリズムにうまく乗って流麗に歌っています。カデンツァの技巧も素晴らしいです。チェロは時に雄弁に演奏していて、この曲に対する自信が伝わってきます。第3部は速めのテンポで軽快に進みます。チェロは実に悠々と弾いていて、時に流麗に、時に太い音色で力強く演奏していきます。細かい表現はそれほど無い気がしますが、確信に満ちており、技術も凄いものがあります。ラストはテンポを速めてオケともどもスリリングに曲を締めます。
音質が良くフランスらしい演奏だと思います。古い名盤の渋い音色も良いですが、この演奏は現代的で、サンサーンスの協奏曲の良さの別の面を良く楽しめます。
ロストロポーヴィチ,ジュリーニ=ロンドン・フィル
ロストロポーヴィチのチェロ独奏とジュリーニとロンドン・フィルが伴奏という、豪華な組み合わせです。1977年録音で、しっかりした音質です。
第1部はロストロポーヴィッチの情熱的で艶やかな音色のチェロ独奏とジュリーニ⁼ロンドン・フィルが情熱的で力強い演奏で、スリリングなアンサンブルを繰り広げています。テンポは遅めで雄大さも感じられます。力強く凝集力のある弦と色彩感のある管がうまくマッチしており、そのうえでチェロは悠々と弾いています。第2部は少し速めでメヌエットとして自然なテンポです。チェロは軽快なリズムに乗りながら、流麗で素晴らしい音色です。バロックのメヌエットのようですね。第3部は速めのテンポで第1部の情熱が戻ってきます。オケの弦セクションは凝集された熱い響きです。チェロも流麗ながら、情熱的で力強い演奏を繰り広げています。速いテンポで超絶技巧を難なく弾きこなしています。ラストはスケールが大きく、情熱を孕んで締めくくります。
カップリングはドヴォルザークのチェロ協奏曲ですが、言わずと知れた超名盤です。そういう意味でかなりお買い得な一枚とも言えます。それにしても、いくつか聴き比べるといろいろな発見がある名曲ですね。
フルニエ,マルティノン=ラムルー管
フルニエのチェロ独奏とマルティノン、ラムルー管弦楽団の伴奏という、全員フランス人の組み合わせです。特にマルティノンとラムルー管がフランスらしい色彩感で白熱した演奏を繰り広げていて凄いです。一方、フルニエは少し抑制した格調のある表現ですが、なぜか妙にマッチしていて印象的な名盤となっています。
第1部は格調高く渋い音色のフルニエのチェロが印象的です。オケの出番になると、ラムルー管は途端に盛り上がり、情熱的に白熱した演奏を繰り広げます。フルニエのチェロは味わい深く、サンサーンスらしい軽妙さもあります。いろいろな要素がうまく絡み合い、聴けば聴くほど味わい深さが増していく感じです。第2部は少し速めでオケが明るくメヌエットらしいリズムを刻みます。チェロは深みのある音色で、かつ軽妙で踊れそうなリズム感もあります。第3部はオケの凄い盛り上がりで始まります。この頃のラムルー管は火が付くと一瞬にして凄い白熱してきますが、昔のフランスのオケはこんな演奏が多かったです。チェロは格調高く、インテンポで弾いていきます。それで居ながら木管のソロとも上手く溶け合っていて、チェロ独奏とオケの相性はとても良いんです。ラストはふくよかなチェロの音色とラムルー管の明るく爆発的ともいえるダイナミックな演奏で締めくくります。
このディスクは聴いていてとても面白い演奏で、聴けば聴くほど味が出てくる名盤ですね。
モーサー,バレンボイム=SWRシュトゥットガルト放送響
チェロ独奏のヨハネス・モーサーは俊英の若手チェリストです。伴奏はボロンとSWRシュトゥットガルト放送交響楽団と実力派のオケが務めています。また、2007年録音で音質が良いです。
第1部は速めのテンポでリズミカルに力強く始まります。モーサーの技巧が素晴らしく、荒れ狂うような音楽をシャープに演奏しきっていて凄いです。穏やかな第2主題では適度に情熱的で、サン=サーンスらしい格調の高さをうまく保っています。第2部は自然なテンポで、遅めでもリズム感を失わない絶妙なテンポで、伸び伸びとチェロを歌わせています。第3部は中庸なテンポでチェロはうねるような表現です。技巧的な個所も完璧で、細かい音符もハイノートもきれいに演奏しきっています。コーダもとてもセンス良くまとめています。
本ディスクはサン=サーンスのチェロ作品で構成されていて、チェロ協奏曲第2番も入っています。ヨハネス・モーサーのサン=サーンスに対する思い入れが感じられる一枚です。
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楽譜・スコア
サン=サーンス作曲のチェロ協奏曲第1番の楽譜・スコアを挙げていきます。
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