モーリス・ラヴェル (Maurice Ravel,1875-1937)作曲のピアノ協奏曲 ト長調 (Piano concerto g-dur)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。ラヴェルのピアノ協奏曲の中でも人気があり、とてもコミカルでスリリングです。
解説
ラヴェルのピアノ協奏曲ト長調について解説します。
ラヴェル晩年の名作
モーリス・ラヴェルは晩年にこのピアノ協奏曲ト長調と『左手のためのピアノ協奏曲』の2つを作曲しています。ピアノ協奏曲ト長調は1931年に作曲されました。快活でユーモアに溢れた協奏曲で、スペインのバスク地方の民族音楽やジャズなども取り入れられています。
ラヴェルは1928年にアメリカ演奏旅行を行い、大変好評でした。このピアノ協奏曲ト長調は帰国してから1929年に作曲が開始されました。アメリカの演奏旅行が成功であったため、次は南アメリカ、アジアも含めた演奏旅行を計画しており、その時にラヴェル自身が演奏するための協奏曲でした。
しかし、1927年頃から軽い記憶障害があり、1932年にパリでタクシーに乗っているときに交通事故に遭い、これによりさらに悪化していきました。1933年に最後のコンサートを行い、その時には観客にサインを出来ない程に悪化していました。その後、療養生活に入りましたが、さらに悪化し、1937年に没しています。62歳でした。
ラヴェルの頭の中には新しい作品が鳴り響いていた、ということですが、病気のため楽譜を書くことが出来なくなりました。そのため、このピアノ協奏曲ト長調は、ラヴェルが書き残した最晩年の作品です。
古典派を意識した音楽
調性もト長調であり、モーツァルトやサンサーンスのピアノ協奏曲を意識した古典派的で即興的な音楽となっています。晩年のラヴェルは新古典主義の色彩を帯びてきますが、この曲もそのうちの一つです。
一方、パーカッションは多彩で、鞭(むち)が入っているのが特徴的です。第1楽章、第3楽章は、まるでおもちゃ箱をひっくり返したかのように煌びやかなオーケストレーションが楽しめます。
初演の成功
しかし、ラヴェルは体調不良となり、パリでの初演も他のピアニストに任せることになります。初演は1932年1月14日にパリのサル・プレイエルにて、マルグリット・ロンのピアノ独奏、ラヴェル自身は指揮を行い、ラムルー管弦楽団により行われました。初演は大成功を収めています。
ラヴェルの体調から、世界演奏旅行もヨーロッパのみになりましたが、このピアノ協奏曲ト長調は各地で大成功を収めています。
おすすめの名盤レビュー
それでは、ラヴェル作曲ピアノ協奏曲ト長調の名盤をレビューしていきましょう。
ピアノ:アルゲリッチ、アバド=ベルリン・フィル
アルゲリッチのピアノ独奏にアバド=ベルリン・フィルの伴奏という、豪華な組み合わせです。アルゲリッチはアバド=ロンドン響とも録音していて、このコンビが如何にこの曲を得意としているかが分かります。録音はしっかりしていて、1960年代とは思えません。
第1楽章は小気味良く始まります。アバドとベルリン・フィルの場合、おもちゃ箱をひっくり返したような、というよりは、しっかり整理されていてクオリティの高さを感じます。アルゲリッチのピアノはスペイン系のアルゼンチン出身だけのことはあって、とても流麗で色彩的な演奏です。ダイナミックになりすぎず、小気味良さがあり、それでいてとても表情豊かで、味わいがあります。アルゲリッチのセンスの良さが光ります。アバドはそんなアルゲリッチのピアノをメリハリのあるしっかりした演奏で支えています。パリ音楽院管の名盤とはまた違った良さがあります。
第2楽章は透明感があり、美しく繊細なピアノが印象的です。ピアノのタッチが素晴らしく、本当に宝石のような音色です。アバドの絶妙なテンポ取りとベルリン・フィルの木管のソロのクオリティが高いです。
第3楽章は速めのテンポでピアノは流麗に弾いていきます。ベルリン・フィルの管楽器は荒々しくなりすぎず、かといって物足りなくもなく、センスの良さを感じます。ピアノとオケの絡みも絶妙で、息がぴったりです。ピアノ協奏曲でもここまでソリストとオケの一体感がある演奏もなかなか無いと思います。ラストはスリリングに盛り上がり、ダイナミックに締めくくります。
アルゲリッチの良さが十二分に発揮され、アバドの精緻な指揮のもと、ベルリン・フィルが小気味良い演奏を繰り広げていて、他の演奏よりも一段品格の高さがあります。この曲を聴くなら外せない名盤です。
ピアノ:フランソワ、クリュイタンス=パリ音楽院管弦楽団
フランソワのピアノ独奏とクリュイタンス、バリ音楽院管弦楽団の伴奏による演奏です。当時のフランスの最高峰の演奏家の組み合わせです。少し古めのステレオ録音ですが、音質は安定していて、色彩感を良く捉えています。
第1楽章は色彩的で熱気のあるオーケストラで始まりますが、フランソワのピアノ独奏はフランス人らしく、色彩感と味わい深く官能的ですらあります。スペインの夜を思い起こさせるような流麗なピアノです。パリ音楽院管は管楽器を中心に熱狂的な演奏で、フランス的であると共にユーモアに満ちています。第2楽章はフランソワの流れるようなピアノが素晴らしいです。オケの管楽器のソロもとても味があり、深みも感じられます。
第3楽章は力強いピアノに、個性的な管楽器の表現が楽しめます。ここまで色々なボキャブラリーがあるのは、さすがクリュイタンスとパリ音楽院管ですね。ピアノはテンポを増していき、スリリングになっていきます。ラストは速いテンポで一気に駆け抜けるように曲を締めます。
フランソワの味のあるピアノが存分に堪能でき、パリ音楽院管の良い所が出た名盤です。
ピアノ:グリモー、コボス=ロイヤル・フィル
エレーヌ・グリモーのピアノ独奏にスペイン人のロペス=コボスの指揮、ロイヤル・フィルの録音です。聴いて驚きの鮮やかな名演奏です。録音はダイナミックレンジが広く、この演奏の面白さを存分に味わえます。
第1楽章はロペス=コボスのスペイン的なリズム感とロイヤル・フィル持ち前の色彩感がとてもよく出ていて楽しめます。グリモーのハイテクニックなピアノ独奏も圧巻です。本当に様々な音が聴こえてきて、まさに音の洪水です。穏やかな部分ではロペス=コボスらしいスペインの夜の雰囲気が出てきて、その対比も良いですね。
第2楽章は遅めのテンポでじっくり味わい深く聴かせてくれます。ピアノ独奏の情感あふれる表現も良いですし、ロペス=コボスの深みがあってコクがある表現も絶妙です。第3楽章はピアノのシャープでスリリングな演奏で始まります。木管の多彩な表現はパリ音楽院管並みですね。金管やパーカッションもとても鮮やかな演奏を繰り広げています。リズミカルかつスリリングに盛り上がっていきます。
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楽譜・スコア
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