ハイドン トランペット協奏曲 Hob.VIIe-1

フランツ・ヨーゼフ・ハイドン (Franz Joseph Haydn,1732-1809)作曲のトランペット協奏曲 変ホ長調 Hob.VIIe-1 (Trumpet Concerto Es-dur Hob.VIIe-1)について、解説おすすめの名盤レビューをしていきます。ハイドンのトランペット協奏曲は、とても有名で人気のある作品です。

解説

ハイドントランペット協奏曲について解説します。

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トランペット協奏曲

トランペット協奏曲、というと珍しいと思う方も少なくないかも知れません。しかし、トランペットはバロック時代以前から重要な楽器でした。トランペットを中心としたファンファーレはルネサンス時代からあります。貴族の軍隊でファンファーレを吹くために使われると共に、教会ではトロンボーンも含めて神聖な楽器という扱いでした。当時は色々な種類があり、倍音のみで音を出すのが基本ですが、トランペットのサイズでトロンボーンのような管の長さを変えられる機構をもつ楽器もありました。

アリソン・バルサムはナチュラル・トランペットも吹けるのですね。
トリルもバロック風に決めています。

バロック時代に入ると、イギリスの作曲家ヘンリー・パーセルがトランペットの作品を作曲しています。トランペット・ヴォランタリーなどです。その後、イタリア・バロック後期ではアルビノーニやトレッリによりトランペット協奏曲が作曲されています。またドイツ・バロックでもフィリップ・テレマン(1681年-1767年)がトランペット協奏曲を作曲しています。そんな訳でバロック期まではトランペットはソロ楽器として盛んに作曲されました。

古典期以降のトランペット協奏曲

しかし、古典期に入るとトランペット協奏曲は数が減っていきます。テレマンは古典期と少し被りますが、それ以降はあまり作曲されていません。ヘンデルの『メサイア』第3部のトランペット・ソロのある『ラッパは鳴り響き』があり、古楽器のトランペットで吹くと難しい曲で『メサイア』の中でも聴き所なのですが、逆にモーツァルトが『メサイア』を編曲した際には、オーボエに置き換えられています。古典派のオーケストラではトランペットは重用されていますが、トランペットはソロ楽器というより、ティンパニと一緒に曲にリズムやメリハリをつけるために使われています。

レオポルド・モーツァルトや弟のミヒャエル・ハイドンは古典派初期にトランペット協奏曲を作曲しています。この時代に主流だったナチュラル・トランペットは自然倍音と限られた音程しか音が出せなかったため、古典期の作曲家の要求に答えられなくなってきた、ということのようです。そして、ベートーヴェン以降ロマン派の時代にはほとんど作曲されていません。

トランペット協奏曲作曲の経緯

トランペット奏者のアントン・ヴァイディンガー(1766-1852)は当時のトランペットを改良し半音階を演奏できるようにキーを取り付けたトランペット(キー・トランペット、有鍵トランペット)を発明しました。

キー・トランペット

ヴァイディンガーはハイドンの長年にわたる友人であり、ハイドンはこの新しいトランペットを使用したトランペット協奏曲を書くことにしました。ハイドンが既に一連の交響曲を作曲し終えた1976年に作曲されました。ちなみにフンメルもヴァイディンガーのためにトランペット協奏曲を書いており、この2曲は現在でも良く演奏されます。

現在では、バルブ式やロータリー式のトランペットが主流ですが、バルブ式のトランペットが登場したのは1830年代で、ベートーヴェンの時代が終わり、ロマン派初期になってやっと登場したことになります。

初演は1800年3月28日にウィーンのブルク劇場で行われましたが、結果はあまり芳しくありませんでした。そのため当時出版は行われず忘れ去られました。1899年にウィーンのトランペット奏者がハイドンの自筆譜を再発見し、1929年に出版されています。現在では親しみやすいトランペット協奏曲として、良く演奏されています。

曲の構成

3楽章構成で、演奏時間は15分程度です。

第1楽章:アレグロ

協奏的ソナタ形式です。冒頭の第1主題は有名です。

第2楽章:アンダンテ

緩徐楽章です。3~4分程度とかなり短い楽章となっています。トランペットがロココ調の息の長いメロディを演奏します。

第3楽章:フィナーレ, アレグロ

第3楽章の主題も有名ですね。ハイドンらしいコンパクトで品格のある主題です。

編成

独奏トランペット
フルート×2, オーボエ×2, ファゴット×2
ホルン×2, トランペット×2,
ティンパニ
弦五部

おすすめの名盤レビュー

それでは、ハイドン作曲トランペット協奏曲名盤をレビューしていきましょう。

Tp:アリソン・バルサム,ドイツ・カンマーフィルハーモニー

高い技巧と繊細な表現を併せ持つバルサムの名盤
  • 名盤
  • 定番
  • 高音質

超おすすめ:

トランペット/指揮:アリソン・バルサム
演奏ドイツ・カンマーフィルハーモニー

(ステレオ/デジタル/セッション)

女流トランペット奏者のアリソン・バルサムとドイツ・カンマーフィルハーモニーの録音です。音質も新しい録音なので非常に良いです。技術的に素晴らしいですが、特に音色が良く表現にも繊細さがあると思います。

第1楽章はさわやかな伴奏の上に華麗な音色のトランペットです。またバルサムのトランペットには線の細さもあり、細かい表情づけがあり、曲想の変化に相応しい表現があります。高音域もきつくなることなく、余裕を持って聴かせてくれます。ドイツ・カンマー・フィルは得意とする古典派音楽で、適度にメリハリのあるしっかりした伴奏です。カデンツァでは鮮やかな演奏を聴かせてくれます。

第2楽章は落ち着きのあるテンポで始まります。トランペットは朗々と同時に丁寧に演奏していきます。第3楽章速めのテンポで軽快でスリリングな演奏を展開していきます。細かいパッセージも完璧で聴いていて、すっきりしてきます。

カップリングはフンメルのトランペット協奏曲やバロックのトレッリのトランペット協奏曲ですが、トレッリは意外に名演で楽しめました。ドイツカンマー・フィルはチェンバロも入れてバロックらしいノリで、トランペットも輝かしい音色で古楽器演奏にも負けない名演と思います。

Tp:モーリス・アンドレ, グシュルバウアー=バンベルク交響楽団

力強く輝かしいモーリス・アンドレのトランペット
  • 名盤
  • 定番

超おすすめ:

Tpモーリス・アンドレ
指揮グシュルバウアー
演奏バンベルク交響楽団

(ステレオ/デジタル/セッション)

天才トランペット奏者のモーリス・アンドレとグシュルバウアー=バンベルク交響楽団の録音です。モーリス・アンドレは超絶技巧を持つトランペット奏者として人気があったため、他にも多くのディスクがリリースされています。

第1楽章は少し大きめの編成のオーケストラでハイドンらしく心地よい演奏です。モーリス・アンドレのトランペットはシャープで輝かしい演奏です。テクニックを持て余している感じで、細かいパッセージも余裕で吹きこなしています。伴奏のバンベルク響はモダン・オケとは思えないセンスの良さで、こちらも味わいがあります。トランペットとオケの絡みも上手いです。カデンツァ輝かしく力強い演奏で、超絶技巧を聴かせてくれます。

第2楽章は遅めのテンポです。トランペットは息の長いメロディを鮮やかな音色で歌っていきますが、段々と味わい深さが出てきます。第3楽章は速めのテンポで爽快に始まります。トランペットは細かいパッセージも余裕で、力強く輝かしい音色を聴かせてくれます。オケとの絡みの上手さもあり、スリリングに盛り上がっていきます。

数ある録音の中から、このディスクが代表である理由が良く分かるトランペットもオケも完成度の高い名盤です。モーリス・アンドレは少し前のトランペット奏者という気がしていましたが、今でも十分通用する技巧とクオリティを持っています。

Tp:フリードマン・インマー,ホグウッド=エンシェント管弦楽団

古楽器を使用したトランペットの特徴が良く分かる名盤
  • 名盤
  • 定番
  • 古楽器

おすすめ度:

トランペットフリードマン・インマー
指揮クリストファー・ホグウッド
演奏エンシェント管弦楽団

1986年,87年 (ステレオ/デジタル/セッション)

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古楽器による演奏でトランペットはフリードマン・インマー、ホグウッドとエンシェント室内管弦楽団の録音です。1980年代の録音で、音質は悪くありません。ただ古楽器のトランペットだとやはり高い技術が必要で、この録音でも時おりアンブシュア(唇)で無理やり音を出していることが伝わってきます。古楽器のトランペットは、音色は良いのですが、やはりソロ楽器としては難しいんでしょうね。このディスクではどのタイプのトランペットを使っているか調べきれませんでしたが、ヴァイディンガーのキートランペットの模造品だったらさらに貴重ですね。

第1楽章冒頭のオケはさすがエンシェント室内管でハイドンらしい演奏です。トランペットは柔らかい音色です。最初の主題から吹くのが難しそうに聴こえます。トリルも頑張っています。高音域も良く吹いていますが、タンギングでブルっというのは、管長が倍ある楽器を使っているかも知れません。初演当時も同じように難しかったと思います。

第2楽章は伴奏のオケは古楽器らしい自然な味わいがあります。トランペットはタンギングでたまにブルっということを除けば、柔らかい音色で味わい深く歌いこんでいます第3楽章はオケは速めのテンポで古楽器でしか聴けないハイドンらしいメロディです。古楽器のトランペットは結構技巧がいる楽章なので、細かいパッセージでは少し余裕がない感じですが、そこはプロなのでしっかり吹き切っています。良く聴くとハイドンらしい表現が良く使われていることが分かります。

カップリングはオルガン協奏曲ホルン協奏曲です。ハイドンがホルン協奏曲を作曲していたことを初めて知りました。

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楽譜・スコア

ハイドン作曲のトランペット協奏曲の楽譜・スコアを挙げていきます。

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