カミーユ・サン=サーンス (Camille Saint-Saens,1835-1921)作曲のヴァイオリン協奏曲第3番 ロ短調 Op.61 (Violin concerto No.3 h-Moll Op.61)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。最後に楽譜・スコアも挙げてあります。
解説
サン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番 ロ短調 Op.61について解説します。
サン=サーンスはヴァイオリン協奏曲を3曲も書いています。ロマン派の作曲家では多い方です。チャイコフスキーもブラームスも1曲しか書いていませんし。そのなかで、このヴァイオリン協奏曲第3番が非常に人気があり、良く演奏されます。情熱とロマンティックが交錯する名曲です。
サン=サーンスとサラサーテ
サン=サーンスが3曲のヴァイオリン協奏曲を書いたのは、スペインのヴァイオリンの名手パブロ・デ・サラサーテとの長い付き合いです。ヴァイオリン協奏曲第1番や『序奏とロンド・カプリチオーソ』はサラサーテに献呈されています。
サラサーテと言えば『ツィゴイネルワイゼン』の作曲者として有名ですし、ヴァイオリン雑誌「サラサーテ」もあります。現在でも作曲者として親しまれています。
作曲と初演
このヴァイオリン協奏曲第3番は1880年に作曲され、初演は1881年1月、パリにてサラサーテの独奏により行われました。
楽曲の構成
一般的な3楽章形式のヴァイオリン協奏曲です。第1楽章~第3楽章まで素晴らしい主題が使われており、この協奏曲の人気の要因になっています。
第1楽章:アレグロ・ノン・トロッポ
ソナタ形式です。独奏ヴァイオリンが情熱的な第1主題を演奏します。情熱的な第1主題はこの曲の顔と言っても良い位、印象的で有名なメロディです。第2主題は対照的にロマンティックで甘美な旋律です。
第2楽章:アンダンティーノ・クワジ・アレグレット
ソナタ形式です。舟歌を思わせる6/8拍子の美しいメロディです。この主題もこの第3番を人気曲にしているポイントですね。高揚していき、情熱的な第2主題となり、木管との絡みも見事です。
第3楽章:
序奏付きのロンド形式です。
序奏ではヴァイオリン・ソロが無伴奏で激しい主題を奏で、オケがそれに応えます。
主部のロンドに入ると、ヴァイオリン・ソロは激しいロンド主題を提示します。その後、副主題や中間主題など多くの魅惑的な主題が現れ、最後は華々しく終わります。
おすすめの名盤レビュー
それでは、サン=サーンス作曲ヴァイオリン協奏曲第3番 ロ短調 Op.61の名盤をレビューしていきましょう。
Vn:パールマン,バレンボイム=パリ管弦楽団
パールマンのこのCDは伴奏をバレンボイム=パリ管弦楽団という、実力の高いスケールの大きな組み合わせを得たこともあって、スケールが大きい演奏を繰り広げています。パールマンのテクニックは折り紙付きです。上手すぎるんじゃないか?と思える位、安定しています。
冒頭は力強く始まりますが、全体的には色彩的で艶やかな演奏です。パールマンのテクニックには何の文句もつけようがありません。パールマンもバレンボイムもユダヤ系なので、その感性の演奏といえるかも知れません。第2楽章は、ロマンティックでふくよかな演奏で、夢見心地ですね。何というか、油絵のようなタッチかも知れません。第3楽章は、スケールの大きさを感じます。テンポも遅めです。パールマンの圧倒的なヴィルトゥオーゾの演奏を堪能できます。伴奏はバレンボイムらしいスケールの大きなものですが、所々でパリ管らしい色彩的な弦の響きが聴こえてきます。
カップリングのラロのスペイン交響曲も定評ある名演です。
実力派ヴァイオリニストのヴェンゲーロフとイタリアの指揮者パッパーノの共演です。非常に情熱的で、第2楽章のロマンティックな所も夢見心地です。響きに透明感があり、伴奏もレヴェルが高いため、全体にとても良い雰囲気が出ています。
Vn:アンドリュー・ワン,ナガノ=モントリオール響
サン=サーンスのヴァイオリン協奏曲集です。全3曲収録されています。そして、2014年にモントリオールで録音したということで、非常に録音が良いです。アンドリュー・ワンは、繊細なソロを弾いています。非常に響きが美しいです。情熱的な所でも音色が曇ることはありません。さらにケント・ナガノ=モントリオール交響楽団がバックですから、サン=サーンスらしい色彩感のある響きを紡ぎだしていて、それだけでも十分他のCDを引き離しています。サン=サーンスのヴァイオリン協奏曲は何故か録音が悪いものが多いですが、音質の良さは大きなメリットだと思います。ただ、表面を磨いてヴィルトゥオーゾで聴かせるような演奏とは違います。アンドリュー・ワンとケント・ナガノは非常に相性が良く、一緒に音楽を作りこんでいる雰囲気です。
Vn:チョン・キョンファ,フォスター=ロンドン交響楽団
ヴァイオリン協奏曲第3番は、情熱的な要素からロマンティックな要素まで、様々な要素を含んでいて、サン=サーンスの円熟を感じさせる名曲です。若いころのチョン・キョンファのCDは、非常に情熱的で力強いです。テクニックも最初から最後まで完璧で、少し弱い伴奏陣を引っ張って名演奏に仕立て上げています。
最初の主題のエネルギーを聴いた瞬間に引き込まれます。これを聴けば、このサン=サーンスの第3番が好きになることは間違いないですね。もちろん、ロマンティックな主題もちゃんと演奏していますが、全体的に情熱的な雰囲気で貫かれています。情熱的でありながら、そのまま夢見るような主題に移り変わるのは、とても上手い表現です。ロマンティックな第2楽章が物足りない、ということも無く、連続性を失うことなく、ロマンティックに演奏しています。普段通りに普通に演奏している伴奏はマイペースな感じで、もう少しチョン・キョンファの演奏スタイルに合わせても良かったのではないか、と思います。第3楽章は、第1楽章同様、情熱的で力強いです。リズム感も素晴らしいですね。テクニックも完璧です。
曲全体の完成度も高く、若手ヴァイオリニストとは思えません。この演奏は、まだ人気があるだろうと思っていたのですが、軒並み廃盤ですね…輸入盤ではサン=サーンスの協奏曲第1番がデュトワの伴奏で入っていますが、この曲もサン=サーンスらしい名曲で、最近の録音なので音質も良いです。他にもサン=サーンスを代表する曲が入っているので、まとまった選曲のCDだと思います。
Vn:フランチェスカッティ,ミトロプーロス=ニューヨーク・フィル
最初に再生を始めるとモノラルでかなり音質が悪いことが気になりますが、聴いているうちに演奏はソロも伴奏も超一級の名演であることが分かります。フランチェスカッティは地元フランス人で、サン=サーンスを得意としていました。それを自分の耳で聴くことが出来るのは、音質が悪くても音源があったおかげですね。
テンポ取りなどは現在と変わらず、この曲のスタンダードです。第1楽章の情熱的な第1主題から、夢見る様な第2主題、第2楽章の弾き方などは、現在の演奏の模範です。第3楽章がさらに名演で、ロンドに入った後、テンポアップして、スリリングに盛り上げています。
また、この演奏は伴奏陣がミトロプーロスとニューヨーク・フィルという凄い顔ぶれです。伴奏のスケール感もあって、チョン・キョンファは伴奏で損をしていますが、このフランチェスカッティは安定した堂々たる伴奏です。永遠の名盤としてこれからの聴き続けられるといいですね。なお、この録音はCDよりもレコードのほうが自然に聴けると思いました。ヴァイオリンの音色はレコードにとても合うと思います。
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楽譜・スコア
サン=サーンス作曲のヴァイオリン協奏曲第3番の楽譜・スコアを挙げていきます。
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