モーリス・ラヴェル (Maurice Ravel,1875-1937)作曲のスペイン狂詩曲 (Rapsodie espagnole)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。ワンストップでスコアと楽譜まで紹介します。
ラヴェルの作品の中でも特に色彩的で親しみやすい人気曲です。
解説
ラヴェルのスペイン狂詩曲について解説します。
スペインゆかりのラヴェルの出世作
ラヴェルはフランス人ですが、スペインのバスク地方に近いジブールで1875年に生まれました。バスク地方はスペイン北部といっても独自色が強い地域です。しかし、一家はラヴェルが生まれて数か月でパリに住居を移しました。父親はスイス人、母親はバスク人で、ラヴェルのエキゾチックな音楽は母親の影響が大きいと言われています。
スペイン狂詩曲は1907年~1908年に作曲され、オーケストレーションされました。ラヴェルのエキゾチックな魅力が満載です。魔術的なオーケストレーションも既に健在です。そして、この時期を境にラヴェルは大作曲家への道を歩んでいくことになります。
ハバネラは10年以上前に作曲
4曲で構成されていますが、そのうち「ハバネラ」は、1895年に2台のピアノのための曲として作曲されています。「ハバネラ」はオーケストレーションして、このスペイン狂詩曲に組み込まれていますが、10年以上前の作曲です。しかし、十分素晴らしい曲で、ラヴェルの才能を感じさせます。
『亡き王女のためのパヴァーヌ』など、世の中に認められた作品は既に世に出していますし、年齢的にも新人作曲家とは言えません。管弦楽分野での大作曲家として幅広く認められる契機となった作品と言えます。『マ・メール・ロア』も1908年に作曲され、バレエ『ダフニスとクロエ』が1912年に初演されています。ちなみに『ボレロ』は1928年作曲なので、大作曲家としては遅咲きと言えるかもしれませんね。
第1曲:夜への前奏曲
第2曲:マラゲーニャ(Malaguena)
第3曲:ハバネラ (Habanera)
第4曲:祭り (Feria)
おすすめの名盤レビュー
それでは、ラヴェル作曲スペイン狂詩曲の名盤をレビューしていきましょう。
クリュイタンス=パリ音楽院管弦楽団 (1961年)
クリュイタンスとパリ音楽院管弦楽団の録音です。昔からの定番ですが、今でも色褪せることなく、往時の色彩的あふれる演奏を聴くことが出来ます。今では聴けないようなフランス的な表現が随所に聴かれますし、弦セクションの響きは今では聴けない音色です。
第1曲「夜への前奏曲」は自然なテンポで進んでいきます。弦の色彩的な音色は言葉で表現するのは難しいですが、この曲に相応しい妖艶な音色です。ラヴェルの綿密なオーケストレーションを当たり前のように演奏していきます。第2曲「マラゲーニャ」はしっかりした足取りで進みますが、所々とてもフランス的な色彩感で彩られ、第3曲「ハバネラ」はまさにスペイン的で、官能的な響きとリズムを聴くことが出来ます。ヴァイオリン・ソロもとても味わい深いです。第4曲「祭り」はとても明るく盛り上がります。この辺りのノリの良さもパリ音楽院管ならではです。木管の音色が鮮やかです。静かな個所では官能的な雰囲気が素晴らしいです。最近の演奏のような繊細さはあまりないですが、こういう雰囲気を出せるオケは今は無さそうです。終盤は圧倒的な盛り上がりでラテン系のノリで締めくくります。
1961年録音ですが、演奏内容が素晴らしいことと、しっかりした録音でノイズも少なく、今でも十分通用する名盤です。カップリングの『ダフニスとクロエ』第2組曲は超名演ですね。
アバド=ロンドン交響楽団 (1985年)
アバドとロンドン交響楽団の録音です。このコンビの演奏の中でも特に素晴らしい名盤で、デジタル録音で音質も良いです。イタリア人のアバドはラテン系のリズム感の持ち主で、実力派オケのロンドン響から色彩豊かでダイナミックなサウンドを引き出しています。
第1曲「夜への前奏曲」は少し速めのテンポですが、ロンドン響からとてもエキゾチックで線の細い艶やかな響きを引き出していてさすがです。アンサンブルのクオリティもとても高く、ラヴェルのオーケストレーションの妙が楽しめます。テンポどりも軽快で自由自在といった風情です。第2曲「マラゲーニャ」は速めのテンポでリズムもくっきりとしています。オーボエのソロのレヴェルも高いですね。
第3曲「ハバネラ」は深みのある色彩感で、テンポの変化も絶妙でブレーズとはまた違ったエキゾチズムがあります。第4曲「祭り」は速いテンポでラテン系の軽快なリズムでスリリングに盛り上がります。まさにアバドとロンドン響の良い所が集約していて凄い迫力です。アバドのテンポの変化にも息がぴったりですし、ダイナミックなだけではない当時のロンドン響の充実ぶりが感じられます。細かいアンサンブルまで完成度が高く、ラストの追い込みはとてもスリリングで楽しめます。
1970年代前半から『春の祭典』など決定的な名盤を残しているコンビですが、時期的にもアバド=ロンドン響の総決算にあたるディスクですね。カップリングの『マ・メール・ロア』も凄い演奏です。
デュトワ=モントリオール交響楽団
デュトワとモントリオール交響楽団の録音です。スペイン的なエキゾチズムといい、オーケストラの機能性といい、ラヴェルを演奏するのに理想的な組み合わせですね。録音も良く、芳醇な色彩感でラヴェルのオーケストレーションの素晴らしさが堪能できます。
第1曲「夜への前奏曲」は色彩感が素晴らしい弦と、クオリティの高い管楽器のソロが印象的です。響きは芳醇で華麗さもあり、まさにラヴェルです。デュトワはセンスの良いテンポ取りで、曲の良さを素直に聴かせてくれます。第2曲「マラゲーニャ」は少し速めのテンポでスマートさがあります。木管のアンサンブルやトランペットのソロはとても上手く色彩感があります。
第3曲「ハバネラ」は深みのある響きの中、郷愁が感じられます。豊かな残響の中で、木管のアンサンブルや弦のソロなど、とても艶やかな響きです。第4曲「祭り」はしっかりしたリズムで色彩感を保ったまま盛り上がります。デュトワはセンスの良いテンポ取りで、リズムもとても正確です。管楽器の上手さも特筆です。ラストは圧倒的に盛り上がりますが、透明感を保っているのはさすがです。
ブレーズ盤と並んで現代のスタンダードと言って良い名盤です。ラヴェル曲集のどれをとってもフランス物らしい、色彩感と華麗さがあり、「ラヴェルを聴いた」充実感があります。カップリングの『ラ・ヴァルス』もスマートさとゴージャスさがあって素晴らしいです。
ブレーズ=ベルリン・フィル (1993年)
ブレーズとベルリン・フィルの録音です。ブレーズの新盤で、新しい録音で音質もよく、とてもクオリティの高い演奏です。
第1曲「夜への前奏曲」は落ち着いたテンポで静かに始まります。しっとりとまとめ上げ、妖艶でスペイン的な雰囲気満点です。クラリネットのレヴェルの高さはさすがです。第2曲「マラゲーニャ」は少し遅めのテンポどりですが、うまくスペイン舞曲のリズムに乗せています。細部へのこだわりが素晴らしく、曲のツボを知り尽くしていますね。第3曲「ハバネラ」は繊細で絶妙なリズム感です。腰の動きはスペインなどラテン系の舞曲でよく出てきますけど、独特なリズムをうまく再現していて絶妙だと思います。第4曲「祭り」はベルリン・フィルらしくスカッと抜けの良い響きで聴いていて爽快です。弱音でテンポの遅い所はとても落ち着いていて、緩急の差が大きいですね。リズミカルですが、クオリティの高さを寸分も失うことなく盛り上がっていきます。ラストはベルリン。フィルの実力発揮で爽快に曲を締めくくります。
ボレロといい、ブレーズとベルリン・フィルのラヴェルは素晴らしいですね。現代のスタンダードといえる名盤です。
モントゥー=ロンドン交響楽団
晩年のモントゥーとロンドン交響楽団の録音です。モントゥーは『ダフニスとクロエ』の名演もあり、フランクの交響曲など、時代を超えるような名盤が多いです。スペイン狂詩曲も、これまで紹介した演奏とは一味違う深みを感じます。リズムの取り方一つとっても奥が深いし、安易にエキゾチズムに流されず、曲の本質を表現してくれます。玄人好みの名盤です。
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楽譜・スコア
ラヴェル作曲のスペイン狂詩曲の楽譜・スコアを挙げていきます。
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