カミーユ・サン=サーンス (Camille Saint-Saens,1835-1921)作曲の『序奏とロンド・カプリチオーソ』イ短調 Op.28 (Introduction et rondo capriccioso a-moll Op.28)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。ワンストップでスコアと楽譜まで紹介します。
解説
サン=サーンスの『序奏とロンド・カプリチオーソ』について解説します。
サン=サーンスは、スペインのヴィルトゥーゾ・ヴァイオリニスト、パブロ・デ・サラサーテと親友でした。作曲家は演奏家が居なければ、ヴァイオリン協奏曲など書けませんが、サン=サーンスはロマン派の作曲家の中でもパブロ・デ・サラサーテのためにヴァイオリンと管弦楽のための、いくつかの作品を残しています。ヴァイオリン協奏曲も3曲書いています。
この『序奏とロンド・カプリチオーソ』は非常に情熱的で、ヴィルトゥーゾの高度なテクニックを要し、華やかで人気のある作品です。サラサーテの母国スペインのモチーフも多く取り入れた、エキゾチックで情熱的な作品で、アンコールピースとしても良く使われます。
それと同時に、大作曲家サン=サーンスの作曲技法を駆使した音楽でもあり、単に華やかなだけではなく、色々な表現を要求される名曲です。そのため、じっくり聴いていくとさらに良さが分かってきます。
おすすめの名盤レビュー
それでは、サン=サーンス作曲『序奏とロンド・カプリチオーソ』の名盤をレビューしていきましょう。
最近のディスクと歴史的名盤があります。長く演奏されてきた作品であるため、歴史的名盤が多い曲ですね。最近のムター盤の充実ぶりやパールマン盤を聴くと、オイストラフ盤やハイフェッツ盤など歴史的名盤にこだわることもないかな、と感じてしまいます。レコードで聴くなら、歴史的名盤が味があって良いですね。
長い曲でもありませんし、それぞれのヴァイオリニストの特徴が出やすい曲なので、色々聴き比べてみると面白いと思います。
ムター,小澤征爾=サイトウキネン・オーケストラ (2018年)
ムターと小澤征爾の共演です。老境の小澤征爾とサイトウキネン・オーケストラが伴奏を務め、ムターは驚くほど情熱的で表情豊かでありながら、強靭なヴァイオリン演奏を披露しています。ポルタメントも使ってロマンティックに表現したり、多彩な表情で技術的な完璧さだけではない演奏です。録音はとても良く、ムターの力強く張りのあるヴァイオリンを立体的に録音しています。サントリー・ホールの響きもとても良い方向に出ています。
冒頭からムターは凄く気合いが入っていて、その艶やかで強靭なヴァイオリンの音色は男声顔負けです。情熱的な表現はベテランのムターだからこそ出来るものです。そこに物凄いエネルギーを集中させていて、歴史的とも言えるレヴェルの名演奏です。主部に入っても鋭い響きで、熱い情熱に満ちた凄い演奏です。ラストに向かってさらに盛り上がっていき、圧倒的な演奏で曲を締めます。ムターの充実した演奏には舌を巻きます。
パールマン,マルティノン=パリ管弦楽団
パールマンはいつでも安定したテクニックの演奏を聴かせてくれます。ヴィルトゥオーゾといえばパールマンは外せませんね。このサン=サーンスはマルティノンとパリ管弦楽団をバックに得て、伴奏も激しく情熱的に盛り上げています。
序奏から力強く情熱的で、テクニカルな部分は完璧に弾きこなしています。主部はリズミカルで、生気に溢れた名演です。伴奏のパリ管は容赦なく燃え上がるような演奏で遠慮なくパールマンを煽ってきますが、パールマンも燃え上がるような演奏で応えています。焦りとか、過剰に感情が入ってテンポが走ったりすることもありません。
それにしても伴奏がこんなに煽るなんて、この組み合わせは面白いですね。パールマンも凄いですし、伴奏の白熱ぶりは昔のフランスのオケのようで、聴きごたえのある名盤です。
なお、小澤征爾の指揮はサン=サーンスのみで、チャイコフスキーは別の指揮者が担当しています。でもチャイコフスキーも結構名演ですね。正直、サンサーンス一曲でも好きな人には入手する価値のある名演です。
諏訪内晶子,デュトワ=フィルハーモニア管弦楽団
諏訪内晶子のヴァイオリン独奏とデュトワ=フィルハーモニア管弦楽団の伴奏、というとても相性の良い組み合わせです。諏訪内晶子のしなやかさに溢れた表現を、デュトワとフィルハーモニア管はとても上手くサポートしています。録音が非常によく、残響の長さが丁度良いです。
諏訪内のヴァイオリンは、サン=サーンスの音楽が元来持っている色彩感を上手く引き出しています。エキゾチックで情熱的な中にも、しなやかで妖艶という言葉が上手くあてはまると思います。音色にはシャープさがあり、超絶技巧もとても安定しています。録音の良さも特筆すべきで、とても立体的に聴こえます。デュトワとフィルハーモニア管の伴奏は、透明感と色彩感に溢れた品格のあるものです。
もちろん、超絶技巧も素晴らしく、時に凄い速さで演奏し、スリリングです。と思えば、フラジオレットはとても鋭く透明感があり、リアリティをもって録音されています。伴奏もダイナミックに応えています。ラストはシャープにスリリングに曲を締めます。
ムターとは大分タイプが違いますが、とても聴きごたえがある充実した名盤です。
イダ・ヘンデル,ピアノ伴奏:クレイグ・シェパード (1984年)
既にベテランになったイダ・ヘンデルは落ち着き払った演奏で、いとも簡単そうに弾いています。2020年に亡くなったイダ・ヘンデルの追悼盤の一つです。ヴァイオリンの響きに太さがあり、独特の味があります。
序奏は落ち着いた演奏で、独特の味わいがあります。主部に入ると段々熱してきます。それでもヴィルトゥーゾを見せつける、というよりは、しっかりした演奏で、味わいがあります。
オイストラフ,ミュンシュ=ボストン交響楽団
オイストラフの歴史的名盤です。録音はステレオ初期で、いまひとつですが、オイストラフらしい名盤です。伴奏はミュンシュとボストン交響楽団で、とても良い組み合わせですね。
オイストラフは太い指を活かして、とてもふくよかな音色を出しています。特にヴィルトゥオーゾ性を強調していない所が、逆に好感が持てます。基本的にはダイナミックなのですが、常に余裕があり、しなやかな表現も多く使っています。懐が深い演奏、というのでしょうか。後半は白熱してきて、伴奏がミュンシュとボストン響なので、情熱的に盛り上がり丁々発止の演奏になっていきます。
ハイフェッツ,スタインバーグ=RCAビクター交響楽団 (1951年)
ハイフェッツの1951年の録音です。伴奏はスタインバーグとRCAビクター交響楽団です。モノラルですが安定しています。逆にモノラルならではの味のある音質です。
軽々と超絶技巧を弾きこなす演奏で、やはりハイフェッツは本物のヴィルトゥーゾ・ヴァイオリニストであることがよく分かります。主部に入っても基本はリズミカルな演奏で、細かい音符も完璧に弾きこなしています。ロマンティックさをあえて入れ込まず、スッキリ、カラッと弾いていますが、自然にロマンティックな情熱や色彩が醸し出されています。この辺りの独特の味わいはハイフェッツでないと味わえないですね。
グリュミオー,ロザンタール=コンセール・ラムルー管 (1963年)
グリュミオーのヴァイオリン・ソロとラムルー管弦楽団の伴奏です。ラムルー管弦楽団がレヴェルが高かった時代の録音で、オケの伴奏も素晴らしいです。
序奏は艶やかで甘美なヴァイオリン・ソロです。技巧的な個所が出てくるとテクニックを魅せつけます。主部は艶やかで色彩感のあるヴァイオリンです。ロンドが繰り返されると次第に情熱的に盛り上がっていきます。伴奏も情熱的で燃え上がるようです。ラストはヴァイオリンの華やかな超絶技巧で曲を閉じます。
ヤンセン,ワーズワース=ロイヤル・フィル
今をときめくジャニーヌ・ヤンセンのデヴュー盤です。伴奏はワーズワースとロイヤル・フィルです。若いパッションに溢れ、男声顔負けの太めの音色と超絶技巧でとても勢いのある演奏です。
序奏はしなやかに始まります。テクニックもブリリアントで素晴らしいです。デビュー盤だけあって鮮度と燃焼度が高いですね。同時に安定感と多彩な表現力があり、ただの新人ではないことがすぐに分かります。主部に入るとリズミカルでメリハリのついた演奏を繰り広げます。色彩的で、しなやかさと情熱が入り混じったような響きを聴かせてくれます。オケもスペイン的な情熱的なリズムで盛り上げます。リズミカルなヴァイオリンも音楽もスペイン的ですね。
DVD,BlueRay(演奏の映像)
映像であれば、一流ヴァイオリニストの演奏を観ることが出来ます。
Vn:ヤンセン,ネーメ・ヤルヴィ=ベルリン・フィル
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楽譜・スコア
サン=サーンス作曲の『序奏とロンド・カプリチオーソ』の楽譜・スコアを挙げていきます。
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