フランツ・ヨーゼフ・ハイドン (Franz Joseph Haydn,1732-1809)作曲の交響曲第88番 ト長調『V字』Hob.I:88 (symphony No.88 g-dur letter v Hob.I:88)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。ワンストップでスコアと楽譜まで紹介します。
交響曲第88番『V字』は聴いてみると有名なメロディで親しみやすい交響曲です。パパ・ハイドンのイメージにぴったりです。どこかで聴いたようなメロディが良く出てきます。
解説
ハイドンの交響曲第88番『V字』について解説します。
1787年に作曲した交響曲です。『V字』の由来は、スコアにVの字が書かれていたこと、と言われています。当時、交響曲にアルファベットを付けており、第88番は「V」だったという訳です。本当に大したことない愛称ですね。
4楽章構成から成るハイドンらしいスタイリッシュで素朴な交響曲です。パリセットとロンドンセットの間では、第92番『オックスフォード』が特に名曲ですが、第88番『V字』は親しみやすく、昔から良く演奏されてきました。フルトヴェングラーやクナッパーツブッシュも名演を残しています。
楽曲構成
4楽章形式のプロポーションの取れた構成です。演奏時間は22分で少し短めの交響曲です。
第1楽章:アダージョ~アレグロ
序奏付きソナタ形式です。穏やかな序奏の後、主部はアレグロとなり、素朴で有名な第1主題が登場します。この第1主題はとても有名で、ハイドンのイメージにぴったりです。
第2楽章:ラルゴ
変奏曲形式の緩徐楽章です。穏やかな曲調の中に、ハイドンとしては濃厚な感情表現があり、深みも感じられます。モーツァルトの交響曲第40番の第2楽章のような音型も見られます。この交響曲の方が1年早く作曲されています。
第3楽章:メヌエット
3部形式のメヌエット楽章です。ユーモアと気品を同時に持った楽章です。中間部の穏やかな主題も親しみやすく有名です。
第4楽章:フィナーレ:アレグロ・コン・スピーリト
ロンドソナタ形式です。リズミカルで力強いフィナーレ楽章です。展開部は凝っていて聴き物です。
フルート×1、オーボエ×2、ファゴット×2
ホルン×2、トランペット×2
ティンパニ
弦五部
おすすめの名盤レビュー
それでは、ハイドン作曲交響曲第88番の名盤をレビューしていきましょう。
クイケン=ラ・プティット・バンド
クイケンとラ・プティット・バンドの古楽器による名盤です。第88番『V字』~第92番『オックスフォード』まで、パリセットとロンドンセットの間の交響曲を全部収録しています。古楽器奏法ですが、落ち着いた解釈で演奏しています。モダンオケで聴いていた人もすぐに馴染める演奏だと思います。
第1楽章の序奏は古楽器らしい音色で楽しんで聴くことが出来ます。主部に入ると速すぎず落ち着いたテンポです。有名な主題は古楽器らしくアクセントをつけて素朴に演奏されています。クイケンはあまり作為的な表現はせず、楽譜にある音符をしっかり演奏しています。そうすることで、ハイドンが仕組んだリズムの面白さが前面に出てきています。ヤンソンスともまた違った面白さがあります。
第2楽章は古楽器オケとしては遅めのテンポです。録音していませんがノリントンだったらもっと早いテンポで演奏したと思います。同時期のブリュッヘンも遅めなので、1990年代辺りだとこの位のテンポが標準的だったかも知れませんね。古楽器の木管の音色が素晴らしく、木管と弦のアンサンブルで出てくる音色も古楽器でないと聴けない味わいがあります。ティンパニが入るとダイナミックになりますが、古楽器のティンパニは鋭い音でハイドンの音楽に自然に合います。
第3楽章は華麗さがありますが、古楽器なのでモダン楽器のような華麗さとは違います。古楽器だと思い切り演奏してもハイドンらしいメヌエットになります。中間部は民族的な舞曲を思わせます。ホルンを鳴らして素朴な雰囲気を出しています。
第4楽章は速すぎないテンポで、ダイナミックでしっかりした演奏です。古楽器はハイドンの音楽と等身大なので、金管が思い切り吹いても、音楽を壊してしまうことはありません。管が細いので、鋭い音色ですけど、音量はそこまで大きくは無いです。変化の激しい展開部はスリリングな演奏です。
古楽器だからと言って、特別な何かがある、というより、とても自然さのある演奏です。
ヤンソンス=バイエルン放送交響楽団
ヤンソンスとバイエルン放送交響楽団の演奏です。モダン・オケの割と最近の演奏ですが、ヤンソンスはハイドンが得意です。ヤンソンスらしいしなやかさとバイエルン放送交響楽団の土台のしっかりした響きでとても好感の持てる演奏です。また、録音も高音質でアンサンブルの妙が良く聴きとれます。
第1楽章は序奏から少し速めのテンポ取りで、スタイリッシュに聴かせてくれます。主部に入ると透明感があり軽妙な演奏です。有名なメロディもしっかり堪能させてくれます。表現はとても丁寧で、ハイドンが埋め込んだ工夫を良く表現しています。単調さは全く感じられず、こんなに内容が詰まった曲なんだな、と再認識させてくれます。
第2楽章は遅めのテンポでしなやかに演奏しています。バイエルン放送交響楽団も軽妙な演奏を繰り広げていて、木管も響きも素朴で良いです。トッティで演奏したり、ソロで合わせたりと、ハイドンのオーケストレーションの上手さが手に取るように分かります。短調になる部分ではとても繊細な感情表現で味わいがあります。
第3楽章はスケールは大きめで、同時にとても端正で軽妙な演奏です。中間部は少しテンポを落として味わいがあります。バグパイプのドローンが良く聴こえます。第4楽章はダイナミックでスリリングです。ハイドンのユーモアも感じます。
カップリングのハイドンの『ハルモニー・ミサ』は非常な名演です。
DVDも発売されています。
フルトヴェングラー=ベルリン・フィル
フルトヴェングラーとベルリン・フィルの演奏です。戦前の演奏でモノラル録音ですが、安定した音質です。フルトヴェングラーは感情表現の上手い指揮者で、モーツァルトの交響曲第40番なども名盤を残していますが、ハイドンの『V字』もロマン派風な演奏です。素朴さもありますが、第2楽章の感情表現の深みが良く感じられます。
第1楽章はスケールが大きく、暖かみのある序奏で始まります。主部の第一主題は素朴さとスタイリッシュさがバランスよく表現されています。この曲らしい親しみやすさとベルリン・フィルらしいクオリティの高さを感じます。第2楽章は聴き物で、とても深みのある表現です、短調に転調したあたりで感情的に盛り上がり、晩年のロンドン・セットのようにハイドンらしい深みが感じられます。
第3楽章はダイナミックさがあります。中間部は味わい深い演奏です。第4楽章は速いテンポでスリリングです。特に展開部の目まぐるしさが良く表現されています。
ハイドンとしてはロマン派風の演奏ですが、第88番は違和感なく聴けます。昔から良く演奏されてきた理由が分かる歴史的名盤です。
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ヤンソンス=バイエルン放送交響楽団
演奏については既に紹介したヤンソンスと手兵バイエルン放送交響楽団の映像です。2008年と新しいため画質が良く、ヤンソンスがダイナミックさが売りのバイエルン放送交響楽団からしなやかな響きを引き出す様子を観ることが出来ます。モダンオケでのとても丁寧な演奏であり、映像を見られるのは貴重です。
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楽譜・スコア
ハイドン作曲の交響曲第88番の楽譜・スコアを挙げていきます。
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