カミーユ・サン=サーンス (Camille Saint-Saens,1835-1921)作曲のピアノ協奏曲 第5番『エジプト風』Op.103 (Piano concerto no.5 “l’Egyptien” Op.103)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。
解説
サン=サーンスのピアノ協奏曲第5番『エジプト風』について解説します。
作曲の経緯
晩年のサン=サーンスは、ピアニストとして演奏旅行でエジプトなどに訪れ、エキゾチックな音楽を多く作曲しています。歌劇『サムソンとデリラ』も有名です。サン=サーンスのピアノ協奏曲第5番『エジプト風』は演奏旅行でエジプトに滞在した際に作曲されたものです。1896年に作曲されました。
当時既にサン=サーンスは61歳で、ピアノ協奏曲第5番『エジプト風』は最後のピアノ協奏曲となりました。音楽としての完成度も高く、その上にロマティックな異国情緒が溢れています。
初演
サン=サーンスのピアニストとしての活動の50年目にあたる記念コンサートで初演されました。その初演はパリの1896年にサル・プレイエルでサン=サーンス自身のピアノ独奏により行われました。
曲の構成
サン=サーンスのピアノ協奏曲第5番『エジプト風』は通常の3楽章構成で、演奏時間は30分程度です。色彩的な響きを持っていますが、楽器編成は意外にシンプルで特殊な楽器は含まれていません。楽曲も絵画的な所はありますが、総じてシンプルで無駄のない名曲です。
第1楽章:アレグロ・アニマート
ソナタ形式です。冒頭でピアノがロマンティックでシンプルな主題を演奏します。展開部では多彩なモチーフが現れます。
第2楽章:アンダンテ – アレグレット・トランクイッロ・クアジ・アンダンティーノ
3部形式で作曲され、緩徐楽章に近い位置づけですが、テンポの変化が大きく、異国情緒に満ちた楽章となっています。サン=サーンスがエジプトで聞いたコオロギやカエルの鳴き声も入っています。
第3楽章:モルト・アレグロ
自由なソナタ形式のフィナーレです。主題は東洋風で、サン=サーンス自身が「航海の楽しみ」と言った船のプロペラの動きを模しています。リズミカルに盛り上がっていきます。後半は情熱的な盛り上がりを見せ、曲を締めくくります。
独奏ピアノ
ピッコロ、フルート×2、オーボエ×2、クラリネット×2、ファゴット×2
ホルン×4、トランペット×2、トロンボーン×3
ティンパニ、タムタム
弦五部
おすすめの名盤レビュー
それでは、サン=サーンス作曲ピアノ協奏曲第5番『エジプト風』の名盤をレビューしていきましょう。そこまで有名な作品では無いと思いますが、レヴェルの高い録音が多いですね。
ピアノ:カントロフ, カントロフ=タピオラ・シンフォニエッタ
アレクサンドル・カントロフのピアノ独奏とジャン=ジャック・カントロフ=タピオラ・シンフォニエッタの伴奏の録音です。録音は2016年でかなり高音質です。アレクサンドル・カントロフは2019年チャイコフスキー・ピアノコンクールに優勝した若手の逸材ですが、評判通りの自由自在で技巧的な演奏を聴かせてくれます。
第1楽章は高音質で適度な残響の中、ピアノが色彩的でエキゾチックなメロディを奏でます。タビオラ・シンフォニエッタの演奏も小気味良く、ホルンなどがピアノと良くブレンドされて良い響きになっています。適度なロマンティックさがあり、親しみやすさのある演奏です。第2楽章はダイナミックでエジプト風の情熱的な音楽で始まります。リズム感が非常によく、ピアノもエジプトのエキゾチックな雰囲気が良く出ています。カントロフは自由で表情豊かにこの楽章を弾いて行きます。明るい雰囲気で楽しく聴くことができます。
第3楽章は速いテンポで軽快です。カントロフは小気味良くリズミカルに弾いて行きます。タピオラ・シンフォニエッタはカントロフのピアノに丁度良いバランスで伴奏を付けていて、ピアノ独奏と弦や木管のソロが上手く絡み合っています。そのまま情熱的に盛り上がりますが、リズム感が良くとてもスリリングです。ピアノの超絶技巧も聴き応えがあり、そのまま白熱して曲を締めます。
ピアノ:シャマユ, クリヴィヌ=フランス国立管弦楽団
シャマユのピアノ独奏とクリヴィヌ=フランス国立管弦楽団の伴奏による録音です。録音は2017年と新しく音質は良いです。ベルトラン・シャマユはフランスのトゥールーズ出身で1981年生まれのピアニストで、フランスの中堅であり、フランス的なエスプリを感じる演奏です。
第1楽章のピアノ独奏は少し早めのテンポで始まります。シャマユはフランス的な色彩感を持ちつつもロマンティックになりすぎず、サン=サーンスらしい清潔感のある演奏です。フランス国立管弦楽団は大編成だからか、盛り上がりは情熱的でスリリングです。シャマユのピアノは力強さもあり、大編成のオケにも負けていません。テクニックも素晴らしく、細かいパッセージもしっかり弾ききっています。後半になるとさらに情熱的になっていきます。
第2楽章はオケの情熱的なリズムから始まり、ピアノもリズミカルに弾いていきます。ピアノは少し鋭く、小気味良く弾いていきます。エキゾチックなメロディも凛とした音色で、情緒的になりすぎることはありません。次々に出てくる東洋風のモチーフも速めのテンポでスリリングに弾いていきます。オケのソロとのアンサンブルも素晴らしいです。第3楽章はピアノが積極的に超絶技巧で弾いていき、オケを引っ張ります。最初から粒が立っていてスリリングです。オケの方もフランスのオケらしく、情熱的に盛り上がっていき、ピアノの技巧的な箇所もとてもスリリングで最後はダイナミックに曲を締めます。
全体的に早めのテンポで、過剰にロマンティックさやエキゾチムズに陥らず、サン=サーンスらしい気高い気品が感じられる名盤です。
ピアノ:パスカル・ロジェ, デュトワ=ロイヤル・フィル
パスカル・ロジェのピアノ独奏、デュトワ=ロイヤル・フィルハーモニーの録音です。1978年録音ですが、とても安定していて、色彩感豊かなパスカル・ロジェのピアノの音色を良く捉えています。
第1楽章は落ち着いた伴奏と色彩的なパスカル・ロジェのピアノで始まります。ロマンティックなメロディはとても品格良く演奏されていて、サン=サーンスらしい音楽作りです。安定したデュトワ=ロイヤル・フィルの伴奏も清潔感があり、バランスが取れています。中盤以降はダイナミックに盛り上がり、壮麗さも出て来て、ピアノとオケが上手くバランスしています。
第2楽章はオケの伴奏はスケール感があり、ピアノもダイナミックに弾いて行きます。でも、フランス音楽のスペシャリストのコンビですから、フランス的な色彩感があります。エジプトのエキゾチックな雰囲気も適度で、ロマンティックになりすぎることなく、表現には常に品格があります。絵画的な表現も聴いていて味わい深さがあり、浸って聴くことができます。第3楽章はリズミカルに小気味良く弾いて行きます。ピアノの色彩感溢れる響きと、オケの明るい響きが上手くブレンドされています。オケは少しずつ量感を増してスケール大きく盛り上がっていきます。ピアノは技巧的な個所を強調することなく安定していて、ベテランらしさを感じます。ラストはかなり盛り上がって終わります。
さすがパスカル・ロジェによるサンサーンスのピアノ協奏曲全集で、品格とフランスらしい色彩感があり、スタンダードと呼べる全集と思います。じっくりサンサーンスのピアノ協奏曲を聴いてみたい方にお薦めです。
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楽譜・スコア
サン=サーンス作曲のピアノ協奏曲第5番『エジプト風』の楽譜・スコアを挙げていきます。
電子スコア
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