モーリス・ラヴェル (Maurice Ravel,1875-1937)作曲の管弦楽のための舞踏詩『ラ・ヴァルス』 (poeme choreographique pour orchestre la valse)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。ワンストップでスコアと楽譜まで紹介します。『ラ・ヴァルス』は、ワルツの主題などが有名です。よくコマーシャルなどで耳にしますね。
解説
ラヴェルのラ・ヴァルスについて解説します。
バレエ音楽として作曲
ラヴェルは、1906年ごろにヨハン・シュトラウス2世へのオマージュとして、交響詩風のウィンナワルツを作曲する構想を持っていました。それが実現するのは、1917年にバレエ・リュスのディアギレフがラヴェルにバレエ音楽の作曲を依頼してからです。その依頼に応え、ラヴェルは1919年~1920年にかけて『ラ・ヴァルス』を作曲をしました。しかし、2台ピアノ版をディアギレフに披露したところ、ディアギレフは傑作であることは認めましたが、バレエ音楽に不向き、ということで受け取りませんでした。結局、『ラ・ヴァルス』のバレエ化は行われず、管弦楽曲として世に出ることになりました。
初演
まず2台ピアノ版が1920年10月23日にウィーンにおいて、アルフレード・カゼッラとラヴェル自身によって初演されました。
そして、管弦楽版の初演は1920年12月12日にパリにおいてカミーユ・シュヴィヤール指揮ラムルー管弦楽団によって行われました。
曲の構成
『ラ・ヴァルス』は演奏時間12分の短い曲ですが、多くのインスピレーションに満ちた名曲です。構想通り、交響詩風のストーリーを持っています。
混沌とした雰囲気に始まり、徐々にワルツのリズムとメロディが現れます。一旦賑やかにワルツとしての形を整えた後、ゆったりとした新たな主題が出て、いかにもワルツらしい雰囲気を積み重ねていく。木管中心の主題、金管とパーカッションの主題など現れ、色彩感が増していきます。しかし展開が進むに連れ、徐々にワルツらしいリズムが崩れ始め、テンポが乱れてきます。転調を繰り返し、様々なモチーフが交錯してワルツのリズムを破壊して展開して行きます。ラストは冒頭の主題が変形されて再現された後、最後の2小節で無理やり終止します。
『ラ・ヴァルス』は、ウィンナ・ワルツの映像的なイメージが徐々に変わっていき、最後は渦巻くように色々なことが起こり、カオスとなります。
渦巻く雲の中から、ワルツを踊る男女がかすかに浮かび上がって来よう。
雲が次第に晴れ上がる。と、A部において、渦巻く群集で埋め尽くされたダンス会場が現れ、その光景が少しずつ描かれていく。
B部のフォルティッシモでシャンデリアの光がさんざめく。1855年ごろのオーストリア宮廷が舞台である。
Wikipediaより
おすすめの名盤レビュー
それでは、ラヴェル作曲ラ・ヴァルスの名盤をレビューしていきましょう。
小澤征爾とボストン交響楽団のCDの中でも、最も素晴らしい演奏の一つです。小澤征爾の切れ味の良い指揮とインスピレーションに溢れた大胆な表現、ボストン交響楽団の透明感のあるサウンドが上手く組み合わさって昇華したような名演です。
冒頭、ワルツの輪郭がはっきりしてくると、速めのテンポで新鮮で色彩感のあるワルツの主題になります。ボストン交響楽団のしなやかで色彩的なサウンドも印象的です。ミュンシュの演奏でも名演を繰り広げていますが、もっと現代的な響きになっています。シャープさとしなやかさのある音楽作りで、それぞれのモチーフが表情豊かで飽きさせません。パーカッションがシャープに打ち込んだと思えば、弦と木管がゆるやかで甘美に演奏してきます。この辺りの対比はとても効果的で楽しめます。後半、熱気をはらんで盛り上がってきますが、この辺りはインスピレーションに満ちています。ワルツとの対比をつけつつ、鮮やかに盛り上がっていきます。ラストは頂点を超えて、まさに熱気渦巻く熱狂の音楽になっていきます。
プレートル=シュトゥットガルト放送交響楽団
プレートルとシュトゥットガルト放送交響楽団の演奏です。録音も良く響きに透明感があります。特に『ラ・ヴァルス』と関係のないシュトゥットガルト放送交響楽団はドイツのオケですが、響きがしっかりしていて透明感があるため、プレートルとラヴェルを演奏するには、ある意味フランスのオケよりもいいかも知れません。プレートルは『ラ・ヴァルス』を得意としていて、パリ・オペラ座管との来日公演でも演奏しましたが、このシュトゥットガルト放送響との演奏の方がプレートルの意図を良く体現していると思います。
冒頭からしばらくしてワルツのモチーフが姿を現すと、急にブリリアントなワルツになり、急激にテンポアップしていきます。テンポの緩急がはっきりしていて、甘美でゆらめくようなワルツの部分と、パーカッションや金管がシャープでダイナミックに演奏する部分が交互に現れてきます。リズムは筋肉質でテンポは自由自在で急に速くなったかと思えば、急にとてもゆっくり穏やかに演奏してみたり、と、とてもプレートルらしい密度の濃い音楽です。ベースにシュトゥットガルト放送響のしっかりしたアンサンブルがあってのことです。後半になると、激しい音楽になっていき、さらにダイナミックさと熱気も加わって密度の濃い演奏になっていきます。ラストはアンサンブルが崩壊せんばかりの派手な熱狂ぶりです。
マゼール=ウィーン・フィル (1996年)
マゼールとウィーン・フィルの演奏です。この演奏はオケがウィーン・フィルなのが面白いです。『ラ・ヴァルス』は、ラヴェルがウィンナ・ワルツをモチーフに作曲した作品です。ウィンナ・ワルツを本格的に演奏できるウィーン・フィルがこの曲を演奏したらどうなるのか?とても興味深いです。
マゼールは前回のフランス国立管弦楽団との演奏とは全く違うアプローチをとっています。冒頭から徐々にワルツの輪郭が見えてくると、ウィーン・フィルを活かしたふくよかな響きが姿を現します。ワルツのリズム自体もウィーン・フィル流のリズム取りです。弦や木管は曖昧さのある響きです。一方、金管やパーカッションはしっかり鳴らして、ラヴェルらしいシャープさを出しています。ゆらゆらと揺れるリズムがウィーン風で味わい深いです。後半に入ると、宝石のような色彩感も上手く再現しています。曖昧模糊とした空間から響き出す色彩溢れるモチーフは『ラ・ヴァルス』の本質を突いていると思います。ダイナミックになってくると、ウィーン・フィルから色彩感溢れるシャープなサウンドを引き出し、ラストの混乱はウィンナ・ワルツとラヴェルの色彩的なオーケストレーションの対決という風情で面白いです。
デュトワとモントリオール交響楽団の定番の演奏です。デュトワはしっかりした解釈の上にフランスらしさを加え、モントリオール響の上手い管楽器と色彩的な響き、理想的なラヴェル演奏の一つです。音質も残響は適度で、細かい所まで良く収録しています。
ワルツが聴こえてくると、モントリオール響の弦の豊潤で色彩的な響きのワルツとなります。甘美さもあり、スタンダードといえる主題提示ですね。また、パーカッションや金管もしっかりした演奏で、ダイナミックさがあります。弦と木管のワルツと、パーカッションと金管のパートははっきり対比させるというより、上手く溶け合っている感じです。後半は混乱というより緻密なアンサンブルでゴージャスになっていき、華麗なまま曲を締めくくります。
ネーメ・ヤルヴィ=デトロイト交響楽団
ネーメ・ヤルヴィとデトロイト交響楽団の演奏です。デトロイト交響楽団はドラティの黄金時代に比べるとさすがに少しレヴェルダウンした気もしますが、ネーメ・ヤルヴィが普段指揮しているエーデポリ交響楽団やスコティッシュ・ナショナル管に比べるとダイナミックで地力があります。録音はシャンドスで少し残響が多めですが、奥行きが感じられ十分高音質です。
ワルツの主題が現れると、デトロイト響の色彩的な弦の響きで格調の高さを感じる表現です。金管が入るとテンポが速くなり、メリハリがあります。木管とパーカッションのアンサンブルは宝石箱のような鮮やかな響きです。N.ヤルヴィのリズム取りは、ワルツも金管がダイナミックに演奏する箇所も基本的に軽快です。デトロイト響は重厚さが感じられ、上手いバランスですね。ラストに近づくにつれ勢いも出てきて、鮮やかで宝石箱のような響きの洪水のようになっていて凄いです。ダイナミックに曲を締めくくります。
ミュンシュ=ボストン交響楽団 (1955年)
ミュンシュとボストン交響楽団の1955年の録音です。同じコンビで1960年代の録音もありますが、こちらの方がミュンシュらしい情熱的なダイナミックさがあり世評も高いようです。ただ演奏も録音も時代を感じさせます。ステレオ初期の録音で、金管の録音には少し荒さがあります。
ワルツは早い段階で大分明確な輪郭のはっきりした演奏になっています。主題提示はシャープなリズムで、ボストン響の弦は透明感がありますが、熱気も感じられます。パーカッションと金管の部分はテンポアップし、メリハリのはっきりした音楽作りです。後半になると表情豊かですが、勢いがあり爽やかさがあります。ボストン響は名人芸を魅せつけてくれます。ラストに近づくとシャープさを増し、勢いが増してどんどんテンポアップしていきます。ダイナミックで熱気が凄いですが、透明感を失わないボストン響も凄いですね。限界まで盛り上がっていきます。
マゼール=フランス国立管弦楽団 (1981年)
マゼールとフランス国立管弦楽団の演奏です。組曲『惑星』やボレロで面白い演奏を繰り広げている少し異色な組み合わせです。シャープで明晰ながら、フランス国立管の色彩的な響きを活かして、宝石箱をひっくり返したような混乱を表現しています。
シャープでテンポが速めな演奏です。リズムがしっかりしているので、曖昧さが少なく、知的で明晰さがあります。マゼールはフランス国立管弦楽団をしっかりコントロールし、ダイナミックになりすぎずに、シャープさの中にフランス的な色彩感のある響きです。後半になると複雑になってきますが、明晰でスコアにある音がしっかり聴こえます。フランス的な少しクールな色彩と、音楽の混乱が一体になって、色々な音が聴こえてきます。ラストは宝石箱をひっくりかえしたような色彩ですが、演奏のクオリティは最後まで高いです。
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楽譜・スコア
ラヴェル作曲のラ・ヴァルスの楽譜・スコアを挙げていきます。
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大型スコア
ピアノ連弾
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